雨降る4
ザァザァと降り続ける大雨の中。
俺はビニール傘を片手に早歩きで通学路を歩く。
歩くたびに水がピチャピチャと音を立てる。
弾くたびに靴の中に僅かな水が入ってくる。
これが本当に嫌なんだよね。
けど今は山口を探さないと。
辺りを見渡しても人影は全く見当たらない。
まぁこんな雨の中で歩く人なんていないよね。
と思っていたら不気味な人が傘もささずに突っ立っていた。
背は低く髪の毛は白のような銀のような雨のせいで視界も悪くよく分からなかったがとりあえず白っぽい色をしていた。
俺の第六感が言ってる。
関わるなと。
俺は横を素通りしようとする。
「こんな可愛い女の子が傘もささずに立ってるのに無視なの?酷いの」
明らかに聞こえてしまったが雨音でよく聞こえなかったって事にしよう。
うんうん、視界も悪いし。
すると服の袖をつままれた。
最悪だ。
その幼女はくるりと周り俺の正面に立つと濡れないように傘の中に入ってきた。
眠たそうな目元に長いまつ毛。
髪の毛は濡れてグッチョリしている。
「傘欲しいの、それちょうだいなの」
マジで関わりたくない。
だって口調に特徴がある時点でもう嫌な予感しかしない。
俺は鞄に入れておいた小鳥遊から盗んだ折り畳み傘を渡す。
「それあげるから出来れば俺に関わらないでね」
「分かったなの、ありがとうなの」
よかったなの。
俺はうんうんと頷きその場を離れる。
さっきよりも足早に。
結局通学路には山口は居なかった。
だとすると買い物にでも行ったのかな?
コンビニは通り道にあるけどもしそこじゃなきゃショッピングモールかスーパーに買い物しに行った事になる。
後者なら流石にバスを使わないと行けないね。
ただ俺はポイントがない。
最後にコンビニ寄っていなかったら諦めよう。
そう思ってコンビニに入ったが山口は居なかった。
つまりはショッピングモールかスーパーに行ったって事だね。
コンビニを出ると遠くから雷の音が聞こえる。
距離はありそうだけど結構ずっしりとした音だった。
ーーーー
しばらく歩きようやく山口を見つけた。
雨の中一人で歩いていた。
辺りをうろうろしながらあちこちに視線を配っている。
とりあえず傘は持ってるみたいだし良かった。
と言うか後で確実に怒られる。
……今は考えるのをやめよう。
近づき声をかける。
「どした?」
「あ……晶くん……実はスマホを無くしちゃって……」
「そうなんだ」
結構な時間探していたせいかあちこち濡れていた。
まぁ俺も結構濡れちゃったけど。
「あれ?晶くんどうやって来たの?もう現金は持ってないって言ってたしポイントも私に渡してたよね?」
「普通に歩いて来た」
「え!?この距離を雨の中歩いて来たの!?どうりで濡れてると……」
そう言ってポケットからハンカチを出して俺の髪や頬を拭き始めた。
「いや、山口が濡れちゃうでしょ……俺はいいから」
「よくないです、風邪でもひかれたら困ります」
二人きりの時に敬語を使うのは怒ってる証拠だ。
ここはおとなしく拭かれておこう。
山口は丁寧に俺の目元やおでこを拭いてくれた。
さすが飼い主、三匹も飼ってるだけのことはありますね。
ウチ一匹は猛獣だけど。
「ん、もう大丈夫だから探さないと」
「うん、多分この辺りだと思うけど」
俺が電話をかけながら探したおかげかあっさりと見つかった。
確かに普通に探してたら視界も悪くて見つかりづらいかもね。
その後はバスに乗った。
雨は強くなる一方だ。
さっきよりも大きい音を立ててる。
「なんだがこうして二人でバスに乗ってるとあの日を思い出すね」
「あの日?」
「うん、あの時スーパーで卵の特売やってて……」
あ〜そんな事もあったような。
それで確かお一人様一個までで俺がズルしたやつか。
「そんな事もあったね」
俺は取手に肘をかけ窓の外を眺める。
「あの時凄く嬉しかった」
「そりゃよかった」
確かにあの時は俺が居候して山口のポイントを減らしてたからね。
しばらくは卵料理が続いたけど。
けど種類も豊富だったし味も全然違くて驚いたね。
「今は三人になってしまいました……でもこれはこれで楽しいからいいんですけど」
「とりあえずポイント的には柚木のおかげで余裕も出来たし山口も順位が上がったからね」
なんか若干会話のズレを感じた気もするが気のせいかな?
それより今は濡れた靴下の方が気になってしょうがない。
あと小鳥遊の折り畳み傘どうしよう。
「あのさ今日山口の部屋にいてもいい?」
「……うん?……え?……なに?」
何故か口に出そうとして考えてまた何か言おうとしてやめてを繰り返していた。
「いや、多分今日山口の部屋にいないと死ぬ」
「い、いいけど……ま、まずお風呂に入らなきゃ」
「まぁそりゃそうでしょ……」
そんだけ濡れてれば。
「あ、あと声とか……静かにしなきゃ」
「うん、バレたらやばいからね」
俺が隠れてるのバレたらやばいし多分ビニール傘と一緒に俺の骨も折られるしね。
「……あ、あと」
「大丈夫だって、だからお願いします」
「あ……はい」
よし!これで山口の背中に隠れてればそんなに強く言ってこないだろう。
と言うかあの幼女はなんだったのだろうか。
まぁ関わらないのが一番だからね。
そして平和が一番。
その後は山口の部屋に隠れてるのがバレて柚木にまで説教された。




