黒と白
まだ日差しが辺りをボンヤリと照らす頃、焚火が消えてしまい寒さで目を覚ました響也は再着火する為に毛布と呼ぶには物足りないボロ布から出ると鞄を漁り始める。割れた聖水の瓶と、聖水を吸って完全にふやけた食材を避けながら火打ち石を取り出すと箱の残骸を集め着火を試みる。
その音に反応したのかジョゼも目を覚まし、眠そうな目を指で擦りながら上半身を起こす。その動きはまるで猫の様で響也の心を少しばかり和ませた。
「悪いな起こしちまって。火が消えて寒くてさ。」
「いえいえ、私も普段このぐらいの時間に起きますから。」
「昨日は・・・今日かもしれないけど、大変だったなぁ。ジョゼが居なかったら俺達死んでたよ。」
「私なんか別に、お二人が隙を作ってくれたからですよ。」
ファントム退治の話をしているとルイーザも目を覚まし、開口一番に「飯。」と言うと自分の鞄を漁りだす。
「お前、寝る前に腹減ったって言って全部食っただろ。俺の鞄の中の食材も聖水まみれだし。」
「じゃあ、それを焼こう。聖水なら飲んでも大丈夫だろ。」
そう言ってルイーザは所々凹みのある浅い鍋を取り出し響也の着火を待つことにする。今回ばかりは片腕が折れているので何もせず唯々火を待つルイーザを責める事は出来ない響也
火が付いたのは始めて二分経った頃。今では慣れたもので、炭布に着いた小さな火種は麻紐も通し廃材に燃え移りあっと言う間に焚火が完成する。
本日の朝食は濡れた事により雑菌が発生したと思われる強烈な臭いを発する干し肉と胡桃のオートミールのみと言う非常に寂しい物。昨夜埋葬が終わった後、ルイーザが夜食を食べると言い出しそのまま食べられる野菜や果物を根こそぎ食したのが今回の悲劇とも言えよう。
左手だと思うように食べれないのか普段より遅いペースのルイーザ。更に言えば昨夜の内に右腕は廃材を利用し副木を当てている為右腕が邪魔をしているのもある。
「食ったらダミアバルまで戻るか。今ので残った水は殆ど使っちまったし。」
水袋を振って中身が殆ど無い事をアピールする響也。昨夜の戦いで破れもしなかったのは不幸中の幸いであり、これ以外にも割れなかった火打ち石や布で包んでいた油瓶が無傷であった。
食事を開始して五分程、食い足りないと叫ぶルイーザとジョゼの腹の音を尻目に焚火の始末をする響也。最後に昨日の戦いを思い出しながら廃屋に目をやると、そこには経年劣化こそ否めないが一枚の絵になりそうな綺麗な光景になっており、とてもこの中で怖い思いと死にそうな戦いをしたとは到底思えない程立派な建物に対しもう一度黙祷を捧げると足早に去る事にした。
帰る途中、灰と煤だらけの響也がファントム戦時の事を口にする。
「そう言えば疲れてたから聞けなかったけど、昨日は結局どうやって倒したんだ?」
「お前は燃えて戦い所じゃなかったな。私も気になっていたんだ。私の見間違いでなければ天井を走ってなかったか?」
ルイーザから質問されるジョゼ。
「はい。私の能力で何処でも足場に出来るんですよ。」
今思えば水の上を走ったり立ったりもしていたなと改めて再確認する二人。しかし、見た目以上に怪力なのは何か理由があるのかと尋ねれば、触れた物を軽くしたりも出来ると言う。こちらは二度もジョゼに持ち上げられた響也が実感している。ただ、軽くするのは精々人間二人が限度らしく、それ以上だと少しは軽くなるが細いジョゼの腕では持ち上がらないらしい。
「でも能力遣うと・・・。」
と言いだした瞬間に再びジョゼの腹が吠える。能力発動にはエネルギーを非常に多く使用するらしく、普段は解除しているとの事。通りで体の割にはよく食べる訳だと納得する響也。
「ジントリムでは何をしていたんだ?俺が言うのも何だけど、中々目立つ格好だと思うが。」
「ラダウィッチから王都に行こうとしたんですけどお金が足りなくてジントリムを経由したんですけど、全然稼げなくて連れて行ってくれる人を募集して待ってました。」
この話を聞いて何か頭にモヤモヤとした物が浮かぶ響也。ジョゼの名前を聞いた時から何かが頭につっかかっている。
「募集って?」
「王都まで連れてってって言う募集です。」
その言葉で完全に理解した響也。
「あのふざけた依頼書張ったのお前か!?」
ジントリムのギルドにて十マルクで王都までと言う依頼を出していた『ジョゼット』の正体は目の前にいるジョゼである。
「ジョゼットってのは?」
「私の偽名です!」
「名前全部入ってるじゃねぇか!」
ツッコミが止まらない響也。ここまで来たら普段はどんな任務を受けていたのか尋ねざるを得ない。
「能力を活かして密偵です!」
「んなド派手な頭と目立つ格好の密偵が居るか!」
と畳みかける。
王都に帰るまでに聞いたジョゼの話をまとめると。自分が仕える人物を探す旅に出たは良いが、早々に路銀が底を突いたのでギルドで任務を受けようとしたが人見知りが災いとなり声を掛けれず、王都へ行けば仕事が向こうから来ると考え現在に至る。因みに場所を明かさなかったが、故郷を出て半年程らしい。
夕日を背に王都ダミアバルへ到着する一行。出発が早かったのが幸し陽が落ちる前にギルドへ報告が可能だった。その一方で右腕を骨折したルイーザは報告を響也に任せ病院へ嫌々直行する。
「報告内容受け取りました。調査だけでなくファントムを討伐し問題を解決したので報酬を少しだけ上乗せしておきました。」
本来ならば追加報酬等は無い任務ではあるが、長い間誰も受けなかった事と、クランですら無いメンバーと言う事で依頼主から多めに報酬金が支払われたらしい。宿無しの響也達からすれば『少しだけの上乗せ』は大金である。
今回の報酬金は基本金二千五百マルクと上乗せ分の五百マルクの計三千マルク。通常、近辺の調査任務は千五百から二千マルクなので割と良い結果ではある。しかし、命の値段としては倍貰っても全く足りない額。
「丁度三千マルクだから一人千マルクになるな。」
そう言いながらギルドの外で待つジョゼに千マルク分の硬貨を手渡す響也。受け取ったジョゼは硬貨の枚数を数える事無く腰の袋の中にしまい込み、響也の顔を見ながらお礼を言う。
今回の調査任務は響也とルイーザが引き受け、ジョゼは協力者として参加したに過ぎない。その為、任務が終われば解散するのが基本である。が、ジョゼは特に帰る素振りも見せず、ルイーザの具合を見に行こうと提案する。勿論断る意味もないので同意する響也。
病院へ向かう最中、響也の頭には『ジョゼが居ればクランも作れるし心強い味方になる』と言う考えがあるが、ジョゼの主探しの邪魔にもなるので誘いたくても今一歩踏み出せず言葉を飲み込む。
しかし、ギルドを出て間もない頃正面からルイーザが左手でアピールしながらこちらに歩いて来る姿を二人は目撃する。ギルドから病院へはそこそこの時間を要し、直接西門から向かってからギルドへ来るとしても明らかに早い。
「案外報告早かったな。」
「早いのはお前の方だよ。腕は大丈夫なのか?」
「医者が言うにはもうくっつき始めてるから安静にしてれば良いらしい。ついでにトーマス達にも会おうと思ったが面会時間終了で無理だった。」
骨折さえも既に治り始めているのは流石はアレス族と言った所。支える為のボロ布と箱から拝借した副木は医療用の清潔な物に交換されており、ルイーザが病院からの帰りである事が把握できる。
「報酬金貰ったなら風呂へ行かないか?如何せん埃まみれだ。」
左手で防具を叩きながら汚れをアピールするルイーザ。
「確かに転がるわ暖炉へぶち込まれるわ埋葬するわで凄い汚れになってるな。代金出すからジョゼも良かったらどうだ?」
改めてジョゼを見ると燃えた響也の炎を消す最にローブを叩きつけたので所々黒く焦げてしまっている。元々が白いだけにかなり目立つ。響也からしたらせめてものお詫びと言った所でもある。
ルイーザと合流して十分程歩き銭湯へ到着する。剣を預け、洗濯代込みの料金を支払うと、入口でブーツを叩き汚れを払い、巻き藁で出来た籠へ入れ引き戸から脱衣所の中へ入る。中央に置かれた棚で被っているフードを外せば他の客から異様な目で見られはするもの、すぐに目を逸らし何事も無かったかの様に風呂支度を再開している。
「洗濯お願いね。あと今回はブーツもよろしく。」
脱衣所の洗濯屋受付に汚れた服とブーツを渡し風呂内へ入り込む響也。熱い湿気を帯びた湯気が一瞬にして彼の体温を上昇させた。
洗い場に用意された石鹸で髪と体を洗い、希釈された酢を髪へ染み込ませる。勿論コレは嫌がらせではなくアルカリ性の石鹸で痛んだ髪を中和させる物。リンスが無いこの世界での髪の中和に関しては、響也も王都に来て初めて知った事。決して良い匂いと言い難い石鹸の泡と、鼻を刺す酢の混じり合った匂いではあるが、汗まみれの馬小屋生活をしている二人にとっては取るに足らない問題である。
体と頭に付いた泡や酢を桶のお湯で一通り流し終えると浴槽に浸かる事にする響也。そのお湯の心地よさについ声が漏れてしまう。しばらくボーっと壁を見ながら温まっていると、天井に付いた湯気が雫となり響也の頭に垂れてくる。その冷たさに一瞬驚くが、これもまた風呂の楽しみの一つだと再び呆けた顔で壁を見つめる。
一方女湯に居るルイーザとジョゼも響也と同じく浴槽に浸かっていた。肌の白いジョゼと褐色肌のルイーザと言う正反対なコントラストである。いや、肌の色だけではない。身長、性格、魔力、武器全てが正反対。同じなのは戦闘力と大食らいな所くらいだろうか。
「浴槽に浸かって大丈夫ですか?」
「全く問題ない、そもそも医者が大げさなんだ。アレス族からすれば骨折なんて頻繁に起こる事だぞ。」
「それはそれで怖い様な・・・。でもアレス族って凄いですね。魔法も使わないでアレだけの力を出せるなんて。」
「そうか?私等からすれば普通の事だからなぁ。ジョゼみたく魔法が使えたら良いと感じた事もある。」
「私達イリス族は生まれつき何かしらに特化した魔力があるんです。私の場合は重力操作で。」
現在響也達の居る大陸ではフローリア族と言う種族が大多数を占めている。フローリア族の特徴としては手先が器用で金や薄茶の髪をしている事。前の町に居たカレンもこのフローリア族である。
なお、ジョゼの話は正確に言うと能力が重力操作で、それを行うのに必要なのが魔力である。その為、魔力を通常と違う使い方をすると言う事で膨大なエネルギーが必要となった。
「そうなのか。所でこれからどうする予定なんだ?主探しに出かけるか?」
「そう・・・なんですよね。今まで私は一人密偵として生きてきたので誰かに仕える事を第一に考えてきました。でも、一緒にご飯を作って食べたり、一緒に戦う時の心強さを知っちゃったんです。」
ルイーザの質問に対し目を逸らし浴槽内で体育座りをしながら元気のない声で喋り出すジョゼ。心なしか寂しそうな眼をしている事に本人さえも気づいていなかった。
「うむ、確かに飯は大勢で食べた方が美味いな。」
「はい・・・。」
元気のないジョゼに対し、気持ちを察したルイーザは口角を上げジョゼに近づく。
「なら決まりだな。私達と一緒にクランを組まないか?勿論主が見つかれば抜けても構わない。だがそれまで私等と居ても飯も金も入る。それに私等は仲間を探していた所なんだ。ジョゼが居てくれるなら心強い。」
それを聞いて顔を真っ赤にするジョゼ。どうやら今まで『仲間』として行動して来た事が無く、ルイーザから面と向かって仲間と言われたのが嬉しい様な恥ずかしい様な何とも言えない感覚で感情が混乱している様だ。
「ぜ、是非!」
ジョゼとルイーザは握手を交わすと「よろしく。」と大笑いする。その笑い声は男湯にまで響き、響也の耳にも入る。
「何か女湯煩いな・・・またルイーザが騒いでるのか?」
風呂に入る前の悩みが既に解決した事を知らず、響也は肩まで湯に浸かり一度深呼吸をすると浴槽を後にした。
ガラスの引き戸の横にはサービスのタオルが置いてあり、風呂から出た者は全員が使用する。このタオルの生地だけは銭湯のみに流通しており、一般の人間では手に入れる事が出来ない。体を拭き、足元に敷かれた簀子で足に付いた水滴を落とし、まず向かうのはすぐ横の洗濯屋。長風呂をしないと乾燥が終わらないジントリムの洗濯屋とは違い、王都では物の数分から十分程度で乾燥まで終わる。
洗濯屋から衣類とブーツを受け取ると、中央に置かれた棚まで持ってくる。魔石を使用した洗濯により埃や汗などの汚れは洗い落され水分が無くなるよう確りと乾燥されているが、柔軟剤の類は無く、毎回ゴワゴワとした感触になってしまう点を除けは非常に効率が良い。おまけにルイーザとは違い防具の類を持っていない響也からすれば服とフードのみなので料金が安く済むのも良いポイントの一つ。
着替えが済むと風呂場とは正反対の位置にある風の魔石による送風機に当たり髪を乾かす。温度や風量の調節が一切聞かないドライヤーと言うべきか、涼む為の扇風機と言うべきかは分からないが、髪を乾かす唯一の方法である。
火照った体も風にあたり体温も落ち着いた頃、髪も十分に乾燥したので受付で預けた剣を受け取り銭湯の外へ出ると、陽が落ち冷たくなった風が響也の体を撫でた。風呂から出た後と言うのもあり、その冷たさは非常に心地よく感じられる。
響也が銭湯から出て数分後、お待たせと出てくるルイーザとジョゼ。焦げ跡のあるジョゼのローブは洗濯屋の手により、近くで見なければ分からないレベルの修繕が行われていた。これが原因で出るのが少し遅れたらしい。勿論ルイーザは副木は邪魔になると言う事で外したままで、一式を左手に持っていた。
「取り合えず飯にしよう。ジョゼも良かったら一緒に来ないか?ちょっと話があるんだ。」
そう言って響也がギルドの方面へ体を向けた瞬間にルイーザが口を開く。
「ジョゼなら仲間になるぞ。」
不意にこれから話し合う内容の回答が飛び込みズッコケる響也だが、すぐに体制を戻し振り向き、自分に相談無しで決めた事に一言言ってやろうと思ったのだが、
「さっき風呂で話してたんだ。」
「はい、宜しくお願いします!」
と言う二人の会話を聞いて、元気に挨拶をするジョゼと、気さくに話を進められたルイーザの人柄に対し、そんな気持ちも何処かへ行ってしまった。何とも言えない感情が蠢くが、取り合えず手を差し出す。
「あぁ、これから宜しくな。」
差し出された響也の手を両手で確りと握り返し笑顔で「はい!」と返事をするジョゼ。一般的には良いムードになるのだが、如何せん紺色のフードを深く被った男と、全身真っ白の服と白いフードを被った女が握手している姿は中々不気味である。
数分後、ギルド内の食堂にて食事を始める三人。長さ二メートル、幅一.五メートルの机の上には所せましと料理が並んでいた。普段はあまり口に出来ないステーキや鶏の丸焼き等の肉類を中心にしたメニューとなっている。勿論オーダーしたのはルイーザ。
「それじゃあ、ジョゼの仲間入りを祝して。乾杯!」
と音頭を取る響也だが、二人は何の事か分からずキョトンとした顔で響也を見続けていた。その顔を見て元の世界の風習が抜けてない事を自覚し説明をすると、二人は納得し「乾杯。」と水の入った木製のグラスを掲げた。因みに王都の水は川や井戸から汲んできた水を煮沸した物なので、一杯三マルクする。とは言え元の世界でペットボトルの水を買ったとしても四分の一なので安いと言えば安い。
食事を開始して一段落した頃、座り直し一度姿勢を整え響也が二人に話しかける。
「手続きに時間が掛かるかもしれないから今日の内にクランの手続きをしようと思うんだけど、一番大事な物を決めないとだ。」
「飯?」
「んな訳あるか!クランの名前だ。俺達もクランを作る以上避けて通れない最初の問題だ。」
クランは基本的に名前の変更は受理されず、どうしても変更したい場合は一からクランを作り変える必要がある。その事実を知らない響也ではあるが、オンラインゲームの知識としての勘が働いた。
「名前かぁ、私等はチームを組む事があっても集団で呼ばれる事は無かったからな。行き成り言われても何も思いつかないぞ。」
「私は基本的に一人だし名前は出さないから分かりません。」
流石にネーミングセンス以前に名前を考える時点と言うで躓くと思わなかった響也は軽く頭を抱えてしまう。この世界の言葉は本来響也の知る筈の無い言語だが、何故か日本語に翻訳して聞こえ、当の本人の言葉も翻訳され伝わっているので大抵の人が分かる言葉をクラン名にしたかったのだが、今の二人を見るに非常に厳しい状況である。
「響也は集団行動をして来なかったのか?」
「帰宅部だったしなぁ。」
「キタクブ?」
「いや、何でもない。そうだなぁ・・・あとはゲームで使ってた名前とか。」
と口に出した瞬間、響也はゲーム内で使用していた中二病な名前を思い出し机に頭を打ち付けた。
「大丈夫ですか?!」
「あぁ、大丈夫。ちょっと思い出したくない事を思い出しただけだ。」
心配そうに声をかけるジョゼに右手で頭を支えたまま返事をする響也に対し、ルイーザは少し首をかしげながら問いかけた。
「響也の所の言語の名前で良いんじゃないか?ハンバーガーとかも通じてるし。」
そう言われハッと気づく。先程の帰宅部同様、存在しない言葉でさえ日本語は正確に相手へ伝わっている。つまり、日本語の名前を付けてもこの世界の人間は『知らない言葉』程度にしか感じないのだ。意味は通じなくても言葉の響きは伝わると言うのは中々良い発見であった。
「となると、出来れば日本語の名前が良いなぁ・・・『紅蓮』とか『大和』辺りか。いやいや在り来りすぎるし意味が良く分からん。」
鶏もも肉に齧り付いていたルイーザは一人でぶつぶつと喋りながら考える響也に不気味さを覚えテラスのある窓際に移動を始め、ジョゼも響也を放って移動するか悩んだが結局ルイーザの後へついて行く事にした。
「今日は雲一つない綺麗な星空だな。」
「はい、綺麗ですよね。」
「私は野宿する事も多いから星空を見ながら考え事をよくするんだ。」
「どんな事を考えるのですか?」
「それがな、気が付くと朝になってしまうんだ。何故だろうなと。」
「すぐに寝ちゃってるんですね・・・。」
「そうかもしれん。」
頬を指でかくルイーザに対し星を見ながらジョゼが口を開く。
「私は密偵なので夜に訓練していた事を思い出します。待っている間に星を見ながら『あ、鳥の形だ。コボルトの形だ』って暇つぶししてました。」
「鳥の形?」
「あのちょっと明るい星を見てください。その隣の星とか大き目の星を線でつなぐと・・・」
そう言いながら開いた窓から見える星を指さしながら説明を始めるジョゼに対し、「おぉ、確かに鳥っぽい形をしているな。」と返答するルイーザ。彼女が暇つぶしにしていた物は元の世界で言う星座である。勿論星その物が異なるので元の世界の星座は一つとして無く、響也も夜中に北斗七星やカシオペア座を探したが見つかる事は無かったが、何故か月だけは存在している。
食べていたもも肉が無くなるとルイーザはテーブルに戻りベーコンや芋が乗った皿とフォークを取ると、未だに独り言を言っている響也に「こっちに来てみろ。」と声をかける。
「おぉ~!綺麗な星空だなぁ!」
「王都に来て間もない頃を思い出すな。確かあの日は橋の下で・・・」
「その話はよせ。にしても今日は綺麗な三日月だ。」
ルイーザの話を塞ぐように止めた響也は先程までの考えを全部忘れ月を見ていると一つの明暗が浮かぶ。自分のネーミングセンスの無さも誤魔化せるその答えは、
「『三日月』でどうだ?確か幸運とか始まりを意味したと思う。」
今見ていた物と言うシンプルな物だった。しかし二人は星をよく見る事から賛成し、決定となる。因みにルイーザのアレス族では『安らぎ』、ジョゼの故郷では『転機』を意味するらしく意味合いとしても非常に良い。
クラン名が決まったので早速登録に向かう響也に対し「騒がしい奴だ。」と見送るルイーザだが、その騒がしい奴は即座に戻って来る。
「『三日月』のスペルが分からない・・・。」
ルイーザとジョゼは目を合わせると一笑いすると、響也の保護者の如く受付へ向かう事にした。