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記憶の道  作者: 桐霧舞
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見えぬ筈の占い師



 銭湯。それは黒髪である響也が唯一人前でフードを外せる場所。風呂場では何も身に着けていない為、身分は全員が対等であり、そこには種族や身体的特徴等の壁は無い。ただし、それは銭湯と言う空間のみの話で外に出れば黒髪は忌み嫌らう物。

 約一週間分の垢を落とした響也は浴槽の縁に首を乗せ体全体を湯舟に浮かせるかのように脱力し湯を楽しむ。昼時なのもあり客は全く居らず、女湯の方でも音がしない事から貸し切り状態となった銭湯の中は天井から落ちて来る水滴の音だけがこだまする。

 最後に入ったのはあの出来事の前日。野菜の収穫をしている時には友人を失うとは思っても居なかった。自分を守る為に文字通り盾となった『鉄壁の盾』はもうこの世に居ない。しかし、彼らに生かされた自分が居る。今の自分に出来る事。セルジュに言われ始めて今の自分を見直す事が出来た響也は、何時までも落ち込んでいる訳にはいかないと立ち上がる事を選んだ。

 しかし、今の自分に何が出来るのかと言うのはまだ分かっていない。今まで通り賢者に会う為クランのランクを上げるのか、訳の分からない理由を付きつけられ、ギルドに所属するクランを駒としか思っていない王に一報報いるのか。

 自分らしくない考えに浴槽内に座り直し顔に湯を掛け髪を掻き揚げると、響也は何処かスッキリした顔立ちで湯船から上がる。途中、女湯から桶でお湯を掬う音が聞こえた事からジョゼとは入れ違いになった様だ。

 出した時はこの世の物とは思えない顔をした洗濯屋からクリーニング済みの服を受け取り、タオルで体を拭きながらこれからの事を考える。今までルイーザに迷惑を掛けていた分一層気合を入れ任務に励むのは勿論、如何にして安全にランクを上げるのかと言うのが問題。

 魔石を使用した温風機で髪を乾かすとフードを深く被り、その頭を隠し番台から剣を受け取り外へと出るが、昼の日差しは部屋に引き籠っていた響也の目には眩しく、貫くような痛みが襲う。

「大丈夫ですか?キョーヤさん。」

 目頭を押さえていた響也に対して声を掛けたのはジョゼ。しかし、先程入れ違いになった筈なのに妙に早い為響也は違和感を覚える。

「早いと言っても十分以上入ってましたし、この通り、髪もちゃんと乾いてます。」

 どうやら温風に当たりながら考えていた為、着替えるだけでかなりの時間を要したらしい事に気づく響也。どちらにせよ、早く出ればジョゼを待つつもりだったのでタイミングとしては丁度良い。

「ルイーザも待ってる事だし、早めに帰るか。」

「はい!。でも私達が何もしてなかった間頑張って貰ったので何かお礼出来ないでしょうか?」

 どうやらジョゼもルイーザに対し罪悪感があるらしく、帰る足取りが重くなる。

 ルイーザと言えば食事ではあるが、王都ダミアバルや港町バーウィックでの料理は響也の舌でも分かる程の完成度が高い物になっている。逆にジントリムで何故ハンバーガーが無かったのか疑問に思うレベルである。

 地域柄、米を始めとする味噌や醤油等の和食に必要不可欠な物は手に入らない為、何か作るにしても響也の知る料理ではかなり範囲が絞られてしまう。

 ギルドへ戻る際、ジョゼと共に相談しつつゆっくり目に歩いては居た物の、結局最後まで妙案は浮かばずギルドの入口まで来ると食堂からルイーザの呼ぶ声が聞こえる。

「次の任務<クエスト>何だが、キメラを狙おうと思う。」

 キメラと言えば尻尾が蛇になったヤギの体を持ち、ライオンの頭をした生物。更に蛇は火を噴くと言う厄介なオマケさえも付いてくる難敵。

「俺達三人じゃ無理だろ。それこそ『鉄壁の盾』が居れば話は変わっただろうに。」

「まぁ、最後まで聞け。私の左手も殆ど治っている。それにキメラが居る場所は馬車で行っても数日掛かる。そして今回は協力者を含めた四人で向かう。」

 協力者と言う言葉に対しふとジョゼを見る響也だが、勿論過去の協力者と言うだけで今回の協力者である筈も無く、ジョゼも無言で手を振って否定する。

「と言う事で僕が協力者だよ。」

 背後から急に声を掛けられ咄嗟に武器に手が伸びる響也とジョゼ。その声の主を確認すると安心したが同時に疑問のクエスチョンマークが現れる。

「ついさっき別れたばっかだろ。」

 そう言う響也の言葉に「まぁまぁ。」と笑顔で対応するセルジュ。クランのメンバーは駄目だとしても、チームとしてなら問題無いと言う持論で今回の任務に協力する事にしたらしい。

「今回の任務は私の発案だ。セルジュにも協力者としての了解を得ている。しかし、無理にとは言わない。金銭面的にもクランポイント的にも一番効率が良いと思ったのがコレだ。」

 普段から食事の事しか考えていないルイーザがランクを上げるクランポイントまで考えている事に驚いた二人は一度顔を見合わせると頷き、キメラ討伐を決意する。

「じゃあ今日は準備で明日にでも出よう。」

 いつ間にか指揮権はセルジュに移行していた事に気づかず納得した一行は話が纏まると昼食を取る事にした。


「答えられる範囲で良いんだけど、響也は何処から来たんだ?」

 この世界にはまず居ない黒髪の出身に関して疑問を抱いたセルジュは響也に尋ねるが、別世界から来たと言っても信用されにくい上に、この事はクラン内部のみの情報にしようと決めていた為「遥か遠い所。」とだけ答えた。

「そっか。まぁ僕も黒髪伝説には興味があってね。基本的には山を消したとか街を滅ぼしたなんて言われてるけど、中には人を救った黒髪が居るって話もあるんだ。実際、こうやって話してみると黒髪も普通の人間と変わらない気がするしね。」

 続けてベラベラと話し出すセルジュに焦り適当な大声を上げて誤魔化すと三人はセルジュに聞こえる程度の声で「黒髪の事は大声で話すな。」と釘を刺す。

「すまなかった。何か訳ありと言う事みたいだね。それなら僕の知り合いに丁度良い人が居るよ。」

 セルジュが言うには現在要る下級市民街ではなく、上級市民の居る地域にて王が直々に来るとまで言われている占い師との事。階級社会なこの世界では下級市民が上級地域に立ち入る事は認可されているが、上級市民の多くは下級市民が来る事を拒み、中には嫌がらせや暴力事件等も珍しくはない。その為、下級市民も上級地域には立ち入らない様にしているのが現状である。

 セルジュの知り合いがいるとは言え、そんな中目的地に向かうのは少々心苦しい響也はその事を伝える。

「大丈夫だよ。その人が居る場所は上級市民でさえ知ってる人が少ない場所だから、元々人通りが無い場所なんだ。」

「まぁ、そこまで言うなら。でもどう『丁度良い』んだ?」

 先程の言葉で気になる部分を尋ねる響也に対し、セルジュは一度意味深な笑顔を見せ答える。

「その人は所謂占い師でね。何でも、お偉いさんの御用達と言われる程の実力者なんだ。何も知らない筈なのに適格に相手を知る。今の君にはピッタリだろ?」

 ここまで来て占い頼りかと気が抜ける響也ではあったが、前の世界の占いとは異なり、この世界の占いならば信用出来るのではないかとも受け取る。数秒悩んだ後、セルジュの紹介もあり駄目で元々と占い屋を目指す事にした。

 上級市民地区は街の中央部にあり、やや迷路気味な下級市民の地区を抜けた先、石の階段を上がった位置にある。尚、この地区を更に進むと王の住む城が存在し、その傍らには以前門前払いとなった兵士訓練所の城門が見えて来る。

 上級市民地区の裏通りとも取れる場所を蛇の様に進んで行くと、この地区にはあまり似合わない小さな小屋とも言える石造りの建物が目に入る。どうやらここが目的地らしい。

 響也がドアをノックしようと手を上げると、小屋の中から「入りなさい。」と言う女性の声が聞こえた。その平穏な声は自分達が扉の目の前に居る事を確実に知っているとしか思えない物で、響也は上げた手を驚きの余り手前に引っ込める。

 混乱しながらセルジュの顔を見た響也だが、当の本人も当たり前の様に首を縦に振る為、恐る恐る扉を開く。中は六畳程の狭い空間になっており、中央に置かれた机を囲む様に椅子が並び、その一番奥の椅子には一人の女性が座っているだけの部屋。よく見る占い屋の定番である水晶玉や蝋燭、魔法陣等は無いシンプルな造りである。

「お久しぶりセルジュ。随分珍しいお客さんを連れて来たわね。」

 占い師は紫色のウェーブ掛かった長い髪をし、黒いローブを着ている。座っている為身長は分からないが、声からして二十代と思われる。だが、それ以上に気になったのは彼女が目に巻いている黒い布である。これは目隠しをしている状態でドアの前にいる事だけでなく、声を出していない相手をセルジュと認識した事になる。

「久しぶりエルザ。訓練中だったかな?」

「いえ、『こっち』の時はこの姿よ。」

「あ、そうだった。」

 二人の会話に全く理解が出来ない三人を置いてけぼりにしたセルジュはルイーザの何とも言えないジト目で見られ説明していなかった事を思い出す。

「ごめんごめん。この人は『エルザ』表向きは薬屋なんだけど、裏稼業として占いをしてるんだ。その時に見られたくない人も居るから目隠しをしてるんだ。」

 セルジュの言う見られたくない人とは、先程言っていた『お偉いさん』達の事である事を察した三人は妙に納得し強張らせていた筋肉を解した。

「あら、赤髪のあなた。左手を折ってるみたいね。旅に出るのは完治してからをお勧めするわ。」

 そう言われ左手を隠すルイーザ。彼女の言う通り、ルイーザの骨はくっ付いているものの、完治はしていない。

「そちらの小さなお嬢さんはイリス族かしら。変わった鍼を持ってるわね。」

 ジョゼの鍼は普段ローブの内側のホルスターに入っている為、通常見る事は出来ない。この二人の事を知っていると言う事は看視者が居ると思い、辺りを見渡す響也だが辺りには覗き穴さえ開いていない平らな壁になっている。

「誰も見てないわ。それに、もし見ていたとしたらお嬢さんが気づいているでしょ?」

 エルザにそう言われ頷くジョゼ。気味が悪くなり扉へ後ずさりを始める三人を見てセルジュは「揶揄うのはそれぐらいで、本題に移りたい。」と言うと、エルザは「ごめんなさい。」とだけ言うと目隠しの状態で響也の事を見始めた。

「あなた変わった場所に居たのね。要件は元の世界に戻りたいって所かしら。」

 まるで心が読めている様な言動に一瞬心臓が止まりそうになった響也は咄嗟に身構えたが、セルジュが肩に手を置き笑顔で頷く姿を見て冷静さを取り戻す。

「でもごめんなさい。私には帰る方法が分からないわ。ただ、あなたが来た場所、それとあなたの魂に変わる何かがあれば戻れる可能性はあるわね。」

 漠然とし過ぎていて何がどうアドバイスになるのか理解できない響也だが、自分が来た場所と言えばジントリムの南にある丘の木の下と言う事だけは既に知っている。

「この世界なら、魂の代わりになる物が見つかるかもしれないわね。これ以上私には分からないわ。どうしても知りたければ私以上に知識のある人から話を聞くしかないわね。」

 そう言うとエルザは口元に笑みを浮かべ、占いは終わりと言う雰囲気を醸し出す。響也は料金を支払おうと財布に手を伸ばすが「初回だからサービスよ。」と言われ無料で見て貰う事が出来た。

 小屋を出ると日光の温かみで自分達が肝を冷やしていた事に気づくと、一度深呼吸をして口を開く。

「セルジュ、何者だあの人は?」

「彼女は生まれつき強大な魔力の持ち主で、人のオーラみたいな物が見えるんだ。そのオーラには今まで何をして来たのかが刻まれていて、それを見る事が出来る・・・って話を聞いたけど。」

 結局は真否不明な情報ではあるが、目の当たりにした一行はその情報を信じる他無い状態になってしまっていた。



「あの子、興味深いわ。」

 一人小屋の中で壁越しに響也を見送ったエルザは不敵な笑みを浮かべると小屋の奥の壁をすり抜ける様に消えて行った。



 占い屋を出た一行は、元来た道を戻り下級市民地区へと戻る。その足取りは軽く、先程の出来事が無かったかのように歩みを進めた。

「ここからは明日の準備にしよう。キメラが居る場所へは何日ぐらいだ?」

「何事も無ければ四日、馬車で二日って所かな。」

「それじゃあ往復含め七日分を・・・。帰りは馬車あるのか?」

「近くに小さな村があるけど、定期便だけだ」

「なら、三日分用意しよう。帰りはその村で準備だ。」

 既に『三日月』の頭脳と言える程馴染んでいるセルジュと相談しつつこれからの行動を話す響也。作業の分担として響也とセルジュは薬、ルイーザとジョゼは食料の確保を担当する事にした。

「買いすぎるなよ?」

 と釘を刺す響也の言葉に生返事だけ返し商店街へと向かうルイーザと、それを追うジョゼ。大食らいな二人に食事を任せるのも心配だが、彼女達とセルジュを二人きりにする方が心許ないので致し方なし。

 ファンタジー世界の薬と言えば飲めば傷が治る青い液体や、使用すれば回復する薬草が定番だが、この世界にそんな都合鵜の良い物は一切ない為、薬屋に置いてあるものと言えばハーブやスパイス、その他患部に当てて使う薬草や植物から週出したエキスに漢方薬等が基本である。

 火を噴くと言う事で本来ならば火傷用の薬が欲しい所だが、この世界ではアロエぐらいしか手に入らず、ラップも無しに数日間持ち歩くのは不可能と言える。そうなると傷薬用の軟膏と薬草ぐらいしか思いつかない。

「セルジュは何買った?」

「松脂と鎮痛剤。後は石鹸かな。」

 王都ダミアバルに来て麻痺していたが、石鹸はジントリムで通常手に入る代物ではなく貴重品の類。セルジュの言動で衛生面の重要性を思い出した響也は馬小屋生活に慣れ過ぎたと反省する。

 


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