98:旅立ち
俺たちは、翌朝になるのを待って冒険者ギルドへと向かう。
昨夜はハラーキィの屋敷で寝るわけにも行かず、結局瓦礫の間に隠遁結界を張って野営をする事になった。
冒険者ギルドでは、地下道で起きた一連の出来事を生き残った『昴星旅団』のメンバーが、身振り手振りを加えながら伝えていた。
斥候のエルフ耳は、テリーベアにやられて死んでいたから、特に問題は無いだろう。
当面は、エルフ耳には要注意という事だ。
本当にエルフ族が居るのなら申し訳無いのだけれど、あの耳に似せた疑似器官を見てしまえば、そうも言っていられない。
俺たちは、無事に指定クエストを完了して、冒険者ギルドを出る事が出来た。
これからは、今まで以上に色々と注意が必要だ。
東門の処には、ジエイさんと元気になったクズハさんが見送りに来てくれていた。
胸の奥にある魔石(ジエイさんは宝玉と呼んでいたけど)を損傷して人間並みの寿命になったと言うジエイさんに、クズハさんが昨夜逆プロポーズをしたのだった。
ならば、人として人の寿命を共に生きようと。
あなたが先に逝くのなら、私はそれを看取りますとまでクズハさんは言っていた。
ハヅキさんとカインさんの事は、元気になったクズハさんが結婚を正式に許して、二人が家を出て行くことを許可した。
ただし、たまには遊びに来ることが条件だったようだけど、二人はクリスちゃんと三人で荒廃したキトラに住居を構えて、冒険者としてやってゆく事に決めたようだ。
カインさんの殺害依頼は、分家の者がやった事のようで、きつく処分は下しますと言っていたクズハさんの顔が怖かった。
キヨクラさんは、俺たちに何か話したそうだったけど、俺たちは敢えて無視をする事にした。
好き好んで厄介事に、巻き込まれたくは無い。
地下道で聞いた『プロメテ』と言う言葉には、聞き覚えがある。
それは、厄介事の臭いしかしないだけに、近づくことはしない方が良いだろう。
俺たちは東門を出て、山の間を通り南東へと向かう。
ジエイさんがハイドさんらしき人と出会った山は、途中の街道の近くにあるらしいから、寄り道をしてでも俺はそこへ向かうつもりだ。
石の花になったというハイドさんと、連れだという謎の美女との関係も気になる。
同じ時刻に東門を出た人達で、街道は混雑していた。
道中の危険を避けるために、こうやって同じ時間帯に出発する旅人は多い。
自分以外の誰かが襲われている間に、逃げることで生き延びる可能性は高くなるし、強そうな冒険者の周囲には、より多くの旅人が集まる傾向にある。
子供連れの俺たちの周りにも、剣を持ちゴツい体をしたティグレノフとヴォルコフや魔法使い然としたイオナが居るせいか、旅人が近寄ってくる。
季節は冬に向かって、少しずつ寒くなりつつあった。
俺は遠く南の方角にそびえ立つ、巨大な壁のような山脈を眺めて想う。
もしも、エクソーダスの仲間達がこの世界に居るのだとすれば、彼らに逢いたいと。
彼らは千年以上も前の歴史に残っているのだから、現実的には有り得ない事だけど、ハイドさんが百年前にこの世に存在したかも知れないという話を聞いて、もしかしたらという気持ちを捨てきれないのだ。
早く、その石の花があるという街道脇の山へと、俺は行ってみたかった。
心なしか、歩く足も速くなる。
「ちょっと、カズヤったら只でさえ馬鹿みたいに背が高くて、その分足も長いんだから少しはみんなに気を遣いなさいよね」
「みんなって、遅いのはアーニャだけなんじゃ無いのか?」
「うるさいわね。 あたしは誰かさんのせいで、今日は寝不足なのよ!」
「ちょっお前。 それって、知らない人が聞いたら誤解するだろ!」
俺は慌てて、周りを見回す。
周りの旅人たちの、俺に向けられる生温かい視線が痛かった。
俺は、ロリコンじゃあ無いっつーの!
第五章は、これにて終了です。
第六章は、仮題『古代竜の棲む山』を予定しています。
次の章が書き上がり次第全話投稿しますので、それまでお待ちください。




