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記憶の道  作者: 桐霧舞
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緊急招集


 報告を済ませ受け取った報酬から寮の代金の支払いを済ませた一行は武器の整備を始めた。何故なら海上で使用した金属品は海水が影響して非常に錆びやすい状態になるからである。ステンレス合金の無いこの世界では武器と言えば基本的に鉄を使用しており、中には魔石を使用した物もあると言った程度。


 結局使用する事の無かった刀の刀身を見つめ、くっきりと浮かんでいる中直刃の波紋を見て何処か自慢気になった響也はニヤついた顔をしていた為、他の三人は悪い物でも食べたのかと相談を始めていた。


「何か失礼な事を考えてないか?言っておくが俺は至って健康で気が狂った訳でも無い。この刀って武器は俺達の世界、それも俺の国だけで使用していた『日本刀』なんだ。千年以上前から存在してて今でも作られている剣。まぁ今じゃ美術品って扱いだけどな。」


「美術品か。確かに美しい刀身だと思うが作りと言い形と言い量産には向かなそうだな。」


「それは言えてる。実際刀一本作るのに刀工、研師、鞘師、みたいに全部のパーツのプロが関わって出来てるからな。だからこそ美しく鋭い切れ味になるんだ。」


 同じく剣を扱う身として反応したルイーザは製造についての疑問を思い浮かべるが、専門の人間で作り出されたと聞き驚きを隠せない。


「パーツの専門家・・・それなら全てをやらない分専念出来ると言う訳か。世界が違うと武器に対する考え方も違うと言う事か。」


「いや、俺達の世界でも国によって違うから地域の差だな。」


 等と武器会議に移行してしまい話に付いて行けなくなったジョゼとセルジュは鞄の中身を整理し終えると「先に食堂に行ってるね。」と部屋を出て行ってしまう。これにより自分達が空腹である事を思い出した二人は鞄をそのままに「俺達も!」と急いで部屋を飛び出した。




「セルジュ、この辺りでランクアップに適した任務とか心当たり無いか?」


「無いよ。あったら言ってるって。それにランクアップが簡単なら殆どのクランが上級になっちゃうよ。ゆっくりと上げて行く物だしね。」


「それもそうか・・・悪い、何か焦ってたわ。」


 食堂にてパンを限りながら訪ねたは良いが、後回しに下のに何処か急いでいた事に気づいた響也はセルジュへ謝罪した。当のセルジュは謝る事ではないと否定し、次の様に続ける。


「まぁ故郷に帰りたいと言う気持ちは分からなくはない。生活習慣も全然違うみたいだしね。」


「生活が違うと言えば私等もそうだな。小さい頃から訓練鍛錬、そして食事の毎日だ。」


 会話に参加してきたのはルイーザ。アレス族である彼女は生まれ故郷にて『強くなる』事だけをモットーに鍛えられたが、その間の食事を何よりの娯楽としていた為現在の様な性格になったらしい。更に言うとアレス族は基本的にアレス族のみの集落を作り、実力が認められるまで一人で外へ出る事を禁じられている為、他地域で子供のアレス族を見る事が無いと言う。


「って事は全員戦士や兵士になるのか?」


「そうとも限らない。『強くなる』と言うのは『自分の命を守る為』と私は受け止めている。実際、大工や武器職人等の力が必要とする職に就くアレス族も多いぞ。」


「だが、王都では全然見かけないな。」


「それもそうだ。響也、お前は知らないだろうがこの世界では種族の差と言う物がある。特に王都の様な都市では露骨だ。店の連中は金になるって事で気にしていないが、一般住民は違う。この街に来て私がギルドと関係ない人間と風呂場以外で話しているのを見た事があるか?」


 そう言われ長い間王都に滞在すると言うのに、ギルドからの依頼やクランの人間以外でルイーザが『一般人』と話している所等見た記憶がない事を思い出した響也は胸騒ぎの様な騒めきと背筋が凍る様な感覚を同時に覚えた。


「私が一人で聞き込みをすると言うのも人を見て聞き込みをしているからだ。西大陸の殆どがフローリア族。取り分け王都ではその数が非常に多い。だからこそフローリア族以外は認めないと言った人間も少なくない。」


 そのルイーザの発言に疑問を持った響也は自分が何故聞き込み等で嫌な顔をされないのかを尋ねると『黒髪が見えていないから』『顔付こそ違うか肌がやや白い為珍しいフローリア族と思われているから』等の回答が来る。


「ただ勘違いしないで欲しいのは全員がそうだと言う訳じゃないし、今のも私の想像だと言う事。アレス族にも『アレス族以外認めない』みたいな人間は居るし、私みたいに全く気にしない人間もいる。」


 自分の世界にもある人種の差別的な物があると知った響也は持っていたパンを皿に置いて、見るからに落ち込んでいるのが分かる。その姿を慰めるかの様にルイーザは会話を続ける。


「響也。黒髪が恐れられている事は知っているな?だが、今まで関わって来た人間でお前の否定する存在に会った事があるか?」


 顔を上げるといつもなら話も聞かず食事に夢中になっているルイーザとジョゼは食器すら持たずジッと自分を見つめていた事に気づいた。横を向けばセルジュも同様で、その表情は優しささえ伝わって来る非常に和らいだもの。


「理由は分からないが、お前には『種族の壁』と言う物が感じられない。しかもそれは他人へ伝染する。マウリツィオも良い例だろう。」


「僕も黒髪だからとかじゃなくて『この人だから』と思ったからこそクランに入ろうと思ったしね。」


「私も初めはお二人が怖く見えましたけど、食事を分けてくれたり優しい人達なんだなぁって思いました。」


 ルイーザに続きセルジュ、ジョゼと順に響也の顔を見ながら話し始める。人種の差はあれど自分が関わった人間はその差が無くなると言う不思議な現象に少しだけ納得した響也は再びパンを掴み一齧りすると


「湿っぽい話は無し!ちょっと俺喉詰まったから水取って来るわ。」と言って席を立った。


「私達悪い事言っちゃいましたか?」


「いや、多分逆だろうね。僕が言うのも何だけど、照れくさくなったのかも。」


 机の上のピッチャーから自分のコップへ水を注ぎながらジョゼの問いに答えるセルジュ。しかし彼の話には少し足りない部分があった。それは自分が大して役に立っていないと思って居たのにも関わらず、メンバーは全員響也の人となりや影響力を認め信頼ており、クランにとっても重要な存在と言う事を知ったと言う事。


「もしかしたら、響也だったらその『差』を消す事が出来るのかもね・・・」


 水を一口飲むと机の近くにある窓から夜空を見ながらセルジュはそう呟いた。





 翌日、何事も無かったかのように振舞う響也はランクアップと賢者に付いてギルドの受付にて尋ねる事にした。


「三日月さんの場合、ランクアップしてから完了した大きな任務はキメラの討伐と幽霊船の調査だけなので大きな任務ではある物の、ランクを上げるには足りないと言った感じです。それと賢者の方にお会い出来るのはランクもですが名声が必要になりますよ。」


 話を聞いて思い出したのは旅や苦労は重ねてもギルドへの成果になった物が非常に少ない事。考えてみればランクがDに上がってからした事と言えば彼女の言う様に二つの任務のみで、その他温泉に行ったりオルレーヌ霊山に登ったのはギルドとは全く関係の無い事であった。


 名声を上げるにもまずは有名なクランになる必要がある等、自分の頭の中で今の状況を纏めていると四人の冒険者がギルドへ文字通り転がり込んで来る。全員が肩で息をしており、一人の男が両腕を使って受付のカウンターに落ちない様にしがみつきながら任務の報告をするのだが、その内容は枯れた声ながらも近くの者には聞こえる位の大声であった為、必然的に横に居る響也の耳にも入る。


 その内容は南西の森へ長期任務に向かったクランが帰って来なくなり、そのクランを探しに向かったクランさえも行方不明に。その為、この四人が南西の森の異変を調査に向かった所、キャンプ地は荒れ果てており、近くで巨大な生物を発見したと言う内容であった。


 この調査内容に危機感を覚えた受付嬢は一度カウンターを離れ奥に居る者と相談を初め、物の数分で戻って来る。ただし、戻って来た先はカウンターではなく任務表の前。一度深呼吸をするとロビーに居る人間全員に聞こえる大声で話し始めた。


「クランの皆さん緊急招集です!現在南西の森にて異変が発生しました!通常であれば高ランクのクランへお願いする内容ですが、現在別の調査、討伐に出ている為不在になっています!任務の説明をするのでクランのリーダーは集合してください!」


 緊急任務ならば参加した事があるが、緊急招集は初めてな為少々戸惑いながらもリーダーである響也は受付嬢の元へと歩いて行く。数秒後、集まった人数は六人。六つものクランが招集されるのは『あの日』以来なので響也は何処か胸騒ぎを覚えた。


「お集まり頂ありがとうございます。当任務は緊急性が高い物としてギルドからの招集である為、是非とも参加をお願いします。」


 簡潔に挨拶を済ませると受付嬢は今回の任務について説明を始める。その内容は先程の話に加え『何が起きているのか』を調査する事。『巨大な生物』を把握し、危険性が高いと判断した場合は討伐する事。そして行方不明になった二つのクランを探し出し救助する事。ただし、『救助が不可能な状態』であった場合は『その者、若しくはその者と分かる物』を回収、又は安全地帯へ移送する事。


 現場へは今回調査に向かったクラン『陽炎』が案内する。巨大な生物が何か分からなかったのは、このクランの四人全員が新人であった為である。


 説明が終わると準備が出来次第出発すると言って受付嬢はギルドの入口で向かうとメンバーが集まるまで待機する。ロビーにメンバーが居るクランはその場で今回の任務を説明しすぐに準備完了となるが、三日月は響也以外部屋に居る為急いで戻り説明を始めた。


 説明から五分後、先程呼ばれたクランは全員が集合する。至って普通の事なのだが、その顔触れから響也は違和感の様な疑問を抱く。それもその筈、今回集まったクランはアレス族のみで結成された『ブレイド』やウトゥ族のみの『シャイン』等非常に偏っていたのだ。


 セルジュの言っていた『種族の差』を超える事が出来れば何も問題は無いのだが、種族固定のクランは基本的に種族意識が高く話を聞き入れる事は余り無いらしい、こと新人クランに関しては猶更。


 実際、他のクランのメンバーに話しかけた所で響也の顔を見るなり無視や話しかけるな等の返答しか得られず、昨日までのギルドとは違う感覚に包まれた。




「案内役『陽炎』とし、現場にて『ブレイド』『狩人の矢』『レッドゾーン』『三日月』『シャイン』の皆さんで捜索をお願いします。」


 受付嬢からそう聞くと陽炎を先頭にし全員で西門へと向かう。その数合計二十八名。その行列に街の人は何があったのかを理解し全員が道を開け始めた。これから向かうの先は調査か討伐。だがこの人数で分かるのは調査だけでは済まされない。その事を知っているからである。



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