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記憶の道  作者: 桐霧舞
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再び森





 王都ダミアバルを出て六時間程経った頃、一行は南西の森の奥深くの目的地に到着した。この森の面積は王都の十倍では利かない程非常に広く、数時間で来れる場所は響也達も良く討伐や採取の任務でよく来ている。そして『鉄壁の盾』と共にオークと闘ったのもこの森であり、多くの冒険者達からすればお馴染みの場所とも言える。


「コレは・・・気を付けた方が良いね。」


 そう呟いたセルジュの目の前にあったのは破れて血まみれになったテントや、竈であったであろう石と燃え残った木材が散乱していた。


 王都近衛兵の命令により各クラン毎に別れ捜索を開始した直後、ジョゼが何かが光ったと言って三人から離れて『光った物』を発見する。拾い上げたジョゼが振り返る事で彼女が折れた剣を持っている事が理解できた。


「剣が折れる・・・そして現場に散らばった血。・・・セルジュ。」


「うん、想像通りだと思うよ。魔物は僕等を襲うけど、それは縄張りを守る為だけじゃない。もっと根本的な問題。」


 響也とセルジュは同じ答えにたどり着いた。それはこの冒険者達が『食料』として連れ去られたと言う事。人間達も魔物を食べないと言訳ではないが、魔力が染みついた魔物の肉は一般的に不味く、体調不良の原因にもなる。魔力のある肉を食し魔力が身に付かないのかと言う疑問も上がるが、セルジュ曰く『魔力が腐っている感じ』との事。


「確かに、連れ去られた可能性はあるな。では『狩人の矢』、お前達を先頭にしてもう少し奥へ行くぞ。」


 近衛兵に報告を済ませると兵士長らしき者がクランに命令を出すのだが、『狩人の矢』は返事もせず黙って森の奥へと歩みを進めた。


「待って下さい。『狩人の矢』は見た所弓をメインとしています。なので後衛に回った方が・・・」


「下民の集まりの分際で私に意見するのか?」


 自分の案を否定されたと感じた兵士長は口を挟んだ響也を睨みつけると答えも聞かず『狩人の矢』の後へ続いた。


「響也、トロールの時の事を忘れるな。王都の兵士はプライドが高い。」


 聞く耳を一切持たない兵士に怒りに似た感情が芽生える響也に対しルイーザは前回近衛兵と合同の任務を行った際、威圧的な態度を取って居た割に真っ先に全滅すると言う事があった。


「俺も前は王都の兵士になろうとしてたんだよな。あんな奴と一緒なんてならなくて正解だったよ。」

 元々王都へ来た理由は兵士になる為であり、響也がこの世界へ来て世話になったジントリムにて兵士をしていたマルセロからの紹介状が来る時に燃えてしまったのが原因でギルドに所属する事になった。今思えばそれが最善だったかの様に感じた響也である。



「血の匂いだ。近いぞ。」


 捜索から三十分程歩き『狩人の矢』が異変に気付き弓に矢を番えながら少しばかり速度を落とし辺りを見渡しながら進んで行くと、草や落ちている枝に黒く変色した血液が付着している事を全員が理解し、先程話していた『連れて行かれた』と言う事が正しい事も分かってしまった。


「誰か魔法使える人居ないか?」


「僕は使えます。炎だけですけど。」


「上出来。『狩人の矢』に変わって上方向に気を配ってくれ。俺達は前に上からの奇襲でかなりの数がやられたんだ。」


「分かりました。・・・でも何で小声なんですか?」


「あいつらに聞かれたら面倒な事になりそうだからだ。」


 『狩人の矢』が最前列に居る以上、後方からの援護は『レッドゾーン』の一人の少年が唯一の命綱となる。荷が重いだろうがお前しか居ないと響也に言われ、少年は上方向を重点的に注意しながら前へと進んで行く。


「待って!見つけた。」


 先程のやり取りから数分、セルジュが静止する様に全員に聞こえる程度の声を上げた。何処に居るのかと三人がセルジュの見ている方向を凝視すると、前方約百メートル先の木々の隙間から見えたのは虫型の魔物が蠢いている光景であった。


「よく見えたな・・・。あいつらは?」


「甲殻を持った魔物だね。あと芋虫見たいなのも見える。」


「空を飛んだりは?」


「するよ。」


 甲殻を持った魔物。即ちカブトムシやカナブン等の虫である。大きさは約一メートルから百五十センチ程で、非常に素早いのも特徴。更にこの体躯にも関わらず飛行も可能と言うので質が悪い。


「相手が虫ならば恐るるに足りず。弓で先手を打つのだ。」


 今考えられる限り最悪の手段を真っ先に選んだ近衛兵は『狩人の矢』に先制攻撃をする様に命令し、彼等も渋々と弓を引くと一斉に矢を放った。放たれた矢は緩やかな放物線を描きながら各々別の魔物へ見事命中させた。否、この場合は命中させてしまったと言う方が正しいのかもしれない。


 仲間が攻撃された事を理解した魔物は矢が飛んで来たであろう方向を向くと一斉に突撃を開始した。決して良いとは言えない足場を気にも留めず非常に早い速度で距離を縮めて来る為、狩人の矢は次々に矢を放つのだが、相手の数を考えていない行動が齎した結果と言うべきか、奥からは次々に魔物が沸いて出て来る。その数は優に五十を超える程。


「下がれ『狩人の矢』!ルイーザ行くぞ!ジョゼは上、セルジュはサポートを頼む!」


 弓が一番前と言う常識では考えられない隊列から、『三日月』が前に出る事により一般的な隊列になり始めるのだが、近衛兵は『自分が出した命令ではない、自分に従え』と大声で否定していた。


 甲殻を持つと言っても所詮は軽量に特化した虫。薄い繊維強化プラスチック程度の強度しか無い為、ルイーザの力で振り回される大剣を防ぐ事は出来ず、響也の刀も十分に通用する。更に一点集中に弱いのか、矢だけでなくジョゼの鍼までも貫く事が出来る。そんな中、頭上への注意が疎かになったジョゼのすぐ近くに魔物が来ていたのだが、気づくのが遅れ強靭な顎で腕を嚙み砕かれると思った瞬間。レッドゾーンの少年が炎の球を放ち間一髪で掬いだす。


 そんな『三日月』と『レッドゾーン』のやり取りを見ていた他クランも思いの外強くないと感じ、次々に魔物へ攻撃を開始する。その結果、五十を超える魔物は物の数分で全滅。


「結果として倒せたがお前の勝手な行動で隊列が乱れたではないか!この事は確り報告させて貰うからな!」


 クランの一同が戦闘終了からの安堵を感じる暇もなく怒鳴り散らす近衛兵。それに対し全員が冷ややかな目を向けるのだが、当の本人はそれに全く気づいて居ない所か更に続けて罵倒を始めたので、無視して状況を確認する事にした響也。


「ジョゼ。近くに何か居ないか?」


「近くには居ません。ただ、何か変な音が聞こえます。」


「変な音?ルイーザ分かるか?」


「う~む。確かに何か聞こえるが・・・分からない。」


「そうか、セルジュ。こいつらは人を食うのか?」


「食べないって事は無いけど、それ以上に気になる事があるよ。」


 響也は三人に状況を聞いたのだが、セルジュだけは何か引っかかる事があるらしく、苦悶の表情を浮かべていた。


「虫型の魔物は基本的に『その場で食べる』んだよね。連れ去りはしないと言うか・・・」


「それってつまり別の魔物が居るって事か?!」


 その瞬間、地響きを伴う四足の足音と、直進しているのか枝が折れる音などが徐々に近づき、姿を確認したジョゼが大声を上げて全員に注意喚起を促す。


「マンティコアです!!」


 体長三メートル程のライオンの様な胴体に蝙蝠の様な翼、尻尾には鍼を射出する事の出来る蠍の様な尻尾を持った合成獣。そして最大の特徴は人の様な顔をしている事で、別名『人喰い<マンイーター>』。今回の原因になったと考えれば何の不思議もない魔物である。


「そうか!虫達は食べに来たんじゃなくてコイツから逃げていたのか!」


 この森に居る筈の無いマンティコアを見てセルジュが結論を出すのだが、今はそれ所ではない為、響也は一度収めた刀を再び引き抜くと三人へ指示をする。


「ルイーザ前へ!ジョゼは何とか速度を落とさせるんだ!セルジュはゴーレムの準備を!」


 それを聞いたジョゼは前へ高く飛び上がると顔へ向けて鍼を投げつける。が、相手も気づいて居た様で顔の向きを変えて耳や毛深い後頭部に命中する。これにより標的はジョゼに変わりマンティコアの体はクランから離れたジョゼの方へと向いた。


 距離は百メートル。先程虫型の魔物が居た辺りでジョゼを追いかけその場で動き回るマンティコアに対しルイーザが到着し後ろから斬りかかろうとしたが、尻尾を見て急に大剣の平の部分を前に突き出す。すると、大剣には尻尾から発射された棘と呼ぶよりは槍と呼ぶ方が適切な毒針が直撃する。以前キメラと闘った際に毒を受けた事から合成獣は尻尾に注意すると言う事を思い出したのだ。


 ルイーザの接近に気づいたマンティコアはそのまま噛みつこうと顔を一気に近づけるが、こちらも大剣を盾代わりにし防ぐ。しかしルイーザはその衝撃で後方へ数メートル飛ばされてしまう。力の差は歴然としており、キメラよりも少しばかり小さいからなのか俊敏性も高い。


 すると他クランが近づいてる事を気が付き、ルイーザは『ブレイド』に協力を要請した。


「あいつの力に対抗で来るのは我らアレス族だけだ!力を貸せ!」


 別種族に命令されるのは癪に障るが、同じアレス族ならばと『ブレイド』の面々は倒れたルイーザを庇う様に剣をマンティコアへ向ける。


 一方セルジュは土から作ったサンドゴーレムの背中に乗ったまま直接魔力を流し込んで格闘。時折ジョゼが足場代わりへとゴーレムに着地しては木に飛び移りながら厄介な尻尾を狙っていた。

 見た事も無い戦い方に唖然とする他クランだが、別種族へ命令だけして何もしてないであろう響也の姿を探していると意外な場所に居る事を知る。


「セルジュ!抑え込めるか?!」


「秒単位ならね!頼んだよ!」


 セルジュのゴーレムがマンティコアの首を抑え込んでいる所、響也が狙っていたのは発射される尻尾の槍。既にジョゼの鍼が数本刺さっていた事から動きが鈍くなっていたのもあり、切断に成功する響也。まさか命令を出す者が一番危険な場所に居るとは考えもしていなかった他クランはより一層驚いた。


 尻尾を斬られた事で怒り出したマンティコアはゴーレムを振り払い、響也へと標的を変える。背中に乗っていた為、宙を舞ったセルジュは手が離れてしまい、唯の土塊となったゴーレム。その結果近くに居た『シャイン』の一人に凭れ掛かるかの様に倒れ込むゴーレムだが、潰されそうになった所をジョゼが素早く駆け付け脱出。同時に落ちたセルジュは『シャイン』の四人が受け止めた事で誰一人傷つく事は無かった。


「『狩人の矢』は援護を頼む!」


 今までの行動から『三日月』に加担するのは勝利に繋がると言う事で協力体制を取った『狩人の矢』は響也に従い次々の矢をマンティコアへと放つ。しかし矢も無限ではない。何本も矢を放てば底を突いてしまう。

「拾ってきました!」


 残りの矢が僅かと言う所で外したり振り払われた矢を回収した『陽炎』が次々と『狩人の矢』の元へ矢を持って来る。どうやら鍼を回収しながら投げるジョゼを見て自分達に出来る事を考えたらしい。数本ずつではある物の攻撃に加担出来る為ありがたく使わせて貰う事に。


 遠くから攻撃され続ければ当然標的は変わり、怒りで突進してくるマンティコアだが、これを力づくで止めたのがセルジュである。


「君達は僕が守る!攻撃を続けて!」


 先程の土塊を再びゴーレムにし相撲を取るかの様にマンティコアの頭を押さえ力比べをするセルジュ。だが、所詮土で出来たゴーレムである為ボロボロと体が崩れ始めて行く。その崩れたゴーレムの影から出てきたのは『シャイン』。剣や槍で攻撃を仕掛ける。


 力比べをしている場合ではないとでも思ったのか、攻撃を食らったマンティコアはゴーレムから離れ、手前に居る『シャイン』を攻撃しようとするのだが、左脇腹をルイーザ率いる『ブレイド』が剣を突き刺す事で標的が再び定まらなくなる。終には痺れを切らし、薙ぎ払う様に左回転しながら爪で襲う。これにはルイーザの後ろに居た『ブレイド』は逃げれたが、ルイーザだけは近すぎて離脱不能な位置に残っていた。


 しかし、ジョゼがルイーザの元へ来るとその場で真上に飛び上がり間一髪で回避。これにはマンティコアも更なる怒りへとヒートアップし、上に居る二人に噛みつこうと脚を畳んだその瞬間、胸へ響也が刀を突き刺す。


 今度は下かと自分の胸を見る為頭を下げたマンティコアは上空にジョゼとルイーザが居る事を一瞬忘れてしまう。ルイーザは大剣を真下に向け、ジョゼと向かい合う形を取り二人で柄を握ったままマンティコアの首へと突き刺した。


「今だ!!」


 響也の合図でゴーレムに胴体を押さえつけられたマンティコアへ『狩人の矢』は顔面へ一斉に矢を放ち、『ブレイド』は首へ武器を突き刺し、『レッドゾーン』の少年は仲間二人から魔力を譲渡されつつ自己最大級の火球を放った。


 マンティコアの最後。それは咆哮さえも無く静かに倒れ込み微動だにしなくなると言う物。あまりにあっけの無い断末魔に本当に倒したのか不安で武器を握ったまま動かない一行。そんな彼等を動かしたのか響也の一言であった。


「コイツ重い~!」


 推定三百キロはあるマンティコアが倒れ、逃げ起くれた響也は腿の部分に潰されており動けずもがいていた。そんな彼を助ける為全クランが駆け付けたのだが、その時一行は響也の正体に気づいてしまう。

「ん?響也。フードはどうした?」


「多分その辺に・・・あ!」


 ルイーザに言われてフードが無い事に気づいた響也は黒髪を見られた事で焦りマンティコアの脚に隠れようとパニック状態になってしまった。しかし、脚を持ち上げ「早く出てこい。」と『ブレイド』の一行は手を差し伸べる。


「災いを齎す黒髪。だが、コイツの・・・いや、この人のお陰で倒す事が出来た。」


 そう言って『ブレイド』のリーダーであるクリフは響也に対し手を差し出し握手を求めた。


「助かったよ。ありがとう。」


 握手に応じた響也に対しクリフがそう言うと、他のクランのメンバーも次々と響也の元へと集まる。


「偉そうに命令するだけかと思えば一番危険な場所に率先し向かっていたとはな。お前は勇敢な奴だ」


 そう言うのは『狩人の矢』のリーダーであるフェアロス。その後『レッドゾーン』のキース、『陽炎』のカイ、『シャイン』のレフ等が黒髪に付いての質問なりを引っ切り無しに続けていると、誰もが忘れていた腰を抜かしていた近衛兵が立ち上がり響也の前へと立った。


「あぁ~。君はよくやったよ。まぁ先程の言葉は撤回してやっても良い。しかし近衛兵としては災いを齎す黒髪を王都へ入れるのは許可出来なくてな。」


「この野郎!自分達は何もしてない癖に何て言い草だ!」


 近衛兵の言葉に怒り出したクリフであったが、近衛兵は話を聞けと落ち着かせる。


「いやぁ~何だ。君のその頭だが・・・もしかしてマンティコアの血が固まって黒く見えるのかな?それなら黒髪に見えても仕方がないんだが。」


 どうやら自分達が何も出来なかった上に見下していた相手が戦果を挙げた事で『プライド』がある物の感謝している部分があるらしい。


「え?・・・あぁ、そうなんだ。さっき突き刺した時に掛かっちゃってなぁ。」


「そうかそうか。なら黒く見えるだけって事だな。うん。よし、ではギルドと近衛兵の見事な連携で討伐したと伝えておこう。」


 調子の良い言葉が聞こえたが色々諦めた一行は「それで良いよ。」と次の行動に移る事にした。


「マンティコアは倒したが、居なくなったクランはコイツが原因なのかを調べる必要があるな。」


 そう言うとクリフは持っていた剣でマンティコアの腹を裂き中身を調べる事にした。結果としては予想通りであり、中からは衣類や鎧の一部や骨等が見つかった事からこのマンティコアに襲われたと言うのか結論として出た。問題は連れ去られた者がまだ生きているのかと言う点であるが、望みは非常に薄い。


 その後の捜索の結果。マンティコアが一時的に使用していたと思われる場所を発見したのだが、そこには夥しい血液と行方不明になった三人分のバラバラになった防具が見つかった事から全員がマンティコアの餌食になったと事を悟り、一行は日が暮れて行く森を抜け、一日野宿し明日の朝王都へ帰還する事にした。






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