第四十一話
私は昼食を一人で食べる事になりました。
別に今までだってそうだったし今更何も思う事はない。
けど……今さら気が付かされてしまった。
あの空間は思ったより居心地が良くてあったかくて。
私って一人じゃないんだって……。
でも別に今日の一日お昼を一緒に食べなかっただけなんだから。
思うことは……ない。
ん〜。
もう!新庄くんのせいでお弁当無駄になったじゃないですか!
飯盒炊爨の件もあって落ち込んでるかなぁ〜って思って大好きな唐揚げ入れたのに!
いいもん!
帰り道はしばらく無視してちょっと焦る様子でも見ちゃおう。
私はニヤニヤしながら意地悪な計画を立てた。
飯盒炊爨の時に班のみんな的には私は特に関与してない事になってるけど。
一応私がスパイス入れたり隠し味を入れたり。
あの手この手で火加減を調整したり。
一応陰で頑張ってました。
誰も気がついてなかったけど。
……いや新庄くんだけは気づいてくれてた。
帰ってきた時少しいじられましたけど。
背景に溶け込んでていいねって。
あれなんなんですか!
確かに私は影薄いですけど!
普通は女の子にそんな事言いませんよね!
「おい!新庄!お前今日のゴミ出しやっとけよ」
「ゴミにゴミ出しやらせるとか美代頭良くな〜い?」
下品な笑いをする女子たち。
最低です。
文句の一つでも言ってやりたいですけど。
新庄くんは無視してスマホをいじっている。
会話が成立しないと分かれば構うこともなくなるだろう。
割とドライなんですよね。
私はそれを知ってる。
なんか彼を知ってる特別な関係……なんてね!
嫌だなぁ私のバカ!
口元が緩んでしまう。
でもなんかちょっと優越感に浸ってるかも。
いつもよりテンションの高い私は俯きつつニヤニヤしていた。
「ちっ!なんだよこいつ、感情なさすぎ……そういえば隣の女子とこいつ仲良かったような」
私の肩が反射的にビクッと動く。
え?なに?
彼女の目線が私の瞳に合った。
私より大きい身体。
鋭い目つき。
眉間によっている皺。
その全てが。
……怖い。
関わりたくない。
他人のフリをしたい。
いじめられる。
手が震える。
動悸も激しい。
……けど。
……だけど。
違う。
額からゆっくりと汗が頬を伝う。
私は無関係じゃない。
いつも新庄くんは私を助けてくれる。
本人にそのつもりはなくても、私は救われてる。
確かにいつもご飯作れって言ってきたり。
洗濯物をポンポン投げ捨てたりしますけど。
飯盒炊爨の時だって一人でウジウジ悩んでいた私に構ってくれた。
対抗戦の時だって行けって背中を押してくれた。
そんな面倒くさい女の為に時間を割いてくれる。
彼女から視線を離さなかった。
新庄くんと一緒なら怖くない!
「別に友達じゃない……ゴミ出しやっとくからこの間の件は許してください」
……え?
友達じゃない?
私は新庄くんの顔をぱっと見る。
表情はいつも通り眠そうにしていた。
分かってる。
本心じゃ無い事は。
けど。
それでも私の心は。
キリキリと嫌な音を立てて。
ガラスが割れる。
砕け散ったガラスが砂時計のようにサラサラと流れ落ちていく。
私の中で流れていた時間が止まる。
「嫌に決まってんだろ!一生コキ使うかんな!」
「え〜」
「よかったね!一生マイマイの奴隷だってさ!……てかこいつよく見ると悪く無い顔してんな」
二人が新庄くんの顔をジロジロと見る。
「こいつ……いっそ食っちまうか」
「いや、それだけは本当に勘弁してくださいなんでもしますから」
「おい!なんで嫌そうなんだよ!」
「良かったね〜マイマイのテク知ったらもう普通のには戻れないよ」
その声はもう私の耳元に届いてはいない。
そのまま新庄くんはゴミ袋を抱えて教室を出て行く。
……嘘。
なんで?
どうして?
こんなにも心が痛いの?
私は強く脈打つ心臓を抑えるように背中を丸める。
目頭が熱く焼けるようだった。
 




