何処にでもいる若いふたり
地方都市にはよくある大型ショッピングモール。
そこそこ人だかりのある店内にて、車椅子を押す女性がいた。
押しているのはショートヘアの若い女性で押されているのはボサボサとした長い髪の女性。
どちらも細身でありながらグラマラスな体型をしており、すれ違う男性の目を引いていた。
「ところで今日はどういうつもりだよ。普段は引きこもりのお前がカスミに行きたいと言い出すなんて」
椅子を押す女性━━━マツリは車椅子の女性に問う。
普段この御婦人━━━ミロクは足が不自由なのも理由なのか、同行しているマツリの家から出かけることがなかったのだから、マツリも驚きを隠せないようだ。
「ここまで来たら黙っているのも無理か」
家を出てからここまで、ミロクは尋ねられても答えていない。
だから余計にマツリは気になるだけだが、ショッピングモールの指定された場所に近づく頃には、人だかりから予想はついていた。
それでもミロクの張り切り具合には、何か裏があるのではないかと訝しんでしまう。
「見てわかる通り、今日はシュウちゃんのイベントがあるからね。チェキがどうしても欲しかったんだよ」
タコヤキ・シュウはマルチタレント系の配信者で、マツリも彼のことは知っている。
マツリは熱狂的なファンではないのでイベントのことを知らなかったが、モールの入り口にあるボードの告知を見て「今日これからイベントで来るのか。見られると良いな」と思う程度には好感を持っていた。
だが普段引きこもっているミロクが興奮して、家から飛び出す程にファンだというのは初耳である。
彼女たちが出会って1年近くになるが、ミロクの側でこき使われている立場にあるマツリもミロクについて知らないことのほうが多い。
「意外だな。お前にもアイドルに憧れる、子供っぽいところがあるなんて」
「アイドルだからってより、シュウちゃんだからだよ。私の時代では〝もう二度と会えない伝説のストリーマー〟だからな。この機会にガッチリ握手してチェキも撮ってほしいのは当然だ」
「それは良かったことで」
反応からマツリが理解したのは「ミロクがタコヤキの大ファンなのだろう」ということ。
自分でも無名ながら動画配信で小銭を稼いでいる身としては、トップランカーのタコヤキに向ける目線がつい〝格上配信者への畏怖〟になってしまうマツリであるが、自分にも同じような憧れを持つ視聴者が欲しいものだと感じていた。
流石に大人気配信者ということで、これ見よがしな車椅子同伴でも贔屓等なし。
無事に有料チェキの整理券も購入できたふたりはそのままトークライブの入場整理に並び、ライブ終了後のチェキ会の順番が回ってくる頃には、家を出発してから3時間以上が経過していた。
流石にお昼を過ぎて小腹が鳴りそうなのをこらえるマツリは、普段は引きこもって暴飲暴食の日々なミロクのほうが辛いのではないかと思い彼女を見る。
だが、そんな辛さなど一切見せないミロクの横顔からは「本当にタコヤキが好きなのだろう」という熱意を感じ取った。
「次の人……って、車椅子で来るだなんて、気合入ってんなあ」
「トーゼンです」
その熱意はタコヤキも感じた様子で、足が不自由なのに来てくれたファンとして手を差し伸べる。
そのファンサに気を良くしたのか、ミロクのおねだりは続く。
「ほな、俺が屈もうか?」
「ご心配なく。ちょっとだけなら立てるので」
「ハイハイ」
「でもその代わりにお兄さんも入れて4人で撮ってもいいかな?」
立てるというのはマツリの肩を借りればという意図であり、ミロクに肩を貸したことで図らずも3人のチェキとなる。
そこに混ぜて欲しいといったお兄さんとはタコヤキのアシスタントスタッフのことで、この日のイベントに同行していた彼の実兄を指していた。
声は入っていても顔は滅多に見せない人物を一目で兄だと見抜いた上で、一緒にチェキを撮りたいとねだるあたり、相当コアなファンだとタコヤキにも伝わる。
「うちの兄と撮りたいだなんて、お姉さん濃ゆいタコ狂やな」
「えへへ」
「んじゃ、兄も一緒に来て来て。お姉さんが一緒に撮りたいって」
「すみません。コイツがわがままを言って」
「ええよ。そんだけ俺らのことを好きでいてくれているってことだから。んじゃ、撮るで~」
こうして4人で撮ったチェキ。
大事に胸にしまって持ち帰り、保存用、観賞用、そして配布用に写真用紙に複製したのは言うまでもない。
おねだりのせいで待たされた後続のファンの一部が少し白い目でミロクを見たが、車椅子の女性に対して悪意を向ける嫌なファンが問題を起こさない程度にはタコヤキはファンにも恵まれている様子だった。
無事に目的を果たしてホクホク顔で帰路に就くミロクと、憧れの配信者とのツーショットが撮れたことの役得以上に気疲れで顔色が悪いマツリ。
キコキコと車椅子を押して歩くふたりが住む世界には不思議なことが多く、奇跡も魔法も存在している。
その上で時空すら超えたふたりの出会いは特に不思議な出来事ともいえるのだが、ソレを知る人間はこのモールには居ないだろう。
マツリとミロク。
こうしてモールを練り歩くだけなら、何処にでもいる若い女性のふたり組にすぎない彼女たちを中心にこの世界は回っていた。




