第四十五話
夏休みが明けた。
相変わらずうちの教室は賑わっている。
蝉のジリジリと鳴く声と教室のざわつきが呼応し共鳴する。
つまりはうるさいってことだね。
ワイシャツは既に汗でびっちゃり、もちろん中のシャツも。
気温は年々増す一方だしねー花粉と気温は特に酷い。
幸い直射日光は窓際じゃないので浴びずに済んでいるけど何やらエアコンの調子が悪いらしい。
そのせいでこんな最新鋭の校内でまさかの汗まみれになる羽目になってしまった。
山口も暑そうに胸元のボタンをいつもより一つ多めに外している。
よかったね大して隠すものもなくて。
あれ?こんなに暑いのに何やら寒気が……。
気のせいだよね?
俺の意識はいつものモブ二人の同胞へと向く。
「夏休みあっという間に終わっちまったな〜結局彼女も出来なかったし……高校1年目の夏は青春っぽい青春出来なかった……」
「お前もか……俺も全然駄目だった、イケメンだけだべ?彼女と楽しい夏休みを過ごせたのは」
その二人はお互いの顔を見合わせて深くため息を吐いた。
なんかまた仲良くなってるね〜夏休み中も二人で遊んでたのかな?
「一カ月近くもあってこんなにも女子が居るのに何もなかったって考えると流石に落ち込むべ?そうゆう恋愛フラグの一つが立ってもおかしくないでしょーこの学園」
「だよなーけど女子に声をかける勇気もないし何より接点がなぁ〜クラス内なら話題も作りやすいけどうちのクラスは……なぁ?」
俺もなんとなくクラスを見渡し女子達を見る。
口から唾が出るほど大声で喋る女子や机の上に胡座で座ってる女子も居る。
そしてその中でも圧倒的存在感を放つジャイ子……じゃない舞浜。
ポテチを鷲掴みにしてそれを口に放り込みそのままゲラゲラと笑う。
(((うん、ないな)))
「夏と言えば〜プールに浴衣に花火でしょー手なんか繋いじゃったりしてさー」
「だよなーそんでさあわよくば柚木ちゃんみたいな小顔で可愛い子とチューしちゃったり……でへへ」
分かりやすいほど見なかった事にしてるね。
目を逸らしたくなる気持ちは分かるけど。
二人とも口元を緩ませて何やら如何わしい事を想像しているみたい。
柚木ねぇ〜。
分かってないなぁ〜何事もなく平和なのが一番だって事に気がついてないね。
頬杖をつく。
俺はこの夏休み期間、山口と柚木に囲まれ大変な目にあった。
色々あって柚木と山口がデュエルすることになり色々あって柚木が山口の家に住むことになって。
寝床のスペースやら連絡先やらでめっちゃ疲れた。
本当に退屈しない夏休みにはなったがそれもこれも全部遠藤先生のせいだ。
しかしまさか女子二人と暮らすことになるとは……。
今更だが俺ラブコメハーレムの主人公みたいな展開になってない?
そんなのは絶対嫌だね。
夏休みも最後の最後まで気が抜けなかったし……。
なんで新学期早々既にこんな疲れているんだろ?
俺は机にうつむせて寝たふりをしていた。
教室が静かになったのでなんとなく先生が来たことには気づいていたけど今は疲れているので頭を上げる気にもならない。
山口がおそらくツンツンと脇腹を突いてきてるけど無視した。
「おはようございます!皆さん夏休みは楽しく過ごせましたかな?私も仕事の割合が減った分筋トレ出来て有意義に過ごせたと言えますね!」
山本の声がする。
きっといつも通りみんなに力瘤を作ってみせているんだろうね。
「舞浜さん、お菓子は後で食べてくださいね、それよりどうですか!?この上腕二頭筋は!?美しいでしょう!?好きなだけ見てて構いませんからね!」
興味ないから見ないけど。
クラスからも微妙な空気が流れているのが伝わる。
「え〜皆さんもずっと気になっていたと思いますがずっと空席だった小鳥遊 日菜太さんが海外から戻ってきまして今日からクラスの一員となります、時差ボケとか日本語も久しぶりなのであまり無理をさせないようにしてください」
おぉ、ついにあの空席の生徒の正体が分かるのか。
俺が入学してからちょくちょく気にはなっていたあの後方窓際の所謂主人公ポジション。
まさか二学期になるまで一回も来ないとは思わなかったけどようやくどんな人か見れる。
ちょっとだけ楽しみだね。
俺は思わず首を上げた。
あ、やっぱ袖捲ってた。
山本はパツパツの白いワイシャツを肩まで上げきっていた。
一通り話し終えると教室の扉が開きブロンドヘアーの女の子が教室に入って来た。
うわぁ……。
なんてついてないのだろう。
彼女を一目見たその瞬間に思った。
関わりたくないと。
「おいおいマジかよ……」
「ついに俺のメインヒロインが来ちまったぜ」
男子は思わず固唾を飲み女子からは妬みの視線が感じられた。
あわよくば地味目の女の子でこのクラスの女子達に馴染めず俺が手を差し伸べ付き合っちゃおう作戦が早速終わりを迎えてしまった。
「はじめまして、小鳥遊 日菜太です……よろしくお願いします」
思ったより流暢に日本語を話してるね。
海外の人特有の訛りみたいな特徴ある喋り方なんだろうと思っちゃった。
ツインテールの髪を靡かせ目はやや吊り目の猫っぽくツンとした鼻に細長い眉毛はやや西洋寄りの印象が見受けられた。
うわぁ……。
あんなんどう考えても大谷レベルの主要キャラだよね?絶対関わりたくない。
短いスカートから真っ白な太ももが露わになり男子生徒は目が釘付けだった。
最近の子はメッシュ入れるんだなぁ〜。
明るめの髪の毛の中に一部白のメッシュが入ってる。
制服も自己流に着崩してて自分の持てる全てを武器にしてるって感じだね。
まさに都会女子のメインヒロインで間違いないね。
まぁ席も窓際だし関わることないでしょう。
そんじゃ寝るとしますか。
夏休みのせいで体内時計も崩れてるし。
「それじゃ隣よろしく」
そう言って何故か小鳥遊は俺の隣の席に座った。
あれ?俺の両隣にこんな明るいオーラを纏った人は居ないはず……。
隣の席にはいつもくらいオーラを纏った地味男くんと料理、家事、洗濯が出来る最近暗いオーラが無くなってきた山口のはず……。
本来隣である地味男くんは小鳥遊の椅子をこちらにもってきて自分の椅子は窓際に移動させていた。
ちなみに机はIDを入力するとその人専用のオプションへと変わる。
今はそんな事どうでもよくて。
「え?なんで?」
「は?なんでって?私背が低いから田中くん?の後ろだと何も見えないのよ、だからここに移ったの……話くらい聞いときなさいよ」
わざわざ説明させるなと言った視線を向けてくる。
あ、この人完全に俺の嫌いなタイプだわ。
将来は遠藤先生みたいに口うるさく説教する姿が目に映る。
そっぽを向いて綺麗なブロンドツインテールを靡かせる。
てか、柔道部の田中同じクラスだったのかよ、割と彼ダークホースだと思ってたのに。
てか田中の後ろだと殆どの人が何も見えないんじゃ……。
「よろしく田中くん、流石に僕でも視界は悪くなっちゃうね」
「すまんな、俺柔道のやりすぎで身体がデカくなっちまって、出来る限り猫背になるから見えない時は言ってくれよな」
普通はああやって友達を作るのか。
今度俺もやってみようかな?
「ちょっとあんた教科書見せなさいよ、私貰ってないんだけど?」
俺に顔を近づけまじまじと見てくる。
友達作りね〜。
こっちは無理そうだ、と言うか絶対お断り。
こんなキャラ濃くて可愛い子は確実に今後面倒ごとに巻き込まれて変なルートに連れてかれるのが目に見えて分かる。
第一印象を悪くして今後関わらないようにしよう。
そうすれば俺のモブキャラ生活も安泰だね。
「そこのボタン押せばタブレット出てくるからそこに入ってるよ、あと俺授業に集中したいから話しかけないでね」
視線を合わせる事なくそう言う。
「はぁ!?何それ!?こっちからお断りよ!この根暗インキャ!」
声でか、山口とか怯えてるじゃん。
耳を塞ぐ仕草を見せて小鳥遊の声がでかいことを遠回しに伝える。
俺は山口にアイコンタクトを送る。
[あいつ声デカすぎ]
[失礼ですよ、それよりみんなが晶くんのこと見てます]
[え?まじで?]
俺は周りを見渡すとクラスの人達はヒソヒソと俺の方を見ながら話していた。
柚木はこっちを見て手を振っている。
「あんたのせいで変に目立っちゃったじゃない!」
いやどう考えてもあんたのせいだ。
あ、なんか入学式の時を思い出した。




