第11話 ハッピーエンド!(アルス視点)
まず第一に、あのクソ王子は予定を変更して次期国王としての修行に入った。
本当は内緒なんだけど、僕と聖女であるエルメリア様は被害者ということで特別にその内容を聞いた。
なにせ第一王子に対するお咎めはほぼないということで、聞かないと収まりがつかないのではないかと国王陛下が思われたからとのことだ。
まず、この国では国王になる前に訓練とか、修行とかと言われるものがある。
次期国王となった王族の方が受けるもので、過去の国王たちは精魂が入れ替わるほど苦しいと評しているとか。
この言葉だけだと厳しいんだなとしか思わないが、実際を聞いてみるとあんまり受けたくないなと思うくらいにはきつそうだった。
なお、僕自身はルドニス様から結構厳しい修行を課されてきたのでその程度の反応だけど、普通の貴族が聞いたら逃げ出すだろう。
なにせ、そもそも教育係が竜だ。
王城に古より住み着いて守護を与えし大いなる竜。
もちろん僕も竜のことは伝承で知っている。
でも、まさかそこまで王家に関わっているとは思っていなかった。
そんな竜の指導の下、精神に直接刻み込まれる掟。そして知識。
その上で思考を叩きこまれ、文字通り精魂を入れ替えられるのだ。
国王陛下があんなにドタバタしてしまっていたのは、王妃様が怖かったからとのこと。
普段政治の場においてはしっかりされているらしい。
これは王妃様曰くだ。
そして、今現在、竜の指導下に置かれたレオナルド殿下は毎晩のようにうめき声や叫び声をあげているらしいが、逃げることもできずに教養から叩き込まれているとのこと。
性根が変わらない限り合格も出されないため、出てくるころにはまともになっているだろうとのことだった。
そして今、僕はエルメリア様と一緒にいる。
さっきまで王城に招待され、国王陛下、王妃様と一緒に食事を採っていた。
僕と聖女であるエルメリア様とは正式に婚約した。
僕も、結婚するのなら男らしく、と思って即興だけどプロポーズしたら、エルメリア様が気絶したのには驚いた。
もしかして嫌だったかなと思って慌ててしまったけど、王妃様には大丈夫だと言ってもらえた。
それでも恐る恐る翌日神殿を訪ねると、歓迎してもらえた。
神殿は清貧を是とする場所だ。もちろん王城のように豪勢な料理が出たりはしない。
それでもエルメリア様お手製のスープはとても美味しかった。
正直、今まで食べたどんな料理よりも美味しかった。
後日、自宅でそう話したら、なぜか母さんと妹のミュリアが作ったスープを飲まされた。申し訳ないけど比べられるレベルじゃないと思ったが、一応美味しいと答えたら満足したようだった。なんだったんだ?
あぁ、つい脱線してしまった。
エルメリア様があまりにも素敵な人だったから。
そのまま婚約の書類を一緒に書いた。
嬉しさと気恥ずかしさでエルメリア様の顔が直視できないくらいだったけど。
それから家に戻ったら、師匠のルドニス様に最後の試験だと言われて戦いを挑まれた。
完全武装かつ禁呪まで使ってくる力の入れようで、僕も全力で戦った。
全力を出しすぎて訓練場を消し飛ばして父さんに怒られたけど、師匠からは合格を貰えた。
晴れて一人前になった。
そうして婚約の書類に、両親の承認と、推薦者としてルドニス様の署名を貰った僕は、その書類をエルメリア様に届けた。
エルメリア様の方はその後、ご両親の承認と、推薦者として神殿長が署名を貰ってくれた。
その書類を今日、国王陛下に2人で提出したら、そのまま食事に誘われたという流れだ。
なお、書類の承認欄の記名は通常国王陛下だが、僕らの提出した書類には王妃様も記名してくれた。
「これから夫婦になっていくわけだけど、神殿と領地。それぞれに責任を持つでしょう?誰かに任せて放置する人もいるけど、2人は真面目にやるでしょうしね。いつでも王城に来て欲しいわ。客間を専用に置いておくから。あと、エルメリア様は聖女の職務で各地を回ることもあるでしょうが、"竜"様が支援すると仰っていました。親としては恥ずかしい話だけど、『レオナルドは酷すぎた。王家が迷惑をかけたのだから、謝罪の一つとして協力しよう。まぁ必要ない気もするが、もし困ったときには相談せよ』とのことです」
「恐れ多いですが、ありがとうございます」
さらに"竜"様……とお呼びしてもいいのかな?……が協力してくれるらしい。
普通なら淀みの対処のために1か月とかかかる工程でも、"竜"様に転移させてもらえば一瞬だ。
もちろん僕でも数回の転移で国内のどこでも行けるけど、僕が同行できない時などはお願いしよう。
そうすればエルメリア様と一緒にいる時間が増えるから。
こうして僕たちは周囲に祝福されながら婚約した。
予定では半年ほど準備期間を取って、その後で結婚する。
実施されないと決まっていた結婚式ではあったが、周囲には公表されていなかったため、エルメリア様の方は既に結婚式はいつでもできる状態にある。
一方で僕はまだまだのんびりと考えていたから、大変なのはこちらの方だ。
それでも父さんも母さんも、家臣たちも全力で準備すると言ってくれた。
さすがに、もうドレスを準備したりはしないよね?
なぜ視線を合わせてくれないの?
本当にないよね?
美しいエルメリア様の隣に並ぶのがドレス姿の僕とか、絶対にないからね!
そして僕たちは王城の客間に泊めてもらった。
もちろん婚前交渉などしない。
今はゆっくりと話す時間を取ったけど、寝室は別だ。
「アルス様……」
「エルメリア様。遅くまですみません。いろいろとお話したいと思って」
「いえ、こちらこそです。その、言葉遣いとかは崩してもらっても構いませんので」
エルメリア様は気遣いのできる優しい方だった。
聖女様ということでどうしても固くなってしまう自分がいたが、やはり夫婦になるなら堅苦しさは取りたい。
できれば両親のように。
「そうですね。おいおい……結婚するころにはもっと普通に話せるように努力しましょう。お互いに」
「ありがとうございます。でも、本当に私で良かったのですか?」
「えっ?すみません、何か不安にさせるようなことがあったでしょうか?」
驚いた。僕は全身全霊で喜んでます!
どうすれば伝わるかな?
そもそも何か不安にさせたかな?
自分の行動を顧みるが、特に思い当たることはない。
……えっと……?
「いえ。その、急な話だったので……。すみません、お気を悪くされたら申し訳ないのですが……」
「構いませんよ。例え『死ね!』とか言われても……それは悲しいですが耐えますから、なんでも言ってください!」
「そんなこと言いませんよ!あっ、すみません、言わないです」
「ははは。楽にしてくださいね。口調もその方が気楽です……僕が崩さないからか。えっと、ごめん。丁重にしすぎていたかな?」
「私も許してもらえるならこの方が楽ね」
「これからはこうしよう」
やはりエルメリア様は素敵だ。
声もきれいだし、表情が自然になった。気楽にして良かったと思えるくらいには、可愛い表情が見れて嬉しい。
「それで、なにか心配事があったかな?」
「うん。その。王妃様に本当にいいのかって言われたときに『想う相手もいません』と答えていたときにちょっとだけ間があったように思って、それで」
「あぁ、あのとき。王妃様にも間があったって言われたっけ?」
「うん」
「ごめん。王妃様から想う人って言われてさ」
「うん」
「エルメリア様のことを一瞬考えた」
「はっ?」
「ステキな人だなって思ってたからさ。でも、エルメリア様と婚約、結婚するか聞かれてるのに、エルメリア様が想う人だったとしても問題ないよなって思って。それで一瞬間が空いたと思う。ごめんね。不安にさせてしまって」
「ううん……アルス様……いや、アルス……」
「うん」
真っ赤な顔のエルメリア様に抱きしめられた。
「大好きよ」
「僕もだよ」
それから先、僕たちは幸せに暮らしました。
ん?あぁ、したさ。
このまま終わらせようとしたのに聞かないでよ!
しっかりとキスしたよ!
幸せだった。
めでたしめでたしだよ!
じゃあ、僕たちの話を読んでくれてありがとうございました!
僕はこれから忙しいから、もし機会があればまたね。
再び僕と出会う時があったら、そのときはまたよろしくね!
お読みいただき、ありがとうございました。
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