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記憶の道  作者: 桐霧舞
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新居と埃と今の目標




 翌日、肌寒さで馬小屋で目を覚ました響也は剣を片手に日課の素振りをする為外へ向かう。こうして馬小屋で目を覚ますのも今日で最後となるとどこか寂しい気持ちになる。王都へ来て約一月もの間世話になったので今では石の配列さえも記憶する程。

 剣を鞘から引き抜きサイコメトリーを発動。今では映像<ヴィジョン>の素振りと全く同じレベルで剣を振る事が可能となり、何処か物足りなさも感じるがローマは一日にして成らずと練習に励む。

「はぁ~い響也ちゃん。今日も精が出るわねぇ。」

 突如後ろから声を掛けられ素振りを中断する響也。普段ならルイーザが声をかけてくるが全く違う声色に疑問を抱きながら振り向くと、そこは馬小屋の持ち主である輸送ギルドのクラン『ペガサス』のマスタージェイナスの姿があった。

「おはようございますジェイナスさん。昨夜の話の通りなんですが・・・。」

「分かってるわよぉ、今日出て行っちゃうのよねぇ、寂しいわぁ。」

 そう言いながら頬に手を当てながら響也を見つめるジェイナス。馬小屋に泊めてあげてると言っても雨の日以外毎朝響也の素振りの成長を楽しみの一環としていた為、お世辞ではなく本当に寂しい気持ちになっている。しかし、自分達のクランを作り更なる成長が待っていると言うのも楽しみの一つなので気前よく送り出す事にした。勿論、響也達が成長すれば自分たちのギルドに世話になる分もある。

「マスタージェイナス、長い間世話になった。お詫びと言っては何だが何か困ったら是非我々を訪ねてくれ、力になる。」

「あらぁ嬉しいわねぇ。じゃあ今度困ったら相談させて貰うわねぇ。」

 ルイーザの言葉に嬉しそうに返答をするジェイナス。彼女の手には餞別としてギルドで余った薬草や軟膏の入った袋が握られており、そのままルイーザに手渡すと「これから苦しい事もあるでしょうけど負けないでねぇ。」とだけ言って輸送ギルドの建物に戻って行った。

「何から何まで世話になってしまったな。」

「あぁ、クランが安定してきたら土産でも持ってお礼に来よう。」 

 馬小屋にて荷造りをする二人。この世界の文化に土産と言う物は無いが、何となく意味が通じているらしくルイーザは疑問に思う事は無い。

 二人はギルド『ペガサス』に挨拶を済ませ敷地を出ると余程暇だったのか地面に訳の分からない文字を書いているジョゼを見つける。彼女も気づいたらしく、目が合うと何処か嬉しそうに二人の元へやって来た。

「おはようございます!そろそろ来ると思って待ってました。」

「おはよう。ジョゼも今日で屋根裏生活とはおさらばだな。」

 無宿者のジョゼは普段から屋根の上や屋根裏で寝ている事が多いので最終日も普段勝手に使用している建物の屋根裏で過ごしてた。勿論そこの住人はジョゼの存在にすら気づいていないだろう。

「まずはギルドへ行って部屋を貰おう。クランの登録も済んでるだろうし。」

 響也の提案に賛成した二人は「おー!」と拳を上げ非常に軽いノリで返事をする。ルイーザとも息が合い、人見知りとは何だったのかと言いたくなるレベルのジョゼの行動はやはり猫っぽいと感じる。

「おはようございます。クラン『三日月』はEランクな為、冒険ギルド内の部屋を一つ借りる事が出来ます。現在の宿代は月三千マルクで、基本先払い制となっています。ただし今回は初回なので一月分は無料ですのでご安心ください。」

 ギルドの部屋が有料な事に驚き慌てそうになる三人だが、続く言葉に安心し胸を撫で下ろす。そもそも部屋を使うのに無料と言う考えは何処から来ていたのかさえ分かっていない。王都ダミアバルに来た当初に入った宿屋の料金は一日八百マルクなので非常に安く泊まれる事は魅力的である。

 説明が終わると普段はは入らない食堂横にある通路を通ると、奥へ通じる正面の通路を挟むように左右へ上る階段目にする。響也達は左側の階段を上がり右へ曲がると最初の部屋の前に到着した。

「こちらが『三日月』さんの部屋になります。階段が近いので足音に悩まされる事もありますが、Eランクなのでご了承下さい。」

 受付嬢の言葉に対し「馬小屋に比べれば足音なんて無い様な物。」と感じる響也は早速中に入ろうとノブに手を伸ばそうとするが、先に開いたのは受付嬢の口であった。

「こちらが鍵になります。鍵を紛失した場合は罰金三万マルクを支払うまで部屋の利用が出来なくなるのでご注意ください。旅経つ時は受付へ預けると言うのも手段の一つです。」

 最後の最後で肝が冷える事を言われ一瞬氷の様に固まる三人を横目に受付嬢は説明が終わると何事も無かったかの様に踵を返し自分の持ち場へと戻って行く。何はともあれ部屋に入ってこれからの作戦を練ろうと鍵を開ける。見た所鍵は映画やゲームでよく見る普通の鍵で、作ろうと思えば複製は出来なくもない形状をしている。

 ドアノブを捻り奥へ開き中を見ると、そこは四メートル四方の部屋にベッドと椅子が二つとテーブルが一つだけ置かれたシンプルな作りとなっていた。まるでホテルのツインルーム程ではあるが、バストイレが無い分広く感じられる。付け加えるとこの大きさは響也達が働いていたジントリムの宿の一部屋よりは広い。

「窓もあるし悪くない部屋だな。」

 そう言いながら響也はドアの正面にある両開きの窓を開く。暫く使われていなかったのか埃が開いた窓から意志を持ったかの様に次々と飛び立つ姿を見て最初に思った事、それは・・・

「まずは掃除だ!昼までには終わらせるぞ。」

 一月近く宿屋で働いていたのもあり、埃の溜まった部屋に居ても立っても居られず声に出す。今の所運良く風邪の一つも引かなかった響也ではあるが、この世界で病気は命取りになる為、馬小屋を卒業した以上は清潔な部屋を保ちたい。

 役割は響也とジョゼが拭き掃除、ルイーザがシーツ類の洗濯となり、響也とジョゼは外の井戸か川まで水を汲みに行く為、部屋の隅にあった木製のバケツを二つ共持って階段を降りて行く。その間にルイーザはシーツや毛布をベッドから剥がし川へと向かう準備をしていた。

 一階のギルドまで歩いて来ると先程案内してくれた受付嬢が二人のバケツを見て声を掛けて来る。どうやらクランの人間になった事により、中庭の井戸を使用しても良いとの事。更に裏庭からなら物の数十秒で川に到着するらしく、二人は礼を言うと再び寮へと向かう事にした。途中、両手に洗濯物を抱えたルイーザと合流し、一行は階段に挟まれた通路を進んで行く。

 その通路には左右に扉があり、これらもクランに貸し出している部屋らしく、扉の一つ一つに鍵穴が確認出来る。約二十メートル程歩くと突き当りに大き目の扉が三人の目に入る。どうやらこれが中庭への入口の様だ。

 扉の奥はバスケットコートより広い中庭になっており、中央に井戸が配置された中々優雅が空間が広がっていた。響也が「流石王都に存在する冒険者ギルドだけあるな。」と感心していると「じゃあ私はそのまま裏庭に行ってくる。」とルイーザが動じずに井戸を挟んだ先にあるドアへと向かい始めた。

「私達も井戸を使わせて貰いましょう。」

 ちょっぴり唖然としていた響也はジョゼの提案により意識が戻り、二人で井戸の近くまで移動を開始する。中庭は部屋で覆われており、その多くがカーテンで閉まっている為、他のクランは寝ているのか既に出かけているのかも分からない状況である。

 目の前に川があるのに井戸の水は枯れる事も溢れる事も無く、覗き込むと深さ二メートル程の位置に水面が来ている中々不思議な光景の中、二人は縄で繋がっている桶を水面に落とし引き上げる。普段から使っている為か滑車の動きは良好で、簡単に桶が井戸の縁まで持ち上がる為ジョゼが能力を使うまでも無い程軽い。

 桶の大きさも決して小さい物では無い為、一回でバケツの丁度良いラインまで注ぐ事が出来る。四往復済ませると計四つのバケツを二人で部屋まで運ぶ。だが運び終わってからが本番。

 部屋にバケツを置き、前の住人が残したらしい雑巾を濡らし固く絞りジョゼに手渡した響也は自分の分の雑巾を絞り顔を上げると、そこにはジョゼの姿は無く狐につままれた気分になり少しばかり取り乱し始めた。

「こっちです。」

 と言うジョゼの声が部屋の中から聞こえる。つまりジョゼは少なくともこの部屋に要ると言う事になる。が、声は聞こえるが姿は見えず。

「上です。」

 その声に反応した響也は上を向くと、四つん這いになり天井を拭いてるジョゼの姿が目に入る。ジョゼの能力で天井を足場にしているらしく、当の本人からすると床を拭いているのと同じ感覚らしい。

 取り合えずジョゼを見つけ安心した響也はドア側の壁から拭き始め、すぐさま真っ黒になる雑巾を見て驚嘆しては何度もバケツの水で綺麗にしていく。

 一方ルイーザはギルド裏の川岸へ到着しており洗濯を始めるが、ルイーザ本人の衣服を見てわかる通り洗濯物をする事があまりない為、近くの盥を無視し川へ直接シーツを叩き込み適当に揺らしては引き上げて絞ると言う豪快を超えたデタラメな方法を使用する。

「何だその洗い方は?」

 丁度洗濯に来たクランの人間がこの一部始終を見ており言葉を掛けずにはいられない状態になっていた。

「川の水を一度盥に移してからシーツを入れるんだ。と言うか今のじゃ濡らして絞っただけじゃねぇか。」

 話しかけてきた男はクラン『鉄壁の盾』に所属しているレックスと言う者で、身長も高めで非常に筋肉質な体格をしている。

「その調子だと洗剤も持ってないだろ?俺をの貸してやるから洗濯を覚えろ。」

 そう言ってレックスは川の水を盥に移し、袋に入れていた灰汁を一掬いし水に混ぜると灰色になった水にシャツを入れ、揉み込むように洗い始める。

 暫くしてやや灰色になったシャツを川に付けては絞ると言う工程を数回行い「こんな感じだ。」とルイーザに見せつける。

 今見た通りにルイーザはレックスの使っていた盥にシーツを入れ洗濯を始める。一連の流れを終えて広げたシーツは、灰汁の灰色は一切ない白く綺麗なシーツへと変貌し、その出来栄えに手を叩きながら褒めるレックス。

「見事だ。俺は後で良いから全部洗っちまいな。見た所新規クランか?」

「あぁ、昨日出来たばかりの『三日月』と言う名のクランだ。そう言えば紹介が遅れたな、私はそのクランにいるルイーザだ。」

「『三日月』か、何かあったら俺達に相談すると良い。一応先輩になるしな。」

 川の潺に二人の会話が混じり、その声に誘われるかの様に川岸へ別のクランの人間が洗濯に来る。

 洗濯を済ませた後は乾燥。中庭は一階を借りているクランが使用すると言うのが暗黙の了解らしく、二階を借りているクランはギルド西側の空き地を使うとの事。『鉄壁の盾』も二階に居るらしく、自分の洗濯を素早く済ませるとルイーザと共にギルド裏口から中庭を通過し、西側の扉を通って空地へ案内する。

 この空地もギルドが所有している場所で、倉庫を建てようとしたが、洗濯物を乾かす場所が無いと意見があり、結局空地のままにしたらしく、クランのメンバーは割と好き放題に使用している。

 物干し竿の使い方を説明し、ルイーザにやらせては再び手を叩き褒めるレックス。どうやら褒める時に手を叩くのはこの男の癖らしい。

「見ての通り、宿舎が目の前にあるから朝は影になるんだ。だから昼頃から洗濯を始める連中も珍しくないぞ・・・って何だありゃ?!」

 干す位置を教えているレックスの目に飛び込んできたのは宿舎二階の窓を外から拭いている人物の姿であった。勿論窓を拭く事は何ら問題は無いが、その人物は梯子を使わず、完全に四肢が外に出ている状態で拭いていたのだ。

「あぁ、私のクランメンバーだ。気にしないでくれ。」

「気にするなって言ってもよぉ・・・。」

 その頃響也達は天井と壁拭き掃除が終わり、響也はテーブルやベッド等を拭き上げたいた。

「キョーヤさん窓拭き終わりましたよ。」

「サンキュー、水がもう真っ黒だから交換してきてくれるか?二つで良いから。」

 響也に言われ汚れた水入りバケツを持ちギルド裏の川へ来るジョゼ。バケツの水を捨て、一度綺麗に洗うと、そのまま水を入れた状態で部屋へと戻る事にした。

 洗濯が終了したルイーザを加えた三人になると掃除のスピードも激増し最後の床を磨きさえもあっと言う今に終わってしまう。しかし気が付けば昼飯時、普段ならば昼食は干し肉や胡桃等の保存食をメインとしたひもじい物であったが、本日はギルドの食堂と言うちょっとした贅沢を選ぶ。

「洗濯物を取り込むまで時間があるし、何より金が掛かる。所謂家賃だ。って事で昼飯食ったら早速クエストを受けに行くぞ。」

 食堂でパンを食べながら今後の行動内容を話す響也に対し「分かった。」とだけ返事をすると、前回の任務で懐が温まった二人は昨夜の如く肉料理を中心に大量の料理を注文し齧り付く。ルイーザが大食いなのは知っていたが、ジョゼの能力で使用するエネルギーの燃費の悪さで一度に食べる量はルイーザに引けを取らない。

「そう言えば魔力ってどうやって使ってるんだ?」

 食事時では真面目な話が通じないと諦めた響也は前から疑問に思っていた魔法、特にその源である魔力に疑問を持ち尋ねるが、

「私は魔法が使えないから分からないな。筋力増加は使おうとして使っている訳でも無く勝手に使っている様なものだ。」

「私の能力は魔法とは違って集中するだけで出来るので分かりません。」

 と返答が返ってくる。事実二人は一般的な魔法を使用する事が出来ず、生まれ持った能力を最大限に利用し戦闘を主なってきた。逆にこの世界へ来て能力を身に着けた響也の方が二人にとっては興味のネタになる。

「俺の場合も集中するだけだよ。あとは勝手に映像<ヴィジョン>が流れてくるから見てるだけで。」

 響也自身も能力発動には集中のみと言う山も谷も無い会話が終了する。

 食事が終わった後は任務の確認。三人はクエストボードを二手に別れ探索する事に。響也は文字を素早く読めないのでルイーザとペアである。

「ウェルテシアに鉄鉱石十箱輸送する馬車の護衛。求五名。」

「人数が足りない。」

「シェルジェブールまでの護衛。」

「何日掛かるんだ?」

「遠い都だからなぁ、大体片道八日は掛かると見て・・・」

「パス。」

「北の森に現れたコボルトの群れ撃退。」

「いつもやってるような任務だが・・・。まぁそれにするか。」

 ルイーザと響也で見つけた任務を報告する為、二人は別行動しているジョゼの元へ向かって声を掛けるが、ジョゼは気になるのか一つの任務を見て動こうとしなかった。気になった二人は何を見ているのかと近くに寄り覗き込み内容を確認する。

「近所の洞窟に住み着いたアクアリザードの討伐。場所バーウィック。確かに近い場所ではあるな。」

「時間としてどれぐらいだ?」

「五時間もあれば着くだろう。ここから一番近い港町だ。」

 現在の時間を正午とすると片道で夕方になってしまう為時間帯が悪い。しかしジョゼは頑なにボードの前から動こうとしないので理由を尋ねてみると、「魚が食べたい。」と言う物凄くふざけた理由であった。

「確かにさっきのメニューで魚料理は軒並み品切れだったしな。私もこの任務に賛成だ。」

 食い気の二人組に推され取り合えずこの任務と、今日中に出来そうなコボルト討伐の二つ受ける事にした一行は、受付にて任務の受理を行いギルドを後にする。目的地は北の森だ。




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