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勇者を討伐した魔王様は魔力を封じられた為に解雇される。  作者: 吉樹
第7章 『ドワーフ国編②』
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第9話 「魔王様、呪われる」

前話のあらすじ:弟王子と決着をつけました。

「あはははは! 何その姿!?」

「キシシ……笑ってはいけませんよ、プリメラ」

「そういうお姉サマだって!」

「キシシ! 笑うなというほうが無理ですねぇ」



 馬車内でふて腐れて胡坐をかいている私の姿を見た開口一番が、それだった。

 

 指揮を執っていたハルゼス王子が戦死したことにより、ザム国に侵攻していたダイ国軍は戦意喪失して総崩れとなり、すぐに全面降伏。

 こうなってくると、ザム国の各拠点を制圧している部隊が降伏して明け渡して来るのも、時間の問題だろう。


 そしていま現在、おおよその戦後処理を終えたのか、戦場だった場所から離れた位置に停めていた私の馬車に、プリメラとザオームが訪れていたのである。



「…………」



 可笑しそうに笑ってくる彼女たちを睨み付ける私の視線は──低くなっていた。

 胡坐をかいているから、ではない。



「クレアさん、なんでこんなに小っちゃくなってるわけ!? ウケるんだけど!」

「キシシ……私も、その怪現象の原因、知りたいですねぇ」



 そう。

 いまの私は……大人の色気溢れる美女ではなく、その面影を宿した幼女と化していたのである。


 当然ながら、幼児の服など持ち合わせがあるはずもなく。

 いまの私は、腕まくりや足まくりなどしており、着ている服すらもがダボダボという何とも情けない(可愛らしい)恰好であった。



「可愛いですよ? クレア様」

「そ、そうですよ! お、俺もその、すごく可愛い……と思います!」

「おや? ダミアンさんは幼女趣味があったので?」

「いや、別にそういうわけじゃないですけど……」

「おやおや」

「いやいやいや! 嘘ついてるの丸わかりですよって顔やめてくださいよ!?」

「ワタシよりも小っちゃいクレアさん……ウケる!」

「キシシ……美女ならぬ美幼女ですか。幼くなっても氷の美貌が健在とは、いやはや、さすがですねぇ」



 仲間内で盛り上がる彼らをジロリと睨むものの、別に彼らが悪いわけじゃないので、私は不機嫌な顔で無言を貫く。

 と、騒がしくなったからなのか、車内に赤子の鳴き声が。

 寝ていた所を、起こしてしまったのだろう。



「おーよちよち。クレア様が騒ぐから起きちゃいましたかー」



 赤ちゃん言葉でさらりと私のせいにしたアテナが、泣きじゃくる赤子を抱き上げてあやす。

 ドワーフの赤子は心地よさそうに目を細めると、無邪気にまたすうすうと寝息を立て始めた。



「……アテナ。私は一切騒いでないんだが」

「細かい事を気にしていると、将来ハゲてしまいますよ」

「将来どころか、思いっきり若返ったけどな」

「良かったですね、クレア様。女性にとっての永遠のテーマのひとつである”若返り”を体験できて」

「……若返りすぎだろうが」

「細かい事を気にしていると──」

「いやいや。かなり重大でいて重要なことだと思うんだが……」



 私とアテナのいつものやり取りを前に、その場にいる一同が苦笑い。


 ちなみに、そのドワーフの赤子は、ハダックの成れの果て(?)だったりする。

 あの呪具の効果である。

 どうやら、使用者共々対象者を退化させる効果だったらしく、ハダックや私はその効果により、現状に至るというわけだった。


 とはいえ、ハダックが赤子に戻ったのに対して私が幼女に留まっていたのは、あの時、咄嗟に魔法障壁を張ったおかげなのだろう。

 でなければ、今頃は私も赤子に戻っていたことだろう。



「ほら、プリメラ。いつまで笑っているのですか? 何の為にここに来たと思っているのです?」

「あ、そうだった。クレアさんが面白くなってたから、つい」



 すっかり保護者役が板についているザオームに促されたプリメラは、目じりの涙をぬぐった後、居住まいを正して改めて私を見下ろして──見据えてきた。



「クレアさ──こほん。クレアナードさん。今回の件、聞きました。なんでもダイ国軍の輜重部隊を襲撃し回って、ダイ国軍を翻弄してくれたとか。ワタシたちに協力してくれたこと、ザム国の王女としてお礼を申し上げます」



 さすがは、腐っても王族というべきか。

 プリメラの態度は実に堂に入っており、普段の生意気な小娘然とした雰囲気は掻き消えていた。

 この部分だけを切り取って見れば、どこに出しても恥ずかしくない淑女然とした立派な王女だった。



(この娘は、こういう表情も出来るのか)



 謝辞を受けた私は、多少は不機嫌な態度を緩和させる。



「まあ、気にするな。これは私が勝手にしたことだしな」

「そうですよ、プリメラさん。クレア様が幼女化したのも、クレア様が油断したからです。要は自業自得。間抜けとしか言いようがないのです。だからプリメラさんが気にする必要はないのですよ」

「……アテナ。事実ではあるんだが、言葉にトゲがありまくりだな?」

「クレア様。私は怒っているのですよ? 最悪の場合、死んでいたのですから。軽挙妄動は控えてくださいと、いつも口を酸っぱくして言っていたはずなのですが」

「……そう言うな。私だって、まさか自爆技をしてくるなんて思わなかったんだ」



 まあ、狂戦士化という寿命を縮める方法を使って来た以上、警戒はするべきだったのだろうが。



「でも……クレアナード様がご無事で本当に良かったです」

「……無事とは、言い難いことになっているけどな」



 安堵の息を吐いてくるダミアンに、私は苦い笑い。

 そんな私へと、表情と態度を元に戻したプリメラが問うてきた。



「それでクレアさん。その赤ちゃん──ハダック王子をどうするつもりなの?」

「んー……正直なところ、対応を決め兼ねている、な」

「クスクス」

「……おい」

「あ、ごめんなさい。だって、幼女なのにその喋り方と態度……」

「……話を進めてもいいか?」

「どうぞどうぞー」



 笑いをこらえるプリメラを半眼で睨むも、当然ながら今の私では何の迫力もないために、逆に笑いの種にされるだけである。



「……とにかく。ハダック王子の処遇は決めかねているのが現状だ」



 アテナの腕の中で無邪気に眠る赤子からは、もはや何の脅威も感じられない。

 赤子に退化したことで、記憶や意識が”初期化”されてしまったのかもしれない。


 ただ殺すのではなく、その人物を構成する全てを初期化する呪具……なんとも恐ろしいと言えるだろう。

 人間としての尊厳蹂躪も甚だしい。


 私は、小さくなった自分の手を握り締めた。


 魔力自体はこれといって変化はなかったが、身体機能はそうはいかないだろう。

 まだ確認したわけではないが、大人と幼児では、それだけの差があることは言うまでもなく。

 ただでさ弱体化している私は、輪をかけて弱くなってしまったのである……



「んー……本来なら、ダイ国に送り届けるのが筋なんだろうけどさぁ」

「主力軍が敗れたにも拘わらず、ダイ国の本国は徹底抗戦の構えを崩していませんからねぇ」



 苦い顔のプリメラの言葉を、不気味に微笑するザオームが継ぐ。



「まあ、ダイ国にとってはもう後戻りが出来ないのでしょうがねぇ」

「だよねー。賠償や制裁とかで、ダイ国はもうダメでしょ。私にだってそれくらいわかるし」



 ダイ国主力軍が通信の妨害を止めたことでザム国内での連絡が取りやすくなった結果、ダイ国の本国が頑なな姿勢を崩していないということが判明したのである。

 現在は、ザム国国境沿いの拠点を守る形で布陣するラオ国軍と睨み合いを展開しているらしく、降伏の打診もあっさりと蹴られており、もはやまともな話し合いすら出来ない状態とのことらしかった。


 とはいえ、もはや負け戦は確定しているのだから、早々に覚悟を決めないと悪戯に兵が命を失うことになってしまうだろう。

 ダイ国王が、冷静な判断をしてくれることを願うばかりである。

 ……まあ、徹底抗戦の構えをしている事から、期待薄だろうが。



「……しかし。そもそもが、ダイ国も早まったことをしたもんだな」

「そうとも言えないかと」

「ん? どういう意味だ? アテナ」

「開戦当初の奇襲は完璧でした。しかしラオ国の行動が想定外だったのかと」

「なるほどな」



 アテナの指摘はもっともと言えるだろう。

 ラオ国の援軍がなかったら私が介入出来ることもなかっただろうし、そうなっていれば先手を取られていたザム国に巻き返しが出来たかどうかは、微妙だろう。



「落ち着いたら、ラオ国に正式な場で面会しないとねー」



 ”正式な”という発言の裏には、連絡機能が回復したことで、ザム国の国境にいるラオ国王子(グーボ)とはすでに連絡をとっていたようである。

 まあ、当然といえば当然だろうが。


 王女らしい発言をしてからプリメラは、アテナが抱く赤子を一瞥後、私へと。



「その赤ちゃん──ハダックは、ザム国が預かるよ」

「いいのか? そうしてくれると助かるが……」

「敵になったとはいえさー、さすがに王族の赤ちゃんを放置はできないでしょ?」

「キシシ……私もその意見には賛成ですね。然るべきのち、ダイ国との取引材料に使えるでしょう」

「ちょ、お姉サマ。ワタシは純粋に……」

「キシシ! プリメラはもう少し、非情な考え方が出来るようになったほうがいいですねぇ。そんなことでは、統一王は務まりませんよ?」

「あうぅ……」



 まあ、思惑はどうあれ。

 引き取ってもらえるというのであれば、拒む理由などあるはずもない。

 ひとりの人間(赤子)を育てるなど、そこまでの責任を負う理由もないからだ。



「アテナ」

「はい。ではプリメラ様、どうぞ」

「……ララン」

「は、はいっ」



 少しだけ元気がない様子のプリメラに名前を呼ばれた侍女がアテナから赤子を恭しく受け取り、小さく息を吐いて態度を戻したプリメラは、眠っている赤子の寝顔を複雑そうな表情で覗き込む。



「赤ちゃんに戻って全部忘れちゃった以上さ、罰とか言うのは可哀想だよね」

「キシシ……言ったそばから。まあ、それが貴女の長所でもありますがねぇ」

「お姉サマ……」



 私の知らない所で彼女たちの絆は確かなものになっているようで、そんなやり取りを前にする私としては、なんとも温かい気持ちになるというものである。



「それでプリメラ。今後ザム国はどうするつもりなんだ?」

「んー……とりあえずはさ、統一王の戴冠式典は先延ばしかなー。まずは、()()()()()()()()()ダイ国をどうにかしないと」

「なるほどな」

「あ! もしかして今後も、ザム国に協力してくれたり?」

「いや。状況が五分以上に戻った以上は、もう介入するつもりはないよ」

「え~っ?! クレアさんってばケチすぎー!」

「人聞きが悪いな。もう十分すぎるほどに手出すけしただろうが」

「むう……一度手を出したんならさ、最後まで面倒を見るのが大人のジョーシキじゃない?」

「さすがに、これ以上の介入は私としても憚れる」



 我が儘な顔を見せてくることに、私は苦笑。

 山場は切り抜けたのだ。

 こうなってくると、後は単期か長期か、そのどちらかになってくるだろう。

 さすがに決着がつくまでドワーフ国に拘束されるのは、勘弁してほしかった。

 そもそもが、いまは他国を気にするよりも、自分の状態を優先したかったのだ。


 私が拒否したことで、この話は終わることに。



「むう……」



 さすがに無理強いをするほど、プリメラも我が儘を通しはしなかった。

 未練がましい視線を向けられてくるが、私の介入を諦めてくれたようである。

 私が知る、あの我が儘し放題の王女とは、とても思えないほどだ。



(ザオームの教育の賜物か……?)



 と、そこへ血相を変えたひとりのドワーフが駆け付けてきた。



「王女様! 大変です!」



 いきなり大声が飛び込んできたことで、起きてしまった赤子(ハダック)が泣き出し始める。

 赤子を泣かしてしまったことを気に留める様子もなく、そのドワーフは大声のままで言い放ってきた。



「ダイ国の国王が──暗殺されたのと報が!」



 赤子が泣きじゃくる中。

 急展開に、その場にいる一同が絶句したのは、言うまでもなかった──




 ※ ※ ※




 ダイ国の王が暗殺。


 この報告を受けたプリメラ一行は、受け取った赤子(ハダック)を連れて足早に私の馬車を後にしていた。

 王族が不在になってしまった以上(ハダックがまだいるが赤子なので無力のため)統治者を失ったダイ国が混乱の渦に叩き落されるのは言うまでもなく。

 この好機を逃すことなくラオ国と共同戦線を張って、混乱するダイ国の制圧を試みるのだろう。

 ダイ国が歴史の表舞台から名を消すのが、確定した瞬間だった。



「しかし……暗殺か」



 馬車内にて胡坐をかく私は、独り事のように呟く。

 それに反応を示すは、ダミアン。



「仮にも一国の王です。警備だって厳重だったはずです。敗戦した直後ならピリピリしてるだろうし、なおさらのはず。いったいどうやって暗殺したんでしょう?」

「クレア様の時と同じで、身内から裏切者が出たのでは? クレア様と同じく仁徳が足りなかったのでしょう」

「……アテナ。チクリと主を貶めてくるのは相変わらずだな」

「それほどでも」

「褒めてない」

「幼女に睨まれても、可愛らしいだけですね」

「……ちっ。そういう反応をされると、私としても反応に困るんだが」

「ですが、幼女は幼女ですし。私は悪くありません」

「それはそうだが……」



 兎にも角にも、ダイ国の王が死んだ以上、率いる王族がいなくなった為に、このドワーフ族の戦争は早期決着をすることだろう。

 目論み通りというべきなのか、多少想定外のこともあったが、次期統一王(プリメラ王女)との繋がりも出来たことだし、ドワーフ国に関しては上々の結果かもしれない。



「きっとラーミア(魔王)様も褒めてくださることでしょう」

「……おい。だからって、私の頭を撫でないでくれないか?」

「これは失礼を。いい感じの場所にいい感じで撫でやすい頭がありましたので」

「というか、いま気づいたんだが。なんだがさっきから、レングルブの発言がひとつもないような……?」

「あー、クレアナード様。レングルブさんなら、隅っこで寝てますよ」

「何……?」



 微妙な表情のダミアンの指摘にそちらに視線を向けると、何となく一回り程小さくなっているレングルブが、車内の隅で丸くなっていた。

 丸くというのはそのままの意味で、人型の状態になっているからである。

 ダミアンが微妙な表情だったのは、彼女が小さくなっていたからなのだろう。



「おいおい……なんか小さくなってるじゃないか。大丈夫なのか?」



 現状、他人のことは言えないが、だからといって心配しない理由にはならない。

 私が受けた呪いの効果かとも思ったが、あの時効果範囲内に彼女はいなかったので、違う理由なのだろう。



「……んあ」



 私の言葉で起きたのか、寝起きのレングルブは目をこすってくる。



「んー……大丈夫さ。ちょいとばかし張り切り過ぎて、疲れちまっただけさ」

「疲れた……それが原因で、小さくなったのか?」

「魔力消費が半端ないからねぇ、あの巣は」

「……なるほどな」



 魔力を消費しすぎて、身体が小さくなってしまったらしい。

 つまりは、回復さえすれば元に戻るということである。

 魔物の詳細は判明していないので、そういう現象も起こるのだろうと納得する。



(あれだけの事をしたんだ。疲れて当然、か)



 そういう面では、やはりいまの彼女は、いち魔獣であるアラクネ種と言えなくもないのだろう。

 無理をすれば、普通に疲れるというわけだ。



(まあ、普通のアラクネがあんな真似が出来るなんて、聞いたことがないけどな)



 元魔物ゆえ、ということなのだろう。

 まさに、レングルブであるからこそ出来る超裏技である。



「それでクレア様。今後の方針は如何いたしますか?」

「そうだな……」



 アテナに問われた私は、頼りない小さな両手を見つめ、ぎゅっと握り締める。



「とりあえず、私のこの呪いが解呪可能なのか、だろうな」

「解呪……となると、呪い関連に詳しい方は、アルペン(森の魔女)さんでしょうか」

「だな。行ってみる価値はあるだろう」



 砕け散った呪具の欠片も回収済みなので、私自身とそれを見せれば、何かわかるかもしれない。

 ドワーフ族にしか伝わらない秘伝の呪具とかだとどうにもならないが、その辺りのことも含めて、その道のプロであるアルペンならば、何か解決策を見つけてくれることだろう……そう思いたい。


 去り際、プリメラの方でも調べておくとは言っていたが、いまは戦後の後始末やダイ国の処遇、そして戴冠式の準備やらで忙しいだろうから、あまり期待はできないだろう。



(アルペンでダメなら、それこそ魔族国の総力を挙げて、調べつくしてもらわないとならんよなぁ)



 出来れば、私用で国を動かすようなことはしたくないのだが……背に腹は代えられないというやつである。



「じゃあクレアナード様。行き先は、魔族国のアルペンさんの自宅ですね」

「ああ、そういうことになる」

「ふわぁ……そうかい。行き先が決まったのなら、われは寝かせてもらうよ」

「ああ。お前は今回の功労者なんだ、気兼ねなく休んでくれ」



 こうして私たちは、次の目的地を魔族国領(アルペン宅)へと定めることに。


 ザム国の国境付近に布陣していたラオ国軍と合流して、グーボ王子から預かっていた部隊を返す。



「今まで助かった。ありがとう」



 私は、指揮下に入ってくれていた彼らひとりひとりの肩に手を置き、真摯に労っていく。いまの私は幼女化しているために、彼らは私の背丈に合わせるよう片膝をついてくれていた。

 労いの最中は恍惚の顔なのだが終わった途端に、彼らの顔は絶望に染まる。


「ああ……ついにこの時が」

「至福の時間は終わりか……」

「氷の女神様……」

「幼児化していてもやはり美しい……」

「ヤバい性癖に目覚めそう……」



 彼らは去り際に名残惜しそうな態度を見せてくるものの、さすがに職務を放棄するわけにもいかないので、泣く泣くと言った様子で肩を落としていたりする。


 どうやらグーボ王子は違う拠点にいるようなので、残念ながらこの場では彼に会うことは出来なかったが、軍用通信機を使って謝辞を述べると、「ラオ国は誠実な国ということを忘れないでくれ」と不敵な声で言ってきたもんだった。


 今回の件により、確かにラオ国の評価や評判は上がるだろう。


 そして統一王を要するザム国からの信頼や恩義も得られ、また世間的な目もあることから、大きく貢献したラオ国は蔑ろにされることはなくなったわけであり。

 ラオ国は自国が主軸の統一国を諦めた半面、それと同等程度の安全な立ち位置を確保したのである。

 しかも私からの受けが良ければそれは魔族国にも繋がるわけで、私が各国の王とパイプを築きたいように、向こうもまた同じ事を考えていたらしい。



(やはり、喰えない奴だな)



 ただの脳筋ではなかったということだ。

 直接行動に出たハルゼスよりも、よほど狡猾と言えるだろう。

 しかしハルゼスと違い、共感も出来るし好感すら持てるので、私は改めてグーボという人物を再評価するのであった。




 ※ ※ ※


 ※ ※ ※




「ええい! もうよいわ!!!」



 王の間にて青い顔の重臣たちがあれやこれやと作戦会議をする中、玉座に座する王が怒声を張り上げた。

 有意義とはとても言えない会議の内容に、ついに王の堪忍袋の緒が切れたのだ。



「「「……………」」」



 様々な論議が飛び交っていた室内は、しん、と静まり返る。



「会議は終わりだ。終わり! 儂はひとりになって考えをまとめるとしよう」



 言外に出て行けと言われた面々は、早々に書類を片付けてその場を出ていった。

 警備兵すらもを退出させた王は、怒りが内包されている大きな嘆息ひとつ。



「どいつもこいつも不甲斐ない……無駄な議論ばかりしおって。……不甲斐ないといえば、愚息たちもそうか。あいつらの教育に、どれだけの金と時間をつぎ込んだと思っているのだ……」



 第一王子ハルゼスの戦死。

 第二王子ハダックは消息不明。


 指揮官である王子たちの敗北によってザム国領内に侵攻していた主力軍は、ラオ国軍に退路を断たれていることもあり、しかも士気低下も著しいからなのか、あっさりとザム国へと投降。

 その投降により、ダイ国軍は半数以上の戦力を失ったわけである。


 それでもいくつかの部隊は国境の突破を試みたようだったが、ラオ国軍によってことごとくが阻まれており、そのまま戦死か捕虜の身となっているようだった。


 これらを踏まえて現在、国境境にてラオ国軍と睨み合いを展開しているが、これにザム国軍が合流してしまえば、その戦力差から国境は突破されてしまうだろう。



「どいつもこいつも使えない連中ばかり……このままでは、儂の首が飛ぶ……」



 権力欲に取りつかれている王は、戦死した息子たちよりも自身の保身ゆえに憤怒していたのである。

 国王という立場の以上、責任を取るのは当たり前であり。

 いくら息子たちの()()()()()()()と主張しようとも、国王である彼の首が飛ばねば、事態の収拾は出来ないだろう。

 それだけの事を仕出かしたのだから、王の首のひとつでも飛ばないと示しがつかないのである。



「どうする……考えろ……まだ時間はあるのだ。何か良策を……」



 ぶつぶつと、独りきりの王の間で必死に考える。

 自分で皆を出て行かせたわけだが、豪華な室内だというのに独りしかいないということが、ダイ国という国そのものを象徴しているかのようであった。


 と、そんな時だった。


 それは何の前触れもなく。

 ふいに王の背後に気配が生まれるや、王の間に鮮血が吹き上がる。

 


「が、は……な、に、が……っ?」



 音も気配もなく、いつの間にか背後に現れていた人物は、先ほど退出したはずの見知った臣下の者だった。

 しかしその顔に張り付く酷薄な表情はまったくの別人のものであり、血に濡れた短刀が妖しく煌めく。



「ばか、な……」



 どうと玉座から王が落ちると、大理石の床に血の華が咲いていく。

 愕然と見開いた瞳には、もはや何も捉えてはいなかった。



「…………」



 ダイ国の国王を暗殺したそのドワーフ──に変装していたのは、暗殺者ウーア。

 人間という種の業がある限り、暗殺業が廃れることはないのである。

 ましてや野心溢れ乱心する暴君ともなれば、暗殺を依頼する者など山のようにいるというわけだ。


 彼は冷たい眼差しで死体を一瞥後、短刀を投げ捨てると、その視線をバルコニー側から見える外の景色へと。

 その眼差しは、まるで恋する純心な乙女である。



「クレアナード……」



 愛しくてたまらない女の名を呟き……自分はウブなガキかと小さく自嘲。

 情報では、彼女はドワーフ国にて活動しているようだったが、本業を優先したために会いに行く暇がなかったのである。



「まあ、いいさ」



 無理に会いに行かずとも、自然とトラブルの渦中に巻き込まれる彼女のこと。

 いずれは、また再び相まみえることになるだろう。


 会いに行こうと思えばすぐにでも会いにいけるのだが、ウーアは暗殺業に誇りを持っている故に、その矜持を曲げてまで恋愛(欲望)を、優先させはしないのである。

 ──まあ、多少はブレることもあったりするが。


 なので、今度自然に再会できた時に、彼女を手に入れればいいだけの話なのだ。



「さて、と。次の依頼も控えている。早々にこの国を去るか」



 暗殺の依頼は山とあり。

 優秀な暗殺者ともなれば、裏の世界では引く手あまたなのである。



「運命論なんて信じてはいないが……不思議と確信が持ててしまう」



 そう遠くない未来、再び再会できると。



「クク……今度こそ、お前の全てを頂こう」



 低く笑うと、暗殺者の姿は空気に溶けるように消えていき。

 その場には、変わり果てたダイ国王の亡骸が、無造作に転がるのみだった。




独りとなった王にも責任はあるでしょう。

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