レポート26ーメリットやデメリットだけじゃ語れないこともあるー
『それゼァ! 本日もリーンクオン!』
……マジでこれ音声案内のAIか!?
そんなツッコミはシステムが知るわけもなくユミはファンオンの世界に降り立った。
「今日は何するかな……そういえばアイさんにも言われたなぁ」
そんな風に呟くと王都の中へと歩き出した。行き先は鍛冶ギルドなどの技能がとれるギルドが固まっているエリアだ。
***
「鍛冶に加工に服飾か……他にないな~。別の町にもあるのかな」
自分が見つけたギルドを確認しながらそう呟く。
……今更だけど俺が普段やってることってなんだ。
一度情報を集めなおそうと冒険者ギルドに向かおうとした時、1つの店が目に入る。
「なんだこれ? 喫茶店?」
近づくと中からはコーヒーの匂いが漂ってくる。
……嗅覚も反映されてるのか。はじめて知ったぞ。
恐る恐る扉を開いて中に入る。
「いらっしゃい」
「ど、どうも」
中は喫茶店とバーが混ざったような内装になっていた。そしてカウンターにカップを磨く大柄な男。かなりの筋肉質でサングラスをかけている。
「好きな席にどうぞ」
そう言われてユミはカウンター席に座る。
「あの、初めてきたんですけどここは」
「オレが経営している喫茶店だ。ゲーム的メリットがないせいで客はほぼこない」
そう言われて店内を見回すが誰もいない。
「メリットがない?」
「料理技能をとって店を始めたが……料理を食べてもステータスアップが一定時間付く程度でそれならMPを回復しながらバフをかけたほうが効率がいい」
「それはたしかにメリットないですね」
空腹度が存在していないこのゲームでは娯楽の1つだろう。
……でも料理するならリアルでしちゃったほうがいいもんな。わざわざゲーム内でっていうのも。
「なにか飲むか? サービスだ。久しぶりの客だからな」
「それじゃあ……コーヒーお願いします」
「オゥケイ!」
渋く重低音のような声でそう言うとコーヒーを挽きはじめる。少しするとユミの前にコーヒーが出された。
「オリジナルブレンドだ」
「……美味い」
現実ではあまりコーヒーを飲んだことがないがユミは美味いと感じた。好みにあったようだ。
「まあ土日や午後から。平日は夜に電気がついていれば店はやってる。よければご贔屓に」
「たまに来ます。ごちそうさまでした」
「あぁ」
グラサンに隠れていたが少しその声は嬉しそうだった。