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勇者を討伐した魔王様は魔力を封じられた為に解雇される。  作者: 吉樹
第6章 『ドワーフ国編』
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第7話 「魔王様、巻き込まれる」

前話のあらすじ:ロード種と戦いました。

「ギイィイィイイ……」



 断末魔を上げて、私に切り伏された魔獣がひっくり返った。

 他のメンツも危なげなく返り討ちにしていたようで、その場の敵勢力は難なく全滅することに。



「やはり、あの食糧庫が異質だったってことなのか?」



 クモ・ロードが番人だった部屋からあれ以降、遭遇する魔獣の全てが下級か中級クラスだったのである。

 そのため、戦力的なこともあり、私たちの攻略は順調といえた。



「魔獣が巣くう場所というのは、想定外が容易に発生しますからね」

「じゃあ、あの食糧庫も、イレギュラーだったってことなんですかね」

「キシシ……何でもいいじゃないですか。ロードクラスの部位なんて、換金率がウハウハなんですからねぇ」



 邪な笑みを浮かべるザオームに対して、ダミアンが厳しい眼差しを突き差す。



「言っておきますけど。回収した部位をギルドで換金したお金は、皆で平等ですからね。独り占めなんて真似、俺が絶対にさせませんよ」

「キシシ! まるで私が裏切って独り占めするかのような言いぐさですねぇ」

「……そうは言っていませんけど」

「目は口程に物を言うとは、よく言ったものですねぇ。いやはや、まだ私を信用してくれていなかったとは。道中の困難を共にしたことで、少しは信用してくれていると思っていたのですがねぇ」

「それは……」

「キシシ。まあ、別に気にしてなんていませんがねぇ。所詮”男”なんて、手前勝手な生き物なんですから」

「……俺を、あの男(ブレア)と同列視しないでください」

「ほう? どこが違うと? 戦闘時だけ私を利用しておいて、平常時では敵視する。必要な時だけ求めて賢者モードになったら近寄るな、と言っているのと変わらないと思うのですがねぇ?」

「それは……でも、俺はそんなつもりじゃ……」



 言葉に詰まるダミアンの肩に、私はポンと手を置いた。



「ダミアン」

「……わかってます。俺は、不用意な発言をしました」



 きゅっと唇をかみしめた彼は、真摯な眼差しをザオームへと向けると、深々と頭を下げる。



「すいませんでした。俺の未熟さゆえに、不快な思いをさせてしまいました」

「ザオーム、私からも謝罪する。どうか、ダミアンの失言を許してやってほしい」

「キシシ……先ほども言いましたが、別に気になんてしていませんよ。所詮は、()()()()()()()()なのですからねぇ」

「…………っ」

「ザオーム……」



 こうして一応は場の流れが収まりを見せるものの、なんともいえない雰囲気がその場に落ちてしまう。

 すると、まるで火に油を注ぐがごとく、アテナがよけいな介入をしてきた。



「おやおや、気にしないとは。ザオームさんは案外、心が広いのですね」

「キシシ。今頃気づきましたか?」

「もし私でしたら、ギーノ君の性質を使って、触手で”おしおき”を敢行していたことでしょう」

「ちょ、アテナさん……っ」

「キシシ……残念なことに、ギーノくんは男に興味ないんですよねぇ。まあどうしてもというのであれば、ギーノくんに我慢してもらう他ないんですが」

「なるほど。良かったですね、ダミアンさん。我慢してもらえば”おしおき”して頂けるようですよ」

「いやいやいや! アテナさん、言っている意味がわからないですから!」

「キシシ! なんだか、ギーノくんがやる気になってきたようです」



 いつしかキノコのひだからは触手が伸びており、うねうねと蠢いていたりする。

 その光景を前に、ダミアンの顔が引きつった。



「ちょ、だから俺が悪かったですって! 謝ってるじゃないですか! 触手を近づけないでください!?」

「ちょっとくらいは、ギーノくんも味見してみたいと言っていますよぉ?」

「勘弁してくださいってば!!?」

「キシシ!」



 さっきまでのギスギスした雰囲気はどこへやら。

 悪ふざけの延長のような空気と一変したことに、私はアテナの脇腹を小突く。



「やるじゃないか、アテナ」

「いえいえ。まあ私としても、いつまでも険悪な空気は嫌でしたので」



 つまりは、アテナはわざと大げさに発破をかけたのだ。

 ふたり(ダミアンとザオーム)の関係はいまいち良好ではないので、少しでも改善させようと、気遣った発言だったというわけだ。



(まあ、改善されたかどうかは、微妙だけどな)



 少なくとも、先ほどまでのギスギスした空気が中和されているのだから、成功と言えなくもないだろう。




 ダミアンとザオームの関係性が多少なりとも改善(?)させながら、私たちは攻略を進める──




 ※ ※ ※




「もうすぐ、か」



 地下10階層へと続く傾斜がキツいスロープを進む中、私は何と気なしに呟く。

 脳裏を過るは、道中で遭遇した何組みかの冒険者パーティ。

 彼らは一様に疲労困憊・満身創痍であり、逃げ帰る途中だった。


 その原因は言うまでもなく。

 ドワーフ王子一行すらが手に負えなかった1体のアンデット。



「チートだ!」

「攻撃が通じねぇ!」

「あんなの倒せっこない!」



 等々、口々に吐き捨てていた。

 そんな冒険者の中には魔法使いの姿もあったことが、私の危機意識を募らせていたりする。



「無用なリスクを負わないで、ここは引き返したほうが得策なんだろうか……皆の意見を聞かせてくれ」



 迷いがある私は足を止め、仲間たちに問いかけた。

 さすがに、私だけの一存では決め兼ねたわけである。

 弱体化さえしていなければ、どんな劣悪な状況だろうが己の力だけで打破できる自身はあるのだが……



「私はクレア様のご指示に従うだけです」

「キシシ。私としては、そのアンデットの部位を回収したいですねぇ。さぞかし、高値となることでしょう」

「またザオームさんは……」



 皮算用するザオームに対してダミアンは、以前のような険悪感ではなく、私たち──むしろ主にアテナだが──に向ける様な態度で、やれやれと首を振る。



「聞いた話だと、物理だけじゃなく魔法にも耐性があるみたいじゃないですか。そんなの、下手したらロード種以上ですよ。俺たちでもヤバいと思いますけど」

「キシシ! ダミアンくんは臆病ですねぇ」

「臆病と警戒心が強いってのは、別物だと思いますけど」

「物は言いようですねぇ」



 意見が対立するふたりを前に、私は「ふむ」と顎に手をあてた。



「つまり、このまま進むことに反対がダミアン、賛成がザオーム。そしてアテナは私次第、ということか」



 見事に意見が分かれている事態に、私は頭を悩まされてしまう。



(リスクを考えるならば、引き返すのが無難なんだろうが……)



 これまでの情報を整理すると。


 イレギュラーな敵は、鎧を纏うドワーフ族のアンデット。

 物理のみならず魔法にも強く。

 脅威の再生力を持っており。

 攻撃方法は手刀のみ。


 なぜ攻撃方法が手刀なのかというと、その骸骨は武器らしいものを持っていないから、らしかった。



「ザム国やラオ国の王族一行と接触したかったが……」



 リスクを考慮した結果、私は判断を下した。



「ヤバそうな魔獣? が下層にいるのならば、無理に潜ることもない。とりあえずは、私たちも引き返そう──」



 と、そんな時だった。

 息も絶え絶えの冒険者一行が、先の通路から飛び込んできた。



「同職か!」

「悪い事は言わん! お前たちも逃げたほうがいいぞ!」

「あのアンデット、マジでヤバ過ぎる!」



 等々叫びながら、冒険者たちはわき目も降らずに私たちの横を通り抜けていく。



「楽な仕事だと思ったのによ……!」

「でも運がいいぜ、俺らは」

「だよな。あのドワーフ部隊のおかげで逃げられたわけだしな……っ」



 気になるワードを残して、彼らの姿は見えなくなっていった。



「……ドワーフ族、か」



 王族一行なのか、ドワーフ族の冒険者たちなのか。

 いずれにしても。

 彼らの口ぶりだと、今もなおイレギュラーなアンデットと交戦状態にあるということはわかった。



「クレア様、我々はこのまま引き返すので?」



 私の答えを()()()()()()()()にも関わらず聞いてくるアテナに、私は苦笑。



「……相変わらず意地悪だよな、お前は」

「それほどでも」

「褒めてない」



 いつも通りのやり取りをする私たちを前に、ダミアンも苦笑い。



「ではクレアナード様、応援に向かうんですね?」



 彼すらが私の答えを予測している様子だったが、唯一ザオームだけが低い笑みを見せてきた。



「キシシ……私としては、別に見捨ててもいいと思うのですがねぇ」

「難敵と交戦中の誰かがいる。私たちがここで見捨てたら助からないかもしれない。だが私たちが手助けすれば、もしかしたら助かるかもしれない。だったら私は、その情報を知ってしまった以上は──」

「……キシシ。お人好し過ぎる貴女と行動を共にしていたら、命がいくつあっても足りない気がしますよ」

「ザオーム……それでも私は……」

「おっと。勘違いしないでください。私はもともと、潜ることには賛成でしたので。イレギュラーなアンデットの部位、回収したいですからねぇ」



 個々の目的は違えども。

 私たちは戻るという選択肢を破棄して、地下10階層へと向かうことに──




 ※ ※ ※




 地下10階層では、予想通り戦闘が繰り広げられていた。


 冒険者の姿はなく、ドワーフ族のみである。

 すでに何人ものドワーフ戦士が倒れており、ざっと見た所、半分程度が戦闘不能状態だった。



「……あいつが、件のアンデットか」



 ひとりのドワーフ戦士と攻防を展開する骸骨を目撃した私は、思わず息を呑む。


 半分朽ちている骸骨には不釣り合いすぎる立派な鎧には目を見張るものがあるが、どうやらその鎧自体が特殊能力を付与されているらしく、骸骨がダメージを負う都度輝くや、瞬時に骸骨のダメージを修復していたのである。



「どうやら、脅威の再生力というのは、あの鎧の効果のようですね」

「キシシ。それだけではないようですよ?」



 呑気に解説するふたり(アテナとザオーム)の視界の先にて、骸骨が爆裂に巻き込まれていた。

 しかしこちらも同じく鎧が発光すると、まるで鎧に吸い込まれるかのように爆発そのものが吸引されており、骸骨自体には何らダメージを与えることはなかった。



「あの鎧……とんでもないな」



 私と同じ感想を抱いたようで、いまの攻撃魔法を叩き込んだ本人が、隠すことなく思い切り地団駄を踏んでいた。



「あ~~~~もう!!! なんなのよそのゴツい鎧は!!!? マジ腹立つんだけど!!!!」



 勝ち気そうな瞳が印象的な女ドワーフだった。

 纏うのは鎧ではなく、動きやすそうなふんわりとしたローブ。

 しかし戦闘の余波なのか、すでにボロボロとなってはいたが。



「ドワーフが魔法を……キシシ。何者ですか、あの異色のドワーフは」



 不思議そうに呟くザオームに答えたのは、答えるつもりはないのだろうが(そもそも聞こえていないだろうが)当事者のひとりである、侍女服に身を包む小柄な女ドワーフだった。



「王女様ぁ! あんまり前に出過ぎると危ないですよぉ!?」

「うっさいわね! ワタシに指示しないで! アンタこそ足手まといなんだから、もっと後方に──」



 そこで初めて、王女と呼ばれた女ドワーフが私たちに気が付く。



「あ……クレアさんじゃない!? どうしてこんなところに!?」



 こちらは名前を覚えていなかったというのに、向こうは律儀にも名前を憶えていてくれたらしい。

 アテナに小声で耳打ちされた私は、ドワーフ王女へと合流を果たす。

 その一方では私の指示を受けたダミアンが骸骨へと突貫しており、ドワーフ戦士──近衛隊長と共闘して骸骨と戦闘を。



「プリメラ王女、無事で何よりだ」

「あったり前じゃない! ワタシを誰だと思っているのっ? 誰よりも偉いワタシは、こんなところで簡単に負けたりしないんだからね!!」

「で、でも王女様ぁ。すっごく劣勢でしたけどぉ……」

「うっさいわねララン! アンタは黙ってなさい!」

「ひいっ、ごめんなさいぃ……」



 頭ごなしに怒鳴られた侍女が身を縮ませる一方では、ザオームが納得していた。



「キシシ……なるほど。貴女が噂に聞く、ラオ国の”魔女”プリメラ姫ですか」

「……なによアンタ。気持ちわるいわね」



 不躾に舐めるように見られるプリメラは、隠すことなくはっきりと言い捨てる。



「キシシ! こちらも聞いていた通り、かなり性格に”難”があるようですねぇ」

「はあっ!? なにいきなり!? ケンカ売ってるわけ!!?」

「おいおいおい……いまはそれどころじゃないだろうが」



 呆れた私が仲裁に入ったことで、辛うじて二人が激突することは避けられた。

 そして視線を、骸骨へと。

 現在はアテナの援護のもと、ダミアンと近衛隊長が骸骨と接近戦を展開しており、まだ動けるドワーフ達も機を見ては、邪魔にならないように参戦していた。


 とはいえ……


 はっきり言うと、物理攻撃はまるで効果が見られなかった。

 確かに骸骨にダメージを与えてはいるのだが、鎧が発光する度に全快してしまうのである。



「クレアさん! あの鎧、どうにかなんない!?」

「そう言われてもな……」

「あ~もう! 使()()()()()()!」



 本人()を目の前にしての悪態をつくプリメラに対して、侍女が必死の形相で私にペコペコと頭を下げてくる。

 見ていて、思わずこちらが申し訳なくなってくるほどに。



(まあ……本当のことだから、気にはしないが……)



 ザム国の王女プリメラは、以前の表敬訪問時から、残念なことに何も成長はしていなかったらしい。


 一言で彼女について語るならば……

 ”我が儘が服を着たようなもの”

 と表現するのが、一番しっくりくることだろう。



「とにかく。あまり建設的じゃないが、物理と魔法でごり押しして、あいつの隙を見つけるしか手立てはなさそうだな」

「とっくにそうしてるから!」

「そうか、それは悪かったな」

「この場に来たってことはさ、ワタシたちに協力してくれるんだよねっ?」

「……まあ、そのつもりだったが……」

「だったら早く行動に移ってよね! 口じゃなく手を動かして! 弱体化したからって脳みそまで腐ったわけじゃないんでしょう!? そっちのキノコ持ったアンタもほら! 早く!! 愚図は嫌いよ!!!」



 聞くに堪えない王女からの罵声。

 侍女が土下座に近い恰好で謝罪をしてくる。



「……キシシ。なんなんですか、あの生意気なガキは」

「……ザオーム。気持ちはわかるが、いまはあの骸骨の討伐を優先しよう」



 不愉快そうなザオームに促した私は、抜剣して切っ先に蒼雷を纏わせた。



「キシシ。まあいいでしょう。邪魔者が居ては、ゆっくり()()()()()も出来ませんからねぇ」



 ザオームが何やら気になるワードを呟くものの、悠長に追及する余裕はないのだった。




 ※ ※ ※ 




『GUUUUUUUUUUUUUUUUUUU…………!!!!』



 一言で言うならば。

 骸骨ドワーフの強さは想像を絶していた。

 完全に予想の範疇を越えていたのである。


 温存したかったのだが、割とあっけなく盾を生み出す魔道具を使わされたのは言うまでもなく。

 身体能力を強化するペンダントまで使わされる羽目に。


 骸骨の武器は手刀だけにも拘わらず私たちと平然と切り結んでいたのは、その骨の両手が薄っすらとした闇を帯びているからなのだろう。


 正面から斬りかかる私の斬撃を難なく弾き。

 横手から叩き込まれてくるキノコも受け弾き。

 死角から強襲するダミアンの短剣すらもが弾かれる。


 それでもやはり私たちの同時攻撃を完全に防ぐことはできないようで、身体の各所にダメージを負っていく。

 しかし鎧が発光することで瞬時に回復されてしまうので、焼け石に水状態ではあったが。


 圧倒的な回復力があるのだから、わざわざ防御しないでもいいような気もするのだが……



(生前の記憶の名残り、か……?)



 動きから骸骨が戦闘慣れしているのが見て取れるので、生前はきっと名の知れた戦士だったのだろう。

 とはいえ。

 ただでさえ脅威の回復力があるのというのに、それに加えて熟練技の防御までされると、私たちとしても攻めあぐねるというものだった。



「うぬぅ……っ」

「やはりダメか……ッ」

「ぐわぁあああ……」



 ドワーフ戦士たちもタイミングを見ては骸骨へと四方から飛び掛かっているものの、やはり私たちと同じく、これといった効果を得られてはいなかった。

 しかも骸骨はただ防戦するだけではなく、その都度反撃が浴びせられてくるために、時間の経過と共にドワーフ戦士たちの数が減っていく始末。



「下手に踏み込み過ぎるな! クレアナード様方の邪魔になるぞ!」



 近衛隊長の檄が飛び、やや崩れ始めていたドワーフ族の戦線が立て直される。



『GUUUUUUUUUUUUUUUUUUU…………』



 骸骨が、これまにない程に低く唸った。

 ドワーフ族はともかく、いつまで経っても私たちが倒れないことに苛立った、というわけではないのだろうが……



『GUUUUUUUUUUUUUUUUUUU!!!!』



 両手にまとう闇が濃くなると同時に、私めがけて突進してくる。

 すかさず影の手が伸びて足に巻き付くものの、遅滞なく引きちぎられてしまう。

 


「ちい!」



 牽制の意味合いで氷魔法で骸骨の右足を氷漬けにするのだが、骸骨は意に介さずに突進を継続。

 その結果として、凍っている部分の右足が砕け散ることになるも瞬時に再生しているので、私との距離はあっと言う間になくなる。

 逆に、足止めを試みたことにより、私の方が対応が遅れる結果に。


 正拳突きとばかりに繰り出されてくる手刀。



「ぐう……っ」



 辛うじて蒼刃で受け止めた私は、そのあまりの衝撃に受け止めきれず、後方へと弾かれてしまう。

 対応が遅れたことにより、踏ん張りが効かなかったのである。



「させない! ──あぐう……っ」



 私へと追撃を叩き込もうとする骸骨へとダミアンが死角から仕掛けるものの、彼から受けたダメージを物ともしない骸骨から手痛い反撃を喰らってしまったダミアンが、逆に吹き飛ばされる。



「キシシ! これならばどうですか!」



 キノコ爆弾の雨あられ。

 身体の各所を爆砕されながらも突破した骸骨の一撃が、ザオームに決まる。

 咄嗟にキノコを盾にしたようだったが手刀はあっさりと貫通しており、彼女の脇腹に突き刺さった模様。

 トドメとばかりに追撃を浴びせようとする骸骨なれど、伸びた黒の手がその全身を拘束する。



『GUUUUUUUUUUUUUUUUUUU…………!』

「今度はさせませんよ」



 拘束を引き千切ろうとする骸骨。

 アテナはそのまま二重、三重と黒の手を骸骨へと巻き付け。



「でかしたわよ精霊! おっりゃあああああああああ!!!!」



 大声を上げたプリメラが、渾身の攻撃魔法の雨を叩き込む。

 直後に上がるは、盛大な爆裂音。

 骸骨の全身は、爆発の嵐の中へと消えていく──


 しかし次の瞬間。


 爆炎の中から破損著しい骸骨が飛び出してきた。

 鎧が発光するや一瞬で破損個所が修復されており、何ら遜色ない動きでもって、まるで反撃とばかりにドワーフ王女へと突き進んでいく。



「な!? え!? ちょ、なんでこっちに!?! わ、ワタシを守りなさい!!」



 眼下に迫ってくる”敵”に王女が動転気味に叫び散らすが、位置的に私たちでは間に合わず。

 王女の周りにいたドワーフ戦士たちが応戦するのだが、難なく戦闘不能に。



「まずい! アテナ!!」

「わかっております」



 駆け出すものの間に合わない事がわかりきっているために私は彼女の名を呼び、即座にアテナは影術でもって王女へと肉迫する骸骨を拘束しにかかるのだが……



『GUUUUUUUUUUUUUUUUUUU!!!!!!』



 低く絶叫するや影は吹き散らされてしまい、そのまま突進を止めない骸骨は、狙いを逸らすことなく王女へと。



「ひ……っ」



 その時、初めて王女の瞳に恐怖が宿る。

 そして恐怖は、時に正常な判断力を奪う……



「こ、こっちくんなああああああああああああああああああ!!!!!!!」



 狼狽の絶叫。

 追い詰められた王女が、ありえない行動に打って出た。



 構えた杖の先端に、猛烈な勢いで魔力が集約されていく。



 バチバチと弾けて魔力のスパークをまき散らすことから、強力な魔法を発動しようとしているのがわかった。

 魔力スパークの弾け具合からいって、私の切り札(火炎竜)よりももっと強力な攻撃──攻撃魔法では最大級である極大魔法と推測できた……



「な!? ちょ、待て──」


 

 私の制止の声は、残念ながら一瞬遅かった。



 地下ダンジョン内での極大魔法。

 そんなことをすればどうなるかなど、火を見るよりも明らかだろう。

 だというのに…… 

 



「どっかあああああああああああああああああん!!!!!!!!」





 間抜けた掛け声とは裏腹に、凶悪無比でいて回避不可能な破壊の嵐が巻き起こり、その場を縦横無尽に席捲する。

 王女にまさに肉迫しようとしていた骸骨すらもが、声を上げることすら出来ず吹き飛んでおり。



 ──結果。



 その大広間は崩壊。

 その場にいた者たちは床が崩壊したことで、崩落に巻き込まれることに。

 しかも最悪なことに、私含む数名が落ちた真下には地下水脈が流れており……


 濁流に巻き込まれた私たちは、成す術なく奔流に晒される──




 ※ ※ ※


 ※ ※ ※




「……ふう。やっぱり、ダメですわね」



 魔王城にある自室にて、連絡用オーブを見つめていたラーミア(新魔王)は嘆息を零した。

 (クレアナード)と連絡が繋がらなくなってから、早数日。

 最後の連絡時が”これから地下迷宮に潜る”だったので、きっと今も尚攻略中なのだろう……

 


「どーしたッスか? ラーミア様」



 さっきまで誰もいなかった空間に、いつの間にか密偵(リング)が姿を現していた。

 彼女は慣れた様子で、ベビーベットで横になっている赤子(ゾーイ)の頭を撫でてやる。



「おーヨチヨチ。いい子にしてまちたかぁ?」



 ゾーイはご機嫌な様子でキャッキャと笑い、気を良くしたのかリングは今度は腹をくすぐり始め、ゾーイはさらなるご機嫌顔に。


 彼女が突然現れることは、もはやいつものことなのでラーミアはこれといって驚くこともなく、テーブルに置いていた資料に手を当てた。



「この案件、お姉さまのご意見を伺いたかったのですわ」

「んーどれどれ……ああ、確かに。面倒そうな案件ッスねぇ。こりゃあ、経験者の意見が聞きたくなるッスねぇ」



 ゾーイをあやしながら器用に資料に目を通すリングは、マスクの下からでもわかるように、にいぃっと笑ってくる。



「ダンナさんに聞いてみたらどうッスか?」

「……イジワルですわね、リング」



 少しだけ頬を膨らませるラーミアは、その後に小さく吐息をひとつ。



「マイアスもまだ気持ちの整理が付いていない状態ですわ。そんな彼に、意見を求められるわけないじゃありませんの。自分の事でいっぱいいっぱいでしょうし」

「ラーミア様の手前だから表現は控えるッスけど、案外、だらしない人ッスよねー。あんな大それた事しておいて、未だに心の療養中とか」

「きっと彼は、罪悪感に苛まれているのだと思いますわ。私を裏切ったこと。それでも()()()()()()()()ことに。そういう生真面目な面がありましたから。まあ、そこが彼の魅力のひとつでもあるんですけどね」


 懐かしそうに、柔らかな微笑をしてくるラーミア。

 リングは、わざとらしく顔をしかめてきた。



「はいはいっと。ノロケは勘弁してくださいッス」

「酷いわ、リング」

「こちとら、仕事漬けで男っ毛なんて皆無なんスから」

「あら、そうなの? 私はてっきりダミアンと良い仲なのかと思っていましたわ」

「後輩君と? いやいや、ないッスよ。わたしの守備範囲は、ダンディなステキなおじ様ッスから」

「あら、そうなの? 初耳だわ」

「身内のいない金持ちがいいッスねぇ。んで、なんか重篤な病持ちで、余命が長くない感じで」



 リングの理想像に、思わずといった感じでラーミアが噴き出す。



「ちょ、リング。それって最初から遺産目当てじゃ……」

「世の中お金ッスからねぇ。んで遺産が手に入ったら、若い子を囲うってのが、わたしの夢ッスかね~」

「まあ……幸せの形はヒトそれぞれですので、とやかく言うつもりはありませんけれど」



 呆れを隠そうともしないラーミアに、リングは「にししっ」と楽し気に笑うのだった。




幸せの形はヒトそれぞれ……なのです。

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