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#09 勇気の代償

普通じゃ詰まらないと言う作者のひねくれた考えにより、壮大に話の流れが変化しまくる「恋愛」って何だっけと困惑させられるシリーズとなっています。作者的にも試行錯誤しているポイントですので、よろしければ活動報告に御意見、御感想を頂ければ嬉しく思います。


※余りに話が何でもありとなってきたため、ファンタジーへとジャンルを変更させて頂きました。御了承ください。

「う……ううん……? ここは何処だ?」


大切な家族である空と秋葉を守るために狸族達との激戦と言うなの身代わりを成し遂げた望は、先程までは人が出歩き、活気に満ちていた筈の無人と化したドライブインのトイレ前で立ち竦んでいた。


「皆は、みんなは何処にいるの? 何故僕だけしかいないんだ……あれ?」

不吉な状況に戸惑っていた望であったが、ふと自分が少年の声色と高校の黒い学生服姿の容姿に戻っている事に気付かされる。


「元の姿に戻ってる……。そうか、僕は今夢を見ているのか」

「狐族ウゥゥゥゥ!!!」


ホッと胸を撫で下ろしていた望に、敵襲を告げるサイレンかの様な望を恐怖のドン底へと叩き落とした狂戦士の雄叫びが望の全身に恐怖と言う名の速効性の痺れ毒として駆け巡り、望は身体が動けなくなる。


「うわぁぁ!!? 何であんたまで此処にいるんだよ!?」

「決まっているダロォオオ!! 貴様を地獄に落として、我々狸族が勝者となるためだ!!!」


全身が影で覆われた様な禍々(まがまが)しいその追跡者は血走った赤い眼だけが色彩を持つ悪魔の様であり、彼の肩には望の身体を粉々した凶器である丸太が担がれている。


文字だけならば間抜けに見えるものだが、古代においては強固な城門すら粉々にしてみせる威力と頑丈さを丸太は持っており、望の身体にはその痛みと恐怖が脳裏に刻み込まれているためそのプレッシャーは道端でチェーンソーを持った殺人気に遭遇したと同じ感覚に陥っていた。


「止めろ、来ないでくれぇぇぇ!!!」

腰を抜かして地面にへたりこみ、震える事しか出来なくなる望の姿を見て悪魔は口許から舌を出し、ケラケラと笑いながら一歩一歩と身動きすら出来ないでいる哀れな獲物を狩る為に近付いて来る。


「嫌だ!! もうあんな痛い思いはしたくないよっ!! 誰か助けてよ!?」

「無駄だぁよお~? ここは君の夢の中、助けは来やしないさ。後、怯える君に面白い話を聴かせてあげよう」

「おもしろい……はなし……?」


突然挟まれる影の男の話しに、震える口を何とか整えて返答する望を更なる悪夢へと引き摺り落とす狂気が語られる。


「ああ、人間と言う生き物はその日にあった事を心の中で整理し、受け止める為にも夢を見ているらしいんだよぉー」

「まっ、まさか!? 嘘だよね!?」

その発言の真意を予期した望の口から枯れた悲鳴が漏らしている間に望との距離を全て刈り取り終えた悪魔は優越感も合わさり、狂気を載せた笑みを浮かべながら話の結末が語られる。


「だから、君が現実で起きた恐怖と苦しみを受け入れられるまで、私が何度も感じさせてあげるからねえー? ヒイャハァァァ!!!」

「うわぁぁぁぁ!!!」


現実で見せられたと同じ様に丸太を後ろに引き、槍の突きを思わせるモーションを見せる男に絶叫する望。


ーー……さ……!!


ーーの……さん!!


「こっ……この声は空さん?」


ーー望さんしっかり!!


空の必死な涙声を認識する事が出来た途端、望がいた悪夢はトンネルから外に出たかの様な光に包まれていき、視界が見えなくなって行く中で望は最後に聴いたことが無い落ち着いた男性の声を聴く。


「……また悪夢で御会い致しましょう、佐々木望さん。それまでは、貴方の心は私が持っておきますね? 俺の邪魔をしたんだ、これぐらいの代価は頂かせて貰わないと寝心地が悪いんでねぇ!!! ヒャハハハハ!!!」


「があっ!! 苦……しい……!?」

望は最後の最後で目と口を限界まで開ききり、獰猛な笑みを浮かべるスーツ姿の男を一瞬見た所で意識が途切れる事となる。


「望さん!? 目を覚ましたのね!!」

「空……お姉ちゃん……」


時刻は既に夕焼けが見える五時過ぎであり、部屋は淡いオレンジ色の光がさしており。

望が目を覚ましたのはドライブインの地べたでも、救急車の中でも無く学校の保健室の白いベットであり、望の意識が戻った事をベットの隣に備え付けられていたパイプ椅子に座っていたであろう空が気付き、涙ながらに熱い包容を交わしていた。



望の小学生サイズの身体には未だに点滴がつけられており、少し(やつ)れた様にも感じさせるが一番驚くべき事はまだ残っていた。


「ごめんなさい……何の力にもなれずに望さんだけに辛い思いをさせて本当にごめんなさい……」

「お姉ちゃん、私の名前は望じゃなくてのぞみなのですよ?」

「……え」


一瞬空は、周りに望が男性でありながら美少女の姿をしている事を知らない人がいるのかと思い、周りを見渡すが保健室とおぼしき部屋にはどうみても二人しかいない。

なのに望は演技とは思えない様な不思議そうにする美少女の仕草を自然と取っている。


(どういう事なの……望さん、もしかして記憶喪失になったんじゃ?)

「お姉ちゃんどうしたのです? のぞみ、お姉ちゃんを困らせるような事……」


顔を青ざめさせ、必死に理由を模索する空の姿を見てしょげてしまう望の姿はやはり演技をしている訳じゃなく、本当に思考力が幼児かしている様であり、思わず空は慰める為に望を抱き締め頭を撫でながら慰める形となる。


「ううん、のぞみちゃんは何も悪い事していないから大丈夫だよー。ちょっと、お姉ちゃんが疲れていただけだからねー……」

「良かった! のぞみ、お姉ちゃんが大好きだからびっくりしちゃったのです!! ねえ、お姉ちゃん?」

「うん? どうしたの、のぞみちゃん?」

「のぞみが元気になるおまじないしてあげるのです!」


そう言ってパジャマ姿の望は笑顔で空の唇に軽くキスをする。その行動は空も予想外だったらしく、愛する人であり美少女にキスされた事もあって思わず顔を赤らめてしまう。


「ななななな!!?」

「あはははは!! お姉ちゃんお顔が真っ赤かなのです!! 元気が出て良かったのです」

「空さん!! 今の声ってお兄ちゃんの声だよね!?」


さきほどから賑やかな声が保健室から漏れていた事もあり、保健室にぞろぞろと望の身を案じていた秋葉、きつ姉、そして黄色と茶色が半分半分で混ざったような虎柄の猫耳と尻尾をつけた赤いジャージ姿のお姉さんが入って来た。


「きつ姉さん、秋葉お姉ちゃん!!」

「お兄ちゃん!! お兄ちゃん、お兄ちゃん、お兄ちゃん……!!」


空よりもずっと望の事を心配し過ぎて弱りきってしまい、気分転換の為にきつ姉達が外に連れ出す程であった事もあり。秋葉は号泣しながらベットで上半身だけを起こして空と向き合っていた望に行きよいよく駆け寄り、思わず抱き締める。


何時もなら優しく抱き寄せ、頭を撫でてくれるのが望なのだが。この時ばかりは状況が違いすぎた。


「うっ……ううっ……」

「……え? お兄ちゃんごめんなさい、大丈夫!? 傷に当たったり……」

「のぞみはお兄ちゃんじゃないのです、秋葉お姉ちゃんも空お姉ちゃんも酷いのです……ぐすっ」

「何を言っているの……お兄ちゃん?」


状況を受け止める事が出来ず、うろたえる望をただ呆然と見詰める事しか出来ないでいる秋葉と望の姿を見たきつ姉の顔はみるみるうちに無表情となっていき、まるで冷酷な殺し屋を連想させる表情となってしまっていた。


「仙狐さん、失礼致しますね?」

「何を……ぷひゃ!?」

そんな彼女にジャージ姿の猫耳お姉さんが背後から肩を叩き、きつ姉が振り向いた所で人指し指で頬をついて止めるイタズラを爽やかな笑顔で仕掛ける。

「なっ何をするのよ、猫又!?」

「随分と怖い顔をされていたので、力をぬいて差し上げようと思いまして、うふふ。大体の犯人の目星はついてはいるのでしょう?」


彼女はそう言いいながら保健室に備えられたお茶セットで全員分の録茶を用意するために、ティーパックを急須に入れ、湯沸し器からお湯を出して手慣れた手つきで五人分のお茶を湯飲みにいれていく。


「はい、皆さんどうぞ。火傷しない程度のお湯加減ですので御安心くださいね」

そう言って次々とお茶は渡されて行き、皆が一息ついたところできつ姉の説明が行われていく。


「……どうやら、望の性格や形成されていた心と記憶が何者かに1部抜き取られているみたいなの。だから今の望は本当の意味で小学生の少女になっていて、これを解決する為には少しづつ望が記憶を思い出して貰うのを待つか。記憶を操作した犯人を捕らえるしかない……」


強大な力を与えられながらも、実質解決の手懸かりがない事を伝えるきつ姉の話は、既に衝撃を受けていた空と秋葉にとって更なる追い討ちとなり。幸せの絶頂期にいた筈の二人の目はキョトンとしながら話の意味が理解出来ずにいるのぞみに向けられたまま、現実を受け止めようとする心と否定したい心との板挟みに合い、どうして良いのか答えが得られずにいた。


「なら何とかなりそうですね。彼が死んだわけではなく、治る可能性があるのならば彼が帰ってくる事を純粋に待ち、犯人を捕まえてしまえば良いのです……」


そんな思い煩いに潰されそうになっている二人を尻目に、お茶を美味しそうにすすりながら猫又は穏やかに結論を固める。

そんな軽い態度で大切な人に起きている問題を片付けられ、呆気に取られる二人を視界に捉えながら猫又は更に続ける。


「私達が思い詰めたからといって、問題が少しでも解決する事があるでしょうか? それは有り得ません。 ならば私達がすべき事は微力でも彼の力になり、例え一秒解決する時間が短くなるだけであっても諦めずに支え続ける事、それだけで充分なのです。大切な人ならば尚更、彼をもっと信じてあげてください。必ず帰ってくると……」


「「猫又先生……」」


「だってそうでしょ? 彼は致命傷を受けながらも女の子の命を救うために駆け付け、2週間うなされ生死をさ迷いながらも帰ってくる様な簡単には負けない人です。そうよね、仙狐さん?」


「ふふふ……。あんなにイタズラ好きのお転婆猫が学校の先生になって随分と頼もしくなったものだな、猫又。そうだね、今一度望の可能性を信じつつ、私も必ず犯人を捕まえて来るよ。ありがとう」


そう言って猫又に微笑みを返せる程にきつ姉も冷静さを取り戻す事が出来ており、彼女はゆっくりとベットで困惑しているのぞみの元へと歩み寄って行き、優しく微笑みながら声をかける。


「のぞみ……此れから色々大変な事があると思うけど、皆と一緒に頑張ろうね」

「何だかよくわからないけど、わかったのですきつ姉さん!!」

「うん! 大丈夫……大丈夫……」


後半は自分に言い聞かせる様に望を撫で回した後、きつ姉は側にいる空と秋葉にも声をかけて行く。


「二人とも、学園生活に入ってしまえば望を身近な支える事が出来るのは二人だけだ……無理しない程度にお願いするわね。それと、望の側にいてくれてありがとう……」


そう言ってきつ姉は壁に一枚の御札を投げ付け、貼り付けられた壁に人一人分が通れる鳥居が出現し、きつ姉はそこをくぐると水の中に沈んで行く様に姿が消えてしまい。鳥居も消えた後には何も残っていなかった。


その光景を見送った一同を誘導するために、猫又は改めて三人に自己紹介を行う。


「さて、のぞみちゃんとは初対面でしたよね。私は由利原学園で一年生の担任をさせて頂いています、猫又鈴江(すずえ)と申します。学園の入学式まではまだもう少しあるけども、良かったら学園の案内をさせて貰えないかしら?」


彼女が数ヵ月後、自らの担任となる事を知ったのぞみの目は好奇心できらめき始め、猫又先生に同意する。


「やったー! よろしくおねがいします、猫又先生!!」

「ふふふ、のぞみちゃんは元気があって良いですね。先生、来年が今から楽しみで仕方なくなってきましたよ。さあ林原さんも生徒会の先輩としてよろしくおねがいしますね?」


その癒し系の猫又先生の言葉に落ち着きを取り戻し始めていた空は笑顔を取り戻しており。のぞみと秋葉の手を取りながら喜んで案内役を勤める事となり、のぞみ達は様々な問題を乗り越えてではあったが遂に由利原学園見学へと乗り出す事になる。



#08から続いて、他の種族によるアンチ狐族活動が描かれる余り気分が良くなる処か、胃もたれする話が続きました。

そして話の内容を濃くしているわりには本編のストーリーが進み入学するのかと思いきや、学園見学するだけと言う肩透かし感を味会わせていると思います。


話の土台とキャラが揃いましたので、ここからは一気にテンポを上げて行きたいと思います。


最後まで読んでくださった皆様に感謝しつつ、試行錯誤の実験作品の様な状態になっていますがよろしければ誤字脱字の御指摘、ご意見、御感想御待ちしております!

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