終章・その四
「……さすが和真部、見事なチョイスだ」
磯鶴高校釣り研究部の磯子釣行(異世界釣行アリ)から数日後、茜部一家は華鐘の運転するレンタカーで福島のスパリゾートホテルに来ていた。
プールがメインの施設だが、温水プールや室内温泉(混浴)もあるので、水の苦手な景清にも安心である。
先に着替えて出口付近で待つ事数分。
現れた小雨は明るい花柄のセパレート水着だった。
オフショルダーでヘソまで出しているものの、フリルで飾られパンツにミニスカートがついているのが子供らしさを演出している。
どうやら和真部は景清の密かな願望を汲んでくれたようだ。
子供とプール、最高である。
「キヨさん杖持って来ちゃったの?」
華鐘は昔から競泳水着一択である。
「別に禁止されている訳じゃない」
なくても歩けない訳ではないが、長時間立ち続けるのは無理がある。
「どうせ水には入れん」
「肩を貸そうと思ったのになあ」
華鐘は残念そうな顔をした。
「まあ室内浴場もあるし、そっちでやりますか」
さすがに温泉に杖を持ったままでは温泉に浸かれない。
「……………………んっ」
なぜか小雨が張りきっている。
「小雨には無理だね。体鍛えて来年出直しな」
「む~っ…………」
母子で何を張り合っているのやら。
「でも、とりあえず昼食だね。どっか入る? それとも出店を探す?」
「ちょっと待て。泳ぎに来たんじゃなかったのか?」
「水着を見せに来たに決まってるじゃないか」
華鐘の水着姿は大学時代に何度か見た事がある。
どこからどう見ても女子用競泳水着なのに、なぜか女子に逆ナン(?)されていた。
「……小雨の?」
「そうそう」
「僕に?」
「そうそう。それに家族でプールなんて初めてだしね」
温泉とプールの両方ある大型リゾート施設は、そうそうあるものではない。
「あと込んでるから入りたくない」
昔から華鐘は並ぶのと芋洗いが大嫌いである。
「本音はそっちか⁉」
「どっちにしろ小雨はキヨさんから離れないよ」
「…………んうっ」
コクンと頷く小雨。
「今日は水着でショッピングか」
さすがは大型レジャー施設、店舗は多くイベントも多彩でゲームコーナーまである。
和真部は景清がプールに入れない事まで計算していたようだ。
末恐ろしい子である。
「仕方ない、とりあえず座る場所を探そう」
防水ポーチには膝サポーターが入っている。
「そこ空いてるよ」
サポーターを着けている間、小雨はひたすらキョロキョロしていた。
「ところでキヨさん、明後日の予定はどうなってるの?」
宿泊は二泊三日の予定である。
「適当に風呂入って帰る……いやまさか!」
「持って来ちゃったんだよねえ、釣り道具」
この女、早朝チェックアウトで小名浜港に行く気か。
「妙に荷物が多いと思ったら……何を釣る気だ?」
「たまには穴釣りがいいね」
「今の僕にテトラ帯は無理だぞ?」
「反対側でイワシでも釣ってたら?」
消波ブロックは防波堤の外側にしか置かれない。
「どうせ小雨はキヨさんと一緒なんだし、カゴ釣りとか教えてやればいいじゃん」
「帰ってからの調理が大変だな」
「イワシは素手で捌けるから簡単だよ?」
「お前が何尾釣るか想像したくない」
ルアーはともかくエサ釣りは華鐘の独壇場である。
「それはアタシがやるからさあ」
「そうか……だがな、そろそろ来る頃合じゃないかと思うんだ」
「何が?」
「異世界召喚」




