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第六十五話


 結果として大谷が勝利した。


 周囲からは未だ声が上がらない。


 かつてこんな結果のデュエルがあっただろうか。


 あっさり大谷が勝ってしまった。


 一年最強を決める試合がこんなにもあっさりと。


 もしかしたらそれくらい大谷と北さんには差があるのかもね。


 「お、おいこれで終わりかよ?」


 「お、おう……そうみたいだな」


 「こんな結果で納得いくかぁ!ずるだよ!真奈美がこんな出来レースで負けたなんて認められるわけないだろぉ!」


 確かにこれは初めから大谷が仕組んでいた罠だ。


 北さんをここに呼んだのも偶然ではなくあらかじめ俺を使って呼び出したもの。


 敦が怒るのも無理はない。


 俺もそう思う。


 「こんなんで最強を名乗ってて恥ずかしくないのかよ!?お前バカだろ!?やり方が汚い!許せない……許せない……許せなぁい!お前なんて退学処分にしてやる!真奈美に謝れぇ!そして僕に謝れよ!僕の可愛い真奈美に傷をつけたんだ!」


 敦は周りの目線など気にせず髪を毟りながら大声で叫んでいた。


 さっきまでの温厚な性格はどこに行ってしまったのやら。


 柚木と言い敦と言いやっぱ性格のいい人は仮面をつけてるのかもね。


 北さんは足に力が入らないのか南に支えられている。

 

 「中学生の君には分からないだろうね、デュエルってのはどんな手段をとっても良いんだよ……少しは勉強になったかな?」


 正論だ。


 勝てば官軍負ければ賊軍。

 

 何をしても勝てばその人が正しいからね。


 ニコッと笑う大谷は俺の目線から見ても恐怖を感じさせた。


 だが敦にはそれが煽りに見えたのだろう。


 今にも飛びかかりそうな勢いで大谷にガンを飛ばしている。


 まずくないこれ?


 ここで喧嘩なんかに発展したら間違いなく俺も巻き込まれるよね?


 まぁ大谷は大人の対応してくれるとは思うけど……。


 敦の目がやばい。


 完全に逝っちゃってますね。


 瞳孔を広げて青筋を立てている姿はさっきとは完全に別人にしか見えないね。


 「お、落ち着きなよ敦!確かに大谷くんのやり方はちょっと汚いかもしれないけど……これは二人のデュエルなんだから敦がそんなに怒る事ないじゃない……ね?」


 悲しそうな顔をしながら小鳥遊は敦に近づく。


 足は震えていた。


 そりゃ誰だってこんなに怒鳴ってる人の近くにいれば怖いだろう。


 けど知人である小鳥遊的にほっとくこともできない。


 手をゆっくりと伸ばす小鳥遊。


 指先は震えている。


 それが敦の頬に触れそうなくらいの距離まで近づくと。


 それを弾き飛ばす。


 パチンと大きな音が反響する。


 ざわついていた周囲がその音に呼応するよう静寂に変わる。


 「五月蝿いんだよ!お前みたいな傷物の不良品と真奈美を一緒にするな!誰かの手を借りなきゃ上に上がれないお前と!誰にも頼らず自分の力だけで上に上がれる真奈美がどれほど存在価値が違うのか分かってないだろ!」


 小鳥遊は状況を理解出来ていない様子だった。


 普段ツンツンしてる小鳥遊が自分から優しく手を伸ばしたのにそれを突き放しさらに罵声まで浴びさせる。


 こんなに酷い事あるかな?


 「お前が何か一つでも真奈美より優れている点があるのか?真奈美は僕のものだぁ!そしてその僕の所有物に手を出したお前ら全員を!地獄に送ってやる!」


 その声は深く悍ましかった。


 身の毛がよだつほど響くその声に誰もが視線を奪われている。


 俺は隣にいた大谷の肩をチョンチョンと叩き耳を寄せてもらう。


 「ん?どうしたの?」


 手を寄せて


 「けど小鳥遊の方が胸は大きいよね?」


 「……うん、そうだけど今話すことではないね」


 あ、はい……。


 ペタリと座り込んでしまう小鳥遊と北さん。


 その様子を誰もがただ見守るしかなかった。


 「勝負は僕の勝ちだよね?……それなら北さんと少し話してもいいかな?二人きりで話したいからあっちの方へ行こう」


 座り込む北さんの前に大谷が立ち身体を持ち上げようとすると……。


 「僕の真奈美に触るなぁ!!……おい!離せ!離せって言ってんだろぅがぁ!俺はこの学園長とも繋がりがあるんだぞ!お前みたいな教師なんていくらでも変わりはいるんだぞ!……お前らもそうだ!お前も!お前も!日菜太もそうだ!量産品でしかない!」


 小鳥遊を含む色々な人に指を刺した。


 ……あれ?俺は?


 その声は斉藤先生と警備の人が取り押さえて姿が小さくなるまでずっと響いていた。


 随分と暴れてたけど……台風みたいなやつだったね。


 俺は敦を連れて行った警備の人と斉藤先生に敬礼しといた。


 特に意味はないけど。


 再びフードコート内に振り返るとそこはさっきまでの熱気は消えて皆恐怖で怯えていた。


 量産品ねぇ〜俺からしたら褒め言葉なんだけど。


 なんでだろう……みんなかなり敦の発言に堪えていた。


 これももしかしたら生まれ持った特徴なのかもしれない。


 前に山口が言ってた[スキル]って事なのかもね。


 数分もすれば皆散っていった。


 取り残された俺と小鳥遊。


 もちろん声をかけずに立ち去る。


 ってのは無理だよね。


 肩を震わせ俯いてる小鳥遊は小刻みに鼻を啜る音が聞こえてきた。


 まぁ確かに小鳥遊に不幸が訪れて欲しいと本気で思ったけど実際こんな風になると複雑な気持ちだ。


 面白いものが見れる……か。


 これが本当に面白いと思えるのかな?


 少なくとも俺には胸糞悪いようにしか見えないけどね。


 間接的には俺のせいでもある訳だし。


 今日一日が最悪な日になった彼女をそのままに出来るほど俺は鬼じゃない。


 一番辛い選択肢を選んだのは小鳥遊本人だ。


 ゲームだって難易度を選択するのは自分自身だ。


 ハードモードを選んだり簡単そうなゲームを買ったり。


 それが途中で難しくて投げ出して誰が責めるだろうか?


 そして必ずしも自分の力だけでクリアしなきゃいけないわけじゃ無い。


 誰かの力を借りたっていい。


 攻略本を見るのだって自由だ。


 だからモブの俺が彼女のレベリングを手伝っても問題はないはず……。


 よくRPGで出てくる、一時だけ仲間になる臨時的な助っ人みたいなもの。


 もう十分挫折したと思う。


 あとは一回だけ立ち上がるのを手伝う。


 そしたら小鳥遊はもう俺より立派な人間になってる。


 ほんの少し手伝うだけだ。


 多分大谷の手のひらで踊らされてるんだろうなぁ〜。


 そう考えると本当に最悪な日でしかないね。

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