18/30
武井俊哉 9《覚醒》
チャンスは突然やってきた。
カウント2-3から、ピッチャーの投げたストレートを、真芯で捉えたボールが左中間スタンドに向かって弧を描く。
観客が歓声を上げて立ち上がる。スタジアム全員の目はそのボールの行方を追った。
ボールがスタンドに飛び込んだ瞬間。一番後ろで立ち上がり、オレンジ色のメガホンを振っている20代後半か30代前半の女を、後ろから口を押さえ一気に頸動脈を切り、そのまま後ろへ引き倒した。
目を見開いた女の亡骸を見て「もんすたぁ」は、唇を惹きつらせるように笑みを浮かべ「9人目」と呟いた。
両側の観客も、それに全く気づく様子はなく、ダイヤモンドを走る英雄に歓声を上げている。
俺は、急いでその場を後にしながら、着用していた手術用ゴム手袋をスタンドの一番後ろの椅子の下に放り投げた。
バッターがダイヤモンドを走り終えた辺りで、女のいた所から悲鳴が上がった。




