翼はいらないんでお米をください
「はーいできたよー」
しかし、テーブルに並んだ茶碗は二つだった。箸、取り皿といったほかの食器は人数分あるのに、白米の盛られた茶碗だけがない。働かざるもの食うべからずって言いたいのか?
「えーと、俺の分はないんでしょうか……」
「え?二ホン人って白米食べるの?それならそうと早く言ってくれればいいのに。三合で二人分だからとりあえず今日は諦めたまえ」
文化が知られていなかった。気を取り直して、大皿のカニの脚に箸を伸ばす。奇麗な朱色に茹で上がった、ずいぶん大ぶりのカニだ。
脚を見る限りタカアシガニかっていう、鋏は見当たらないけど、もちろん胴体もそこに一緒に置いてあるのだがそれは見たくないっていうか見たらそのうわあああああああああ大蜘蛛だああああ。
「食べないの?おいしいけど。あとそれ一人三本までね。あと二本はじゃんけんで、ミソの部分は私のだから」
「ちょっと先生、こいつ捕まえたの僕なんですけど。ミソくらい譲ってくださいよ」
「えー……調理したの私だもん……よし、半分こしよう。特別だからね」
――がっかり手料理ってレベルじゃねえぞ!まずベクトルも違うけど!
蜘蛛の脚をぽきんと折ってカニによく似た肉を引き出し、ポン酢で食べている。そこだけ見るとでかいカニを食べているようにしか見えない。
だが大皿の上には当たり前のように蜘蛛の本体が置かれているのだ。食えるか。焼き鳥でも食べるか。
レンジでチンしていたのはどうやら本当に焼き鳥だった。甘いたれがかかっている。ご飯が進むなあ、ご飯ないけど。
鳥にしては脂がのっている。ファンタジーだし、鶏じゃない鳥なのかもしれない。驚いたのか、一瞬ユングの箸が止まった。
「そっちは食べるのか……へえ」
何だか冷たいものが背筋を駆け上がった。
「ど、どういう意味だよ?ただの焼き鳥だろ?」
ユングは答えずにポン酢をつけた蜘蛛で白米を食べる作業に戻った。イルマが代わりに答えてくれる。
「うん……まあねえ……この国って国土が魔物だらけ山だらけで畜産どころか鶏養殖にも向かないから、その『ただの焼き鳥』っていうの?手に入らないんだよね」
「えーと……もしかして俺は今、とんでもない高級品を味わってしまった、なんてことは?」
「ないけど?あ、それ4本以上一人で食ったら殺す」もう三本食べていた。本日の昼食、あと一本。大皿からまた一本焼き鳥のようなものが消える。
「ところでさあ、ユングは共食い的なあれは大丈夫なわけ?オニビさんの孫なんだろ?」
知らない人の名前が出て来た。完全無視で話を進められるらしい。
「大丈夫ですよ。通常種か否かの表示は義務付けられて……というより通常種の方が多いし安いですからね。先生が買うなら通常種でしょ?だったら大丈夫です、ほとんど別の種ですから」
「そっか。……サラマンダー、おいしいね」
今何かやばいのが聞こえた。きりきりきり、ねじまき人形のように顔を上げる。さら、さら。もしかしてあの魔物がそういう名前じゃなかったかな。有名だよあれ。
「今、何だって」
ホカホカ湯気の上がるたれの絡んだ焼き鳥を、イルマが旨そうに頬張る。そこへさらに白飯を一口。もくもく。空になった茶碗を持ってキッチンに行き、セルフでこんもりと白飯を盛って戻ってくる。
三合があっという間に魔導師たちの胃袋へ消えていく。しかも大体半々ずつの比率。ユングの方はともかく、女が食う量ではない。
正しくは、童貞の思う女が食う量ではない。
「今、何て言ったんだよ!?」
「サラマンダー、だってば。これ腿肉ね。スーパーのお総菜コーナーに30パーセントオフで並んでたの。何青くなってんのさ?もう鶏肉だと思ってどんどん食べちゃいなよ。もちろん4本以上食ったら殺すから、蜘蛛でも食べな。もちろんミソ食べたら脳みそをボイルして魔物のエサにしてやるから」
神様、俺はもっと別のファンタジー世界にトリップしたかったです。
どうも最近忙しくて更新が滞っております。あー去年の私はどうやってほぼ毎日更新とか隔日更新とかやってたんだろう。




