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#08 狐娘達の入学準備

一週間御待たせしました、そしてどうしてこうなった……。


※望が変身した状態の新たな状況説明を加えました。 12/3(1時)

時は狸族の二人がボケた村長に見送られてから2週間程近くが立っており、一時期は新聞やネットニュースに【狐巫女と黒髪美少女の禁断の恋!?】とか【心暖まる稲荷神社エピソード】等と報じられ続け、連日参拝者ではないネタに飢えた報道貴社達が詰めかけていたが。


直ぐに林原開発工業を潰そうと目論んでいた者達の大量の逮捕報道や、林田社長の号泣記者会見等により、注目度が少しづつ低下していき。現在は元の平温な状態を取り戻した早朝8時の狐乃街稲荷山神社には活気と狐娘達といろんな意味で熱心な参拝客達が今日も練り歩いている。


そんな神社の一角にある宿舎の玄関で巫女服から私服に着替えた二人の狐美少女、望と秋葉が靴を履いていた。

「ふんふふ~ん♪ 今日は遂に学生服のお取り寄せなのです~♪」

「あはは! 望お兄ちゃんたらうきうきしちゃって子供みたい!! でもついついドキドキしちゃうよね?」

「はいなのです! 人生初めての女装ですしね」

「変な性癖とか着けないでね望お兄ちゃん? 元のお兄ちゃんに戻れなくなりそうだから……」

「しゅっ、趣味にはしないから大丈夫なのですよ!?」


丁度午前中の神社でのお勤めが終わり、時刻は昼間となってはいるが外はこれからより寒くなる11月下旬であるため、望は何時もは放り出すようなストレートセミロングヘアーからおさげタイプのツインテールにしており。下は青のジーパンに上着に厚手のウールで出来た暖かい黄色のピーコートとスニーカーと言うやや男性っぽいスタイル。


隣に並ぶ秋葉も望と同じく上着はオレンジ色のピーコートであり、下には赤と黄色のチェックのスカートと黒タイツを履き、スニーカーと言うスタイルと言うスカート以外は望と代わらない服装であった。


「望お兄ちゃん、取り合えず今のうちにスカートになれておかないと入学した時に大変だよ? 毎日履くわけだからね」

「うっ……流石に冬場にスカートは寒すぎると思うのですよ……」

「まあ寒さが何ともないかと言われれば嘘になるけど、工夫は色々出来るわよ? 例えば下着の上に防寒用の暖かいタイツを履いたり、こんな感じでスカートの中に短パンを履いたりね?」


そう言ってスカートを少したくしあげて中に短パンを履いている事を見せる秋葉に思わず望は観察するためにしゃがみこみ、洞窟の中を探検するかのように見上げる望。


「あっ!! 本当なのです!! 中に暖かそうなタイツやパンツが複数枚重ね合わさっているのです!! これなら……」

「……どうなると言うのかな、望さん?」

「ゑ? ふわぁぁ空お姉ちゃん!?」


そんなナチュラルにセクハラを働く望の姿を満面の笑顔を絵に書いた様な固まった表情で、事前にふたりに学園までの案内を頼まれていた林原空が学園の制服姿で、秋葉のスカートを覗く望の隣に寄り添う形で並んで座っており。

望は余りの驚き結えに尻尾を踏まれた動物の様に思わず飛び上がってしまう。


勿論、望に対する空からの事情聴取が始まり、望は冷や汗をかきながら必死に説明した末に何とか空に納得して貰えたのだが……。


「なるほどそう言う事だったんだね、まあそれぐらいなら良いけどさっきのような事以上の馴れ合いは由利原学園では過激なスキンシップとして校則に引っ掛かるから二人ともに注意して欲しい」


「えっ? 例えばどんな事が引っ掛かるのですか?」

「そうだな、例えば必要以上に身体を近付けあったり、異性の恋人に対する様に同姓に接したりする行為は基本的に御法度になっている。まあ、抜け穴はあるが……」


最後の方は空が顔を赤らめながら小さくつぶやいた為に聞き取れなかったが、その説明を聴かされて二人は目を大きく見開いて驚愕の叫びをあげる。


「えぇぇー!!? それじゃあ空お姉ちゃんと学園で一緒にいれないのです!?!」

「そんな空さん嘘でしょ!? 望お兄ちゃんに可愛がって貰えなくなっちゃうじゃない!!?」


「「ゑ?!」」

「ふふふ、本当に仲が良いんだね二人は。大丈夫、何か問題が起こる前に私がサポートさせて貰うから」


そう言いながら可愛らしい二人をついつい両手で抱え込む様に望と秋葉を抱き寄せて妹成分を補給して行く空に望は赤面し、秋葉は嫉妬を覚えながらついつい甘えたくなる空のお姉ちゃんオーラに飲まれて行き、気付けば和やかな空気に包まれた三人は穏やかに談笑し合った後、望が運転を勤めるスポーツカーである86に乗り込み三人は制服を受け取りに行くために由利原学園へと向かう事となる。


86はドアが運転席と補助席しか無いツードア車であり、一先ず案内を担当する空が補助席に座り。秋葉は望が運転席を前にスライドさせてあけたスペースから後部座席に入って後ろに座り。ドライバーである望は運転席に座る。


勿論、小学生サイズのままでは望がドライバーを勤める事が出来る訳ではなく、


「大丈夫望さん? 足がペダルに届かないんじゃ?」

「大丈夫なのですよ空お姉ちゃん! ちょっと待ってくださいね……変身!!」


きつ姉から貰った変身狐マスクを顔に装着し、まばゆい光に包まれた望の身体は高校生程の大きさに身体を成長させて巫女服姿となり。仙狐の力がだいぶ馴染んで来た事もあり、望は狐耳と尻尾を納めた状態に変身する事が出来る様になり車をより安全に運転出来るだけの体格を手に入れるのだが。


その変身を初めてみて興奮する二人からしばらく質問攻めされた後、望達を載せた86は神社の駐車場から無事に出発して細い街道を抜けて大通りへと出ていく。やがて高速道路に入り、なんだかんだでまだペーパードライバーである望は運転が楽になった事を皆が感じた処で、望達はこれからの事で雑談を始める。


「由利原学園まで車でだと二時間かかるのですね。となるとやっぱり日帰りは難しいですよね、空お姉ちゃん?」

「うん、そうなりますね。私も家に帰らずに由利原学園にある寮で生活させて貰っていて、最初は寂しかった時もあるけど皆基本は良い娘ばかりだから二人とも安心して大丈夫だからね? 私も出来るだけ力になるから」


「ありがとう空お姉ちゃん。まだちょっと不安だけど私一人じゃないもんね」

「そうなのです秋葉ちゃん!! 私も側にいるから安心して欲しいのですよ!」

「中身は男性の望さんの場合、もっと大変な事になるものね? ふふっ」

「空お姉ちゃん……意識しないように頑張っていたのに酷いのです……」


地元である稲荷神社に強い愛着を抱いている秋葉の動揺を汲み取りながらフォローを入れてくれる空の言葉に秋葉は少し落ち着きを取り戻し。望は空の気遣いに感謝しつつ、気付けば40分程走り続けた為、パーキングエリアに止まり休憩を取ることとする。


望達が入った中規模のパーキングエリアはトイレだけではなく、観光客の為にスーパー程のお土産物屋さんや食堂があったり。他には飲み物や、ホットドックや焼おにぎり等の暖かい軽食が買える自動販売機等の飲食スペースが揃っていた。


望達は一先ずトイレを済ませるために、望は仮面を外して小学生程の姿に戻ってからトイレへと向かうのであったが……。

「トイレ、トイレなのですー」

「あっ!! のぞみちゃんそっちはお父さんたちが使うトイレだよー? のぞみちゃんはこっち」


そう言って優しいお姉さんの演技を交えながら望の小さな手を握って右側の女子トイレへと空は手を引いていき、女子トイレの洗面所まで案内する。


「え、何をいってるのですか空お姉ちゃん……? 私はおとこ……あっ!?」

「ふう……気付いてくれたんですね? 危ない処でしたよ望さん」

望は何時もの様に危うく男子トイレに直行しそうになり、危ういところで空に助けられた事に気付かされたのであった。


「ありがとうなのです、空お姉ちゃん!何時もの様にそのまま男子トイレに入る処だったのです……」

そう言いつつ、先行きに不安を感じる望の想いが余りに顔に解りやすく出てしまっていたため、思わず空はくすりと小さく笑って微笑みながら中腰の体勢で望の頭を優しく撫で始める。


「大丈夫、大丈夫。今の望さんは普段の生活とは違う事を求められて戸惑っているだけだから、直ぐに馴れますよ。だって、既に女の子である事に馴染んでいるくらいなんですから」


「はにゃあ……。空お姉ちゃんにそう言って貰えるとなんだが出来そうな気がしてきたのです!!」

「うん、一緒に頑張りましょう望さん」



そう言って励まし合う二人の雰囲気からは、まるで噛み合った凹凸の様な相性の良さがにじみ出ており。思わず二人の仲の良い姿を見せ付けられた秋葉は、二人が手を繋いで遠くに行ってしまう様な幻想を垣間見てしまい。思わず焦りと、少しの涙がこみ上げて来てしまう。


「……やっぱり私じゃあダメかもしれないよ夏魅お姉ちゃん」


「なあさっきのニュースやばかったよな?」

「ああ、まさか稲荷神社荒らしなんて罰当たりな事をする奴が出てくるなんてな~。絶対良い死に方しないぜ……」


そんな落ち込む秋葉の気持ちを吹き飛ばす様な話題が、建設業なのか作業着を着た道行くおじさん達からもたらされる。その不吉な話題に思わず秋葉は真相を問いただしに行く。


「ちょ、ちょっと待っておじさん達!! さっきの話は本当ですか!?」

「そうだよ。さっきからラジオでたびたび扱われていてね、稲荷神社の石像が倒されていたり、酷い処では焼き討ちに会った神社も会ったらしいよ」

「そんな……誰がそんな酷いことを!!」

「今の所はまだ目撃者すらいないらしくてな、そして一番厄介なのはどうにも二週間程かけて九州地方から北上するかのように神社が襲われているみたいでよ。もう関西まで来ているんじゃないかって話だったよ。お嬢ちゃんも旅路にはきおつけてな」


そう言って気の良いおじさん達は昼食を取るために食堂に向かう姿を見送りながら、衝撃的な話を聴かされた秋葉はナイフを喉元に当てられた様な酷く冷たく、鋭い恐怖を感じていた。


「秋葉ちゃんどうしたのですか?」

「何かあったの?」

そんな秋葉の異変に気付いた望と空は秋葉の元へと駆け付け、秋葉はおじさん達に伝えられたニュース情報を二人に包み隠さず伝えた。


「そんな酷い事があったのですか……。そう言えば朝からきつ姉を見かけなかったのです」

「……本当だ。ネットニュースでも特集されているね、何人かの犯人達は捕まっている様だけどこれは酷い」

「どんな内容が書かれているのですか?」

「ん、これだよ」

空はスマホで調べたニュースの画像を自分だけでなく二人にも見せる。そこには秋葉が教えて貰った様に無惨に倒れた稲荷の石像や、全焼している神社の画像。そして犯人達の画像が載せられていた。


「うっ、こいつら人間じゃないわ! この目の熊と僅かに見える尻尾は狸族よ!!」

「狸族だって?!」


噛む力が必要以上に籠められた秋葉の口からはギリギリと歯音が鳴っており、その因縁深き相手を睨み付けている。


「でも、狸族達とは40年前に和解したってきつ姉に聴いていたし、今は仲間なんじゃないのです秋葉ちゃん?」

「うん。その筈なんだけど、一部の狸族達は協力することを辞退したらしくてね。もしかしたら今回の事件はそいつらが起こしたのかもしれないわ」


そんな敵意を剥き出しにして拳を握り締める秋葉の手は仮面を付け直し女子高生の姿となり、本来の知力を取り戻した望の暖かい両手に優しく包まれる。


「望お兄ちゃん?」

「早とちりしちゃ駄目なのですよ、秋葉ちゃん? もしかしたら彼等の思いを利用している者がいる可能性も高いのですから。私たちがすべきなのは悪戯に疑い合う事じゃなくて、彼等の動機や裏側を出来るだけ知り、明かされた事実から解答を出す事であって、争い合う事じゃないのです」


「そうだね望さん。まだこの事件は起こったばかりで、本当の情報だけでなく嘘の情報も錯綜している状態みたいだしね……。ん、すまない着信が来たみたいだ」


「遠慮せずに出て欲しいのです空さん。私の携帯もそう言えば振動して……うわっ!? 着信とメールが300件近く入ってるのです!?」


「あっ、私も神社の皆から連絡が入ってる!」


三人に連絡が来た理由は皆同じく不審者の活動範囲が近づいている由利原学園へと向かっている為であり、空は両親と学園の友人から、望はきつ姉と両親、そして秋葉は夏魅と仲間達からの状況確認の為の連絡であった。


三人に送られてきた話を合わせると、由利原学園がある地域近辺に不審者が迫りつつあると言う情報が出ており。今回の遠征は日を改めて欲しいと言う物であった。


「折角40分もかけてここまで来たのにー! いつかお尻をひっばたいてやるんだから!!」

「なのです! 犯人は早く捕まえないと行けないのです!!」

「ふふっ狐乃街の稲荷神社の人達なら本当に捕まえてしまいそうだね」


気合いを入れて叫ぶ二人を空は自分自身が助けられた事もあるため頼もしそうに見詰めつつ、次の行動を促す。


「それじゃあ景気付けにソフトクリームでも食べに行かない?」

「「ソフトクリーム!? 勿論行くのです!/行くわ!」」


まるで本当の姉妹の様にハモって答える美少女二人に、何故か頬を赤らめて喜ぶ空に釣られてドライブインへと足を運ぼうとした処で、狐仮面へと変身を遂げ仙狐の力を得ている望はドライブインに異物が入って来るのを本能的に感じ立ち止まる。


「うん? どうしたの望さん?」

「空さん、出来ればドライブインの中に秋葉ちゃんと一緒に避難していて欲しいのです」

「……解った、状況が変わったんだね。行こう秋葉ちゃん」

望の声が真剣みを帯びている事を感じ、緊急性を察した空は秋葉の手を引いてドライブインの中へと入って行く。


「ええっ!? どういう事なのお兄ちゃん!?」

「……このドライブインに、敵意を持った狸族が入って来ているのです。私が彼等を捕まえるから其までは隠れていて欲しいのです」

「なっ!? そんなの尚更望お兄ちゃん一人じゃ危ないよ!?」


秋葉の悲痛な叫びを背に受けながら、鼻から下は開いている仮面越しに安心させるために笑みを浮かべながら返事を返す。


「大丈夫なのです! 私にはきつ姉から貰った力があるのです、ぱぱっと捕まえて直ぐに向かえに行くから待っていて欲しいのです」

「信じているよ望さん……」

「お兄ちゃん! 約束なんだからね!!」


二人の声援をうけた巫女服姿に狐の仮面と言う、明らかに不審者であるかプロレスラーの様な姿の彼に注目が集まるなか、狐巫女としての感覚により自分達がいるサービスエリアに僅かではあるが力を感じさせる二人の者が浸入してくるのを感知する。


その浸入者達は五人乗りの普通車に乗せられており、丁度入口からサービスエリアに入って来る処であった。


(あの車に乗っているのは解っているのですけど……うっ、何なのですこの殺気は?)


まるで長年の恨みを滲み出しているような浸入者のプレッシャーが神経を研ぎ澄ました望を熱風の様に飲み込むかのように吹き付けて来たため、思わず望はたじろいでしまう。



望の視線の先には丁度二人の新撰組のコスプレをした若い男女が車から降りて、彼等をここまで送り届けてくれた優しそうな老夫婦に頭を下げてお礼を告げている処であり。ぱっとみではコスプレ好きの礼儀正しい兄弟にしか見えなかった。


「う~ん、特にかわった様子は見えないのですけど……あれ?」

じっと二人の様子を観察していた望は、女の子の方のお尻に注目が行ってしまう。


「……女の子のお尻から狸の様な尻尾が……ひっ!?」


そう言い終わる前に望は見てしまった、いや見られてしまったと言う方が正しいのかもしれない。先程までは老夫婦とにこやかに話し礼儀正しく別れを告げていた女の子が、明らかに此方を殺気をもった目できつく睨み付け、指を指して何かを叫んでいるのである。


「我々の動きを裏でこそこそと嗅ぎ回っている狐よ!! 今から貴様達を打ち倒しに行くからそこで逃げずに待っていよ!!!」


その宣言通りに二人は全力疾走で望達がいるトイレまで駆け出し始め、十秒と立たないうちに望の前に躍り出たのである。

その姿は二週間に渡る長旅のせいで何処かやつれぎみであり、体のあちこちには汚れと汗の臭いが漂っていたため思わずむせかえる望に、命を奪いに来た狸族の二人は意に返さぬ様子で堂々と名乗りを上げる。


「「我等は遙々(はるばる)九州の地から参った誇り高き狸族の末裔であり、京都の地で悪行を働く貴様達狐族を村長様のことづてにより成敗しに参った!!!」」


「なっ、何故なのです!? 狸族と狐族とは40年前の部族抗争以来、協力関係にあるはずなのです!! なのに何故?!」

慌てふためく望の姿を鼻で笑いながら、二人の狸族は説明を始める。


「ふん。そんな狐の戯れ言で我等を騙せるとお思いですか? 我等が村を仕切る村長様は狐族との講和など、成立してはいないと申されていましたよ!! そうですよね兄上?」


「ああ! その通りだ妹よ!! お前達はかつて天皇陛下の側にすり寄って処刑された化け狐の様にこの日本を支配しようとしていると村長は仰っていた!! そしてその話を裏付けるように日本各地に稲荷神社を建てて、その権力をこしするお前達は正しくその通りではないか!!」


そんな余りの言い掛かりに、望の頭軽くクラクラして来た処で狸族達は望達が恐れていた一言を口にする。


「だから我々はお前達狐族をこの地から追い払い、元あった神聖な日本へと戻すためにこの手を汚すと決めたのだ!!! 覚悟するが良い!!!」


そう言い、兄に当たる狸族は一枚の葉っぱを懐から取りだし始める。


「なんなのですかその葉っぱは?」

「ふん、無知で哀れな狐め。この葉っぱは狸族に伝わる変化の葉っぱ!! 変化を得意とする狸族はそれを武器とすることにより、大勢の狐族を討伐した誇り高き武器だ!!」

「なっナンダッテー!??」


その言葉を実演して魅せるため、葉っぱを取り出した狸族の青年武(たける)はにやりと薄ら笑いを浮かべながら葉っぱへと力を込めていく。


「これから変化させる武器は先程私たちを助けてくれた老夫婦が教えてくれた最強の武器だ!!! 最後に懺悔しながらシヌガヨイ!!!」


そう言って空に投げられた魔力を籠められた葉っぱは光に包まれていき、その光は形を代えて大きなドラム缶程の円の大きさと四メートル程の長さとなって狸族の二人の元へと落下してしていき、二人の右肩に大きな地響きと共に巨大な丸太が担がれる事となる。


「ぐうっ!! ようし、丸太を持ったな妹よ!?」

「あうぅ……はい、兄上!!」


兄の武が前に立ち、後ろに妹である要が支える縦1列の隊列を組み顔を真っ赤にさせながら何とか気合いで丸太を落とさずに頑張って担いではいるが、二人の脚は丸太の重みでぷるぷると震えており望達から見てもかなり無理をしているのが解る。

そんな様子に思わず心配で堪らない望は声をかける。


「はわわわ!! 二人ともそれ以上無理はしない方が……」

「無理……等は……うぐぅ……してはいない!!これは吸血鬼や悪魔すら退ける事が出来ると言われる決戦武器・大丸太だっ!! こいつで貴様達を串刺しにし、反撃の狼煙としてみせる!!! 行くぞ妹よ!!!」

「ううぅ……御許しください兄上……。要、持ち上げるだけで限界みたいです……」

「なん……だと……」


鍛えられた戦士とはいえ女の子である要は二週間に及ぶ長旅と、全く量も栄養も全く足りていない一週間分の食糧による栄養不足も災いし。歩くだけでも辛い状態であった彼女の身体に丸太を担ぐと言う重労働は完全に止めとなってしまっており、彼女の腕と脚が限界を伝える震えは激しさを増しているのが誰の目に見ても明らかであった。


望達以外にその様子を遠目に見ていた旅行客達からもどよめきが起きている。

「危ないのです!!!」


そして誰から見ても解る、その後に起こるであろう未来を予知し終えた望は今にも力尽きそうになっている要の元へと納めていた黄色い狐耳と四本となった尻尾を解放して、全力の力を持って本能的に駆け出していた。


「もう……駄目……」

「要!!?」


既に要の両手両足は既に踏ん張る事が出来なくなっており、その事を告げる様にやがて震えが止まったと見えたと同時に彼女の身体はビルの爆破解体の如く崩れる様に丸太に押し潰されそうになる。


「まにあえぇー!!!」

要が丸太に潰される間際、猛烈な速度のスライディングで丸太と地面の小さな隙間へと入り込んだ望は倒れこみ仰向けのだ状態のまま両手を伸ばして丸太と、力尽きた要を支える。


「うっ……貴様何故私を助けた……? そのままにして置けば、戦わずに片付いたのに……」

「目の前で苦しむ人がいるのに、見捨てれる程私は大人じゃないのです!! うー……にゃあああ!!!」


普通の人間と比べて50倍以上の身体能力を与えられている望は、軽々(かるがる)と丸太を片手で持ち上げていき、やがては要を右脇に抱えた状況の中で立ち上がり、唖然とした表情の武と向き合う形となる。


「私達狐族は狸族の皆さんと争うきも、この世を支配したいだなんて自分勝手な野望は抱いていないのです。ただ、こうして手を取り合って助け合いながら生きていきたいだけなのです!! それでは不服なのですか?」


望の目は嘘や、相手を言いくるめたいがために語る理想論等ではなく心からの本音である事を告げる様に力強く武の目を射ぬく。その彼女の態度に年上であり、男子としての誇りと子供の頃から教えられてきた村長の言葉が開きかけた心を閉じさせてしまう。


「ええい黙れよ狐族!! お前達がそうやって言葉巧みに心を掴み、富と名声を得てきたのだな!? 俺は騙されんぞ!!! うおおぉりゃああ!!!」


「……さあ、君は逃げてね」

「何を……!?」

そう叫びながら武は肩に担いでいた丸太を渾身の力で引き寄せ、槍を扱う様に望へと勢いよく突き出そうとする。その動きを見抜いた望は素早く要を地に寝かし、丸太が当たらないようにし終えた処で丸太の直撃を正面から受けてドライブインの壁へと叩きつけられ、反動で仮面は砕けて小学生の少女の姿に戻ってしまった望は地面に倒れ落ちる。

「あ……があっ……」


その様子を見ていた野次馬からは悲鳴があがり、待機するように言われていた空と秋葉も堪らずに出てきてしまう。


「いやぁぁ望お兄ちゃん!!」

「くっ……あばら骨が何本か折れている……! 望さんしっかり!!」


望から自らを上回る力を感じ、妹を盾にすらして挑んでくると予測した上で攻撃に出た武は激しく動揺していた。

「そんな馬鹿な!? 我が妹をかばって致命傷を受ける等ズル賢い狐族がするわけがない……!!」

「いい加減になさい、狸族の若者よ。静止札(せいしふ)!!」


そんか彼の背後から凛々しい声と共に、一枚の御札(おふだ)が彼の背中にぴったりと張り付き武は身体を動かす事が出来なくなる。


「なうっ!? きっ貴様……何やつだ……!?」


彼の背後から現れたのは中学生程の美少女で、まるで竜宮城の姫様の様に白い羽衣を着た彼女は黒髪のセミロングヘアーとパッチリと開かれた金色の目で武をゴミを見るめで眺めていた。

「私は清姫。由利原学園の校長であり、貴方が先程無意味に傷付けた望様の妻です……ふん!!」

「がはっ!!」


そう怒りを籠めて言いきった清姫は勢いよく武の股間をわざわざ回し蹴りで蹴り飛ばして見せるが、動きを封じられている武は身動きを取ることが出来ずにそのまま何度も蹴り飛ばされ続け、最終的に泡を吹いて気絶してしまう。


勿論、その残酷な光景を見ていた男性人達は内股になり両手で自らのJr.を庇う体勢に思わずなってしまう。


「ふん……戦士であるにも関わらず、守るべき内蔵を剥き出しにしてしている愚かな貴方が悪いのです。さて、勇敢な旦那様に守られた貴方はどうするつもりかしら? 勿論ただですむとは考えてはいないでしょうけど」


そう言ってじりじりと腰が抜けて動く事が出来ないでいる要へとじりじりと近付く姿は、まさに獲物を狩る蛇のようであり。要は怯えきっており、小さな悲鳴を挙げる事しか出来ない。

「あっ……ああ……!!」

「ちょっと、待って欲しいのです……!」


そんな要の危機を救ったのは彼女のために重症を負いながらもふらふらと歩いてきた望であり、望は折れた脇腹の激痛に脂汗を垂らしながら清姫の前に立ち塞がる。

「何故彼女を庇う事などされるのですか? 彼女達のせいで貴方は下手すれば死ぬかも知れなかったのに」

「彼女達は私たちの事を心から憎んでいたのではなく、嘘の情報に踊らされていたからなのです……!! 私達に襲い掛かってきたのは確かに、反省すべき事ですが……悔い改めたいと望んでいるならば断罪される必要は無いと私は思います……!!」


その発言は予想外だったのか清姫は金色の目を見開いて、瞬きを繰り返し。またしても庇われた要は自らの教えられてきた事が騙されていた事だと突き付けられ流石に反論する。


「どういう事ですか狐族の戦士様!? 我等が英雄である方が私達をずっと騙して駆り立てていたとでも言われるのですか!?」


助けられた事に対する感謝と尊敬する村長を否定された事による複雑な感情の波に揺られ、要は混乱しながら望に問いただすが、その答えは以外な人物からもたらされる。


「そうじゃよ。ワシが昔狐族に打ち負かされ、片田舎でこじんまりと暮らさねばならなかった怨みをお前達二人にも引き継がしてしまったのじゃ……」


「村長……様!?」

そこに立っていたのは二人を村から送り出し、ずっと狐族に反感を抱き続けていた彼等を世話していた村長であり、その隣には少しボロボロになった巫女服を着たきつ姉が立っている。


「きつ姉!! 助けに来てくれたのですね……あう!?」

「無理しちゃ駄目よ望!! 今治すから少しだけ我慢して!!」


動く事すら困難となっている望の側に素早く近より支えたきつ姉は手のひらに力を集中させ、望の身体へと自らの力を注ぎ望の治癒力を高めてたった数秒で怪我を完治させてみせる。


「ありがとう……なのですきつ姉……。きつ姉がきてくれたのならばもう安心なのです……」

「望……貴方はよくやったわ……。後は私にまかせて御休みなさい」


慣れない変身状態を移動中と戦闘で酷く酷使したため、望の身体は自ら休息を求めているかのように、望のまぶたは重たくなっていき、きつ姉の誇らしげな笑みを最後の光景として、望は意識を手離す。



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