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後日談(最終)

「こっ、これは……っ⁉」

 何事もなく魔海釣行が終了し、先に帰った八尋やひろに続いて磯鶴いそづる高校釣り研究部員たちがこう州支部棟【あまも停】で全員帰還したのを見届けたあと、魔海対策庁本部棟【なのりそ庵】へ向けて航行中の月長げっちょうにて。

 長官寝室で玉網媛たまみひめは、宝利命ほうりのみことの冒険を描いた絵物語の最新刊を手に驚愕きょうがくしていました。

 三日前に発売され、速攻で取り寄せたのですが、仕事がいそがしくて読むのがすっかり遅れてしまったのです。

「……ほぼ事実そのままではないですか!」

 題材は先日の八尋やひろ誘拐事件ですが、登場人物の名前や地名こそ変えてあるものの、それは政府の発表したカバー・ストーリーとはまったく異なるものでした。

 公式発表では、玉髄ぎょくずいの推進機関から逃げ出した白和邇しろわにを、八尋が捕らえて専用宝珠とした事になっています。

 しかし絵物語では、抄網媛すくみひめが八尋を誘拐して、細マッチョで美青年な宝利命と白和邇が救出するお話になっていました。

 ちなみに弥祖皇国やそみくにの絵物語は、絵本や漫画より日本のラノベに近いものになっています。

「これはひょっとして、伯父様のおはからいでしょうか……?」

 事実と異なる公式発表を、さらに真実でおおい隠してしまう柑子寛輔かんじかんすけ主席宰相の隠蔽いんぺい工作。

 たとえ新聞記者が真相をつかんだところで、フィクションと同じ内容では世間に恥をさらすのがオチでしょう。

 各州の藩主や高官たちは独自の情報網で実情をつかんでいるので、政治工作のネタに使っても無駄だぞと釘を刺す意味もありそうです。

「しかもこの本、わたくしが知らない事まで……」

 帰れなくなった八尋の情報が間者すぱいれて、せい州藩主に誘拐を命じられた支夏命しなつのみこと(抄網媛の変装)が保護して本国の介入を待っていたと書かれていました。

「……どこまでが真実なんでしょうね」

 それがわからないのが絵物語の隠蔽工作たる所以ゆえんです。

 しかし抄網媛は醒州の父系父権社会と男尊女卑を心底嫌っているので、藩主の命令を聞かないという話は信用できなくもありません。

 実際、巻網媛の監視下にあるとはいえ、なんのとがもなく魔海対策庁に任官できた訳で……。

「大伯父様が五階まで⁉」

 醒州藩主の城に政府専用船【帯枯葉おびかれは】が横づけされ、驚いた藩主が執務室を飛び出したところで巻網媛まきみひめねられたようです。

「あれを喰らって無事でいられるのは、寛輔伯父様と宝利くらいでしょうね」

 巻網媛は行く手をさえぎる者を、女子供以外は反射的に殴り上げてしまうクセがあるのです。

 藩主は咄嗟とっさに神力で障壁を張ったものの、一階の天井から五階の床までぶち抜かれて重症、いまは別邸で療養中とかなんとか。

「ご隠居なされたとは聞いておりましたが……」

 八尋を確保して皇家おうけの血がい醒州貴族と結婚させ、おう政復古と称して皇位を簒奪さんだつ、国会を解散し封建制を復活させるのが目的だったようです。

 本来なら高官たち全員の首が飛んで藩がとりつぶされても文句を言えない大罪です。

 あと八尋が誰とも知れない殿方のお嫁さんにされるところでした。

「ええと……ここからは確実に虚構ですね」

 こっそり州陸軍の一部を味方につけていた抄網媛が笹浦ささうら城に立てもり……ここは嘘かまことか判別不能ですが、絵物語の八尋は長髪ロリ巨乳美少女に変更され、寝台べっどで抄網媛と百合百合なラブシーンを展開するのは間違いなくフィクション。

 クライマックスは屋根の上で皇族おうぞく同士の決闘です嘘八百にもほどがあります。

 実際は八尋の能力で神力を抜かれた二人が筋力で対決し、宝利命が筋肉にモノを言わせて一方的にシメたのですが、さすがにこれでは盛り上がらないのでストーリーを変更したのでしょう。

 神力付与えんちゃんと細剣れいぴあを強化した抄網媛と、神力で肉体を強化した宝利命。

 宝利命は徒手空拳なのでチャンバラではありませんが名シーンです。

 そして長髪ロリ巨乳美少女な八尋が『やめて! 私のために争わないで!』とか叫んでるのを見て、玉網媛は顔をしかめました。

 本物の八尋を知ってると違和感しかありません。

「最近やけに巫女たちが抄網の話題で騒々《そうぞう》しいと思ったら……こんなところで株を上げていたのですね」

 八尋をはさんでからみ合うようにイチャイチャ戦う異父姉弟の雄姿が、ちょっとエロティックな挿絵つきで描かれていました。

「なんてふしだらな‼」

 そう言いつつも食らいつくように熱中する玉網媛。

 ラストはもちろん八尋と宝利命のラブシーンです。

「抄網の次は宝利と……この八尋様、尻軽ですね」

 細マッチョ美形の宝利が女性キャラとラブラブするだけでも腹立たしいのに、八尋がお色気ムンムンで接吻せっぷんまで交わしてしまうのは耐えられません。

 でも演出がうまいので、ついつい読み込んでしまいました。

「これは……一巻から読み直さないといけませんね」

 政府の公式発表と照らし合わせて、どこからどこまでが真実か突き止めないといけません。

 魔海釣行の報告書を書く予定は、頭からスッポリ抜けていました。

「ところでこの本、わたくしの出番はありませんの?」

 ありませんでした。

                                        (終わり)

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