#07 とんでもない勘違いの始まり
読んでいて引っ掛かる部分を修正しました。11/25(19時)
望と空が五重の塔で和解し、仮ではあるがカップルと成ってから三日程が経っていた。
あれだけの騒ぎを起こして勿論無事で終わるはずもなく、当日狐乃街稲荷山神社を訪れていた御客さん達が神社の係員の制止を掻い潜り写真や動画を撮っていたもの達がおり、その映像と画像は何とか処理する事は出来たのだがクチコミやニュースで全国へと拡散されてしまう結果となり。
その情報は狐達を影で忌々しく目の敵としている者達を刺激してしまう事となる。
そんな者達が暮らしている場所はとある田舎の山であり、指で数えれる程の木製の家が寄り集まって建てられいている小さな村があった。村の周囲には田畑が広がり、コンクリートではなくスコップと牛車によって平らに整備された土道のその横には綺麗な透き通った川が流れており。
まるで昔の日本にタイムスリップしたかのような錯覚を味会わせられるその地域は、周囲の人達からは狂暴な狸達が住む場所と言う事から【カチカチ山】と呼ばれていた。
そんな未だに電気やガスが使われておらず、自給自足を行うそんな辺境の地に二匹の狸が地を駆けていた。
その姿は最初は一般的な狸の姿であったのだが、村で一番大きな神社の様な屋敷を前にして二匹の狸は立ち止まり、一鳴きして宙返りをしつつ体を人の姿に徐々に変化させ、宙返りから着地する頃には凛々しさと鍛えられた体つきをしたショートヘアーの凛々しい青年となっており。
彼の隣で同じように見事な変化を遂げた黒髪の腰まであるポニーテールとややつり目でありながら少女らしい可愛さが滲み出ており、お尻からは変化仕切れなかった長いフランスパン程の尻尾を持ち合わせた美少女が青年と同じように方膝をついて体に家で着るような浴衣姿で二人とも平伏していた。
「村長様! 村長様おいでください!! 予定の時刻通り、我ら絹山兄弟参上つかまつりました!!」
その勇ましい青年の声は村中に響き渡り、その声に答えるかの様に勢いよく屋敷の正面玄関である引き分け式の二枚扉が自動ドアの様に左右に開かれていき。中から背中がくの字に曲がり杖をつきながら、人間であれば90代程の風貌をした老人が歩いて出てきた。
彼の顔はシワにまみれで、頬の筋肉が緩んでいるのか少し垂れており。目の回りにはまるで窪んでいるかのような濃いくまが出来ているがその奥からは強い力を感じる眼力があった。
「よくぞ来てくれた気高き狸族の戦士達よ……。今回の出来事で危機感を抱き、この村にいる20匹の若者の内でここまで来てくれたのは勇敢な真の勇者である君達だけじゃ。わしは二人を誇りに思う、健に要よ」
「「我等には勿体無き御言葉です、村長様!!」」
そう言って平伏し続けながら礼を返す二人に満足そうに村長は頷いてから二人に近付いて数枚の葉っぱを手渡していく。
「受け取りなさい、今から腐り果てた外界に行く二人には必要になる物じゃ」
「これは何でしょうか村長様?」
「この葉っぱは二人が体を人間の姿に変化させた様に念じれば好きな物に姿を変える事が出来る、我等狸族に代々伝わる変化の葉じゃよ。これをそれぞれ好きなだけ持っていって良いから、狐達との戦いや旅に役立てるのじゃよ?」
「そっ、そんな貴重な物を譲って頂き本当に良いのですか村長様!?」
「ああ、勿論じゃ!! この日の為にと厳選に厳選を重ねて選び抜いた変化の葉……、必ず二人の旅路を支える者となろうぞ」
その言葉を聴いた二人の兄弟は驚きの余り、目配せをした後に目を輝かせてその葉っぱを受け取り、早速試してみる事にする。
「「変化!!」」
二人がもつ複数の葉っぱに念じると、ポ~ンと間の抜けた効果音と寒い場所で煮えた鍋の蓋を取った時の様な白い煙が二人を覆い。煙が晴れた次の瞬間には二人の身に付けている物に変化が生じていた。
青年の彼には新撰組を連想させる様な袴姿に袖口がギザギザ模様が描かれたダンダラ羽織を着ており、背中にもきっちりと誠の字が青色の羽織に白い字で刻まれている。
そして、もう一人彼の妹はと言うと兄と同じ様にダンダラ羽織を羽織っており、中は上着として薄い桜色の着物姿であり下は濃い桜色のスカートを履いている。足にはわらじと膝までを隠す白のニーソックスを履くと言う、シンプルでありながら彼女の可愛らしさに磨きをかけていた。
「これは! 素晴らしいです村長様!! こんなきらびやかな衣服を着る事が出来る日が来ようとは思いもしませんでした!!」
目を輝かせ、自分の姿を色々な角度から見るために様々なポージングを取りながらはしゃぐ要に村長も思わず笑みをこぼす。
「喜んで貰えたみたいで何よりだよ、さあ飯の支度も出来ておるぞ。日持ちがする様に一週間分の漬物と握り飯をこしらえてきたから持ってい来なさい」
そう言って村長は大きく膨らんだ二つの緑色の風呂敷包みを二人に手渡していく。
「さて……二人とも今回の旅の目的は心得ていような?」
「「はい! 自らを神と近しい者としながら世に腐敗した影響を与えている狐族達の蛮行を我々狸族が止めて、汚された狸族の名を再び輝かせる為です!!」」
まるで軍人の様に力強く自らが望んでいた思いを代弁してくれた二人の若者に村長は満足そうに何度も頷きながら査定し、その顔を綻ばせる。
「よし! ならば行くが良い我らが勇敢な狸族の戦士達よ!! 御前達が狐族達の化けの皮を剥がして、堂々と故郷へと帰って来ることを楽しみにしておるぞ!!!」
「「はい!! 狸族の名誉にかけて必ずや!!」」
そう言って威風堂々と旅立つ二人の姿を見送りながら、族長はとんでもない一言を放つ。
「あれ? わしは何を言っておったかのう?」
「あら! 御父さんこんな所に折られたんですね!? 外は寒いから身体を壊しますよ」
そんなボケボケになっている村長を屋敷の中から現れたおばさんが引き戻しに現れる。
「なぁにい~? 何で見送った筈の純子さんがここにおるんじゃ?」
「何を言ってるんですか御父さん、私が旅立った事があるのはもう40年程前の事ですよ? そう言えばこの前もそんな事を絹山さんちの子達に言ってましたよね? もうボケて変に若い子達を刺激するような事は辞めてくださいね。狐族の皆さんとはもう味方同士なのですから……」
「そんな事解っておるわい。何時ワシがそんな古い話を言っていた?」
そう言い合いながら二人は屋敷へと戻って行く、大きな間違った情報の為に旅立ってしまった二人の純粋な狸族に気付かずに。