第二十一話 優の失敗
優衣と美紀と共に、自宅に着いた優は、自慢のゴルフをガレージに入れ、車から降り大きな溜め息を一つ吐いた。
そんな優を見て、優衣がなぜかニヤニヤとしながら訊ねる。
「どうしたんですかぁ、優さん?」
「いえ……そういえば、食事に誘ったんだなと思いまして」
「…………あらぁ? 忘れてましたの?」
「断じて違いますっ!! ただ、なんか疲れてしまってこのまま休みたい気分ではありますけど」
言葉通り、ホントに疲れたように言う優だったが、冷たい声で帰ってきた優衣の言葉を全力で否定しながら言う。
やはり、まだ諦めきれていないのだ。
「そんなことよりっ!! 早く夕飯食べましょうよ!!」
「そうね。 もうこんな時間だし」
「いや、そんなに遅い時間じゃないと思いますけどねぇ。 まぁ、お腹が空いたのは事実なので、早く上がりましょうか。 こっちに来てください、裏から入るので」
「はーい」
「わかったわ」
さりげなく抗議の声を漏らす優だったが、見向きもされなかったので諦めて早く家に上げようとする優に、素直に従う二人。
そんな二人をなんとも言えない目つきで見る優。
しかし、何も言えない。
基本的に優の中では、女性のほうが立場が圧倒的に上なので、あまり強く言えないのだ。
「ただいまー」
「おじゃましまーす」
「お邪魔します」
気の抜けたように中にいるであろう美咲と、自分の我が家に声をかける優。
美紀は明るく、優衣は丁寧に、言葉を発してから優の家に上がる。
その時に、優衣が美咲のスニーカーをジッと見て、なにか考えるような素振りをしていたが、精神的に疲れている優は気づかった。
「あ、優さんっ! おかえりなさい!!」
そう言って、リビングへと至るドアを開けながら、自前だという可愛らしいエプロンを着て、おたまを左手に持った美咲が出迎える。
だが、この家の主である優を押しのけ前を進んでいた美紀を見て、そのまま笑顔が凍り付く。
「……………………このヒト達は?」
と、感情の抜け落ちた声で美咲。
そんな声音の美咲を見て、しまったといわんばかりに目を見開く優。
(そういえば、友達が来るとは言いましたけど、女性とは言ってませんでしたねっ!? このままじゃ、誤解されてしまう!!)
そう瞬時に考えを巡らせた優は、なぜか同じように固まっている美紀と優衣に、少し待ってていて下さいと、前置きをしてから美咲を奥の部屋に招く。
「えぇーと、美咲さん」
「……友達を連れてくるんじゃなかったの?」
「ええ、そうなんですけど……(ここでチラリと、美紀と優衣の二人を見て)しっかり、ちゃんと……えぇ、ちゃんとお友達ですよ」
優は、美咲の感情の移さない真っ黒な目に見つめられながら、声が震えないように自らを叱咤し、そう言い切った。
もっとも、言い切る途中に自らを納得させるように言葉を発していたが、それは半ば無意識の内だったので、優なりには成功した。
しかし、やはりともいうべきか、美咲には通用しなかった。
「ただのお友達には見えないでしょうがぁぁぁ!!!!」
切れた美咲は、その言葉と共に霞むような速度で左手に持ったおたまを優の頭に叩きつけた。
ゴツンッ!!!
そして、鈍い音が優の家に響き渡った。
「全く、優さんったら、相変わらずどこか抜けてるわねぇ」
「ホントですよ。 美咲ちゃんにちゃんと説明しないから……いや、女性にしっかりと説明しないからそうなるんですよ」
「私は悪くないです。 自業自得です」
事情をしっかりと説明した優は、終わった後に、三者三様の言葉で持って呆れられる。
当事者である優も、自分に非があるのは明白なので、素直に謝る。
「ええ、本当に申し訳ありません。 全く、言葉もありません…………次はないようにします」
「「「………………次?」」」
「いえッ、なんでもないですッ!!」
口を滑らした目の前の下手人の言葉に揃って向けられる三対の目に、負の感情が宿っているのを本能的に察した優は即座に切り返す。
ただ、もうすでに口を滑らしている時点で負けは確定しているので、今更何を言ったトコロで変わらない。
というか、すでに負けているので、ただ単に傷を抉っただけだが。
「ねぇ、優さん。 もうしませんよね?」
「な、何言ってるんですか。 やるわけないでしょう? やだなぁ、美咲さん」
「あはは、優さんって、やっぱり面白いわねっ!!」
「…………全然、面白くないですよ」
「優さんが悪いわね。 今のは」
「そうですよね、美紀さん!! 全部、優さんが悪いですよね!?」
「ええ、そうね」
諦めたように女性陣の話を頷きながら聞く優は、わずかばかり、この3人の態度に驚いていた。
全くの初対面で会わせたのは優だが、よもやこんなに仲良くなるとは思わなかったのだ。
美咲は持ち前の明るさが好かれたのか、すでに美紀と優衣に打ち解けているし、その二人も分け隔てなく接している。
優は知らないことではあるが、人間というのは目の前に共通の敵が現れた際は、仲間意識を持つらしく、今の状況はそれによく似ているのだが、静かに頷く男にはなんら関係ない。
とはいえ、今はせっかくの食事中であり、目の前にある料理が冷めてしまうのもアレなので、優は両手をあげて宣伝する。
「それはともかくとして、食事を再開しませんか? せっかくの料理が冷めてしまいますよ」
自分で作ったくせに、せっかくとか言うのかよ……と3人は思ったが、ありがたい食事であることには変わりないので、特に文句も言わずにその優の言葉に従う。
静かに食べながら、時折聞こえる笑い声以外は何も遮るものもなく、その優雅な食事の時間は流れた。
この後に起こる大惨事など、今の彼らには知る由もない。




