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病み魔法使いの弟子  作者: ありんこ
夏の硝子
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美少女と同じ屋根の下で眠れる状況に涙しかない。

長文タイトルのときは大体トリップ野郎です。

そうじゃないときもあります。

 イルマの自宅は閑散とした駅前の雑居ビルだった。あまり大きな駅ではないのだ。ビルの向こうに青くぼんやりした山の陰。薄墨で描いたような雲の流れ。

 空気はこの世界に来てから今まで吸った中でもっともおいしい。

 ワーストワンは迷宮。かび臭い、死体臭い、何か腐ってる。

 次が一番都会だった駅のホーム。タバコとか香水とか電車のにおいとでもいうのか、色々混じった臭気。あれでも通学に使っていた駅よりマシだというのが一番ショックなポイント。

 それから謎の研究施設。薬品臭がたまらない。

 迷宮の外の施設。心洗われる草原の清浄な空気の中に血と硝煙の香り。信じられるか……?あの洞窟、観光地なんだってよ。

 ここは日本の閑静な住宅街の空気と山の頂上のような爽やかな空気を3対7で混ぜたような感じだ。

 空気がきれいなのは、魔法のおかげなのだろうか。

「違うよー。あんまりやると魔物に攻め落とされるんだよね。とくにここはお隣さんだから」

「お隣さん?」

 駅前の広場では顔面が完全に犬のお姉さんがポケットティッシュを配っていた。一つもらった。美容室の広告が入っている。耳が垂れ耳のようで、マズルが長い。

 顔部分はコリーに似ているだろうか。はふはふ、と息をしている。毛皮は灰色で、同色のスーツを着ている。意外にも手はごくごく普通の若い女性のものだった。

「この国、海を挟んですぐ隣に魔界があるんだ。……魔界ってわかる?」

「えーと小説とかでは。魔物がいっぱいいたり魔王がいたりするとこ、って認識でいいか?」

「大体そう。魔王もいっぱいいるよ、なんたって世界中の大陸で一番広いもん。確か地球儀があったから見せてあげるね。説明がめんどくさいから自分で図書館とか行って調べてほしいんだけど」

 ファンタジー世界らしくなってきました!勇者とかいたりして、とまたニヤニヤする。ユングが「汚物が……」と呟いていたが気にしない。ニヤニヤ。

 あ、でもここまでの感じだと勇者の剣とか探さない気がする。空爆とかやる気がする。報復が自爆とかになる気がする。解決手段にファンタジー成分含まれないかも。

 ビルの内装もごくごく普通のものだった。一階の奥にクリーム色の扉が見える。開けてみようか、どうしようか?

 考えていたら首の後ろにひやりとした感触と、かちりと安全装置の外れた音。

「開けるな」

 イルマが銃を突き付けていた。たぶん拳銃なのだが、何分異世界なものでどういう銃なのかまではわからない。姿勢を正して返事をする。

「はい!」

 ひやりとした感触がなくなってから振り向くと、イルマはいつも通りの楽しそうな笑顔だった。黒光りする銃の安全装置を元通りかけて、カバンの中に入れる。

 もしかしてヤンデレ?メンヘラ?いやもっとやばくないか?今のが冗談だという可能性は……まず、ない。

 二人がコンクリートの階段を上がっていくのを追いかける。突き当りに『魔導相談事務所』という文字の書かれた、A4くらいのすりガラスがはまったドアがある。仕事場らしい。

「ちゃんと飼い主の指示はわかるみたいだよ、ユング」

 そんなことを言いながらイルマがカギを開けた。何だろうこの……よくある探偵事務所みたいな家具の配置。来客用のソファがあって、テーブルがあって、その奥に引き出しがたくさんついたカウンター、カウンターの奥にキッチンがある。

 靴を脱いで上がる仕様なのが違うと言えば違う。

「犬でもわかる簡単な指示でしたけどね。もう少しくらい高度な命令を出してみたいものです。首を吊らせるとかね」

「えー?いいけど証拠は残さないでね?死体の処理とか手伝わないよ?」

 遠い日本のお父さん、お母さん。相馬剛志は今、異世界で異常者二人に飼われてます。助けてください。届くわけもないか。開き直ってヒロイン攻略しようか、なんて思える精神力は持ち合わせがない。

「お昼にしようか」

 イルマがいつの間にかエプロンをつけていた。長い上着とカバンとマントはポールハンガーにかかっている。杖は傘立てだ。そういう感覚なのね。扱いって出るよね。

「今日はちょっとおいしいよ!なんたって迷宮だったからね、豪華だよ」

「蜂の子ですか?僕はあれがいいな」

「あれは私のおやつだからあげないよ。ユングご飯炊いて。白米急速ね。とりあえず3合。剛志は……うーん、パッと思いつかないからしばらく自由に行動しないで。呼吸もだよ」

「無理だろ!?前半はともかく後半は無理に決まってるだろ!?」

 だんだん素が見えて来た。あれだ、サイコって奴だ。人間とパンを同列に語れるあれだ。今回は白米だったけど。

 下手に動いて撃たれるのも嫌なのでじっと立っていることにした。

 キッチンの方でしゃかしゃかと米をとぐ音がする。無洗米とかじゃないのか。

 少女と少年の二人しかいないとしたら三合は多いな。なんだかんだ言って気遣ってくれているということか。能天気さが出て来た。

 おかずの方は何だろう。カニでも蒸してるようなにおいと、レンジの音と、焼き鳥みたいなにおいがする。豪華そうだ。

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