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勇者を討伐した魔王様は魔力を封じられた為に解雇される。  作者: 吉樹
第7章 『ドワーフ国編②』
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第7話 「魔王様、襲撃する③」

前話のあらすじ:兵糧庫を焼き払いました。

 私たちの兵糧庫襲撃から数日後、ダイ国主力軍が行動を開始した。

 ザム国の防衛線へと全軍でもって進撃を始めたのである。


 戦列を固める大砲部隊からの連なる砲撃を皮切りに、ドワーフ族用の大盾を構えた前衛部隊が突撃。

 まるで雪崩のような黒い波が、ザム国軍が敷く防衛戦へと押し寄せる。

 両軍の前衛が真正面から激突し、弾かれた者たちが宙を飛び、あるいは後続の下敷きとなり。

 その頭上を無数の砲弾が飛び交い、防げなかった者たちが吹き飛ばされる。


 ダイ国の犠牲を顧みない決死の猛攻を前に、ザム国の前線が気圧され始める中、ダイ国側から毛色の変わった一個部隊が現れた。


 充血した両目に、口からは涎を流し、全身の筋肉が異常に膨張しており。

 異様に興奮した状態で意味不明な雄たけびを上げながら、傷つくことも厭わずに、まるで血に飢えた野獣のような様相でもって、()()()()()()()()()()()()()()()()()、ザム国の戦線へと突撃をしていく。


 戦場は混迷を極め。

 無数の怒号、絶叫、断末魔が飛び交い、戦場を席捲していく──



 ………


 ……


 …



「……始まったか」



 距離はあるものの、ダイ国軍陣営を背後から見回せる小高い丘にて、私たちは遠い戦場を見回していた。


 ダイ国軍の意識は前方にいる(交戦中)ザム国軍に傾注していたが、それでも後方にも一定の警戒を払っているらしく、それなりの戦力が配置されているのが見受けられる。



「決して無理はするな。私たちの目的は、あくまでも後方からの陽動であり、かく乱だ。敵の殲滅ではない」



 私の言葉を受け、控えるドワーフたちは緊張を隠せない様子。



「私たちの戦力ではそれくらいしか出来ないだろうが、だからといってダイ国軍も無視はできないだろう。そのことで少しでもザム国軍に有利に働くのならば、私たちの行動の意味もあるというものだ」



 いくら緊張しているとはいえ、彼らも戦いに身を投じている以上は気持ちの切り替えも早いようで、ドワーフたちは意気込みながら竜車に乗り込んでいく。


 今回の作戦は以前の兵糧庫襲撃とは違い、”個”の機動性ではなく”集”の戦闘力が必要なので、ドワーフ部隊を最初から連れて行くわけである。



(指輪の再チャージが間に合わないのが痛いが……仕方ないか)



 この戦闘においては、切り札である火炎竜は使えないことに一抹の不安はあれど、使えないなら使えないで、そういう戦術を駆使するのみ。



「アテナ、ダミアン。可能な限り彼らの援護を頼む。誰も死なせたくはない」

「かしこまりました」

「わかりました」



 応えたアテナとダミアンがドワーフたちの竜車へと向かい、私の横に移動してきたレングルブが微笑してくる。



「甘いねぇ。戦争ってもんは、ヒト死にが当たり前なんだろう?」

「これは私の我が儘だな。手の届く範囲ならば、戦死者を出したくないんだ」

「くくく! やっぱりアンタは、馬鹿がつくほどのお人好しだねぇ」



 嘲笑ではなく本当に可笑しそうに笑った後、彼女はアラクネ状態へと変貌。

 切り落とした脚はすでに再生しており、何ら遜色はない様子である。

 両手に盾を装着してから、私に向けて片手を挙げてきた。



「ほら、乗りな。このわれに騎乗できること、光栄に思っておくれよ?」

「ああ。アラクネに騎乗して戦うなんて経験、一生自慢できるよ」

「くくく! アンタにそう言われると気分がいいねぇ。ご機嫌なわれは、あの時(兵糧庫襲撃時)よりも早いから振り落とされないでおくれよ」

「お手柔らかにな」



 そしてレングルブに騎乗する私の指示のもと、丘を駆け下りていく。

 こうして私たちも、いよいよ直接的に戦禍の中へと身を投じることに──




 ※ ※ ※




「敵襲ー! 後方から敵襲を確認!!!」

「迎撃に当たれ!」

「本陣に近づけるな!」



 レングルブに騎乗する私と竜車を駆るドワーフたちに気付いた敵が、警戒を露わにしてきた。



「まずはこの一帯の敵を殲滅するぞ!」



 疾駆しながら、牽制の意味合いが大きい火炎球を解き放つ。

 さすがに直撃を受ける者はいない様子だったが、その隙をついた形で竜車が現地に強引に到着。

 と同時にドワーフたちが飛び降りて、たちまちその場は混戦状態へと。


 奮闘する私配下のドワーフたちを援護する形でアテナが影術を操り、細かいフォローはダミアンが引き受けていた。


 集団戦ということもあり私配下のドワーフたちは遺憾なく力を発揮しており。

 そこにふたり(アテナとダミアン)の援護があるのだから、現状では圧倒的にこちらが優勢だった。


 ……とはいえ。



「──ちっ。さすがに数が多い」



 後方の異変に気付いたようで、続々と援軍が押し寄せてくることに、私は舌打ちひとつ。

 炎と氷の攻撃魔法を乱打し、蒼雷刃で切り払い、切り捨てるものの、まるでキリがなかったのだ。

 そんな私が騎乗する蒼雷纏うレングルブは、動きまわりながら時には両手の盾で防ぎつつ。



「くくく! 別に、これが目的なんだろう?」

「それはまあそうだが」



 そう答えたところで、突如として私たちへと砲弾が降ってくる。

 さすがに反応していたレングルブは咄嗟に移動しており、たった今まで私たちがいた場所に砲弾が炸裂し、土砂を巻き上げていた。



こっち(後方)にも砲撃部隊を温存していたのか……ダミアン!」

「はい!」

 

 

 私の声に即座に反応したダミアンが、戦場を疾走する。

 立ちふさがる敵の脇を搔い潜り、あるいは私の攻撃魔法で援護されながら、彼は一息に敵の砲撃部隊へと肉迫・そのまま機動性を生かした戦術でもって瞬く間に砲撃部隊の面々を蹴散らすのだが──



「そこまでだ!」

「──くう……っ」



 猛威を振るうダミアンの横手から、豪風が激突してくる。

 ダミアンは持ち前の機敏性でもってどうにか初撃は回避したものの、一瞬の遅滞なく豪快な大槌の振り抜きが追撃してきており、さすがに回避できないと判断したのか短剣で受け止めていた。

 しかし華奢な短剣では防御に向いていないのは言うまでもなく。

 盾にした短剣は破砕されてしまうが、直撃の威力は減少させたものの、体に炸裂してしまったダミアンは大きく弾き飛ばされてしまう。



「まずはひとり!!!」



 ダミアンに先制攻撃を食らわせたハダックが、トドメとばかりに猛追を。



「させるか!」

「無駄だ!」



 私が援護で放った火炎球は狙い違わずにハダックに直撃するのだが、彼へのダメージは皆無だった。

 どうやら纏う鎧自体が高レベルの魔法耐性を得ているらしく、爆発自体のダメージは相殺されたのだ。

 さすがに一国の王子だけあり、その装備品もまた一級品揃いのようである。


 しかし爆炎で一瞬だけ視界は塞げたので、その隙をついてダミアンは大きく距離をとることに成功はしていた。



「……ハダック王子」



 レングルブに騎乗する私は、苦々しい顔で彼の名を口にする。



(私の行動を読まれていた、か)



 だからこそ。

 ダイ国軍の最高戦力のひとりである彼が、私のもとに派遣されたのだろう。

 つまりは、それだけハルゼス王子たちは、私を警戒していたということである。

 もしくは、輜重部隊を叩いてきた私に対して、この機会に報復も兼ねて始末をしようという算段なのかもしれない。



(ザム国との決戦中に、悠長なことだな)



 双子の戦力が分散できたのは、僥倖といえるだろう。

 あとは、ザム国──プリメラたちの頑張り次第だろう。


 私の言葉を受けて、完全装備をしているハダックもまた、私へと改めて視線を向けてきた。……明らかな殺意が込められて。



「クレアナード。もはや敬称はいらんだろう、お互いに」

「なぜだ? なぜこんな無益な戦争を始めたんだ?」

「無益だと? 兄者が統一王になるための聖戦だ」

「ふざけるなよ。何が聖戦だ。悪戯に犠牲者を出すだけの愚行だろうが」

「クレアナードよ!」



 聞く耳もたないとばかりに、吐き捨てる私を見据える両目がカッと見開かれる。



「なぜ兄者に協力しない!? 兄者とプリメラ! 何が違うというのだ!」

「……迷宮の最奥に到達して《神の槌》を持ち帰ったのは彼女だ」

「そんなものはただの運だろうが! 兄者は統一王になるべくあらゆる努力をしてきたんだ! それがただの運で全てを台無しにされるなど、認められるものか!」



 愚鈍そうな雰囲気からは想像もできないほどに、ハダックは激高を見せてくる。

 それだけ、私に対する怒りが凄まじいということなのだろう。



「お前の介入は! ドワーフ族の今後に影響する重大なことだと知れ!!!」

「……わかっているさ。言われなくてもな」



 だからこそ。

 あくまでも私個人の行動であり、魔族国を巻き込まなかったのだから。



「約束ひとつ守れない国に、将来性などあるはずもない。だから私は、プリメラを支持すると決めたんだ。私は、私が信じる正義のために行動しただけだ」

「ほざけ! 兄者こそが統一王の器なのだ! ダイ国こそが統一国にならねばならんのだ! そのためだけにおれたち兄弟は育てられてきたのだからな! いまさらおれたち兄弟が否定されるなど、認められるか!!!!」

「ハダック……」



 ダイ国現国王は、相当に厳しい人物だとは聞き及んでいた。

 ……厳しいというよりも、野心家と表現したほうが的確かもしれない。

 そのことは、以前の表敬訪問の際、対面して実感したものである。


 きっと双子の兄弟は、厳しい英才教育を施されてきたのだろう。

 それこそ、言葉では言い尽くせないほどに……


 ──だが。

 同情はするが、約束は約束なのだ。

 プリメラが《神の槌》を持ち帰ったことは事実であり。

 それがすべてなのである。



「クレアナード。アラクネの特性上、ああいった直情型の戦士タイプは苦手とするところでねぇ。あいつと正面から戦うくらいなら、味方のドワーフたちの援護に回りたいんだけどいいかい?」



 私にぼそっと耳打ちされたレングルブは、()()()()()()()()()に言ってくる。

 それを受けた私は、相手に見えるように、ひとつ頷いた。



「わかった。お前が無理をする必要性はないしな。アテナ! 選手交代だ!」



 私が降りるとレングルブは私配下のドワーフたちの援護へと駆けていき、入れ替わりでアテナが私の横に移動してきた。

 それと共に、体勢を直していたダミアンも合流してくる。



「クレア様、これを」

「ああ、すまない」



 渡された彼女印のドーピング剤をひと息に飲み干し、身体強化の魔道具も発動。

 現状、もはやハダックとの戦闘は避けられないからだ。


 そんな私たちを前に、ハダックは傲岸不敵に笑って来た。



「お前はおれたち兄弟の──兄者の悲願の邪魔をしてくる。お前は、おれの”敵”だ。ゆえに、お前への報復に手段は選ばん」



 懐から取り出した液体が入った小瓶を飲み干すや、彼の身体に劇的な変化が。

 両目が充血し、口からは涎を流し、全身の筋肉が異常に膨張。

 先程まで両手で持っていた大槌は、いまでは軽々と片手で持ち上げていた。



「狂戦士化だと……馬鹿な! こんなことで命を縮めるなど!」



 私は驚愕に声を荒げていた。

 一時的に驚異的な戦闘力を得られる反面、代償はあまりにも大きい。

 全身に必要以上に無理な負荷が加わり続けるので、寿命を大きく削ってしまうのである。まさに諸刃の剣というわけだ。



「こんなコトだとは言わせんゾォオオ! コレは兄者の覇道のタメでありィイ! おれの覚悟なのだアアアア! 我ラ兄弟の血よりも濃い絆ァ! キサマには理解できるハズもないィイイイイイ!!!」



 狂戦士化したハダックが、獣のように雄たけぶ。



「クレアナード様! お下がりください!」

「いや、奴の狙いは私へ報復みたいだしな。この場に来た以上、どこへ行っても同じだろう」



 私を心配してくるダミアンにそう応えてから。



「ダミアン、前衛はお前に任せる。私は中距離からあいつの妨害をする。アテナは援護を頼む」



 いくら魔道具と薬で強化したとはいえ、狂戦士化したハダックの攻撃力の前では、いまの私ではまともに太刀打ちできないだろう。

 となると、ダミアンの俊敏性が鍵となるだろう。


 要は、いくら攻撃力があろうとも当たらなければ意味がない、というやつだ。


 私は、ダミアンが懐から出した新たな短剣に蒼雷を付与する。

 ダミアンは嬉しそうに蒼雷をまとう短剣を見つめてから、表情を引き締めた。



「クレアナード様のお力、決して無駄にはしません」

「頼りにしている」

「クレア様。私は?」

「ああ、お前も頼りにしているぞ、アテナ」



「──準備はいいナ?」



 狂戦士化してもなお、私たちの準備を待ってくれていたのは、やはりハダックの持ち前の性格なのだろう。

 きっと、こんな形でなければ、割と良い関係を築けたのかもしれないが……



(残念だ)



 本当に、そう思ってしまう。もはや今更のことなのだが。


 ハダックが、咆哮する。



「では……死ねェエエエエエエエエエエエエ!!!!」



 こうして私たちは。

 それぞれの想いのもと、真正面から激突する──




 ※ ※ ※


 ※ ※ ※


 


 報告を受けて戦場を駆けるハダックは、覚悟を決めていた。

 自分たち兄弟──というよりも、兄であるハルゼスを覇道の邪魔するクレナードへは、どんな手段を用いてでも報復すると。

 兄からの指示では、あくまでも足止め、可能ならば撃破ということだったが、ハダックはどうしても彼女を許すことはできなかったのだ。



(兄者を邪魔するなど……絶対に許さん!)



 幼い頃から父から厳しすぎる英才教育を受けており、兄は血反吐を吐きながらも統一王になるべく全身全霊、それこそ命を懸けて、その人生を費やしてきたのだ。

 その背を常に見続けており、英才教育に挫けそうになった時なんかは自分も苦しいだろうに兄が手助けしてくれたこともあり、ハダックはいつしか無意識にそんな兄を崇拝することに。

 そういった連続が、兄弟の絆を、親子よりも強固なものにしていたのである。


 だからこそ。


 兄の覇道を邪魔するクレナードという女が、絶対に許せなかったのだ。

 父からの英才教育などは関係なく。

 兄を妨害する存在は、この命を賭してでも排除しなくはならなかったのである。


 そして──


 強い決意のもと、ハダックは”現地”に到着。

 ちょうど、ひとりの魔族の少年が砲撃部隊を襲撃している所だった。


 ハダックは迷うことなくその少年へと突進しており。



「そこまでだ!」

「──くう……っ」



 必殺を込めた一撃は、回避されてしまう。

 しかしハダックは動じることなく、即座に追撃する。

 回避できないと悟ったのだろう、少年は持っている短剣で防ごうとしてきた。


 ハダックは鼻で笑いながら、大槌を繰り出していた。


 案の上、短剣はあっさりと砕け散り、果断の一撃は少年の身体にヒットする。

 とはいえ、短剣が衝撃材の役割を果たしたらしく、致命打には至らない様子。

 だが、少年は完全には防げなかったようで、その軽すぎる身体が宙へと。



「まずはひとり!!!」



 トドメを刺すべく、踏み込むのだが──



「させるか!」

「無駄だ!」



 仲間を援護するべくクレアナードが火炎球を放ってくるが、高レベルの魔法耐性を得ている鎧を纏っているハダックには、まったく無意味な攻撃であった。

 とはいえ、爆炎で視界が塞がれた隙をつかれたことで、魔族の少年は距離を大きくとっていたりする。

 一瞬の好機を逃さない洗練された動きから、この少年も只者ではないのだろう。



(さすがは、元とはいえ最強魔王(クレアナード)の側近ということか)



 何やら苦々しい顔で、そのクレアナードがハダックに改めて視線を向けてくる。



「……ハダック王子」

「クレアナード。もはや敬称はいらんだろう、お互いに」

「なぜだ? なぜこんな無益な戦争を始めたんだ?」

「無益だと? 兄者が統一王になるための聖戦だ」

「ふざけるなよ。何が聖戦だ。悪戯に犠牲者を出すだけの愚行だろうが」



 兄の決断を愚行と謗られたことに、ハダックは激高を隠せなかった。



「クレアナードよ!」



 双眸に激しい怒りの炎を宿し、対峙する女魔族を睨み据える。



「なぜ兄者に協力しない!? 兄者とプリメラ! 何が違うというのだ!」

「……迷宮の最奥に到達して《神の槌》を持ち帰ったのは彼女だ」

「そんなものはただの運だろうが! 兄者は統一王になるべくあらゆる努力をしてきたんだ! それがただの運で全てを台無しにされるなど、認められるものか!」



 そう。

 すべては運なのだ。

 言い換えれば、ただの運に過ぎず。

 そんなものによって(幸運な偶然)、これまでの兄の努力を無駄にされるなど、あってはならないことなのである。



「お前の介入は! ドワーフ族の今後に影響する重大なことだと知れ!!!」

「……わかっているさ。言われなくてもな」



 クレアナードの表情は、どこまでも固い。

 しかしながら、その瞳の奥には純然たる覚悟と決意が見て取れた。

 氷の美貌の上にこのような貌をされると、思わず見惚れてしまいそうになってしまうが……これが兄に心頭している彼でなければ、この視線だけで篭絡されていたかもしれなかった。



(俺と兄者の絆を見くびるなよ)



 脳裏を過るは、地獄とも形容できる辛すぎる兄との日々。

 そんな彼の想いを知る由もないクレアナードが、嚙みしめるように言ってくる。



「約束ひとつ守れない国に、将来性などあるはずもない。だから私は、プリメラを支持すると決めたんだ。私は、私が信じる正義のために行動しただけだ」

「ほざけ! 兄者こそが統一王の器なのだ! ダイ国こそが統一国にならねばならんのだ! そのためだけにおれたち兄弟は育てられてきたのだからな! いまさらおれたち兄弟が否定されるなど、認められるか!!!!」

「ハダック……」



 ハダックの烈火のごとき言葉を受けて、クレアナードの秀麗な顔が歪む。

 それに合わせて、彼女が騎乗するアラクネが何か彼女に告げるや、クレアナードはアラクネから降りる。

 どうやら、あのアラクネはこの場から離れるらしい。

 直接戦わないのならば意識しても意味がないので、ハダックはそのアラクネを意識の外へと追いやることにした。



「アテナ! 選手交代だ!」



 場を離れたアラクネと入れ替わりで、その場に女精霊がやってくる。

 何かやり取りをしているようだったが、彼にとってはどうでもいい事柄だった。

 彼がこの場に姿を見せたのは、”クレアナード”を殺すためなのだからだ。



「お前はおれたち兄弟の──兄者の悲願の邪魔をしてくる。お前は、おれの”敵”だ。ゆえに、お前への報復に手段は選ばん」



 この場に来るときから、すでにハダックは覚悟を決めていた。

 兄の覇道の為ならば、何でもするという鋼の決意を。

 脳裏に一瞬浮かぶは、子供の頃に兄弟で交わした”誓い”。


 ゆえにハダックは……

 寿命を縮める劇薬──狂戦士化する薬を躊躇なく飲み干していた。


 思考がマヒしていく中、クレアナードの動揺の声が。



「狂戦士化だと……馬鹿な! こんなことで命を縮めるなど!」

「こんなコトだとは言わせんゾォオオ!」 



 怒りが噴出して来る。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()



「コレは兄者の覇道のタメでありィイ! おれの覚悟なのだアアアア! 我ラ兄弟の血よりも濃い絆ァ! キサマには理解できるハズもないィイイイイイ!!!」



 覚悟をもって狂戦士と化したハダックを前に、クレアナード陣営で何やらやり取りを交わしており。

 それらを前に、ハダックは律儀にも()()()()()ことにしていた。


 これから始まるは、一切の慈悲もない殺し合い。


 せめて最期の前時くらいは、仲間内で別れを済ませてやろうという、怒り心頭ながらもハダックなりの優しさでもあった。

 元来、彼は鈍重な見た目通り、心優しい青年なのである。

 狂戦士化したとはいっても、まだそれくらいの思いやりを見せることは()()()()出来たのだ。


 とはいえ……戦闘が始まれば、狂戦士化の影響で別人と成り果てるだろうが。



「──準備はいいナ?」



 ハダックとて、すでに”覚悟”を決めているのだ。

 志願して狂戦士部隊の一員となった同胞と同じように。

 すべてはダイ国──兄の為に。


 その兄もまた、今頃はその狂戦士部隊を率いて突撃し、この聖戦の決着をつけに赴いていることだろう。



(今のおれガやるべきことハ……)



 仇敵となった身構える女魔族を真っすぐに見据える。


 兄の覇道を愚弄するこの女だけは。

 絶対にこの場にて、息の根を止める必要があるだろう。



「では……死ねェエエエエエエエエエエエエ!!!!」



 雄たけびを上げ。

 絶対に殺さなければならない相手へと目がけて、ハダックは地を蹴っていた。




 ※ ※ ※




 ザム国本陣は、騒乱の渦に叩き込まれていた。

 ダイ国軍の狂戦士部隊による一点集中突破により、陣を突破されてしまい、ここまで斬り込まれていたのである。

 並々ならぬ覚悟と死を恐れない勇猛というべきか蛮勇というべきか、狂戦士によるたった一個部隊によって、ザム国の本陣は修羅場と化していた。


 本陣のいたるところで激戦が行われる中。

 その中心点にて激突するは、この戦争の主役たち。



 完全武装するハルゼスと、ザオーム(近衛騎士)と協力するプリメラ(王女)である。



 一見すると2対1という構図だが、ザム国陣営は優勢とは言えない状況だった。

 それは、プリメラが得意とする魔法が完全に無力化されていたからである。

 ハルゼスもまた、ハダックと同じように完全魔法耐性の鎧を纏っていたのだ。



「むきー! ほんっと腹立つんだけど!!!」



 無駄と知りながらも、牽制の意味合いで攻撃魔法を放つプリメラ。

 とりあえず視界は塞げるので、彼女は援護役に徹している様子。

 その援護を受けて矢面に立つザオームは、両手で持つ魔法生物であるキノコで真正面からハルゼスと攻防を。

 さすがに物理よりであるキノコ爆弾や触手の乱打は無力化できないようで、ザオームの存在が、この状況を一方的な展開にさせることはなかった。



「おのれ……忌々しい近衛が!」

「キシシ! 残念でしたねぇ。完全魔法耐性は対プリメラ用だったのでしょうが、生憎と私には関係のないものなのですよ」



 余裕ぶって言うものの、ハルゼスの防備も予想以上に堅いようで、ザオームにとってもなかなか攻めあぐねている感じだった。

 そんな攻防の最中、ザオームがちらりと見るは、プリメラがすぐ横に置いている、戦場には不釣り合いすぎる神々しい槌──《神の槌》。



(あれが切り札になる、といったところでしょうかねぇ)



 さすがに”神の攻撃”の直撃を受ければ、いかに頑強な鎧に身を包むハルゼスといえども、ひと溜まりもないだろう。

 あの人知を超えた存在である魔人すらが、その一撃で致命傷を負ったのだから。


 そしてそれが、王族たるプリメラが最前線に送られた理由でもあった。

 劣勢に追い込まれていることで、軍上層部が《神の槌》を切り札として運用しようとしているのである。

 王族しか手に取れない武器の以上、魔法を行使でき、尚且つ迷宮から持ち帰ったプリメラに白羽の矢が立ったというわけだ。


 恐らくは、指揮官であるハルゼスがこうして最前線に直接赴いてきたのも、そういった理由なのだろう。

 なにせ《神の槌》は、初代王に連なる血脈にしか触れることができないのだから。



(……しかし、まずいですねぇ)



 友軍は懸命に応戦しているが、狂戦士が相手ではどうしても分が悪かった。

 どんなにダメージを与えても怯まずに襲い掛かってくるために、数こそ上回っているというのに、友軍が押され気味だったのである。

 まるでゾンビのように襲い来る狂戦士たちは、ある意味ではゾンビよりも性質が悪いと言えるだろう。

 ソンビ以上の攻撃性と苛烈さで、確実に死ぬまで牙を向けてくるのだから。


 そんな中、ザオームと攻防を展開するハルゼスが忌々し気に吐き捨ててきた。



「クレアナードといいキサマといい。魔族の女には、本当に苛立たされる」

「ほう? クレア氏がこの戦場に来ていると?」

「何を白々しいことを! あの女の余計な介入が、このような無様な事態を招いたのだろうが!!」

「……キシシ。なるほど、そういうことでしたか」



 通信が妨害されているので連絡をとってはいなかったのだが、どうやらクレナードが一枚噛んだおかげで(せいで)、いまの状況に陥っているということを知らされたザオームは、面白そうに双眸を細める。



(この異質とも思える強行軍……クレア氏の影響でしたか。キシシ……まさか、彼女が力沿いをしていてくれたとは)



 素直に驚きを隠せなかった。

 まあ、魔族国が介入してこない辺りは彼女個人による判断なのだろうが。

 それでも、クレアナードという”影響力”は看過できるはずもなく。

 それゆえにダイ国は、強硬策を強いられることになってしまったのだろう。



「キシシ! プリメラ! どうやら勝機が見えてきましたよ。あとは私たちの頑張り次第でしょう。《神の槌』の使いどころ、見極めてください」

「はい! お姉サマ!!」



 ザオームに心の底から心酔しているプリメラは即座に元気よく答え、普段からは想像もできないような真剣な表情で戦場を見据える。


 そんなふたりに対するハルゼスはというと、忌々し気に顔を歪めていた。 

 


「ほざくなよ。確かに我等にはもう後はない。だが……だからこそ! 後がない者の必死さと壮絶さ! そしてその覚悟を! 揺るぎない決意を! 身をもって知るがいい!! ただの運など……吹き飛ばしてくれるわ!!!」



 ハルゼスもまた……狂戦士と化す薬を自身に投与する。

 寿命と引き換えに驚異的な戦闘力を手にしたハルゼスは、獣のような咆哮を轟かせながら、対立する女たちへと飛び掛かっていくのだった。




戦争はいよいよ佳境です。

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