第五十一話
今週はやたら怪我が増えた気がする。
主に脛とかめっちゃ痛い。
ボロボロになって帰宅すると山口が傷の手当てを柚木が復讐……はしないでってなんとか抑えてる。
柚木のたまに出てくるメンヘラが怖い。
今も何やら物騒な物を持って玄関に向かおうとしているところを山口が必死に止めている。
あれは一体何を持っているんだろうね?
「だ、大丈夫?今日もまた随分とボロボロですね」
「あの子ちょっと晶くんに近づき過ぎじゃない?まぁそりゃ晶くんはカッコよくて女子にモテるのは分かるけど」
ん〜柚木の視点で俺がどう映ってるのかわからないけど少なくとも世間では俺の顔はどこにでもいる平凡な顔をしていると思うんだが。
けど今の山口みたいに「えっ?かっこいいかな?」みたいな疑問に思う姿を見るとムカつく。
みんなもそうだよね?
「山口?顔に出てるからね?言わなくても分かってるからね?」
「き、今日はポテサラに明太子入れてみました、後で味見してください」
味見はするけど話の逸らし方下手だね。
あと目が泳いでるから、泳ぎまくってるから。
「はい!は〜い!私も味見した〜い」
手をまっすぐあげる柚木。
本当に手に持ってるそれなんなんですかね?
「そ、それじゃそろそろ料理しますね」
逃げるように中腰の体勢から立ち上がりキッチンへ向かう。
俺は自分の体についた傷跡を見る。
今日もそんなこんなで猫パンツさんに付き合わされた。
見た目はギャルなのに下着は可愛らしいの履いてるんだよね。
最悪言いふらしてやろうかな。
あ、言いふらす相手いなかった。
今日も変な事に巻き込まれたしなぁ〜。
ついさっきの出来事を思い出す。
「新庄ってば本当に役立たずね!毎回私がいいアイディアを出してばかりじゃない!やる気あるの!?ないなら帰って!」
はぁ?やる気なんてある訳ないよね?
こいつ殴ってもいいかな?いいよね?
俺は小鳥遊の背後で握り拳を作るが後ろを向いてきたので咄嗟に引っ込める。
「なに?」
「なんでもないです」
とりあえず口笛吹いて誤魔化しておく。
いつか本気で嫌がりそうな事をしよう。
「あら?誰かと思えば日菜太じゃない」
声のする方へ振り向くとそこには東西南北の北さんがいた。
待ち合わせをしているのか壁に寄りかかりスマホをいじっていたみたい。
「……真奈美、久しぶりね」
先程とは別人が出しているかのようなか弱い声が小鳥遊から聞こえた。
下の名前真奈美って言うのか……てかなんで知ってるの?
二人は見つめ合い小鳥遊は警戒心を北さんはおもちゃを見つけたような表情をしている。
「あなた海外行ってたらしいけどそれで入学式には来ず順位は最下位だとか?ふふっ……相変わらず面白い子ね。バカンスは楽しめたのかしら?行く前に絶対イケメン彼氏捕まえて自慢するなんて言っていたけれど」
イケメン彼氏?
俺はチラッと横目で小鳥遊を見ると今にもハンカチを噛みそうな勢いだった。
「馬鹿にしないで!ウチはもう子供じゃないんだから!オーストラリアには遊びに行ってたんじゃないわよ!……それに?ウチはいつでも彼氏なんて作れるし?そんなに慌てる必要もないかなって……それでまだ作ってないだけ!」
うん、強がってるだけだね。
小鳥遊は胸に手を当てそう言う。
パツパツのワイシャツ越しからでも分かる大きさ。
胸は子供サイズじゃないけど下の方がね?
猫パンツさんはもう子供じゃないみたいです。
あ、昨日蹴られた痛みが……。
どうやら二人は親戚か何かのようだ。
確かに言われてみれば似ている気がする。
ちなみに胸は小鳥遊の方が断然大きい。
……一瞬北さんに睨まれた。
不意に目を逸らす。
「あらそう?昔と変わらない……可愛いままじゃない?まだキャラクターデザインがプリントされた下着とか履いているのでしょ?」
思わずウッと声が漏れる小鳥遊。
俺もつられて口角が少し上がる。
あぶないあぶない……あやうく吹き出すところだった。
「うっさい!私に話しかけないで!この貧乳!……ほら!行くわよ!」
俺の腕を掴みグイグイと引っ張られる。
あ、この犬に引っ張られるような感覚。
なんか昔俺も山口に同じような事した気がする。
あ、小鳥遊だと猫さんかな?
「もういっちゃうの?寂しいわね、いい退屈凌ぎになったわ。また会いましょ」
「五月蝿い!二度と会うか!flat chested!! chopping board!!」
怒りが頂点に達したのか超ネイティブな英語で何か言っていた。
流石に本場のイントネーションは俺でも聴き取れないね。
アイドントノウだ。
北さんは手を振っていたので一応振り返しておいた。
さすが大人の女性余裕がある。
まぁ振ってる手とは逆の手で何やら自分の胸を確かめてる仕草が見える気もするが気のせいでしょ。
どっかの猫パンツさんにも大人の女性と言うものを見習ってほしいね。
「何やってんのよこの馬鹿!」
いてっ。
何故か頭を叩かれた。
「北さんとは知り合いなの?」
俺がそう聞くと小鳥遊は足を止めた。
「遠い親戚みたいなものよ……いとこなんだけどあの人、昔からウチを妹みたいに扱ってきていい迷惑よ!からかって遊んだりいつもいつも!」
俺にはよく分からない話だった。
「そうかな?別にいいんじゃない?」
「よくないわよ!何やってもあいつの方が上手く出来て偉そうにウチに指図してきて……ウチは他人の言うこと聞くのが嫌いなのよ!」
「ふ〜ん、そうなんだ」
俺は頭の後ろで腕を組む。
まぁ確かに何でもかんでも命令されちゃ嫌かもね。
そんなのロボットとかラジコンと一緒だし。
また変な例えしてるって言われそう。
「確かに真奈美は凄い人よ、容姿も運動も勉強も人付き合いも何もかも出来て本当に同い年とは思えない……それなのにウチにやたら構ってきて……あの時だって!……まぁいいわ、さっさと歩きなさいよ!」
おぉ〜怖い怖い。
再び並んで歩き出す。
小鳥遊は遠い目をしていた。
まるで昔を思い出すかのように。
確かに容姿はずば抜けて良いな。
横顔も美人だ。
「ウチだってああなりたかったわよ……すぐ諦めたけど、人間って産まれてきてすぐにステータスが決まってるんだって……そう思い知らされたわ」
いやいや、容姿似てるじゃないですか。
とは無責任に否定出来ない。
悩みは人それぞれだしね。
それに小鳥遊と北さんの過去に何があったかはわからないけど簡単に口出ししていいものとは思えないからね。
あと、面倒ごとに巻き込まれたくないし。
まぁ既に巻き込まれているんですが。
「そっか」
「ええ、そうよ……ちなみに貴方はウチが会ってきた人間の中で一番下よ、もっと努力しなさい」
は?
やっぱこの人殴っていいかな?
本当にムカつくんだけど。
「何よ?なんか文句あるの?本当のこと言ってあげてんだから感謝しなさいよね!どうせあんたみたいな人と話してくれる女子なんていないんでしょ?かわいそー!」
ふ〜ん。
「いや、いるけど」
いるけど山口と柚木だけ。
なんなら男子とはほとんど喋ってことない。
あるのは入学の時に初めて話した次元と本田軍団とアゲハくらいかな?
そう考えると俺って結構ヤバいやつなのかも。
まぁいいか。
「あっそ!まぁウチのクラスの女子なんてろくな子居ないからあんたにお似合いよね!まぁ強いて言うなら柚木って子と山口って子は私と同じくらい可愛かったけど……あのやたら顔がデカい女とかあんたにお似合いじゃない?」
うん……舞浜は置いといてまさにその二人だね。
小鳥遊から見てもあの二人は可愛く見えるのか。
山口は中身も見た目も良いけど柚木は少々問題ありな気もする。
夏休み中にそれがよく分かったし。
「てかあんた名前なんて言うのよ?聞くの忘れてたわ」
お互いの顔を見合わせる。
……。
知らなかったのかい。
 




