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明日も冒険者ギルドに8時集合の約束をして宿に帰って来た。
「ただいま」「帰りました」
「おかえりなさい、今日は早いのね?」
「まあ、色々あったから。あと晩ご飯なんだけど、タクマさんの家で食べて来ちゃったんだ」
「あら?またご馳走になっちゃったの?」
「ううん、今日はイトが作ったんだよ」
「羨ましいわ、私もイトちゃんの作った料理が食べたいのに」
「お二人の分はガキ大将から死守して来ました!後で食べて下さい」
「本当に!?嬉しいわ!」
「よく確保出来たね」
「私そういうの得意なんだ、えっへん!」
「ああ、小賢しいこと得意そうだもんね」
「手癖が悪いみたいに言わないでよっ!」
あ、この感じ久し振り‥‥、オビトと2人はやっぱりいい。
部屋に戻って防具と身体に『清浄』を掛ける。ついでに『清浄』を覚える前に洗っただけの服と道具にも掛けておこっと。ふんふんふふ~ん、衣食住が満たされてるって幸せだなぁ~。おお!魔法瓶みたいな筒が見れるようになってたよ。
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[リキッドボトル]
液体に変える魔法瓶
〈効果:物質の液状化〉
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ブルースライムの核+蒼鉱石+小魔石(紫)
作成条件:鍛冶・錬金Lv4
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私物の所に入れてたからわからなかった。え~っと、何々、何でも液体にしちゃうってことでいいのかな?‥‥ちょっと怖いかも、助さんみたいに蓋を閉めたら発動してくれよ?ブルースライムの核はいいとして、スライムって基本青じゃないの?この感じだとブルーが亜種ってことだよね。これは是非普通のスライムを見てみたい!
片付けも終わり、ベットにゴロンと転がる。はぁ、それにしても賑やかな1日だったな。明日は何を作ろうかな‥‥
「イト?寝てるの?」
はっ!?私あのまま寝ちゃったのか‥‥、ヤバい涎!グイっと拭う。
「ごめん寝てた、いま何時?」
「もうすぐ9時だよ」
「いま行く!」
うわぁ、髪の毛も寝癖が付いちゃってるよ。それよか涎の痕は大丈夫かな?‥‥面倒臭い『清浄』だぁ!
「お待たせ」
「‥‥『清浄』って凄いんだね。涎の痕が全然残ってないよ」
「な、何で涎を垂らしていたことを知ってるんだ!?」
「部屋から光りが漏れればわかるよ。でも、本当に涎を垂らしてたんだね‥‥」
「お姉さんをそんな目で見ないで!女はいくつになっても涎を垂らす生き物なんだよっ!」
「イトと一緒にしたら他の女の人に失礼だよ」
食堂に行くとお客さんは全員帰ったみたいで、片付け終わるところだった。厨房を借りて、パンとシチューを温め直さないといけないな。
「お疲れ様です」
「ああ、イトの飯が食えると聞いて張り切っちまったよ」
「私もよ、お客さんにも言われちゃったわ」
「まだ片付けるものってありますか?手伝います」
「いや、丁度終わったところだ」
「早く食べたくて2人で頑張ったのよ」
2人に席に着いてもらい、クワ太からお皿と鍋を取り出す。良かった、逆さになってたらクワ太の中が大惨事になるところだった。あれ?コレって‥‥
「オビト、ちょっといい?」
「どうしたの?」
「このパンに触ってみて」
「いいけど、‥‥熱い」
「こっちも見て」
鍋の蓋を開けるとシチューから湯気が立ち上った。
「へえ、こんな検証方法もあったんだ‥‥」
「ビックリだよね。これって時間停止でしょ?それに中身も溢れてなかったんだよ」
「とりあえず温かいうちに食べてもらって、続きは後で話そうか」
「うん、そうだね!」
お皿とスプーンを配り、深皿にシチューを装った。
「晩ご飯のメニューは焼きたてパン・チキリと野菜のシチュー、それとパンに挟めるトングの照り焼きと葉野菜になります。挟むときはナイフでパンに切れ目を入れてバターを塗って下さいね」
「旨そうだな」
「絶対に美味しいと思うわ!」
「「いただきます」」
2人揃ってパンに手を伸ばすも、触った瞬間の柔らかさに驚き固まっている。やがて意を決したのか、恐る恐る口に運びパクっと食べた。「「‥‥これがパン」」2人は顔を見合わせて今度はシチューを掬って食べた。目を見開いて飲み込んだ後、ギンガさんは味わいながら、レイアさんは勢いよく食べ始めた。
寝たのもあるのかな?見てたらお腹が減っちゃった。少し多めに持ってきたから私もパンサンドだけ食べよっと。パンを手に取りバターを塗り、葉野菜と照り焼きを挟むとオビトが手を差し出した。へいへい、お先にどうぞ。オビトに渡すと、ギンガさんとレイアさんも口をモゴモゴさせながらお皿を差し出す。はいはい、ちょっと待ってて下さいね。
自分の分も出来上がったので食べると、ギンガさんとレイアさんもパンサンドに手を伸ばした。ガブリっ、食べ始めたと思ったら猛烈な勢いでなくなっていく。もう1個ずつ作っとくか、ツンツンしなくてもわかってるってば。3つ作って3人に渡してあげた。
「ふぅ‥‥、この世界にもこんな料理があったんだな」
「‥‥イトちゃん美味しい料理をありがとう」
「いえいえ、ギンガさんにはもっと美味しいものを作ってもらえますので」
「期待に添えるよう頑張ろう」
「それでですね‥‥」
時間停止助さん改造版を取り出す。
「これを差し上げます。名前は助停さん改。口を閉じれば中のものの時間が停止する優れもの!勿論容量は無限大の魔改造品です!」
「‥‥ダサい、センスの欠片も感じない」
「何とでもおっしゃい!お子ちゃまにはこの名前の良さがわからないのさ」
「しかし、‥‥こんな凄いものを貰ってしまっていいのか?」
「大丈夫ですよ。あと2枚ありますし、これから新鮮なお肉をジャンジャンお買い上げ戴く予定なんで!」
「そうか‥‥ではありがたくいただこう。恩に着る」
「イトちゃんありがとう」
ついでにウルカの肉2匹とギュシの肉4匹分をお買い上げいただき、300,002ギルの収入。これはオビトと後で半分こ。それからパンに使用した酵母・バターと照り焼きに使った醤油・みりん・料理酒をギンガさんに見せ、どういったものでどういう使い方をするのか、どのように作ることが出来るかを説明した。
作り方については<錬金>と助さん達がないと作ることが非常に難しく、普通に作るとしても設備と工程と時間の多さに驚愕していた。
遅めの晩ご飯を終え、オビトの部屋に戻って来た。そんじゃ、朧気ながらその全容が明らかになりつつある、クワクワコンビの検証といこうか。
「それにしても、クワ太の時間停止には驚いたなぁ。これはクワ衛門でも試してみなきゃだね!」
「‥‥もしかして鞄のことを言ってるの?」
「およ、言ってなかったっけ?私のがクワ太で、オビトのがクワ衛門なんだよ。ピッタリでしょ?」
「センスが絶望的な次元だと思う‥‥」
「オビトが何と言おうと、ここは絶対に譲らないからね!」
「‥‥イト、これ見て」
オビトがクワ衛門から草を2本出した。今日あげた蘇生草ともう1本は
「何で薬草を持ってるの?全部売らなかったっけ?」
「昨日1本だけ残しといて、私物の所に入れておいたんだ」
「へえ~、これでもう1日半?案外萎びないものなんだね」
「俺が思うに、鞄に付いた魔石(黒)の効果は時間停止なんだと思う。トング肉が新鮮なままだったのがいい証拠だよ」
「言われてみれば‥‥。今日照り焼きに使ったのも昨日のものだけど、冷蔵庫に入れてないのに新鮮だったかも」
「蘇生草もそのために貰ったんだ。明日に蘇生草、2日後に薬草が腐らなければ実証されたんだけどね。まさか鞄に熱い料理を皿と鍋ごと突っ込む人間がいるとは」
「むぅ‥‥」
「でも中身が溢れないことは大収穫だよ。怖いもの知らずのイトにしか出来ない所業だね」
「そ、そう?私ってばやっぱり大胆不敵?なんだか格好いいぞ!」
「どちらかと言えば、厚顔無恥?」
「同じ四字熟語だけど意味が全然違うよっ!」
一応確証が欲しいので薬草類の検証は継続し、確認出来たら4人にも伝えることになった。




