1話
「栗宮、俺転職する」
冷房が効き過ぎた倉庫で、キャベツの検品作業をしていると、同僚の木村が言った。
木村はガタイの良い男性で、私と同い年だ。
「……そう」
木村とは長い付き合いだ。
私とは同期であり、五年以上の付き合いになる。
「ここの会社、給料安いだろ。昇給やボーナスも少ないからな。もっと、待遇の良い会社に転職したい」
「何だ。まだ、決まって無いの」
「こ、これから履歴書を送るところだ」
「そう……どんな仕事やるの?」
私は作業の手を止めずに話を続けた。木村もトマトの検品の手を休めずに、話を続ける。
「ITとか、良いかもな」
「IT……」
私は木村がパソコンを使っているところを想像する。
『え、えーと……』
木村はキーボードを恐る恐る人差し指で触れる。次の瞬間、パソコンから煙が上がった。
『え、えっ……!』
木村は目を見開き、パソコンを叩いたりするが、そんな直し方では直らず、パソコンから火が出る。
『木村! 何をやってるか!』
『す、すいません』
『おまえはクビだ!』
『ぎゃあああ!』
上司に首を宣告され、段ボールに私物を詰めて、会社を出た。私物を詰めた段ボールは木村の家となり、高架下に住み着く。
そこまで想像して、私は口を開いた。
「まあ、頑張って」
「おう、頑張るぜ……て、何で憐れみの眼を向けるんだ?」
「気のせいだよ。玉ねぎが目に染みただけ」
「いや、栗宮がやってるキャベツだろ」
「キャベツも目に染みることがある」
「へー、そうか」
もちろん、キャベツで目が染みる訳はない。木村の暗い未来を想像して、哀れに思っただけだ。
「終わった」
キャベツの検品が終わった。
パレットの上には、検品を終えたキャベツ入りの段ボールが積み重なっていた。
「山口さんに声掛けてくる」
「おう」
持ち場を離れて、倉庫の外に出る。
「っ……」
涼しい倉庫を一歩出れば、燦々と降り注ぐ太陽と、アスファルトで熱せられた空気が私を襲う。
冷え切った身体から汗が吹き出しそうだ。
冷房が効いた倉庫に戻りたいが、グッと堪えて、プレハブ小屋へと足を進める。
プレハブ小屋の隣には喫煙スペースがある。目的の人物は暑い中にも関わらずタバコを吸っていた。
ツルッとした頭と首にタオルを巻いた中年の男性。作業着姿で、プラスチックの椅子に座りながら、スマホを操作していた。
「山口さん、お疲れ様です」
「ん? 美咲ちゃんお疲れ様」
山口さんはスマホをポケットに入れ、私に視線を向けた。
「フォークリフトお願いしたくて」
「フォークリフトね、了解。これ吸ったらすぐに行くから」
山口さんは口に咥えていたタバコを指で挟んだ。
まだ、時間が掛かりそうだ。
と、タバコを見ながらそう考えると、山口さんは視線に気づいたのか、私に笑って問いかけた。
「もしかして、タバコ興味ある?」
「いえ、そんなことは……」
「人生何事も経験だよ」
山口さんはポケットからタバコの箱を取り出した。そして、残りの本数を確認すると、眉を下げた。
「あちゃ……今日の分しかないや……また、今度ね」
「……仕事に戻りますね」
その場を離れる。
すでに私の額には汗が出ていた。
冷房の効いた倉庫に駆け込む。
「ふぅ……」
地獄から天国へ。そんな言葉が似合うのは今だろう。
私は自分の持ち場に戻った。
「山口さんは?」
「これ終わったらて」
私がタバコのジェスチャーをすると、木村は肩をすくめて笑った。
「まあ、気長に待とうや」
「気長にしてたら、仕事終わらないよ」
「確かにな」
作業の手が空いた私は木村の作業を手伝う事に。
「栗宮がフォークリフトの資格持ってれば、待たなくても良かったのにな」
「……木村が取れば良い。転職に役立つかもよ」
「役立ちそうだが……俺がやりたいのはITだから」
「そっか……頑張って」
段ボールくらいなら、プレゼントしよう。私にもそのくらいの優しさはある。
それから、山口さんが来たのは十分後の事だった。
どうにか仕事が終わり、帰路に着く。
電車に乗り、自宅の最寄駅で降りると、近くにスーパーがある。
スーパーに入り、一番最初に来たのはスイーツコーナーだ。
「うーん……」
今日はケーキか……シュークリーム……いや、どら焼きも捨て難い。
「これは難題だ……」
安月給だが、スイーツを買う余裕はある。
だが、健康面を考えると、食べ過ぎるのは良くない。
悩んだ末、シュークリームとケーキをカゴに入れる。
次にお酒コーナーに行き、適当なチューハイをカゴに入れた。
会計を済ませて、スーパーを出る。
「暑い……」
昼間よりはマシだけど。
私はエコバッグからチューハイを一つ取り出すと、缶の蓋を開けた。
そのまま、一口飲む。




