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第五十九話


 俺は頭の後ろで手を組み歩き始める。


 特に会話は無い。


 店内のbgmと雑音が耳に入る。


 俺と小鳥遊の空間だけがそこに適応出来ていない。


 黒い丸で囲まれているような気分だ。


 「何これ?」


 そう言って小鳥遊の視線には沢山のガチャガチャが並んでいた。


 所謂ガチャガチャコーナーってやつだね。


 「ガチャガチャ、なんか色んなキャラクターのフィギュアだったりストラップだったり最近のだとお菓子のやつとかもある」


 「ふ〜ん、ウチやりたいんだけど?」


 やればいいじゃんと言いたいところだが俺に払えって事なのだろう。


 まぁ今日は一応現金ならあるし出来ないこともないがこんなものって言ったら失礼だがこんなものに金を出したくない。


 絶対に。


 けどまぁ俺が北さん呼んだせいでなんか色々めんどくさい事になったのも事実だしお詫びって事で。


 「ん、どれやるの?」

 

 そう聞くと小鳥遊はじっとガチャガチャを眺めて一つに指をさす。


 「これね!これがいいわ!ペンギンとかクマとか可愛いし!」


 え〜っとなになに?動物図鑑全50種類!?しかも一回500円!?高すぎない?


 全種類集めるのに一体いくらかかるんですかね。


 財布を見ると残700円、帰りのバス代考えたら無理なんだけど。


 まぁ歩いて帰ればいいか。


 本当は嫌だけど。


 俺は小鳥遊に500円を差し出す。


 「ん、……ちょっと!さっさと離しなさいよ!この馬鹿!」


 ギリギリまで抵抗したが頬をつねられたので仕方なく離す。


 あぁ……俺の大事な500円が……。


 投入口に入ってしまう!……あ〜あ。


 なんの躊躇いもなく小鳥遊はガチャガチャに500円を入れハンドルを回しカプセルを取り出す。


 高校生にもなってガチャガチャやってる時点で子供な気もするが余計な事は言わない。


 カプセルを開けると中からこちらを威嚇している姿の猫が出てきた。


 これも間違いなく余計な事だが誰かさんにそっくりだ。


 猫目なところもパンツの柄的にも。


 良かったね大当たりじゃん。


 思わず口元を抑える。


 小鳥遊はその猫をじっと見つめカプセルに戻すとカプセル回収箱に入れた。


 いや、入れないで。


 どうやらお気に召さなかったみたいだね。


 俺はサッと箱からカプセルを回収する。


 「ちょっと!なんで取るのよ!それはウチのだから勝手に取らないで!」


 「いや、だって捨てたじゃん、勿体無いから貰おうと思って」


 と言うか人の電車賃を軽々しく捨てないで欲しい。


 そもそも小鳥遊の理屈はおかしいよね?


 俺はカプセルから猫を救出してまじまじと見つめた。


 牙を出し爪を立てて今にもシャー!っと鳴き出しそうなクオリティーの高い猫だった。


 「それ全然可愛くない!生意気そうだし!そうやって誰に対しても牙を向けるのは臆病者の証拠よ!」


 あれあれ?自己紹介かな?


 確かになんでこんな可愛くないデザインにしたかは分からないが逆に色々考えさせられる部分はある。


 どうして怒っているのかとか。


 一体誰に対して怒ってるのかとか。


 よく見るとお腹に傷跡見たいのもあるし。


 こう見てみると結構こだわってるのかもね。


 「俺は好きだけどね」


 「はぁ?新庄って本当変わり者よね?馬鹿だし、役立たずだし、ウチにこんなに色々言われてるのにあんま言い返して来ないし……黙って聞いててくれるし……本当……なんなのよ!」


 俯き手を強く握る小鳥遊。


 肩を震わせ溜まっていたものが今にも爆発しそうな様子だった。


 なんでいつも俺の前でよく爆発するんですかね?


 早く鎮火せねば。


 「まぁなんと言いますか……この猫は理由があって怒ってるじゃん?感情を出すってのはそんなに悪い事だと思わないんだよね……自分を押し殺して上手く立ち回るのって凄い事だけどさ……俺からしたらそっちの方が退屈かなって」


 口から出てくるその言葉。


 自分で言ってて嫌になった。


 これじゃ自己否定じゃないか。


 あぁ……またあの感覚。


 溶けた蝋が少しづつ戻っていく嫌な感覚だ。


 嫌な汗が身体中から噴き出でくる。


 動悸が激しい。


 「本当にそう思ってるの?周りの目線を気にしないで自分の意見を言い通そうとするって変わり者のする事じゃない……けど新庄は別に嫌いじゃないのね?」


 「う、うん……むしろ好きだね」


 親指を立てて苦し紛れに笑顔を作る。


 あれ?このガチャガチャの猫の話だよね?


 「気が付いたかも……本当に一番辛いのって誰にも気づいてもらえないってことに、誰からも愛されない事が一番辛いのよね」


 そう言って俺の手に乗った猫を見つめる。


 「あの時敦から貰った猫ねウチのとこに来た時は全然元気なかったの、怪我したのが原因なのかなって思ってたけどきっと違ったのね」


 俺にはなんの話かさっぱりだけど小鳥遊が真剣な表情で話し始めたので黙って聞きますか。


 「なんでだろ……本当に新庄には色々喋っちゃう……その猫なんだけどね、凄く好きだったの……超懐いててくれた……けどこの猫は自分だって……そう思ったら捨てたくなったわ」


 ジッと猫を見つめ悲しげな表情をする。


 つまり小鳥遊は自分の事が嫌いなんだろうね。


 身近な人に似たような考えをしている人がいる。


 けどその子は変わった。


 変われると分かっていれば少しは動けるんじゃないのかな。


 変われなくて分からなくて動けない、そんな人がほとんどだ。


 「分かったわ!新庄!あんた拾った責任取りなさいよね!ウチはもう大丈夫だから!さっさとみんなのとこに戻るわよ!」


 そう言って俺の腕を掴みグイグイと引っ張る。


 いつもの甲高い声に戻ったみたい。


 てかこのパターンすごい嫌な予感が……。


 責任ってなに?


 ガチャガチャの話だよね?

 

 この猫の話だよね?

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