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フレイヤ・スペンサーの秘密の加護〜借金返済のために王都に来たのに、探偵事務所に辿り着けません〜  作者: サトウアラレ
四章

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黒い魔物の最期と借金残額

『怖い…痛い…』


『出たい…駆けたい』


『憎い』


『許さない』


私が浄化の光を流すと抗うように、私に向かって強い憎悪、恐怖、絶望、悲しみが襲い掛かってきた。


私が憎いわけじゃない、私を恨んでいるわけではないのだろう。でも、そんな分別がつかないくらいになってしまっている。


目の前の人間を殺したい。ただただ憎い。邪魔だ。そんな強い欲望だけでこの子は動こうとしている。この子を倒す事は簡単だ。私が浄化の光でこの子の力を弱めて、ジェローム様達が魔力と剣で倒せばいい。この子は苦しみからも抜け出せて、その方が良いのかもしれない。


『ぐう!ががががが!!!』


苦しい声を上げて、私の方へと黒いツルの様な影を伸ばそうとしてくる。その黒いツルも、浄化の光に弱まり、苦しいのか、細く震えながらも私の方へ攻撃をしようと地面を這いながら近づこうとする。


『ぎゃ!ぎゃぎゃぎゃぎゃ!!!』


苦しみよりも憎しみが勝つのだろう、少しでも私に危害を加えようと必死に近づこうとしている。


「…いや、それだけじゃない…逃げたくないんだ…この子は…」


逃げようと思ったら逃げられたハズ。私は導かれるようにここに辿り着いた。この子は堕ちたくないんだ。苦しくても、この子の一部は戦っている。


「貴方も戦っているのね。もう少し、もう少しだけ付き合って」


私の言葉に黒い魔物は苦しみながら形を変え、足を延ばそうとしたり、どこかに逃げようともがいていたが、私は魔力で縛った小さなナイフを魔物の影に投げ、動けないように封じた。


「光の魔封じ?」


ジェローム様の声が聞こえるが、もう知った事ではない。私は大きく手を広げ、魔力を出しながらゆっくりと魔物に近づく。


「人間が憎いんでしょう。私を襲いたいんでしょう。だけど、今、私のような弱い魔力でもあなたが縛られているのは…。あなたも堕ちたくないんじゃないの?ここに貴方が隠れたのは、怖かったんじゃないの?」


『ぐがぐがっがががあが』


黒い魔物は口が裂け、目のある所はくぼみ、少しずつ溶け出していく。いくら呼びかけても、魔獣が堕ちたくないと思っている心は本の一握りくらいしか残っていないだろう。後は、憎しみと怒りと痛みと、悲しみ。色々な負の感情が占めているのだろう。


浄化を唱えながら私はゆっくりと手を伸ばした。が、魔物は形を蜘蛛のように黒い帯を何本も伸ばし私に襲い掛かってきた。


「スペンサー令嬢!」


『死ね!死ね!!しね!!えええええ!!!!!』大きな憎しみが言葉になり、私を襲い掛かってきた。


「パリィン!」


氷が弾けるような音が聞こえた瞬間、ジェローム様が私の前に飛び出した。その瞬間、魔物と私の間にある魔力が爆ぜた。


「女神様!!アトロポス様!どうか最期の時を!」


私はそう叫び魔物に手を伸ばすと、塵となった黒い魔物の粒子を掴んだ。塵になった魔物。その周りで浄化を唱えた。白い浄化の光が部屋中を照らした。黒くなった塵はゆっくりと薄い鹿のような形になった。


そこで、大きな鋏が現れてパチンっと鹿の魔物の上で鋏が一度使われると、鹿の形をした魔物は薄く薄く消え、ゆっくりと昇っていった。


私は急いで梯子を上り、外に出て、魔物が空へと昇っていくのか確かめたかったが、その時には魔物の痕跡はなかった。


「女神様の元へと、少しでも行けたかしら」


私がそう言うと、綺麗な鹿の形の大きな魔物が二体、ゆっくりと現れた。


『卵を抱いてくれてありがとう。孵せなかった、許しておくれ』

『今度また、私達の元へ産まれて来て欲しい。人間を許す事は出来ない。だが、貴女に感謝をする』


そして私の方へ頭を下げると、小さな丸い塊が現れ、二体はその丸い塊を抱くと、ゆっくりと消えていった。よかった。待ってたんだ。あの黒い魔物は守られていたんだ。だから今迄堕ちずにすんだのか。でも、もう少しであの二匹も一緒に堕ちていたかもしれない。


「終わりました」


私はそう言ってジェローム様を振り向いたのだが、カクンと視界が揺れ、「スペンサー令嬢!!!」と言うジェローム様の声を最後に意識を失った。



あれから三日後。


私は丸二日寝ていたらしい。三日目の朝に目を覚まし、喉の渇きと空腹とトイレを訴え、ダリアさんに介抱されて私はあっという間に元気になった。所長とダリアさんからは叱られたが、私が反省していないと思われたのか所長から「給料カット?パンツケ無し?」と言われ、私は必死に謝り、暫く事務作業だけで大人しくしている事を約束した。


昼にはオゥルソさん、ジェローム様と入れ違いにお見舞いにやってこられた。


オゥルソさんは、隊員達に運び出された私を見て、ジェローム様に凄い剣幕で怒ったらしい。が、まあ二人とも無事な顔をしていたので喧嘩にはならなかったのだろう。


オゥルソさんに渡した卵も無事にオゥルソさんの物になったと言う事だ。オゥルソさんはもし卵がかえった時に、一匹だったら可哀そうだ、と言って、卵ポケットを店の子に作って貰い、お見舞いに来た時には卵をスポンと入るポケットバッグに入れていた。


「ロズも許可してくれたしな。この子が孵ったら、俺と一緒に育ててようと、ロズに改めてプロポーズしてみようと思う!」


「おお。オゥルソさん、ガンガン行こうぜ!ですね。頑張って!」


「ああ、二人の子供にしたいと思ってな。フレイが縁を繋いでくれたからな」


照れながらも優しく卵を撫でて、卵も嬉しそうにぽわっと色を明るくしていた。


うん、きっと可愛い、良い子が生まれるだろう。ロズさんに似て綺麗で、オゥルソさんに似て強くて。


うんうん、よかった良かった。と思ってオゥルソさんを見送ると、ジェローム様が眉間に皺を寄せてお見舞いにやって来たのだ。


「全く、貴女は。魔力の枯渇がどんなに危険か分かっているのですか?魔術士や治療師が近くにいたから大事にはならなかったものの。とても危険な状態だったのですよ」


「あ。はい。すみません」


「黒い魔物も浄化してしまいましたが、一部仕留めましたので、それで事件は解決と出来ました」


「あ、それは、何よりですね」


「浄化その他の光魔法について殿下も大変興味深いようでしたが、とにかくスペンサー令嬢は絶対安静ということで、今は接触禁止を隊長の方からお願いされています」


「わあ。それは有難いです」


「ええ、魔導棟で貴女の生態を調査したいと、殿下は楽しみにしているとの事でした。『特殊固体』『不思議ちゃん』『研究対象』と、ブツブツ言っていると、お付きの方から聞いております」


「え。私、実験されますか?」


まさかね?とジェローム様に聞くと、じろっとした目で見られて、はあっと溜息を一つ落とされた。


「少しは自覚をもって頂きたい。…貴女の魔力、あの時、信じられない程膨れ上がりました。私の班の者には口止めしていますが。ハリスは貴女の事を聖女だと言っていましたよ」


「ははは。そんな聖女だなんて…。え?本当に?」


「聖典の一説に。女神フレイヤ様の事がありますよね?貴女の名前、そして、その髪の色。溢れる魔力。光魔法…。聖女といわれても不思議ではないと思います」


「ええ。そんな…。あ!ジェローム様!聖女、もしくは殿下の実験台になったらお金入りますかね?研究感謝費、みたいなお金って貰えたり?」


そうだ。今回の事は何もお金にならなかったんだ。借金が何も減ってない。残りはいくらだ?カエルの歌が聞こえてくるぞ。


「はあ。全く…。勿論殿下の研究に協力すれば謝礼として受け取れるでしょうが…。危険な事もあると理解して下さい」


「くっ。やはり殿下はマッド系か…なんで研究者ってイカレている方が多いのですかね?やはり父上にもう一度相談するべきか…」


「ああ、そうでした。貴女の領地の父上様から軍団宛に手紙が届けられました」


そう言って差し出された手紙を私は急いで受けとり中身を読んだ。


「えーっと、なになに。送金ありがとう。無理するな…。いや、するでしょう、で、ふむふむ。元気でなにより。えー。マシュー、一次試験満点なの?流石!賢すぎる!シンシアは音楽祭に出場するの?天才じゃない?うちの妹最高。いや、で、借金は?ふむ、ふむふむ。色々売ったけど四十万だった。すまん…。そうか…ということは、あと約四十万ということか…。もうこれは殿下に身売りしかないか」


私が手紙を折りたたみ、魔導棟にドナドナされていく自分を想像しているとジェローム様が咳払いをしてこう言った。


「おほん。スペンサー令嬢。私が残りの四十万。立て替えましょう」



第四章はここまでです。次回最終章に突入です。この章では借金減らず!ピンチ!

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