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狂特戦隊-シーズン2(前日譚)  作者: portanlo
今シーズンの特殊編
34/34

【特殊編:もしもし! 警察ですか!? 狂った男が俺を息子にしようとしてるんです! そ、そいつ……パイプを咥えて……もしもし!? ――ツーツーツー……】

(――クソが……俺が一体誰に仇なしたってんだ? まだ甘い汁も吸ってねぇうちに、イカれた男が来やがった!)


 冷や汗をだらだらと流しながら、獰笑ゴブリンは慌ただしく荷物をまとめ、これまでの出来事を思い出していた――。


 ──────────────────────────────────


 満足のいく返答を聞き、イカれた男は獰笑ゴブリンの肩を軽く叩いた。 「いい子だ。俺についてくりゃ、絶対に損はさせねぇよ」


 男が手際よく縄を解くと、パイプを外し、手慣れた様子で元の席へと戻って饒舌に語り始めた。 「俺の知る限り、お前はちょっとした発明ができるだけじゃなく、最近はオペまで執刀したらしいな?」


「本当はお前の他にもう一人、目をつけた奴がいてな。そいつもお前のところでオペを受けたばかりだったんだが……。惜しいことに、そいつの後ろ盾がデカすぎてな。俺でも手が出せなかった。」


「だが、そのオペのおかげで、お前がそんな技術を持っていることを思いがけず知ることができた。まさに棚からぼた餅ってやつだ、そう思わねぇか?」


「ゴホッ……おい、あんた。室内は禁煙だ……」 顔に吹き付ける鼻を突く煙に、獰笑ゴブリンは嫌悪感を剥き出しにして、鬱陶しそうに手で煙を払った。


「おっと、そいつは悪い癖だな」 イカれた男は平然と手元のパイプに目を落とし、何事もなかったかのように再び口に咥えて一服した。 「それと、俺のことはオールドマンと呼べ」


「それにしても、ゴブリンという種族は、天才をゴミ溜めに捨てるなんて……。まったく、宝の持ち腐れもいいところだな……」


 獰笑ゴブリンは、内心の恐怖と屈辱を必死に押し殺し、主客転倒して居座り続ける目の前の無頼漢を睨みつけた。 「話があるなら手短にしろ、くだらねぇ戯言ならさっさと吐き出しやがれ。聞いてやるから……」


 ──────────────────────────────────


 出鼻をくじかれたオールドマンは、つまらなそうに獰笑ゴブリンを眺めてしばらく考え込んだ。それから、一袋の交易金貨を取り出して尋ねた。 「武器を一つ作ってくれ。最近、あの連合だか何だかが開発してる武器と同じようなやつだ。少しユニークなのがいい。1日か2日あれば、用意できるか?」


 オールドマンの突飛な要求に一瞬呆気に取られた獰笑ゴブリンは、しばらくフリーズしていたが、やがてテーブルに置かれた現金を見つめ、恐る恐る尋ねた。 「……これだけか?」


 オールドマンは煙を吐き出し、意味深に答えた。 「まさか、これだけで済むはずがねぇだろ。俺の胃袋はそう簡単には満たされねぇんでね」


 獰笑ゴブリンは目をキョロリと動かし、即座に答えた。 「いいだろう、取引成立だ」


 オールドマンは満足げに微笑み、立ち上がると、獰笑ゴブリンの傍らへ歩み寄ってその肩に手を置き、ぐっと揉んだ。 「よし! 実に話が早い! やはり俺の見込んだ通りだ!」


「完成を待ってるぜ」と言い残し、オールドマンは獰笑ゴブリンの家を後にした――。


「ふざけんじゃねぇ! 誰がそんな狂った取引に応じるかよ……」 オールドマンが完全に立ち去ったのを確認すると、獰笑ゴブリンは拳を机に叩きつけた。こぼれ出た金貨を見つめ、ゴクリと唾を呑み込み、冷や汗を流しながらそれらを袋に回収した。 「これはあんたからの精神的慰謝料としていただくぜ……。とっととずらかる準備をしなきゃな……」


 ──────────────────────────────────


「あ、そうだ、そうだ。絶対にこれを忘れるわけにはいかねぇ……」 獰笑ゴブリンは傍らの鍵のかかった宝箱を開け、中から慎重に細長いガラスシリンダーを取り出した。


 ガラス管の中で、青白い光を放ちながらチリチリと揺らめく、幾筋もの微細な電弧をうっとりと見つめていた獰笑ゴブリン。だが、ふと我に返ると、慌てて頭を振った。 まるで両手で捧げ持つ掌中の珠でも扱うかのように、それを優しく丁寧にバックパックの中へしまい込んだ――。


 ──────────────────────────────────


 早くあの家を売りつけてきたがめついエルフに連絡して、この家を売り払わねぇと……。あ、クソっ、どこにやったんだ……」


 獰笑ゴブリンは慌てて自分のポケットを探った。その時、肩口から鍵束が差し出され、彼はホッとして自然にそれを受け取った。 「おっと! ありがとよ」


 玄関の鍵をかけ、振り返って鍵を返そうとした瞬間、彼の身体は凍りついた。 顔面を土気色に染め、噛み合わせの狂った歯車のようにギシギシと震えながら、手を差し出している主へと視線を向けた。


 オールドマンはパイプを咥え、獰笑ゴブリンの後ろに悠然と佇んでいた。そして、愉快そうに笑いながら尋ねた。 「お出かけかい?」


 獰笑ゴブリンは慌ててお茶を濁した。 「買い出しですよ、買い出し」


 それを聞いたオールドマンは、彼の背中と手に持った荷物を指差した。 「その大荷物でか?」


「あはは……いやぁ、悪い癖なんですよ、悪い癖……」 精神が崩壊しかけた獰笑ゴブリンは、引きつった笑みを浮かべ、鼻水と涙を流しながら、再び鍵を受け取って玄関の扉を開けた――。


「いいさ、悪い癖なんて誰にでもある。俺の悪い癖はパイプと、退屈を持て余すことだからな」 オールドマンは、獰笑ゴブリンがとぼとぼと家の中へ戻るのをその場で見送り、いたずらっぽく悠然と去っていった――。


 傷ついた心をどうにか落ち着かせ、部屋の中を三時間ほど行ったり来たりしていた獰笑ゴブリン。そっとカーテンを開けて外を覗き見た。あちこちに目をキョロキョロと走らせていると、その視線は通りの向かいにあるベンチで本を読んでいる人間の男にピタリと止まった。


(あのイカれたクソ野郎……わざわざ俺を見張る奴を雇いやがったな……)


 時折こちらに視線を投げかけてくる男を睨みつけ、獰笑ゴブリンはすっかり生気を失った様子でカーテンを閉じた――。


 やがて、遠くから軽快な鈴の音が響いてきた。耳をそばだてていた人間の男は、嬉々として本を閉じた。


 ──────────────────────────────────


 ベンチで長いこと待ち続け、お目当ての『あの味』に目を輝かせていた男は、通りの向かいに停まった騎鳥が牽く改造台車へと小走りで向かった。熱々の料理を受け取ると、男は満足そうに安全ヘルメットを小脇に抱え、宿舎へと戻っていった――


 夜の帳が降りる頃、オールドマンはそこらで適当に買ってきた飯を手に、鍵を差し込んで扉を開けた。明かりの灯っていない暗い廊下を進む。 リビングのソファで丸くなっている獰笑ゴブリン。その目は真っ赤に血走り、ガタガタと震えながら爪を噛んでいた……。


 オールドマンは明かりをつけ、食事をテーブルに並べながら、独り言のようにつぶやき始めた。 「ガキの頃、本で読んだことがある。ゴブリンという種族は、極めて狡猾だとな。だからずっと気になっていたんだ。果たして人間とゴブリン、どちらがより悪賢いのか?……どうやら今日、それが証明されたようだな」


「本当は、この二日ほど部下を呼び寄せて、新しくできた『お友達』の面倒を見させようかと思っていたんだが……」 彼は食事を獰笑ゴブリンの前に置き、食器を取り出しながら続けた。 「だが、面倒くさそうだからやめた。まあ、俺が直々に相手をしてやるよ」


 獰笑ゴブリンは猛然とテーブルに両手を叩きつけ、美味そうに飯を口に運ぶオールドマンに向かって崩壊気味に叫んだ。 「もういい! 俺の負けだ! これで満足かよっ!?」


 ──────────────────────────────────


「おい、あんたの注文通りのブツだ」


 ソファに腰掛け、悠々と紫煙を燻らせていたオールドマンは、一日半を不眠不休で過ごし、見事な目の下の腫れ上がったクマをこしらえた獰笑ゴブリンへと視線を向けた。獰笑ゴブリンは、手元にある厳重に包まれた布をめくった。


 オールドマンは、布の上に置かれた、精緻な紋様が刻まれた銃器をひょいと手に取り、興味深そうにまじまじとした。それからテーブルに戻し、満足げに言った。 「上出来だ、ゴブリン」


 ──────────────────────────────────


 オールドマンが満足している様子を見て、獰笑ゴブリンはひとまずホッと胸をなでおろした。だが、オールドマンの無骨な雰囲気とは似つかわしくない、その洗練された武器をまじまじと見つめ、思わず問いかけた。 「率直に聞くが、その銃はお前が自分で使うためのものじゃないだろ?」


 オールドマンは布を受け取り、再び銃器を丁寧に包み直すと、不敵に口角をつり上げ、ニヤリと笑った。 「その通り。これは『エサ』だ」


 オールドマンの不遜な笑みを前に言葉を失い、獰笑ゴブリンは額を押さえた。心の中で、これからこの罠にかかるであろう哀れな犠牲者の冥福を祈りながら……。


「それはそうと、この妙な代物は何だ?」


 顔を上げた瞬間、獰笑ゴブリンは驚愕に目を見開いた。オールドマンが、例の細長いガラスシリンダーを両手で無造作に眺めていたからだ。


「ひぃっ!? あんた、いつの間に!? だ、駄目だ! 優しく扱ってくれっ!」 獰笑ゴブリンは膝の力が抜け、這うようにしてオールドマンの方へと必死に這い寄った。 「あんたの手にあるのは、世界で唯一の未知の一点物だ! 少しでも手元が狂ったら、すべてが台無しになるんだよっ!」


「ん?」 崩壊寸前のゴブリンを見下ろし、オールドマンはいぶかしげに片眉を上げた。


「頼む、お願いだから……そっと、そっと置いてくれ……」 獰笑ゴブリンは目を見開き、まるで喘息の発作でも起こしたかのように必死に説明した。 「それは未知の植物の繊維だ。世界のいかなる文献にも記録されていない大樹の幹から採れた……俺がエルフの指導者のところから、どうにか密かに留めておいた原料なんだ……」


「何をそうピリピリしてやがる」


 オールドマンは再びシリンダーの中に目を戻した。液体に浸された幾筋もの繊維が、青白い微光を放ち、互いに触れ合うたびにパチパチと微弱な電弧を発生させている。


「当たり前だろっ! それは生物の神経と直接接続できる唯一の繊維なんだ! もしこれが台無しになったら、俺の一番の稼ぎ頭である『義肢技術(プロセシス・テック)』が水の泡になっちまう!」 獰笑ゴブリンは慌てて細長いガラスシリンダーを奪い返し、赤ん坊でもあやすように頬ずりした――。


 ──────────────────────────────────


 それを聞いて、オールドマンは本来のもう一つの目的を思い出し、がぜん興味をそそられて尋ねた。 「その繊維で『義肢』が作れるってのか?」


「俺がハッタリを言ってると思うか? 現在知られているいかなる樹種も、これほど奇妙じゃない。遭難した船が『ライフレス洋』の島から持ち帰ったものなんだからな」 獰笑ゴブリンはオールドマンを忌々しげに睨みつけた。


 獰笑ゴブリンのその表情を見て、オールドマンも面白がるような態度を収め、黙ってパイプをくわえて一服吸い込むと、淡々と告げた。 「話がここまで来ちまったんなら、好都合だ。俺が次の奴を手に入れたら、お前には俺と一緒に遠出をしてもらうぜ……」


 ──────────────────────────────────


 重苦しい空気が漂うホーリー・グロリア・キュリアの首都。御者が騎鳥を駆って荷車を引き、街道を進んでいく。オールドマンと獰笑ゴブリンは、沿道の住民たちから投げかけられる異様な視線の洗礼を浴びていた。


 二人がようやく聖教病院へと到着し、人混みを掻き分けて病室の扉を開けると、そこにはベッドの端で横向きに横たわり、静かに目を閉じている少年がいた……。


 ベッドの上の少年が眠ったふりをしているのを見抜き、オールドマンは静かにその枕元へと歩み寄った。手を伸ばし、少年の頬を優しく撫でながら、静かに語りかける。 「自分を責めないで、君が悪いんじゃない……わが子よ」


 二人が前後して病室を後にすると、窓の外の橙黄色の景色と光が、徐々に暗がりへと沈んでいく廊下を照らし出した。


「見ての通り、あいつが俺の唯一生き残った家族だ」 オールドマンは陰鬱な表情を浮かべ、その呼吸は重く、そして荒い。「費用がどれほどかかるかは分からん。俺のこれまでの蓄えをすべて前払いでそっちに回したって構わん。あいつのために義肢を作ってやってくれないか?」


 最後に病室を後にした獰笑ゴブリンの瞳から、すでに嫌悪の色は消え失せていた。彼は真剣な眼差しでオールドマンを凝視し、問い詰めた。 「あんた、本気で狂ってるのか、それとも狂ったフリをしてるだけなのか?」


 ──────────────────────────────────


 パイプに火を灯したオールドマンは、それを聞いて両肩をすくめ、口元を歪めて問い返した。 「さてね。お前の診断はどうなんだ、先生?」


 ふぅ、と紫煙を吐き出し、オールドマンは続けた。 「義肢の製作を依頼したいのもそうだが、もう一つ、俺をホンヴァーシャまで護送してほしい。それが終われば、あとはお前たちの好きにするがいい……」


 獰笑ゴブリンは油断のない視線のままオールドマンを見つめた。 「ホンヴァーシャだと? あそこはとっくに陥落したと聞いているが……」


 ああ。俺の故郷の言葉で言えば、『マザーファッカー』ってクソ野郎が俺の故郷を侵略しやがってな。俺を本気でキレさせやがったんだ……」 オールドマンは淡々とパイプをくゆらせながら、自らの計画のすべてを静かに語って聞かせた――。


「あんたが死のうが生きようが、俺の知ったことじゃないがな。死にたきゃ勝手に死ね……」 すべての手はずと計画を聞き終えた獰笑ゴブリンは、やれやれと白目を剥いてため息をつき、首を振って問い返した。「だが、息子のことはどうする? あの子の気持ちを考えたことがあるのか?」


「……俺は失敗した指揮官であり、国を失った。失敗した父親であり、家族を守れなかった。とっくに死刑を宣告されるべき身の上さ」 オールドマンは首を回してコキリと骨を鳴らすと、背を向けて廊下を歩き始めた。「俺に残されているのは、一刻も早く故郷へ戻りたいという執念と、仇敵を地獄へ引きずり落とすための狂気だけだ」


「おれの元素の精霊たちよ……会話が噛み合ってねぇぞ」 遠ざかるオールドマンの背中を見つめ、獰笑ゴブリンは不満そうに後を追いかけた。「まあいい、死に急ぎたいってんなら望み通りにさせてやる。だが、おれを巻き込むんじゃねぇぞ」


 オールドマンは振り返らず、背を向けたまま答えた。 「当然だ。信用は、軍人にとって何よりも重んじるべき美徳だからな」


 ──────────────────────────────────


「よし、戻るぞ。野郎ども、準備を怠るな。次の旅が俺たちを待ってる」  オールドマンは立ち上がり、服の埃を払うと、傍らのゴブリンに声をかけた。 「トロルは今日一日、お前に任せる。子供だと思って大目に見てやってくれ。あいつは聞き分けがいい」


 ──────────────────────────────────


 背後に重苦しい足音を響かせたまま、獰笑ゴブリンは猫背をさらに丸め、不満げにぼやいた。 「あーめんどくせぇ……。面倒を見るなんて、本来あんたの責任だろ。おれに丸投げしやがって、一体どういうつもりだ?」


 獰笑ゴブリンは、エルフが一時的に管理している家へと赴き、交渉を始めた。彼が金袋を手渡すと、エルフはそれを受け取り、部屋の内側へと入るよう手を差し伸べて促した。


 部屋の中に入り、ざっと見渡して満足げに振り返った獰笑ゴブリンだったが、玄関のドアから下半身だけを突っ込んでいるトロールの姿が目に入り、思わず白目を剥いた――。


(そうだ……こいつの存在をすっかり忘れていた……)


 最終的に、獰笑ゴブリンは仕方なく、再びエルフと交渉を重ねた。エルフに案内されて二人が倉庫へと移った後、ようやくそこで一夜を明かすことに決めた――。


 夜空に満天の星々と明月が浮かび上がる中。 獰笑ゴブリンはそこら辺にあった木箱を持ってきて、その上に紙を広げた。片手で額を支えて苦思しながら、紙の上に何度も図面を描いては消しを繰り返していた。


 その時、トロールが嬉しそうに獰笑ゴブリンの作業を遮った。


 その太く逞しい手が、しわくちゃの紙を慎重につまみ、宝物でも差し出すかのように木箱の上に置いた。 トロールは期待に満ちた無邪気な笑みを浮かべ、はしゃいだ声を出した。「見て、見て! ちいさな人、ベビー、みんな!」


 自分の図面がトロールに奪われ、落書きされているのを目にした獰笑ゴブリン。うんざりとした表情で、反射的に声を荒らげた。「おい……お前……おれの紙を勝手に持ってくんじゃねぇ……」


 だが、紙の上にまじまじと目を凝らした瞬間。そこに描かれた、歪に歪んだ自分や他の変わり者たちの、まるで『棒人間』のような拙い絵が目に入り、彼は残りの言葉をすべて喉の奥に引っかからせた――。


 トロールはまるで悪いことでもした子供のように首をすくめ、落胆した様子で力なく謝った。 「ちいさな人、嫌い……? ベビー、だめ……」


 ──────────────────────────────────


「いいか。物を取る時は、先に聞くのが『礼儀(マナー)』だ」


 全大陸から恐れられる遊牧種族でありながら、あまりにも怯えきった姿を見せる彼に、獰笑ゴブリンは流石に見かねて、ぶっきらぼうに言葉を改めた。 「お前、描くの、上手いな。おれ、これ、好きだぞ」

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