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第六十話


 小鳥遊がなんだかしおらしくなっているのでラッキーと思いながらフードコートに向かっていると何やら周りの生徒も俺たちと同じ方角に向かっていた。


 何かあったのかな?


 「おいおいマジかよ!?現順位トップの大谷と第二位の北さんがデュエルするって!」


 「大谷は実際一位らしいけど北さんに関しては噂だろ?順位は本人にしか分からないからな」


 「んな事どっちでもいいってそれより今一番強い二人がデュエルするんだろ?こんなん見なきゃおかしいだろ!」


 ……なるほどね。


 俺はなんとなく状況が読めた。


 お隣さんは全く理解出来てないけどね。

 

 「なによ!なんでこんなに人がいっぱいいるのよ!?」


 「なんでだろうね〜」


 「とりあえず行くわよ!もしかしたらポイントの配布とかやってんじゃ無いの!?急ぐわよ!」

 

 俺を犬のように引っ張って行く小鳥遊。

 

 すでにかなりの人数がフードコート内に集まっていた。


 俺と小鳥遊は人混みを掻き分けてようやく大谷と北さんが見える位置までたどり着く。


 本当に人多いね。


 みんななんだかソワソワしていた。


 「なんのつもりかわからないのだけれど私とデュエルするって事は一位の座を譲ってくれるって事よね?」


 「どうかな?僕は結構強いからね、油断しない方がいいよ」


 「当たり前でしょ?貴方相手に油断する人間少なくともこの学園にはいないわよ」


 「それは光栄だね」


 余裕の表情を見せる大谷に対し北さんはやや焦り気味な様子だった。


 「なんでこんな事になってんのよ!?てかデュエルってなによ!?」


 あ、そうか小鳥遊は知らないのか。


 ……いや流石に学校側が説明してくれたと思うんだが。


 案外小鳥遊が忘れているだけな気もしてくる。


 「ふふっ僕の出番ですね」


 俺と小鳥遊の間から声が。


 き、君は情報通の乾!一体どこから?最近見ないなと思ってたけど。


 いつもの調子でメガネをグイッとあげ腰に手を当ててる。


 「誰よあんた!軽々しく話しかけないでよ!」


 「「えっ?」」


 誰に対して容赦のない小鳥遊、ほら乾落ち込んじゃってるじゃん。


 一応同じクラスの人だからね。


 「おほん!デュエルとはお互いのポイントを賭けて勝負する事です、勝敗に応じ順位の変更もありますし、ポイントもあらかじめ賭け分を決めておきます、勝負内容は双方の合意があればどんなものでも可能です!」


 長々と説明しているが俺は大谷が北さんにデュエルを仕掛ける事をあらかじめ聞かされていた。


 それは先週の日曜日の事。


 「晶く〜ん、大谷くんが話したいことあるって電話してきたんだけど〜今大丈夫?」


 「え〜」


 俺は今日曜日の午後六時から始まってるでかマルコちゃんとアワビさんを見ているところだ。


 この時間のリビングが俺にとって一番のリラックスタイムなのに。


 「日曜日の午後くらい一人にさせてくれ〜って伝えといて、今忙しいから」


 「分かったわ、あ、もしもし大谷くん今忙しいから無理だって……うん……うん……まぁ同棲みたいな感じだよね〜好きぴっぴと一日入れるとか本当に幸せ〜って感じ!」


 電話しながら玄関の方へ向かう柚木。


 ったく日曜日に連絡してくるとか世間一般の人なら怒ってもおかしくないと言うのに。


 明日から始まる月曜日に向けて英気を養わなければ金曜日まで耐えられない。


 逆に日曜日の午後が嫌すぎてアワビさん症候群なんて言葉もあるらしいが。


 どっちにしろ日曜日に連絡してくる大谷は非常識な事に違いはない。


 それより今いいとこなんだった。


 数分後……。


 デデッデデ、デデッデデ、デデッデデデ!パン!


 これ聞くと鬱になるらしい。


 お馴染みの曲が流れ始めると柚木に肩をチョンチョンと叩かれる。


 「晶くん、大谷くんがどうしてもすぐに伝えたい事があるって言われて一応待っててもらったんだけど」


 「そうなんだ切って大丈夫だよ」


 「分かった〜」


 すると山口がキッチンから顔を覗かせる。

 

 「だ、ダメですよちゃんと出てあげてください、わざわざ待っててくれたんですから」


 「え〜」


 そう言ってスマホを差し出されたので仕方なく受け取る。


 「はい、もしもし」


 「ごめんね忙しい時にどうしても伝えたい事があってさ、ちょっと時間いいかな?」


 初手謝罪とか社会人なのかな?


 この出来た人間から俺にお願いとは一体……。


 俺が大谷にあげられるものなんて孤独と背景同化のスキルくらいなものなんだけど。


 「ん、要件は?」


 「今度遊びに行くって予定の件なんだけどね僕と新庄くんと小鳥遊さん、あと一人を柚木さんじゃなくて北さんを誘って欲しいんだ……そしたら僕も行こうかなって思ってるんだけど、どうかな?」


 なに!?俺の小鳥遊陥れてやろう大作戦が未遂で終わるだと……。


 柚木にはほどほどに小鳥遊をいじめて貰って満足したらさっさと帰ろうかと計画していたのに。

 

 柚木がこちらを見て小首を傾げている。


 「いや、それはちょっと……」


 「じゃないと僕は行かないかな、それに新庄くんにとっても都合の良いもののはずだよ、小鳥遊さんは北さんが苦手みたいだし……それにきっと面白いものが見られると思うよ」


 なんだかいつもより楽しそうな声色でそう言う大谷。


 電話越しのせいなのかこんな声聞くの初めてだった。


 「面白いもの?なにそれ?」

 

 「僕は北さんとデュエルする」


 先程との声とは違い、硬く鋭い声色へと変わった。


 てかそんな重大イベントをあらかじめ聞かされるとか俺はモブなんだからやめて欲しいね。


 これ以上引き伸ばせば確実に変なルート入りそうだし適当にあしらって関わらないようにしよう。


 「分かった、好きにしてくれ……けどあんま面倒ごとに巻き込まないでくれよ」


 「ありがとう、けど文化祭の日に必ず厄介事が起きる、新庄くんも気をつけた方がいいよ、今回はそんな大事にならないと思うから、それじゃおやすみ」


 電話が切れる。


 すっごい聞きたくないこと聞かされた気もするが……。


 「大谷くんなんて?」


 柚木にスマホを渡して俺は考える。


 柚木には申し訳ないがここは大谷に言われた通り北さんを誘っとくか。


 「えっとさ、柚木には申し訳ないけどさっきの話無かった事に出来る?あと北さんの連絡先が知りたい」


 「オッケーじゃあ私は山口さんと家でお留守番してればいいのよね?夜には帰ってくるでしょ?ご飯作って待ってるからね」


 「それならスイカ鉄道の続きしましょう、山口県の独占崩されたのを早く戻したいのです」


 なにそれ?俺の知らないところで二人が仲良しになっているんだけど?


 「俺も家に居ようかな」


 「本当!?じゃあ三人でやろっか!」


 「ダメですよ、もう約束したならちゃんと行ってください」


 怒られてしまった。


 「山口さん本当真面目よね〜ゲームは割とずるい事してくるくせに」


 「そ、それはゲームは仕方ないんです!強いムーブは決まってますし相手の嫌がる事をすれば有利ですから」


 どっかで聞いた事あるような。


 まぁ一ヶ月以上も同じ家で暮らせば仲良くもなるよね。


 楽しそうに会話する二人。


 なんか除け者にされた気分で悲しかった。

  

 俺もやりたかったなスイカ鉄道。


 これが先週の日曜日の話。


 今頃は二人で物件の取り合いしてるんだろうなぁ〜。


 なんで俺ばっかこんな目に……。

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