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予想外の不協和音

千代田女学園のマドンナ様として順調に進んできた「美咲」

しかし、1ヶ月経っても、全4クラス中の2クラスしか配下に置けていない。おかしい。そう思っていた矢先に、詩乃に出会う。詩乃に出会ってから、少し焦りが見えてきた美咲。美咲の最終的な選択とは!


予想外だった。

千代田女学園という、選ばれた乙女が集う庭園において、自分ぐらい——いや、もしかしたら自分を凌駕するほどに魅力的な存在がいるなんて。


(もしかしたら、自分は……自分はマドンナになれないのかもしれない)


一瞬、弱気な思考が脳裏をよぎる。だが、美咲は即座にそれを打ち消すように、心の中で傲慢な笑みを貼り付けた。

そんなことはない。あってはならない。だって、私にはすでに入学からわずか一ヶ月で、二クラス分の「しもべ」を従えている実績があるのだ。私の言葉一つで動き、私の視線一つに一喜一憂する者たちがこれだけいる。


問題はない。そう、何の問題もないはずだ。


「……それより、あの子は誰なんだ?」


視線の先にいる少女。あんなにハッキリとした、それでいて透明感のある美貌を持った子が、入学式にいただろうか。

いや、いるはずがなかった。あの日、全校生徒の、そして教師たちの視線を独り占めしていたのは、間違いなくこの私。この一ヶ月、学園の中心で太陽のように輝いていたのも私。そのはずだった。


(潰さなきゃ……!)


黒い感情が、毒のように美咲の胸を浸食していく。

あの子を潰さないと、残りの二クラスを配下に置くのは至難の業になる。……待てよ。

私はなぜ、まだ言葉も交わしていない相手に対して、これほどまでに不自由を感じ、焦っているのだ?


美咲が一人、その場に立ち尽くして得体の知れない恐怖に頭を悩ませていると、背後から「ポンポン」と親しげに肩を叩かれた。


「どうしたの? みーちゃん。いつもより、なんか顔が硬いよ?」


振り返ると、そこにいたのは櫻井心だった。入学式のあの日、緊張で震えていたところを私が「慈悲深く」救ってあげた少女。


「あ、もしかしてバレーボール苦手だったり? 私もマジでそれはわかるよ! でもね、私みたいにちょっと勇気を出して一歩踏み出したら、何かが変わるかもしれないよ。……まあ、私みたいにちょっとやりすぎるのはお勧めできないけどね!」


心は最近、美咲のことを当然のように「みーちゃん」と呼ぶ。

心を開いてくれているのは、私の支配が完璧である証拠としてありがたいが、幼稚園児のような呼び名をつけられるのは、正直言って反応に困る。何より、背後から声をかけられるまで気づけなかった。

高嶺の花たるマドンナとして、これほどの失態はない。


「心。私は元気だよ。……それより、心に聞きたいことがあるのだけれど。あの子は誰か知っている? 私、見たこともなくて」


美咲が指し示した先——詩乃のいる方向へ向けた指先には、自分でも気づかないほど力がこもっていた。


「え? 知らなかったの? もう、珍しいね、みーちゃんにしては。あの子は、梶原詩乃。通称『しーちゃん』。私たちと一緒の、特待生だよ!」


「特待……」


その言葉が、耳の奥で不快な残響エコーとなって繰り返される。

私と同じ、選ばれし者。私と同じ、格上の存在。


「そうなんだ! 初めて知ったわ」


外面では、いつもの完璧な微笑みを装う。だが、それももう限界に近かった。じっとりと嫌な汗が背中を伝い、血の気が引いていくのがわかる。


(まずい、まずい、まずい……! そうだ、特待生はもう一人いたんだ……何で私はそんな基本的なことを忘れていたの? 心や綾乃を飼い慣らせたからって、それだけで満足していたなんて……最低……!)


視線の先では、その少女「詩乃」を含むクラスのメンバーたちが、軽やかにバレーボールの練習を始めていた。

じきに美咲たちのクラスと交代の時間になる。いつもなら、誰よりも先にコートの端で準備運動を始め、周囲を鼓舞しているはずの美咲。

けれど、足が動かない。まるで地面に縫い付けられたように、手足の感覚が遠のいていく。


その時だった。


「危ないッ!!」


誰かの叫び声。視界の端から、暴力的な速度で回転する球体が迫ってくる。

美咲は運動神経もいい。普段なら、こんなボール、難なくレシーブするか、優雅に避けてみせるはずだった。


——はずだった。


(……動け、動かないと)


脳が必死に指令を出すが、呪縛にかかったかのように体が拒絶する。

顔面に直撃する確率、六〇%。

美咲の視界で、ボールがスローモーションのように巨大化していく。


ここで、終わりか。

私の築き上げたマドンナとしての虚像が、ボール一つで粉砕される——。


「あっぶなーい!!!」


鼓膜を突き抜けるような鋭い声とともに、美咲の目の前で「バチンッ!」と空気が弾ける音がした。

流れるような、あまりに綺麗なサーブ。

ボールは美咲の鼻先数センチをかすめ、軌道を逸らして体育館の壁を叩いた。


美咲が呆然と立ち尽くしていると、その鮮やかな一撃を放った本人が、屈託のない笑みを浮かべて近づいてきた。


「大丈夫? 傷はなさそうだね。あ! そろそろ、そっちのクラスの番みたいだよ。早く準備しなきゃ!」


「あ……うん……ありが……」


震える声で礼を言いながら、美咲はゆっくりと顔を上げた。

その先にいたのは、膝をついて崇めるべき「しもべ」などではなく。


梶原詩乃。


「私の顔に、何かついてる?」


詩乃は小首を傾げ、宝石のような瞳でまっすぐに美咲を射抜いた。その瞳に、敵意も軽蔑もない。ただ、純粋な善意だけがそこにあった。


「……いや。ごめん。ありがとう」


「大丈夫!? みーちゃん!」「美咲さーん!」と、駆け寄ってくる配下たちの喧騒が遠くに聞こえる。

だが、今の美咲にとって、そんな雑音はどうでもよかった。

肺の奥が焼けるように熱い。屈辱。人生で味わったことのないほどの、ドス黒い恥。


よりにもよって、今日一番警戒していた相手に、これ以上ないほど無様な姿を晒し、挙句の果てに「救われて」しまった。

あんな、子供をあやすような笑顔で。


(恥だ……こんなにたくさんの者たちの前で……っ!)


許さない。

親切のつもり? 特待生同士の助け合いのつもり?

ふざけないで。


(許さない……絶対に復習してやる……! その余裕そうな顔、ぐちゃぐちゃにして、屈服させてやるんだから……!!)


美咲の瞳に、絶望から転じた烈火のような執着が宿った


読んでくれる人が確実に増えてきてます!本当に前回も言ったのですが、毎回感謝の気持ちでいっぱいです。また、少しづつ、ストーリーも進んできました!美咲ちゃんはこれからどうするのか!?これからもよろしくお願いします

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