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第08話 立ち上る黒い煙


 寒さが厳しい冬が終わり、春の訪れが世界に新しい命と希望をもたらす頃、不穏な影が大陸全体に忍び寄り始めた。

 遠くの空は赤く染まり、不安を煽るような黒い雲が立ち込める。

 それは、すぐ近くまで戦争の足音が近づいてきていることを告げている。


 ある日、ルキとレシアは村の中心で鳴る甲高い鐘の音を耳にした。

 鐘の音は敵軍が近づいているとの報せだ。

 村の方からは恐怖が広がる声が風に乗って、ルキとレシアの元へ運ばれる。


「レシア、君は逃げて……君は窮屈に感じたかもしれないけど、僕はここでの暮らしが好きだ。だから、ここを守ると同時に、君の後を追う者を僕が引き留めるよ。1分かも知れないし、1秒かも知れない……それでも、君の明日に続くように、僕は戦うよ。だから、君は僕たちの子どもを連れて逃げて」


 ルキは決意を固めた表情で言うと、レシアに優しく微笑んだ。

 けれど、レシアは首を左右に振ると、力強い視線をルキに向けた。


「いいえ、ルキが残るなら、私も戦うわ。それに、私だってここでの暮らしが好きになったのよ? 確かに、今も外の世界にも興味はあるけど、あなたが居ない世界なんて無意味だもの。私たちはこれまでずっと一緒だったわ。それなら、これからも一緒よ」


「それなら、エレニアはどうするんだ!? 親がいなければ、1人ではまだ生きられない!」


「分かっているわ。ねぇ、ルキ……私たちは弱いわ……今生き残ってもババ様より先に死んじゃうかもしれない、でもババ様は違うわ……きっとあの子が育つまで、私たちにしてくれたように、導いてくれるわ。それに、まだ私は死ぬつもりもないし、ルキも死なせないわよ」


 胸を張ってレシアが言い切ると、目元を押さえてルキが笑い出した。

 その声は悲し気で、どこか覚悟を決めた声のような気もした。


「分かったよ。本当、レシアには昔から敵わないなぁ」


「これでも、あなたの姉になろうとしたからね」


「そうだね……そうだったね」


 それから、ルキとレシアはババ様に子どもを託すと、ババ様は精霊の力を借りて、家の周囲に結界を張った。

 日々育んで自然との共存の末、張られた結界は強固な守りとして感謝を伝える。

 大地も草花も、木々も、これから彼が迎える終わりを悟っているかのように、家を取り囲む。

 それは、精霊の力だけでは成し遂げられない、説明できない現象だった。


 ルキとレシアは村へと向かうと、村の防衛のために準備を始める。

 村の男性たちは武器を手に取り、女性たちは物資を集め、皆で協力して防衛の態勢を整えた。

 時間は残酷にも止まらず、足音はすぐそこまで来ている。

 そして、空が悲鳴を上げると、敵軍は圧倒的な数で村に迫り、無慈悲に攻撃を開始した。


 火の手が上がり、村全体が戦場と化す。

 それでも、ルキとレシアは家に残してきた家族を守るために必死に戦い、敵の攻撃に立ち向かう。


「ルキ、気をつけて!」


 レシアが叫びながら、ルキの背後に現れた敵を倒す。


「ありがとう、レシア。君も気を付けてくれ」


 ルキは感謝の意を込めて言った。

 額はわずかに赤く滲み、それでも彼は持っている武器を振るう。


 戦いは熾烈を極め、敵の猛攻は止むことがなく、空が真っ赤に染まっても続く。

 それでも、ルキとレシアは諦めずに戦い続け、彼らの勇気と愛が、村の人々に希望を与えた。


 ルーメンとエレンブルはその様子を、静かに見つめた。

 ルキが言ったように、彼らが戦いに加われば、この戦果はさらに激しさを増すだろう。

 それは、彼らの力を手に入れるまで止まないことを意味する。

 拳を握りしめてエレンブルが歯を食いしばると、ルーメンは落ち着いた様子で語る。


「今は信じるしかないんだよ。ルキは僕たちが人を殺すことは望んでいないし、僕たちが追われる側になったら、ルキもレシアも悲しむ」


「分かっておる。ただ、こんな力を持っておるのに、何もできぬことが今は腹立たしいだけだ」


「それは、僕もだよ……僕たちがしたことは、間違いじゃなかったってルキとレシアが証明してくれた……だけど、守りたい者も守れないのはつらいね」


 戦場の混乱の中で、ルキとレシアは互いに背中を預け合いながら戦った。

 彼らの絆が戦場での強さを増し、敵に立ち向かう力となっていた。

 村の人々も勇気を出して戦いに加わり、皆が一丸となって敵に立ち向かった。

 戦争の影は依然として重くのしかかっていたが、ルキとレシア、そして村の人々は希望を捨てず、未来を守るために戦い続けた。

 周りが暗くなると敵が撤退し始め、つかの間の休息が村に訪れる。

 次の攻撃がいつ始まるのか分からず、それでも今生き残っている者たちは死者を弔う。

 戦争の傷跡が村に残る中、ルキとレシアは手を取り合い、再び立ち上がる決意を固めた。


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