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第四十七話


 この僕が恋をしている?


 まさかそんなわけないだろ。


 この西 大智、誓って恋などしていない。


 ただ彼女は僕を立たせてくれたただの杖みたいなものだ。


 そうあの時一度立たせてくれ山口 亜衣。


 人間は杖なんかに恋しない。


 だから僕は決して彼女に恋なんかしていない。


 「でた、西くんのすぐ他人を下に見るの……それほんとにやめた方がいいよー」


 「やめるのはそっちですよ!ポテトで人を指さないで下さい」


 南からは最近よくからかわれるようになった。


 僕が山口 亜衣の事を好きなんじゃないかと。


 そんな事断じてあり得ない!


 「じゃあ西くんさ?山口ちゃんに彼氏居たらどう思う?」


 「居るわけないですよ!僕のデータによると山口さんは基本的に単独で行動することが多いみたいですしね、それに……」


 「でも隣にいつも男子居るよね?名前は確か……新庄くん」


 新庄……その名を聞き僕はむかっとした。


 唯一山口さんと行動を共にしている生徒。


 「彼は山口さんのストーカーですよ」


 「ストーカーなのはどう考えても西くんの方だよね?あたし間違ってるかな?でも最近学校に来てないらしいよ〜体調でも崩したのかな?」


 「さぁ?僕は興味ありませんから、それより僕はもう行きますからね、このあと用事があるんですから」


 「はいはい、頑張ってねストーカーくん」


 僕は彼女を無視して散歩に向かった。


 いつもの散歩コースには学校で三番目に良物件と言われているビルと最底辺のボロアパートが並んでいる。


 特に!理由はありませんが僕はいつもこのコースを散歩しているのです。


 スマホをポケットから取り出し時間を確認する。


 既に6時を回っているのですね、南がおしゃべりだからですよ。


 「キャー!東西南北の西くんよ!こんな所で何してるの?」


 「私対抗戦見てました!前半はちょっとあれだったけど後半の頑張ってる姿はかっこよかったです!」


 そう……僕は対抗戦で浮かれていた。


 僕の取り柄は頭が良いところ、そして顔も悪くない。


 ですが皆さんそんな僕に近寄り難いと言う印象を受けつけてしまったのかなかなか深い仲を築く事は出来ませんでした。


 そんな僕に声をかけてくれたのが南と北姉さん。


 唯一の弱点を忘れ調子に乗ってしまいました。


 僕は運動も苦手であると。


 でも一人じゃない南がいると。


 だから大丈夫なんて考えに至ってしまった。


 あんな冴えない連中に負けることなく僕は周囲からも認められて東西南北のメンバーで居られると。


 でも新庄は結構やるやつだった。


 ただガムシャラに打ち返すのではなく身体を動かしながら頭でもしっかり考えている。


 身体能力的には並の高校生と変わらないでしょうが……。


 僕の視野は狭くなっていた。


 あの二人に勝たなくては……。


 東西南北に相応しいところを見せなくては。


 焦る。


 周囲の目線。


 隣にいる南。


 そして北姉さん。


 あんなパッとしない二人組に僕が負けるはずがない!


 そう本気で思っていた。


 だが僕の運動神経が急激に成長するなんて事は無かった。


 当たり前だ、そんな事起きるのは少年漫画の世界くらいですよ。


 じゃあ何故彼は折れない?


 彼は自分が主人公ではない事を理解してたのに。


 側から見てもそれがよく分かる。


 僕には理解出来なかった。


 見えていなかった。


 彼には何か心の奥に潜めているものがある。


 一体それがなんなのかは分からない。


 僕は絶望した。


 本当に負けてしまう。


 もうここには戻ってこれない。


 悔しいと言う感情すら湧いてこない。


 ただ諦めた。


 だがそんな僕に一筋と光が見えた。


 それが山口 亜衣だ。


 僕と同じで全く運動神経がないただラケットを握って立っているだけの存在。


 そんな彼女は僕に証明してくれた。


 カッコつけなくたっていい。


 ただガムシャラにシャトルを追いかけて汗を流そうが唾を吐き出そうが転びそうになろうがそんなもの知った事ではない。


 下手なら下手なりのプレイをすればいい。


 カッコ悪くたっていいんだと。


 そんな彼女が落ち込んでいた。


 許せなかった。


 原因はおそらくあいつだ。


 新庄……彼は一体何をしたと言うんですか。


 真相を知りたい。


 あわよくば彼女の力になってあげたい。


 そうして僕は今ここにいる。


 気づけば7時を回っていた。


 そろそろ潮時ですかね。


 諦めて帰ろうとするとエントランスホールから彼女の姿が見えた。


 ……だが。


 顔はやつれ目に光を灯していない。


 今度は僕の番って事ですよね。


 恩はしっかり返させてもらいますよ。


 「久しぶりですね、山口 亜衣、こんな夜にどこへ行くのですか?」


 「……あ、あの……どちら様ですか?」


 ……。


 彼女は本気で言ってるのか!?


 忘れててしまったと言うのか!?


 この僕の事を!?


 理解が追いつかない!


 落ち着け!何故、彼女が僕の事を忘れてしまったのか?それは精神が安定せず上手く脳が機能していない為であって人はメンタルがやられると過去の記憶やーー


 よし、頭の整理がつきました。


 「そ、そうですか……対抗戦で勝たせていただいた西 大智と言います」


 「あ、そっか……対抗戦……すっかり忘れてました」


 視線が一切合わない。


 これはまずいかもしれませんね。


 「ん!んん!……そのですね……なんと言いますか……今の貴方はあの時のような自信が感じられなくなっていますね……何かあったのですか?」


 その問いに彼女は俯き何も言わない。


 僕はいつまでも待ちます。


 焦らせるような事はしない。


 全ては時間が解決してくれるのです。


 「わ、私みたいな人間が人様に悩み相談なんて……出来ないですよ」


 ようやく開いた彼女の口からはそんな言葉が。


 「そうですか……」


 そっと目を閉じる。


 僕は役目を果たしますよ。


 救われた人間は救う義務がある。

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