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会話同好会  作者: 太郎
高校3年生
51/56

3月

「やあやあやあ。今日でこの校舎ともお別れかー。長かったね」


「先輩は留年しているから人より一年長いですからね」


「留年したお陰で後輩ちゃんといちゃらぶ出来たから、結果おーらい」


「へー」


「後輩ちゃんが三年目にしてスルーする技術を覚えた!?言ってて気付いたけど、スルーするって駄洒落臭くない!?」


「卒業式も変わらずうるさいですね」


「うるさくないと、僕らしくないでしょん」


「ですね」


「どっちにしようが教室もうるさいから変わらないよ。根性の別れでもないのにぎゃんぎゃん泣いて、写真撮って、思い出作って何が楽しいのか分からないけど」


「そういえば先輩は二回目の卒業式でしたね」


「いえす。去年も卒業生としてあの席に座ってたよ」


「だけど、卒業できないので先輩だけ名前が飛ばされてましたよね」


「いやー、周りの視線が痛かった」


「今年は呼ばれて良かったですね。先生方も、卒業式で先輩の名前を聞けて嬉しかったと思いますよ」


「僕らの同好会の顧問の先生も喜んでたよ。あと、留年してもお前ほど図々しいヤツは見たことがないってさ」


「普通、留年した人が部活を続けるはずありませんからね。上からも禁止されたと思うんですが」


「まあ、細かい話はこの卒業式にはいらないのさ。短い三年間を振り返ろうじゃないか」


「最終回みたいな口振りで……どうせ終わらせないんでしょう?」


「もちろんさ。僕は後輩ちゃんと永遠に一緒にいるんだからねー」


「はいはい。勝手に言っててください」


「そもそも出会いはこの部活だったよね。三年前から変わらずこの古くさーい教材室に集まって、他愛もない話をして、帰って」


「かつ埃の溜まった普段使われない特別室です。よくもまあ、喘息にならずに卒業出来ましたね」


「生憎体は丈夫な方なんでね。だてにゴミ溜めで育った男と言われてないからね」


「初耳です。しかも先輩が言うと冗談なのか分からなくて反応に困ります」


「半分冗談っていうのも冗談にしとこうか。卒業だからって、暗い話をしたい訳じゃないんだし」


「他の生徒みたいに鼻水なしでは語れない話など、私達の間柄にないでしょうに。これ以上話すネタはあるんですか?」


「うーむ。そういえば、特にない。実際、毎日学校で顔を合わせていた訳じゃないしね。しかも後輩ちゃんは特進コースだし」


「では、最後なので卒業証書に何か書いてあげましょう」


「わーい……って、それって普通は卒業アルバムじゃないの?コメント欄が設けられてるよね?しかも、最後じゃないよね?え。最後にする気なの?」


「うるさいです。ほら、さっさと貸しなさい」


「……はい」


「…………今更ですけれど、卒業証書で初めて先輩の名前を知りました」


「わお。確かに名乗らなかったしねー。ま、別に名前なんて親がつけた僕の番号みたいなもんだし、気にしなくて良いよ。いつも通りに『先輩っ!』って呼んでくれればいい」


「……語尾にはーとがつきそうな呼び方はしたことないですよ」


「あれ、そうだったっけか」


「どうぞ」


「ありがとう。どれどれ? ……おー…………、これって糸ミミズかい?知らなかったなー。後輩ちゃんって糸ミミズが好きだったんだ」


「……先輩の似顔絵です」


「え?」


「いえ、何でもありません」


「可愛い可愛いいいいいいいいいい!!!!秀才な後輩ちゃんが絵だけは壊滅的とか、何そのスペック可愛すぎるううううううう!!!!」


「うるさいです」


「けぺ」


「さて、今日はいつもよりも話したからここらで良いんじゃないですか?高校生活最後の部活も、終わりにしましょう」


「高校生活は終わったとて、僕らの関係は終わらないからね。未練はないよ」


「本心は」


「放課後にアイスを食べたり、本屋に行きたかった。それで僕が『制服デートだね』って言って後輩ちゃんの頬を薔薇色に染めさせたかった。あわよくば授業をサボって屋上で空を見ながら、お互いの将来について話し合いたかった。で、『先輩と離れたくないです……』って泣く後輩ちゃんの頭を撫でながら『離れるはずないでしょ。僕と結婚するんだから』って言って、プロポーズしたかった。更にその流れで、18禁なことに手を出したかった」


「未練タラタラじゃないですか。その十割が不可能なことですけど」


「うえー、後輩ちゃんと結婚したーい」


「どさくさに紛れてプロポーズしないでください。それではいつものですよ」


「うえーん。またねー」


「はい、さようなら」

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