18『始まりを思い出す』
毎日ジザクが血を持ってきた。それがどれくらい続いたのかわからない。その度にジザクを殺そうとした。いや、冗談じゃない。本気でだ。
色んな口上をジザクが口にしていた。
グラスの中で赤く揺れる液体。何かを思い出しかけた。
何かわからなくて、ジザクに更に腹が立った。
古い時代に、自分で蓋をして、そのまま消えてなくなるのを待つようにした、何かであることはわかった。
吸血鬼の始祖は長命すぎるが故に、重くなった記憶を自我ごと切り離す。
他の種族とはそもそも造りが違うから、全ての記憶を抱えて生きてはいけるが、そうする同胞も多かった。
「ジザク、死んだの?」
蝶が、床に転がったジザクの上をふわふわ飛んでいた。
「ねぇ、始祖さん。聞いてる?」
俺はジザクの血を通して、ジザクの記憶を見た。
「ねぇ、始祖さん。どうして血を飲んだの?」
蝶がジザクとよくわからない話をしていたことを俺は知っていた。
その時、カッとジザクが目を見開いた。その様子に蝶が悲鳴を上げた。
「僕の……僕の純潔が、ああああああ!」
今しがた俺が噛んだ場所を抑えながら、ジザクが飛び出していく。
その後ろ姿が、誰かと重なった。
「くだらない」
「え?」
蝶が俺といなくなったジザクの間で、キョロキョロしていた。
思い出した。俺が最初に死のうと思ったのは、本当にくだらない理由だ。
誰かが言っていた。
我らは、この惑星の胎動を共に生まれ、惑星とともに寿命を終える。
惑星が大いなる母であるのなら、我らは母の中で健気に生きるか弱き子たちを導く父であらねばならない。
全ての生命を等しく愛し、等しく見送れ。決して誰かひとりを特別に愛してはいけない。
誰かと愛を分かち合えるように、俺たちは出来ていない。
――俺は、永い残りの生を放りだす覚悟で、掟を破り、誰かを愛したことがある。




