1〖始祖さんの暗い日常に、闖入者生まれる〗
〖はじまり〗
世界には数多なる種族が存在している。 人間、亜人、妖精、精霊、エルフ、ドワーフ……
かつて、存在していた竜やその眷属たちは、戦いに疲れ、平穏を望んだ。 彼らは世界で一番高き、山脈を超え、大いなる海に隔たれた小さな島に、安住の地を築き上げた。 それが、この「エイリシア」だ。
土地は若く、四季があり、あらゆる種族が争うことなく、手を取り合って暮らしている。
これは――理想郷「エイリシア」の北方の地より、更に北の城に棲む、吸血鬼の始祖と、そこで生まれ孵化した蝶族の彼女の、少しダークで、騒がしく、楽しい日常を描く物語である。
〖始祖さんの暗い日常に、闖入者生まれる〗
今日は、最近では稀に見る引き籠り日和だ。
曇天。ああ、素晴らしい。精霊種が言うには、雨は降らないらしいから、尚更だ。
こんな日に死ねたら、最高だ。
何時だ? 時計は壊れてたな。まぁ、なんでもいい。
どうせ、俺はこの城から出ないのだし、一生、死ぬまで、干からびるまで……!
布団を頭まで被りなおした時、何かが聞こえてきた。
何だ、この気配。今にも消えそうな、小さなものだ。
「嫌な予感がする……いや、気のせい、これは夢。夢にするべきだ」
それでも気になって、ベランダの方を見た。
何かいるぞ。
数十年前にジザクが思いつきで始めて一瞬でやめた、花を育てるという趣味。それ以降放置していたプランターに、何か生えている。
曇り空の下で、それが突然、淡く光り出した。
見たことがある現象だった。
もう五百年以上昔……いや、俺がこの城に引きこもるのを決めたのが八百年前だから、もっと前だ。
まさかまさか、そんな。
孵化する時の蝶が、己と一生を共にする花を決める本能。「花結び」の際に起きる光なわけがない。
何故なら蝶は、今この国では、保護対象であり、自然保護区でしか生まれない。
「はぁ、嫌な夢だ。早く死にたい」
布団を被りなおした。




