第四話
日も落ち始め学校の鐘も鳴っている。
この季節の日は浅くもう太陽は落ちる寸前。まぁこれから夏にかけて日は伸びていくんだけど。
ちなみに俺も落ちる寸前。俺も伸びていけばいいね。
はぁ……。
重い……。
俺は校舎を背に鉄球が繋がれているような足をなんとか動かしていた。
周りの生徒たちの表情ははっきりとしている。
俺のように順位の低いものは目線を下に、逆に良いものは背筋を伸ばし未来に向かっているように見える。
俺は何度目になるか分からないがスマホの電源を入れ順位とポイントを確認する。
『0』
はぁ……。
やっぱoではなかったみたい。
落胆しさっきよりも重くなった足をなんとか引っ張る。
まるで奴隷が鉄球を付けられているかの様な足取りだ。
それにやたら目立ってしまった……。
おまけに学年順位は下から2番目、これはまぁ最下位じゃなくて助かった。
最下位からの成り上がり展開とかも望んでないし。
実際に俺の教室の主人公ポジションは空いてたしね。
入学初日から休むなんて流石主人公さま。今後どんな展開になっていくのやら。
一通りの説明が終わった後は交流も含めてなのか自由な時間になった。
大半は何処中にいた〜とか情報交換とか連絡交換だとかゲームだのメイクだの。
テイッターでも色々呟かれていた。
テイッターとは随分前から流行ってるアプリで身近な出来事を他人と共有したり有名人が今何をしているのかとか手軽に宣伝や広告なんかも出来る優れものだ。
まぁ俺は興味ないけど既にインストールされてたのでなんとなく見てる。
『この学校まじ神〜!』
『皆さんで情報を共有しましょう』
『彼氏募集中〜胸に自信あり〜』
『イケメンでチョウヤバい〜!!めっちゃ付き合いたいんだけど〜』
『美女発見!金髪で気も強そう!』
『ああああ!!!!』
うん、こういった層がテイッターを使いがちだよね。
頭のいい人ほど自分からは情報を落とさず周りの情報を拾い集める。
うんうん。ところで俺も彼女募集の呟きしておくべきかな?
出来れば脱いだらすんごい人がいいんだけど。
っとそろそろ寮が見えて来るはずだが。
俺はBANKとresultのタスクを勢いよく下へスワイプしMAPを開く。
すると自分の現在地とこの学校の敷地内情報が表示された。
あれ?このMAP……まぁいっか。
俺は指示された寮に向かいちょうど現在地と目的の表示が重なった。
「おおっ!これが……俺の新しい家!」
そこには見上げるほど大きな高層マンションがそびえ立っていた。
40階建くらいだろうか、こんなところから毎日学校に通えるなんて……。
今日あった悪い事は全て忘れよう。
大丈夫……ここから少しずつ上がっていけばいい。
そう思い俺はエントランスルームに入った。
ーーーー
「君の寮はここじゃないよ」
ええ〜。
管理人は俺が手渡した学生証を見てそう告げる。
「そ、それじゃ一体どこなんですか?」
「隣に小さな小屋があっただろう?そっちだね」
小さな……小屋?それって二回小さいって言ってない?
管理人に指示された場所に行くと。
「なにこれ?」
俺は落胆した。
冗談ですよね?
そんな展開望んでないって。
そこには俺の家よりボロいアパートが建っていた。
こんな働くアホウ様が住んでるボロアパートに住むとか。
デュラハン号に乗ってバイトすればいいのかな?
確かに支給品の中にあった鍵は差し込み式だったから昔の家なのかなとは思ったけど。
今は大体カードキーだからね〜。
「それじゃ私はこれで、鍵は持ってるよね?紛失したら自分で探すか紛失届出さないといけなくなるから気をつけるように、あと床も抜けやすくなってるから雨の日とか要注意ねそれから管理人がそのうち挨拶に来ると思うから」
「ども」
俺は覇気のない声で返事をして管理人が去ったタイミングで深くため息を吐く。
そりゃため息の一つも吐きたくなるよ。
これって俺の成績が低いからこんなボロ屋って訳なのかな?
それなら上がるにつれて隣の高層ビルにいずれかは住めるって訳だよね?
うんうん、これから良くなっていけばいいよ。
それじゃお邪魔しますよっと。
中は想像以上に酷く蜘蛛の巣や埃まみれ、それに何よりも暗かった。
隙間風も酷く床も底抜け寸前、もはや限界まできている。
なんで実家より狭い場所で暮らす事になってんの?
部屋の隅には俺が家から持ってきたボストンバッグと小さな段ボール箱が置いてあった。
バッグの中から着替えとタオル……それに母親からもらった大事な三万を取り出す。
現金は抜かれてないみたいだ。
けど持ってきたスマホとかは確かに取られている。
って見栄を張ったけどスマホ以外特に貴重品もなかったしあんま抜かれてないんだけどね。
お、わたの抜けた座布団と飴玉もある。
それらを所定の位置に置き今度は段ボールのガムテープを外す。
中には石鹸が一つシャンプーのボトル(空)と詰め替え用のシャンプーに使い捨ての歯ブラシ1リットルの水が一本。
ちなみに電気は付かないしガスや水道はもちろん風呂さえ存在しない。
トイレは酷い匂いで青カビだらけだ。
こんなんで一ヶ月過ごすとか無茶言うな。
あぁ……でも家も元はこれくらい暗い部屋だったんだろうな。
俺はちょっとだけセンチな気分になった。
無駄に飾り付けしたり……いい歳してやめなよって言ってた自分を叱りたい。
色々工夫して頑張ってたんだなぁ〜。やっぱお母さんは偉大だね。
ポケットからスマホを取り出す。
テイッターでも見るか〜。
雑魚寝するスペースだけ埃を払い取る。
汚いけど……まぁいっか。
そしてポケットに入れてたスマホを取り出しアプリを開く。
『家の中めっちゃ綺麗!これ全部自由に使っていいのかよ!?』
『割と普通〜てか支給品少なくない?私これよりいいシャンプーじゃないと髪洗えないんですけど〜』
『今日は焼肉だぁ〜!女の子ともいっぱい連絡先交換出来たし!入学初日から最高だな!』
『早速イケメンの彼氏ゲットー、同棲も始めました〜』
すぐに電源を落とす。
俺は何も見てない事にした。
なんだろう……確かにモブキャラを求めてるけど決して慎ましく生きたい訳じゃないしこんな貧相な暮らしは求めてない。
もしかして俺くらいなのかな?
いや、きっと同じくらい貧しい暮らしを要求されている人達もいるよね。
そもそもこのボロアパートにも他の人達が住んでるわけだし。
「……とりあえず寝よ」
俺は全てを忘れて寝ることにした。




