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37:調査クエストと討伐クエスト

「どうせなら、一緒に町を出ようぜ。 兄ちゃんたちの戦いぶりも、明るいところで見たいからな」


 俺たちを待っていたサイガは、そう言って声を掛けてきた。

 サイガは、カインに情報提供の礼を言って別れた俺たちが、受付カウンターに着くのをずっと待っていたようだ。


 彼は既に討伐クエスト受任の登録を終えていた。

 それでも出かけずに俺たちを待っているのは、Bランク上位の中級者であるシルバーを軽く倒す実力がありながらも、Cランク最下位の初級冒険者である俺たちに興味があるのだろう。


「残念だけど、俺たちが選んだのは調査クエストだ。 基本的に、戦闘にはならないはずだよ」


 俺がそう答えると、サイガは露骨に残念そうな顔を見せた。

 あまりに正直なその態度を見て微笑ましく思った俺は、ついクスリと笑いを漏らす。


 たいした稼ぎにはならないけれど、まだまだ旅費に余裕はあるし金に困っている訳でもない。

 早々と、こっちの世界の人間に手の内を見せる訳にも行かないと言うのが、正直なところだ。



 クエスト受任の受付中に、俺は遺跡の事について訊ねてみた。

 サイガの話を疑っている訳じゃあないけれど、公式な見解というものを聞いてみたかっただけだ。


「もし、違うクエスト中に遺跡らしき物を見つけたら、どうなるんだ? 中級以上じゃないと入れないって聞いたけど、入ったら不味いのか?」


「そうね、それが遺跡だと確定したら冒険者はギルドに報告の義務があるわ。 ただし、遺跡を見つけたって通報があっても実際はガセネタも多いから、遺跡だと確認するために調査として中に入るのは黙認されているわね」


 素っ気なく、受付のエルフ娘は答えた。

 あまり、必要以外の事を冒険者と話したく無いような感じだったけど、俺は気にせず更に訊ねる。


「なるほど、冒険者ギルドが管理している遺跡とは、どうやって区別すれば良いんだ?」


「ああ、あなたたちは、まだ冒険者登録をしたばかりだったわね。 それは簡単よ。 冒険者ギルドが管理している遺跡には、入り口に冒険者ギルドの出張所が有って、出入りを管理しているの。 だから勝手に入ろうたって、初めから無理な訳よ」


 エルフ娘は手元の資料をチラリと見て、俺の初歩的な質問に納得をしたような顔をした。

 初心者じゃあ仕方ないわねと言うような露骨な溜息交じりだったのは、見なかったことにした。


「じゃあ、入り口が管理されていない遺跡らしきものは、未発見だって事になるよな?」


「そう簡単に見つかる物じゃ無いけど、そういう事ね。 トラブルを起こされると困るから、一応最初から教えておくけど、基本的に遺跡と認定されたものは、神殿の所有になるの。 冒険者ギルドは、その管理を一括委託されているって訳よ」


「国の領土内で見つかった遺跡でも、国の所有じゃ無いのか?」


「遺跡って言うのは、遙か昔、神話の時代に六神様が滅ぼした罪深き住人たちの遺物なの。 だから、国が出来る時に交わされた初代王家との古い契約に基づいて、神殿が人々の目に触れぬよう、確認され次第それを所有することになっているの。 そして、神殿と同じように王家よりも古い歴史を持つ冒険者ギルドが、その管理実務を一任される事になっているわ」


「なるほど、つまり『遺跡に認定』されるまでの間は、調査のために誰でも入る事は可能って事なんだな」


 俺がしつこく質問をするものだから、エルフ娘は露骨に嫌そうな顔を見せる。

 それに伴って、言葉遣いも少し乱暴になった。


「あなた、ガキのくせに頭が回るわね。 だけど警告しておくわ。 遺跡の中には未知の危険生物や、たやすく死に至る未知の病も待ち受けているのよ。 もし遺跡らしき物を見つけても、うかつに中に入ったり中の物を持ち出したりしない事を勧めるわ。 長生きしたかったら、先輩の忠告は聞いておくものよ」


「判ったよ。 それで遺跡だと判明してから冒険者ギルドへ届け出るまでの日数ってのは決まってるのかい?」


「しつこいわね! 原則として発見から一日以内に届け出る事がルールよ。 一日で冒険者ギルドがある場所まで戻れない場合は、その最短日数が限度よ。 違反者は厳しく罰せられるわ」


 ずいぶんとプライドが高そうなエルフの女性だけど、そんな事は知ったこっちゃない。

 俺もガキだ何だと言われて、だんだんと気分が悪くなってきたから、つい反抗的になって彼女の言葉の矛盾を突いてしまう。


「でも、どうやって遺跡だと確認出来た日を、その場に居もしない冒険者ギルドが認定するんだよ。 実際は不可能なんじゃないか?」


「ずいぶんと小賢しいガキね。 そうやって冒険者ギルドに届け出る前に、王都の関係者に情報を売って金を儲ける不届き者も居るけど、もしそんな事がバレたら只じゃすまないわよ」


 そう言い返された時に、俺の肩をイオナがポンと軽く叩いた。

 たちまち俺は我に返って、少しだけ冷静になる。


「カズヤ、そこまでにせい。 あまりギルドの職員さんに迷惑を掛けるでないぞ」


「わかったよイオナ。 ありがとう、聞きたいことは大体聞けたよ」


 俺はイオナに返事をしてから、受付のエルフ娘に礼を言った。

 まあ、お互いに気持ちが昂ぶったからこそ、聞きたい以上の話も聞けたって事にしておこう。


「ふん、ドが着くような成り立て素人冒険者が粋がるんじゃ無いってのよ。 せいぜい低ランクの魔獣に食い殺されないように気をつけることね。 長生きしたかったら、自分のランクを超えた背伸びはしないことを忠告しておくわ!」


 エルフ娘はそれでも怒りが収まらないようで、乱暴に資料をカウンターに置くと、次の順番を待っていた冒険者を睨みつけた。

 睨まれた冒険者は、俺の方を恨めしそうにチラリと見るけれど、知ったこっちゃない。


「兄ちゃん、エルガを怒らせるなんて、勇気があるなあ。 一度睨まれると後々までしつこく小さな嫌がらせをされるから、みんな腫れ物に触るように接してるってのにさ」


「そんな事、俺が知るかよ。 作り物みたいな尖った耳をしやがって。 エルフってのはみんな、あんな風に高慢なのかよイオナ」


 小さな嫌がらせをしつこくしてくるとサイガに言われて、俺は受付嬢をしているエルガとか言うエルフ娘に対して、更に腹を立てた。

 イオナに話を振ったのは、単なる勢いってものだ。


「まあ、エルフ族というのは珍しい種族で数も少ないのじゃが、冒険者ギルドと神殿くらいでしか見かけぬのお。 そして、皆一様にプライドは高いようじゃの」

「そうですね。 どちらかと言えば、この世界の住人を馬鹿にしているようにさえ見えますね」


 いつものように、イオナの答えにレイナが補足を入れて来る。

 確かに、ゲームやファンタジーの世界ではエルフは孤高な種族として描かれている事は多いけれど、現実に目の前で孤高に振る舞われても、プライドだけが無駄に高い嫌な奴にしか思えない。


「兄ちゃん、怒ったらそこで負けだぜ」


 十二歳のサイガにそう言われて、俺は気を取り直した。

 確かに、下らない事で俺は腹を立てすぎていた事に気付いた。


 相手を怒らせて情報を引き出そうとして、自分が怒りに我を忘れそうになるとは、ミイラ取りがミイラになるという例えのようだ。

 俺は猛烈に反省をして、みんなと一緒に冒険者ギルドを出た。


「兄ちゃんたちは調査クエストって言ってたけど、いったい何の調査なんだい?」


「何でも、最近家畜を食い荒らされる被害が多いらしくて、その調査依頼だ。 何が犯人か判ってから討伐クエストが発動されるらしいけど、調査中に倒すのは構わないらしいぞ」


「サイガ殿は、何のクエストを受けられたのかの?」


 俺とサイガの会話に割り込んで、イオナがサイガに話しかけて来た。

 イオナなりにサイガの狩り方を彼の家で聞いてから、彼の魔獣化を心配しているのかもしれない。


「俺が受けられるクエストは二つ上のランクまでだから、今日はカルキンの討伐さ。 もっとも、途中でそれ以外の獲物に出逢ったら、『身を守るため』にランク外の魔獣を狩るのは自由だけどな」


 そう言ってうそぶくサイガの様子から、今日もランク外の獲物を狙っている事が想像できた。

 それを聞いたイオナも、どこか心配そうだ。


「和也! お前は後学のために、サイガ殿の狩りを見学させてもらうのじゃ。 良いな」


 それは、サイガが無茶をしないように監視をしろと言う事だと、俺は解釈した。

 俺は黙って頷く。

 それを見たサイガは、生意気そうな顔で俺にこう言った。


「兄ちゃん! 着いてくるのは良いけど、戦闘向きじゃない治癒魔法使いだろ? もし足手まといになるようなら見捨てるぜ。 俺だってそんなに余裕のある狩りをしてる訳じゃないからな」


「判ってるって、足手まといにならないように気をつけるよ」


 俺はサイガの見せる先輩冒険者ぶりに、笑顔でそう答える。

 それを見て、微妙な顔をしているのはメルとアーニャだ。


 彼女たちには同年代だけに、サイガに対するライバル心のようなものが有るのかも知れないけれど、俺にはそういった感情はない。

 むしろサイガの見せる目一杯の背伸びを、微笑ましいとさえ思える程だ。


「バル殿は、和也が無茶をせぬように、見張りを頼もうかの」

「ちょっ、イオナ! 俺を信用してないのかよ」


 俺はイオナに不平を言うけれど、バルが一緒なら心強いと同時に思ってもいた。

 だけど、そう思っているのは俺とイオナたちだけで、アーニャとメル、そしてバルの強さを知らないサイガは大いに不満があるようだ。


「おいおい、いくら何でも小さい子供の面倒までは、俺も見きれないぜ。 無駄に死なせたくなかったら、子供なんて着いて来させるなよ!」


「そうよ、いつもバルちゃんばかりズルいわ」

「そうです、ズルいです」


「おぬしらが、和也の足手まといにならぬようになるには、ちとまだ早いと思うがの」


 イオナがそう諭すと、メルとアーニャは渋々と沈黙した。

 可哀想だけど、それは確かにその通りだと、俺は思った。


「心配するな! このバルは、間違い無く足手まといにはならないから。 俺が責任を持つよ」


「兄ちゃんが、そこまで言うのなら俺は何も言わないけどさ、狩りは自己責任で甘くないから、後悔すんなよ!」


 そう吐き捨てるように言うと、サイガは不満そうに早足で歩き出す。

 自分が真剣に命を賭けてやっている狩りを、初級冒険者に成りたての俺たちに、馬鹿にされたように感じたのも無理はなかった。


 俺はバルを促すと、サイガの後を追った。

 必要に迫られれば、俺が戦闘向きじゃない只の治癒魔法使いとは一味違う事も、バルが見かけ通りの金髪ロリ美幼女じゃ無い事も、いずれ嫌でもサイガに知られる事になるだろう。


 イオナが俺とバルに着いて行けと言った言葉の裏に、万が一魔法を使う必要があれば使っても構わないという意図を俺は感じていた。

 でなければ俺を行かせる事も無いし、監視役にバルを付けるはずも無い。


 メルやアーニャに未だ出来ない役割は、俺と一緒に戦えるだけの力を持った戦闘支援役であり、俺がやり過ぎる事の抑止役だ。

 俺が後ろを気にせずに安心して戦える仲間とは、正直な話で言えばイオナとレイナ、そしていささか未知数ではあるけれど、それに加えてバルくらいなものだろう。


 メルとアーニャは、Bランクのカインに勝てる程に強くなったとは言っても、まだまだ実力的に不安定だし、それはイオナやレイナの比ではない。

 アーニャは、こっちの世界に来て増えたはずの魔力を自在に使えるようになれば、元から持っている潜在能力は高いけれど、まだそれは開花していない。


 つまり、イオナの選択は正解だと言う事だ。

 俺はバルと共に、サイガと一緒に町の門を出た。


 果たして、サイガのクエストで指定されたカルキンとは、どんな魔獣なのだろう。

 もっと大物をサイガが狙っているとしても、まずはそれを倒さなければクエストは完了しない。


 俺とバルは、俺たちを無視してズンズンと先を行こうとするサイガの後を追って、農村地帯を抜けて畑の外周部に隣接している森へと入って行った。

 イオナたちから入った念話によると、彼らは俺たちとは逆方向の農村地帯へと向かっているようだった。


 俺は気配探知を張り巡らせて、慎重に辺りを警戒し始める。

 しかし、辺りには他の冒険者らしき集団の気配くらいしか無かった。


 バルは、気楽に鼻歌などを歌いながら、俺の後をヒョコヒョコと着いてくる。

 そんな時に、先を行くサイガが急に立ち止まって、身を伏せた。


 俺の気配感知には、その先に居るのは人間らしいという反応しか無い。

 彼が何に気が付いて身を伏せたのかが気になって、俺は急いで彼の横へと移動した。


 そこに見えた物は、猿の軍団だった。


 いや、言い直そう。

 そこに見えたのは、ゴリラ獣人のシルバーを先頭にして森の奥へと向かって歩いている、冒険者の集団だった。


 サイガは、恐らく因縁のあるシルバーを見つけて、とっさに身を隠したのだろう。

 そして、俺はその光景に妙な違和感を覚えた。


 何故なら、シルバーはティグレノフに膝の関節を壊されているはずなのだ。

 優れた治癒魔法使いが、仲間に居るという事は間違いなさそうだと、俺は確信した。


「奴等は、最近じゃ遺跡探索を専門にやってるから、きっと遺跡へ向かってるんだろうな」


 そしてサイガの言葉に、俺はもう一つの違和感を覚える。

 何故、シルバーの負った筈の怪我が、何ともない事を不思議に思わないのだ。


 それとも、シルバーが身内に高度な治癒魔法使いを抱えている事自体が、周知の事実なのだろうか?

 あれほどの負傷を一晩で直せるのは、一瞬に治せる俺以外ではレイナのように、この世界で最高位クラスの治癒魔法が使えなければ不可能なはずだし、そこまでの魔力を一晩も持続して出せる者が居ると言うのも、驚きだ。


 イオナの話を聞いた限りでは、この世界の魔力はもっと量も力もレベルが低いはずなのだ。

 実際に今まで見た限りでは、そんな大量の魔力を持った魔法使いは居なかった。


「おい、サイガ。 シルバーが普通に歩いているのを見て、お前は不思議に思わないのか?」


 俺はサイガに、そう問いかけてみた。


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