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第六十六話


 「と言う訳で大谷に言われた通り小鳥遊を連れてきたけど」


 ここは学年で最も成績優秀者が住める超VIPルームだ。


 一言で言うならタワマンだね。


 俺と小鳥遊は今大谷の家にいる。


 広い部屋に高い天井。


 敷かれた絨毯や家具その他もろもろ全てが高級感で溢れてる。


 毎月大量のポイントを貰ってさらにこんな家で贅沢三昧。


 俺なんて500円使うのですら一喜一憂しているのに大谷は湯水のようにジャバジャバ使える訳ね。


 ここに住ませてくれないかな?


 全てが最新鋭の技術で出来ていて人間が暮らすのに最も適している。


 入る時もまずエアシャワーで全ての埃を落とす。


 部屋の中も自動で掃除されているみたい。


 なんて羨ましい。


 「大谷と俺って友達だよね?」


 「うん、そうだねでも急にどうしたの?」


 「ペット欲しくない?」


 俺がそう言うと小鳥遊に叩かれた。


 痛いんですけど。


 「あんたのよくないとか出てるわよ!」


 「はい……」


 大谷はニコッと笑い小鳥遊の方に向く。


 「小鳥遊さんもごめんね?でも彼に会えば全て解決するのかなって……」


 「彼?一体誰のこと?それに解決って?」


 「うん、東くん出てきてもらってもいいかな?」


 部屋の奥から出てきてのは東だった。


 何故東なんだろう?と言う俺の疑問はきっと大谷がすぐに教えてくれるのだろう。


 「彼は東西南北と言うチームの一人で東くん、ちなみに東西南北のリーダーは北さんね、訳あって彼らに協力してもらったんだ」


 俺と東に視線を配る。


 まぁ俺は指示通りに小鳥遊を誘導しただけだけど。


 「この人がなんなの?ウチに関係あるとは思えないんだけど?」


 特に目線も合わせる事なく小鳥遊はそう言う。


 「東くん、あとは自分の口から話せるかな?僕が出来るのはここまでだと思うけど」


 大谷がそう言うと東は頷く。


 なんだろうかこの展開。


 ちょっと予想できない。


 「実は昔俺には好きな人がいたんだ……その人は俺とは住む世界が違うお金持ちだった」


 うんうん、よくある身分差恋愛ってやつだね。


 と言うかなんか東の雰囲気変わった?


 もっと寡黙で低い声色してた気がするんだけど?


 相変わらず小鳥遊はそっぽを向いてる。


 「俺はただの喧嘩馬鹿だったんだがある日その女の子に仲のいい男がいる事を知った、俺はその女の子にそいつより喧嘩が強い事を証明出来れば仲良くなれると思っていた」


 「よく……分からないけどそうだったのね」


 小鳥遊は話がよく分からないと言った感じだった。


 東の言い方や雰囲気も続きを言うのを躊躇っているようにも見える。


 「その男は猫を持っていた……そして俺はそいつと一緒に猫を怪我させてしまった」


 その瞬間小鳥遊の顔つきが変わった。


 「貴方があの時の!……ウチ帰る」


 すぐさま踵を返して早足で去ろうとする。


 「待って欲しい!確かにあの時傷をつけたのは俺なんだ!決して許して欲しい訳じゃ無い!」


 「じゃあなんだって言うのよ!もうほっといてよ!クラスのみんなと仲良くなりたくて色々考えて!真奈美に馬鹿にされて!久しぶりに会った敦にも酷い事言われて……もう全部嫌なのよ!」


 決してこちらを向く事はないがその肩は震えていた。


 俺から見ても小鳥遊にとっては最悪の一日だったのは間違いない。


 そして何より。


 可哀想な人物がここに。


 今日一番ついてないと言っても過言ではない。


 ほんと可哀想……俺。


 あぁ……諭吉さん帰ってきてください。


 思わず大谷も俺の事を見て苦笑いしていた。


 金持ちで勝ち組の大谷には分からない悩みなんだろうなぁ……。

  

 後でポイント請求しよう。


 なんせ100万ポイントもあるらしいし。


 「俺は今日小鳥遊さんに何があったのかは知らないが聞いて欲しい」


 小鳥遊は何も言わない。


 「俺はあのあと一週間後くらいに佐藤の家に行ったんだ」


 「……敦の家に?」


 ゆっくりと話す。


 「そう、そして俺は見てしまったんだ猫をゴミと一緒に処分しようとしていた彼を」


 マジかよ……本当に凄いね彼。


 と言うかそれって大丈夫なのかな?


 動物愛護法って昔あったような気がする。


 それに引っかかるんじゃ?


 現代にもあるかは分からないけど。


 「え?……それじゃ本当にウチの家を抜けてあの子は元いた場所に帰ってたのね!?……もしそうならって予想してたけど……嫌な方に行ってしまったのね……それで敦に捨てられたの……?」


 小鳥遊の質問に息をゆっくりと吸い込む東。


 「俺はこっそりとその猫を盗んだんだ……どうせ捨てるなら貰っても良いじゃないかと……親にも内緒で飼っていた……バレたらまた佐藤の奴の家に戻されるんじゃないかと思って。初めはどうすればいいか分からなかった、人にすら優しくした事ない俺が動物なんかに優しく出来るのかって。それに酷い怪我もしていたし」


 ようやく小鳥遊はこちらを向いてくれた。


 その時に初めて東と目が合っていた。

 

 「なんとか一命は取り留めたんだが長くは生きられたかった……それでも!俺はあいつと一緒にいた日々はすごく楽しかった、喧嘩しかできない俺に色々と教えてもらったよ。それから俺は喧嘩はもうしないと誓ったんだ、まぁ色々あってまた拳を血に染めようとしてる……」


 そう言って東は写真を見せてきた。


 そこには小さい頃の東と額に傷の入った猫が一緒に写っている。


 写真は全部で100枚近くもあった。


 その一枚一枚に思い出があって、幸せがあった。


 不器用そうな東が恐る恐る猫に近づいている写真なんかもある。


 あ、やっぱガチャガチャの猫に似てるかも。


 「東くんが動物に優しいのは学園内でも有名なんだよ、それにまた喧嘩を始めたって言ってもそれは守りたいものがあるからだよね?」


 「あぁ……俺にはやらなきゃいけないことができた、それを教えてくれたのがこの猫なんだ」


 東は写真の中から一枚手に取り物思いにそれを見ていた。


 なんか俺だけ全く喋ってないような気がする。


 いいんだけどね。


 「小鳥遊さん……これでも東くんの事が許せないかな?」


 小鳥遊は写真を一枚ずつ手に取ってそれを見つめる。


 また一枚、また一枚と。


 気がつけば大粒の涙を流していた。


 本人も気づいていなかったのか写真にこぼれ落ちた涙を見て自分が流していることに気がついていた。


 「そんな訳ないじゃない……よかった……この子は……この少ない時間だけは幸せになれたのね……ウチには出来なかったもの……」


 しゃくりをあげ声は小刻みに震えている。


 「本当すまない……そしてありがとう、俺はあの出来事があって人として成長出来たんだと思ってる……そしてこの学園に入学してさらに成長した……」


 東は深々と頭を下げていた。


 小鳥遊は涙を拭いながら東の方に体を向ける。


 「いえ……ウチの方こそありがとう……貴方が敦からこの子を救ってくれたのよ……」


 良かったね〜。


 ん?


 ……。


 おぉ!ついにモブの俺に出番がきたぁ!


 二人ともなんかいい感じになってる……ここでモブが発言する台詞は!


 「つまり東は小鳥遊の事が好きって事?」


 俺がそう言うと二人とも顔を赤くしてたじろいだ。


 よし!メインキャラ達をくっつけるいかにもモブキャラらしい台詞なんじゃないかな?


 今後は目立たないように生活するだけじゃなくメインキャラを引き立てる役も率先して買っていこう。


 モブキャラだって見ているだけが役割じゃない。


 完璧だね。


 「ちょ!え!?い、いやぁ!昔はそうだったけど今は北姉さんがいるから!」


 「そ、そうよね!真奈美はみんなの憧れで可愛いものね!……でもそれはそれで悔しいわね」


 うんうん、二人とも幸せで俺もモブキャラらしいことが出来てみんな幸せだね。


 「話も一区切りついたところでみんなでご飯でも食べようか?すっかり遅くなっちゃったし!新庄くん、手伝ってもらってもいいかな?」


 「え?あ〜いや〜多分柚木と山口が俺の帰りを待ってくれてるだろうし帰ろうかなぁ〜」


 「ダメに決まってるでしょ!?あんたも大谷くんの手伝いするの!」


 いや……本当にもう十分なんだけど。


 なんだろう……すごく断りたい。


 この笑顔がすごく怖いし嫌な予感しかしない。

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