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第二話


 「え〜まもなく〜新教育型高校前〜新教育型高校前です、お降りの際はお忘れ物のないようーーーー」


 なんて適当な高校名だろうか……多分居酒屋で酔っ払い達が決めた名前に違いない。


 ま、そんなたいそうな名前に恥じない名門校なんだけどね。


 俺は着替えや入学手続き書の入った大きめのボストンバックを下ろす。


 それらが念の為もう一度中に入っているか確認する。


 「とりあえず大事な物は入ってるな」


 全て確認し終えると席を立つ。


 そろそろ着く頃かな?


 ドアの前に立ち周りを見渡す。


 同じような制服姿がちらほらと見える。


 ややこわばった表情をしたものやスマホの内カメで前髪を整えている者もいる。


 みんな高そうな物使ってるな〜。


 キラキラした腕時計に金ピカのネックレスとかそう言った俺には価値もわからない装飾品が目に入る。


 あれいくらくらいするんだろ?


 自分のと見比べ思わずため息が出る。


 バックを肩に掛け直した。


 見た身は大きいが中はスカスカだ。


 おまけに見た目もボロ。


 まぁ贅沢言ってらんないしそんな都合のいいサイズは家になかったのだから。


 しゃあないね。


 改札を抜けそこに広がる大きな正門。


 電車内とは違う心地よい空気が鼻腔を通りぬける。


 都内なのにずっと奥にそびえ立つ校舎が見えその大きさがうかがえる。


 埼玉の田舎暮らしをしていた俺にはその圧倒的な存在感に恐怖すら感じさせた。


 ふむ……。


 ここはあまりキョロキョロしてはいけない……田舎者だと思われないようにしなきゃね。


 その昔埼玉県民を馬鹿にした映画があったらしくかなり高評価だっらしい。


 それくらい埼玉とは田舎なのだ。


 翔べ埼玉だったかな?ちがうか。


 そんなロボットアニメの曲もあったような……。


 けど埼玉にもいいところいっぱいあるし?


 有名なものといえば鉛筆の芯ちゃんとか……。


 まぁそんなもんか。


 関東は東京以外田舎って言われるくらい本当に中央から離れると畑や家畜場で埋め尽くされてる。


 他の大県より格差が酷いんだよね〜。


 北海道なんかは隅っこ以外はそこまで差はないらしい。


 ただ北海道は広いからね〜。


 それにやや独立してる感もあって新しく住居を作るのは難しいらしい。


 そのうち国内で揉め事の一つや二つ起きてもおかしくないよなぁ〜。


 [東京新教育型高校]


 太く黒い文字で大きく書かれた標識なのか看板なのかよくわからない正門を俺はくぐり抜けた。


 中は手入れが施された庭園に大きな噴水、とても日本とは思えない。


 どんだけ上まで吹き上げるんだ!この噴水!って突っ込みたくなるね。


 視線を噴水から離し再び正門方面へ歩き出す。


 それに……周りの生徒は殆どがオシャレな髪型やキラキラしたアクセサリーで着飾っている。


 ちゃんと言語通じるよね?訛りとかあったらどうしよう。


 ヤッハローとかにゃんパスは通用するのかな?


 そんな俺の一抹な不安なんて気にもしなさそうな人達が同じ方向に進んでいく。


 明らかに俺だけ場違いなんだけど。


 まぁ大丈夫だろう。


 欠伸をしながら校舎へと向かった。


 ーーーー


 入学手続きを済ませ荷物を預ける。


 かなり念入りに色々調べられた。


 スキャン通ったり、指紋認証して本人確認したり。


 ワクチン的なものも打たされた。


 あんま弄って欲しくないんだけど。


 普通の学校じゃありえないような念入りに念入りを重ねた入学手続きだね。


 スムーズに進んでいた人混みが一旦俺で止まった。


 ……まさかバレたのか?


 黒服の男達が近づいてくる。


 くっ……こいつを奴らに渡すわけにはいかない。


 俺が今日唯一持ってきた大切な物だ。


 俺はポケットに手を入れそれを隠すように握った。


 「きみ……」


 やはり狙いはこれか……バレたのなら仕方ない。


 全員生きて返すわけにはいかないな。


 「ポケットに飴玉入ってるだろ?この先は飲食禁止、もちろんガムやキャンディーなんかもだ、中に何が入ってるか分からないからね」


 「すんません」


 俺は大人しくそれを渡して先に進む。


 ちょっと進むと後ろの人も何やら引っ掛かってた。


 「ちょっときみもポケットに飴玉入ってるだろ?最近の若い子は好きなのかな?……しかもこんなに」


 まぁいいや。


 まずは体育館へと案内された。


 何やらそこでこの学校説明やらなんやらをするらしい。


 校内にはエレベーターやエスカレーター(横移動式)なんかもある。


 大丈夫かな?そのうち足の筋肉衰えて人は歩く事をやめちゃうんじゃ……。


 そして自動車椅子で移動する未来に。


 ま、そんな事にはならないけど。


 これなら広い校舎でも移動には苦労せずに済みそうだ。


 東京ドーム並みに大きい体育館に入り指定の場所に着く。


 体育館内にテニスコートやサッカーゴールなんかもある。


 多分雨の日や風の強い日でも部活出来るようにしてあるのかな?


 それに各部屋の入り口前にはグリーンネットが掛けられてる。


 見た感じだとボールが別の部屋に行かないようにしてあるっぽい。


 人一人くらいなら登れそう。


 それにしても本当に広いね。


 よく東京ドーム何個分とか言うけどわかりづらいよね。


 田舎の人とか東京ドーム見た事ないだろうし。


 まぁ俺も見た事ないんだけどね。


 ずらっと並ぶ椅子は一番奥まで見えないくらい続いてる。


 一体どこまであるんだろう。


 ソファーのような椅子には新庄 晶と印字されていた。


 俺はそこに腰をかける。


 「お、おおっ……!」


 思わず声が出るくらいまじでフカフカだった。


 身体にフィットしてる。


 とても学生の扱いとは思えない。


 うちにあるワタの抜けた座布団を見てほしい。


 あれ一応家から持ってきたけど。


 これを味わってしまったらもう戻れない気がする。


 はぁ〜……気持ちぃ〜。


 久しぶりの電車移動に加え人混みやらで疲れたせいかすぐに眠くなった。


 まぶたが重くなり肩の力も抜ける。


 このまま寝ちゃお……。


 意識が少しずつ遠のいていく。


 んっ……。


 涎を垂らす一歩手前で照明が暗くなり教壇にスポットが当てられた。


 俺は涎を吸い込み周りにバレてないか確認する。


 昔の風習なのかソファーの間には感染対策がされている。


 とりあえずバレてなさそうだね。


 俺は口元の涎を服の袖でゴシゴシ拭いた。


 「それでは入学式を始めたいと思います、皆さん心して聞くように……ではまず校長先生の挨拶から」


 とスーツ姿の男性が。


 入れ替わり、いかにも校長らしい人が教壇に登った。


 コ○ドギアスのシ○ルルみたいな人だ。


 白髪にオシャレな髭を添えている。


 「……え〜まずは皆さん、ご入学おめでとうございます」


 いきなり人は平等ではとかいうと思ったけどそうではなかった。


 「ここでの話は一時間ほど余裕がありますのでたっぷりと一時間話したいと思います」


 体育館内に笑いが起こる。


 「まぁそれは冗談として」


 校長ジョークらしい。


 「皆さんは特別な面接を受けて合格を得た優秀な方たちです、合格した理由はそれぞれ違うと思います、勉強やスポーツができる人だったりコミュニケーションに長けていたり運が良かったり……特別な力があったりと」


 硬い声がマイク越しに伝わってくる。


 つまりは人間はみな違っているということですね。


 「そんな皆さんが最高で最悪の三年間を過ごせる事を祈っております……私からは以上です、頑張ってください」


 つまりはオ○ルハイルブリタニアって事ですね。


 ん?今最悪って言ったか?


 拍手が校内に響く。


 まるで大きな雨音のようだ。


 「校長先生ありがとうございました、それでは次に教育指導担当の柳田先生にこの学校のルールを説明してもらいたいと思います、柳田先生お願いします」


 学校のルール……おそらく表面的な話ばかりで確信的なことは教えてくれないだろう。


 長くなりそうな予感するね。


 こう言ったのは二種類のタイプに分かれる。


 聞くか聞かないか。


 ちなみに俺は聞かない派だね。


 教育指導の柳田が教壇に立つ。


 人影がスポットライトに当てられる。


 わぉ!まさかのセンター分けメガネとか珍し〜。


 アニメだったら絶対悪役だ。


 「ご紹介預かりました柳田です」


 その硬く芯のある声に驚いた。


 周りからも先ほどまでの空気とは違い緊張が伝わってくる。


 「まず初めに伝えたい事は生徒はどんな事があってもこの敷地内から出る事が許されません、つまりは家族に合うことや遊びに行く事なんかも出来ません」


 周囲がざわついた。


 ざわ……ざわ……。


 その時生徒達に電撃走る……!


 ってのはいいから。


 俺も少し状況が理解出来ていないがそんなには重く受け止めていない。

  

 前髪の毛先に触れる。


 特に敷地内から出る理由もないし家族に特別会いたいとも思わない。


 ただ他の生徒は違うだろう。


 16年近く一緒にいた家族と三年間一度も会うことが出来なくなるのだから。


 普通に考えたら嫌だろうね。


 「まぁスマホとかでリアルに近い感じで会うこともできるんだし別にいいんじゃね?」


 「確かにね〜VRシステムを使ってその場にいるような感じで話せるし」


 「そんなに重く考えなくても大丈夫だべ」


 そんな不安を紛らせるような会話がちらほら聞こえてきた。


 ちなみに俺の格安スマホにもギリギリそのシステムはついてる。


 昔は一台100万近くもしたらしいがそんなシステムに100万とか馬鹿馬鹿しい。   


 ただそろそろこのスマホも型落ちしそうなんだよね。


 この間サービス終了のお知らせメール来てたし……やばいかも。


 「ちなみに預かった荷物が帰ってくるのは君たちが卒業する時だ、生活必需品やスマホなどはこちらで支給された物を使ってもらう、もちろんこの敷地内にはショッピングモールやスーパー、コンビニなど存在する、そこから気に入ったのを自分で購入してもらっても構わない」


 ありゃま。


 「それって連絡先は無くなってるって事だよな?」


 「うっそ〜マー君に連絡できないじゃん!」


 「結局のところ教育ってのは自由を奪うところが根本だからな、制限かけるのは当たり前なんだよ」


 周りの人達は思惑が外れ再びざわつく。


 スマホが支給されるのか。


 それに学校内にコンビニもあるのか。


 凄い時代だよね。


 まさかビール一本5000ペリカとか言わないよね?


 あ、もちろん未成年だから飲まないけどね。


 「お金についてたがこちらは毎月学校から支給される、ただし現金ではなくポイントだ」


 どうやらペリカではないらしい。


 まぁ現金は現金で色々問題ありそうだし……。


 よくあるアニメの設定だ。


 あれってやっぱコンプライアンス的にまずいんかな?


 「支払いされる金額は生徒によって違う、成績が良いのはもちろん、生活態度や学力向上の意思がこちらに伝わればそれだけでも上がる、……まぁ少しアドバイスするとすれば勉強やスポーツが最も多く上乗せされると考えて良い、そこを重点的に極めるのも悪くない……が逆に成績の悪い者には減俸のペナルティーがある」


 ペナルティー?


 予想通り成績の良し悪しで額が変わるみたいだけど……。


 まさか地下送りとかじゃないよね?


 「つまりはプラス意識だけでなくマイナスを回避する事も意識するようにと言う事だ」


 なるほど分からん。


 分からんが……まぁ大丈夫でしょう。


 俺は頭の後ろで腕を組んだ。


 特に上を目指したいとも思ってないし。


 そこそこの順位をキープ出来ればそれでおっけーだ。


 「最後に順位の変動に関わる事だが中間や期末に体育祭や文化祭、来賓者しか来れないがそれらの行事も査定の内に入る、もちろん国のお偉いさん方も来る、ちなみにこの後それぞれクラスに行き現状の順位発表を行われる、査定内容は詳しく言えないが大まかに言うと面接やここに来るまでの態度なんかで決まっている」


 なるほど、どうりであの時電車内で視線を集めていたわけだ。


 つまりは決して俺が変人として見られていたわけではなく、あくまで査定していた面接官の視線を集めていたのであって電車内で意味もなく唐突に腕を上げた痛い奴として見られたわけではない。


 自分で言ってて苦しい。

  

 普通に考えていきなり我が生涯にいっぺんの悔いなしみたいなポーズ取り始めたら誰だって見るよね。


 俺だったら明らかにヤバいやつだって思うし。


 「以上だが最後に付け加えるが自分と他の順位の交換もあるとだけ言っておこう、つまりは誰にでも一番になれるチャンスがあると言う分けだ、まぁ、それなりのリスクもあるかも知れないがな」


 センター分けメガネはそう言ってニヤリと笑うと教壇を降りて行った。


 何そのアニメみたいな設定。


 普通にいらないんですけど……。


 まだ状況を飲み込めていない生徒が大半の中、俺は何故か冷静でいた。


 「はぁ……」


 と言うか俺はこんな状況を待ち望んでない。


 俺はただのモブAだ。


 中の下くらいで特に目立つ事もなく、けどちょっと美味しい思いの出来るポジションくらいで十分なのだ。


 これで俺がホワイトルーム出身とかだったら危なかった。


 実力主義になってしまうところだったね。


 とりあえず……。


 なんとかやり過ごすしかないか……。


 ほどほどにお金を集め、ほどほどに青春を送る。


 そんな学園生活を送ってやる!


 おー!ってやったらまた目立っちゃうから心の中でやっといた。

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