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82:ポータークエスト

 その日の朝、俺たちは冒険者ギルドの受付で怒られていた。

 何故って、たぶん受付のエルフ姐さんの機嫌が、運悪く最悪だったからとしか思えない。


 つまり、何が何だか判らないって奴だ。

 こんな事が続くと、どうにもエルフって種族に良い印象を持てなくなりそうだ。


「居るのよね。 旅の便利な通行証代わりに冒険者登録をする不届き者が、必ず一定数は」


 その点については図星過ぎて、何も言い返せない。

 チラリとイオナの方を振り返るけど、目を逸らされた。


 そう、今回も俺が代表して出国届けを出そうとして、このエルフ姐さんに捕まってしまったという訳だ。

 解せないのは、最初に俺たちのカードをチェックした犬耳の受付嬢が申請を何事も無く受理しようとしていたはずなのに、急に何かに気付いたように奥へ行ってエルフ姐さんを呼んできた事だ。


 そうして、今の嫌な状況が生まれた。

 確かに、俺たちは必要最低限のクエストしか受けていないけど、一応は月に一回以上という冒険者としてのノルマは果たしている筈で、文句を言われる筋合いも無い筈なのだ。


「いいこと。 何故、冒険者が都市への入場税を免除された上に、国境の移動もフリーなんだと思うの? それは冒険者が魔獣を討伐して民の安全を守る存在だからなのよ。 判ってるのかしら?」


「一応、説明は最初の村で聞いたけど、月に最低一回のクエスト受任というノルマは果たしているし、ヤムトリアでも同じような事を言われて指定クエストも受けてるぜ」


「ゴブリンの調査依頼の事は記録に残っているわ。 でもね、最低限のノルマは、果たして当たり前なの。 最低限のノルマを果たしたからって、決して自慢にはならないの。 それに、あなたたちはそれ以外のクエストを何も受けずにヤムトリアを出ているわね。 それじゃあ冒険者ギルド創立の精神である、民を脅かす魔獣を討伐して人々の平和を守るという、冒険者としての本質的なノルマを果たしたとは言えないのよ。 少なくとも私は認めないわ」


 何だろう…… すごく正論なんだけど、このエルフ姐さんの態度がとてもムカつく。

 このエルフ姐さんは、ヤムトリアの冒険者ギルドに居たエルフの受付嬢と同じ臭いしかしない。


「しかたなかろう。 和也よ、しごく当然の指摘じゃ。 わしらも、何か一つくらいはキトラのためにクエストを受任するとしようでは無いか。 もっともC3ランク故に出来る事は限られて居るがの」


「判ったよ。 草取りでも雑用でも何でも、俺たちに出来る事はする」


 腹立ち紛れに、Cランクに付きもの仕事である薬草採取の事を、俺は敢えて草取りと言い換えた。

 我ながら子供っぽいとは思うけど、そうでも言わずにはいられなかったんだ。


「ふん、当然だわ。 でも、どうやらCランクのくせに草取りに不満があるようね。 良いわ、Cランクでも出来る『冒険者らしい仕事』を紹介してあげるわ」


 そのエルフ姐さん、今更だけどカーラと言う名前の受付嬢は、俺の前に一枚のクエスト依頼書を差し出した。

 そこには、薬草採取でも生息調査でも荷物配達でもなく、RPGゲームでよく見る単語が記載されていた。


「ダンジョン…… ポーター?」


 思わず、そこに書かれていた仕事の名称を口に出してしまう。

 それを聞きつけて、仲間が俺の近くに集まってきた。


「そうよ。 所謂荷物運びね。 見れば頑丈そうな体のパーティメンバーも居るし、女性や子供は雑用や食事の支度で役立つから、あなたたちでも出来るわよ」


「いや、でも俺たちはC3ランクだぜ。 ダンジョンは無いだろ」


 俺はそう言って、相手の反応を伺う。

 イジメや嫌がらせにしても、冒険者になりたてのCランクをダンジョンに行かせるなんて、無理があるだろ。


 俺たち本来の実力からすれば、ダンジョンだって問題は無いはずだけど、それはまだ秘密の話だ。

 表向きC3ランクの俺たちにダンジョンへ行けなんてのは、普通の人に死ねと言うのと同じなんじゃないだろうか。


 しかも食事の支度って事は、1日じゃ終わらないって事だ。

 先を急いでいると言うのに、どれだけ拘束されるのだろう。


「C3ランクでも心配無いわ。 国と冒険者ギルドの合同ダンジョン調査隊からポーターの手配依頼があるの。 みんな実力者揃いだから、荷物持ちとは言っても戦う事はまず無いから安心なさい。 それにベテラン冒険者を荷物持ちに振り向ける余裕は、正直言って無いの」


「いま、合同調査隊と言いましたかの? それは何の調査なのか、聞かせてもらえんじゃろうか?」


 イオナが、カーラの説明に口を挟んだ。

 俺も、その言葉は初耳だ。


「そうですね。 イオナの言う通り、仕事の内容を知る権利が我々にはある筈ですわ」


 落ち着いた口調のレイナが、イオナに続けてそう言った。

 そうだ。 基本的に強制クエストなどでない限りは、提示された依頼を受けるも受けないも冒険者側の自由裁量であるはずだ。


 イオナとレイナが言うように、受ける以上は仕事の内容を知った上で返事をする必要がある。

 それはこの世界でも、当然の権利であった筈だ。


「ふん、若そうな見かけの割に、爺臭い話し方をするのね。 それじゃあ、この守秘義務契約書に全員のサインを貰えるかしら。 国から正式な発表がある前に外部へ調査の事を漏らしたら、冒険者の資格を剥奪されるだけじゃ済まないから、しっかりと覚悟なさい」


 その依頼は、王都から北西の外れにある北側の山々を背にした開拓中の荒れ地で偶然発見された遺跡らしき建造物と、その中にある縦穴の調査だった。

 恐らく井戸の跡だと思われるその縦穴から、王都を夜な夜な襲う魔物が出現するのを見た者が居るというのが、調査の発端らしい。


「ほう…… 発見が明らかになった遺跡の調査に国が参加するというのは、わしの知る限りでは珍しいのではあるまいかの」


 他人の目を避けるために別室で行われた依頼内容の開示を受けて、イオナがそう訪ねた。

 その通りだ。 以前遺跡について聞いた話が事実だとすれば、イオナの言う通りの疑問が浮かぶだろう。


 本来であれば、古代の遺跡と明確に判明した時点で所有権は神殿に移譲され、管理と警備を冒険者ギルドが担うことになっているはずだ。

 ヤムトリアに立ち寄る前に、遺跡のある町で聞いた話が嘘で無い限り、そこに国が介入する余地は無いはずだった。


 ただ一つだけ国の介入があるとすれば、それは神殿や冒険者ギルドを通さず、国の上層部の中だけで遺跡発見の情報が秘匿された場合だ。

 そうなると、遺跡かどうか判明しないので確認のために立ち入り調査を行うと言う、形だけの大義名分の下に何度も立ち入り調査が秘密裏に行われて、遺物を全て収奪した後に初めて遺跡を発見したという公表が行われる事になるらしい。


 しかし、どうしても人の口に戸は立てられないから、どこかしら調査に参加した人の間から秘密は漏れてしまうのだろう。

 そうなると神殿と冒険者ギルドが乗り出してきて、もう国が口を出せる問題では無くなってしまうから、そう考えると今回の合同調査というのは珍しい事なのだ。


「C3ランクの新人の癖に、良く気付いたわね。 ここキトラには、特別な事情があるのよ。 だから、遺物を必要としないと言われてしまえば、管理を担当する冒険者ギルトとしても、所有者である神殿としても、国の介入をこばむ表向きの理由は無いのよ」


「その特別な理由とは、恐らく百魔夜行の事じゃの」


 奥歯に物の挟まったような言い方をするカーラの説明を聞いて、ポツリとイオナが呟いた。

 その横で、レイナとアーニャが頷いている。


 どう言うことなのか、俺には解らなかった。

 チラリとヴォルコフたちの様子を伺えば、なるほど納得したと言うような態度で、しきりに頷いている


 マジかと思ってバルを見れば、そんな話には興味がなさそうな顔をしていた。

 そしてメルを最後に見ると、眉間に小さな皺を寄せながら小首を傾げていた。


 良かった! 判らないのは俺だけじゃ無かったと安心したので、さり気なく判っている風を装って頷いてみた。

 メルがそれを見て、ショックを受けたように仲間達を見回しているのが、横目で確認出来る。


 俺は、ちょっと後ろめたい気持ちになった。

 だって、最初にカーラの態度と言葉に反発した手前、やはり事情を飲み込めない素人だと思われるのが悔しかったんだ。 ただそれだけで、深い理由は無い。


 それにしても、あの夜の出来事と王都にある特別な事情との関係って言うのは何の事なんだろう。

 俺が、そんなことを考えていると、興味なさそうにしていたバルがチラリと俺の方を見てから、その口を開いた。


「王都の城壁外にある遺跡から、あの魔物たちが現れたと言うのが本当ならばじゃが、合同調査の目的は城壁内の何処かにある筈の出口を探すことじゃな。 それは闇雲に探すより、入り口から辿るのが確実という事じゃろう」


「そうよね。 こんなに簡単に夜な夜な魔物の集団に潜り込まれたんじゃ、王都の面目丸潰れだもんね。 そりゃあ、国の威信を賭けてでも介入するわよね」


 バルの発言を引き継いで、アーニャが発言した後にチラリと俺の方を見た。

 もしかして、俺が理由も判ってないのに頷いてるって、バレてるんじゃ…… 


 その流れを見ていたカーラが、ちょっと驚いたような顔を見せた。

 俺たちを頭から馬鹿にしていた態度が、ちょっと薄れたようにも見える。


「そうよ。 見つけた遺物も遺跡の所有権も不要とまで言われたら、それを断る正当な理由は無いの。 なにしろ国民の命を脅かす出来事の解決が掛かっているんだから、冒険者ギルドとしても神殿としても、協力要請を断る表向きの理由が無いの」


「なるほど! そういう事だったのか」


 思わず呟いた俺の言葉に、メルが驚いた顔を見せる。

 そして頬を膨らませながら俺に言った。


「えー! カズヤ兄ちゃんも判ってなかったのぉー!」


 すまんメル。 この雰囲気で判らないって言い出せなかったんだ。

 たぶん初めから気が付いていたであろうバルとアーニャのジト目も痛かったけど、批難するようなメルの視線も痛かった。


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