第6話 「魔王様、地下迷宮攻略中。前半戦④」
前話のあらすじ:本格的な攻略を開始しました。
ザオームの先導が終わり、未知の領域を攻略することになった私たちは、ダミアンが先行偵察して慎重に進むというやり方でもって、比較的安全に攻略することができていた。
当然ながら魔獣と遭遇する確率も上がってきてはいたが、私たちのメンツをもってすれば脅威とは言えなかったのである。
そして順調に攻略が進む中、差し掛かった中規模の部屋にて、私たちは足を止めていた。
その部屋には、3つの通路が伸びていた。
ひとつ目は、いま私たちが来た道。
2つ目は先が見えない通路であり。
3つ目は見える範囲内で曲がり角となっており、何やらその先からは異臭が漂ってきていた。
「……呻き声、か」
3つ目の通路からは異臭だけではなく、小さいながらも明らかなヒトの呻き声が聞こえてきたりする。
このことから、その通路の先にはヒトがいることは間違いないのだが……
「如何しますか? クレア様」
「んー……」
「キシシ。私としては、スルーすることを推奨しますよ」
「あの、クレアナード様。俺が偵察してきましょうか?」
ザオームの進言通り無視しても良かったのだが、呻き声の以上、声の主は何かしらの非常事態に陥っている可能性が高いと言えるだろう。
まあだからといって、私たちが手助けしてやる義理などはないのだが……
「……まあ、旅は道連れ世は情けって言うしな。これも何かの巡り合わせだろう。ダミアン、頼む」
「では、少しお待ちを」
足早にダミアンが、異臭がしてくる通路へと。
その背を見送りながら、ザオームが低く笑ってくる。
「キシシ……クレア氏は、甘いですねぇ」
「そういうな。これも性分だから仕方がない」
「ブレアの旦那が、毛嫌いするわけですねぇ」
「……まあ。あの男と私では、まさに正反対だろうな」
「ええ。いつもピロートークの時、貴女への愚痴を零していましたよ」
世間話のような口ぶりで言ってくるものの、聞き流せない単語があったことに私は反応してしまう。
「あの男と、そういう関係にあったのか?」
「男の権力者に取り入るには、”女の武器”を使う方が手っ取り早いですからねぇ」
なぜブレアに白羽の矢が立ったのか。
それは私が女であり、マイアスはすでに妻帯者だったからなのだろう。
(あの男もなんというか、存外……あれだったんだな)
だがこれで、合点がいくこともあった。
「……あいつがお前のご機嫌取りをしていたっていうのは、そういう背景があったんだな」
「キシシ……こう見えても私は、床上手ですからねぇ。上手に生きる為の術、というやつですよ」
私よりも経験豊富なことを滲ませてくる一方では、アテナが皮肉げに。
「そのご機嫌取りでギーノ君を送り、ギーノ君に寝取られてしまったわけですね」
「キシシ! ブレアの旦那とギーノくんでは、テクがまるで桁違いですからねぇ。虜になってしまうのも無理らしからぬことなんですよ」
「……手数の違い、ということか?」
「ええ。四方八方からの責め……あれを一度経験してしまうと、人生観ががらりと変わってしまいます」
「……それは、すごいな」
興味はあったが怖いという思いが強い私がそう呟いたところで、ダミアンが小走りで戻ってきた。
「クレアナード様。あの先は行き止まりの部屋となっていましたけど……」
「どうした? 言いよどんで」
「えっと……たぶん、蜘蛛たちの”食糧貯蔵庫”なんじゃないかと」
「食糧貯蔵庫……?」
「はい。まるで番人みたく、ロード種が1体、上級種が2体、見張りにいました」
「まじか……この階層にロード種、か」
それだけ、重要視されている場所ということなのだろう。
ここまでは下級種が主であり、中級がちらほら出てくる、といった難易度だったのだから。
ダミアンの食糧庫という発言から、どういう雰囲気の場所かは想像できるが……
「生存者は確認できたか?」
「いくつかの”繭”からは呻き声が聞こえてきていたんで、とりあえずは”まだ”生きてるかもしれないです。”繭”の中にいるんで断言はできないですけど……」
「こうして異臭がしてくる以上は、すでに何人かは中で腐ってそうですねぇ」
「食べ物は、腐りかけがおいしいですからね」
笑いながらのザオームが指摘し、相変わらずの様子ででアテナが場違いな事を。
そんなふたりの態度にどう反応していいのかわからない様子のダミアンは、答えを求めるように私へと目を向けてきた。
「どうしますか、クレアナード様」
「んー……」
外に出て来ない魔獣の巣にわざわざ乗り込んでいる以上は、もはや自己責任の範疇と言えるだろう。
しかも魔獣を殺して資金源にしているのだから、その逆も然り。
魔獣の餌になったとしても、因果応報というものである。
とはいえ……まだ生存者がいるのであれば、見捨てるというのも寝覚めが悪くなってしまうだろう。
「面倒だが生存者がまだいるのなら、救出したいと思うんだが」
「クレア様がそう仰られるのであれば」
「俺も、異論はないです」
「キシシ……お人好しですねぇ。自業自得でしょうに」
「……こういう性分なんだ。自分でも面倒くさいとは思うがな」
苦笑い。
他者を簡単に切り捨てることが出来ないのが私であり、そういう点が、ブレアとの最大の違いなのだろう。
「ダミアン。お前はまず、ひとりでロードの足止めを頼む。その間に私とザオームで2体のハイ・グモを倒す。アテナは状況に応じて援護してくれ」
私の指示に皆が頷く中、アテナが懐から小瓶を取り出してきた。
「クレア様、これを」
「ん、すまない、助かる」
グイっとひと息に喉に流し込む。
途端に身体の内側から、不思議な活力が湧いてくる……
ザオームが不思議そうに目を丸くしていたが、これといって興味もなかったのか、何も言ってはこなかった。
「ふう……いつ飲んでも効果てき面だな。さすだな」
「恐れ入ります」
アテナ印のドーピング剤で元気になった私は、改めて一同へと。
「よし、いくぞ!」
こうして私たちは、生存者の救出に向かうことに──
※ ※ ※
立ち込めるは、不快な饐えた匂い。
思わず顔をしかめてしまうのも、無理らしからぬことだった。
その部屋は、まさに食糧貯蔵庫と形容できるだろう。
蜘蛛の糸で形成された繭状のものが無数に天井からぶら下がっており。
床にも、倒れないように糸で固定された状態の繭がいくつも点在していた。
そして床に固定されている繭のいくつかからは、弱々しい小さな呻き声が。
部屋の中央には番人よろしくといった感じで赤道色の巨大な蜘蛛が鎮座しており、2体の上級蜘蛛は離れた位置にて、繭の中身を貪っていた。
下級や中級の姿が見受けられないのは、断言はできないが、ロード種に対して恐れを抱いているのだろう。
蜘蛛の中には共食いをする種もいるので、弱肉強食の関係性の以上、下手に上位の存在の視界に入らないようにしているのかもしれなかった。
『ギギィィイイイイイイィイイ!』
私たちが室内に飛び込んできたことで、クモ・ロードが咆哮を上げてきた。
それが指示だったようで、食事中だった2体の上級蜘蛛が即座に反応。
私たちに飛び掛かりざまに、そのまま糸を吐いてくる。
「お任せを」
アテナが影術を発動。伸びた影が盾となって糸を遮断。
上級蜘蛛の合間を縫ってダミアンが駆け抜け、ロードへと。
ダミアンを追撃しようとする上級蜘蛛へは、私とザオームが強襲。
「させるか!」
「キシシ!」
私とザオームが飛び掛かったことにより、上級蜘蛛たちは標的を私たちへと定めたようで、牙をむき出してきた。
「「ギィイイイィィイ!」」
蜘蛛型の攻撃方法としては、粘着性のある糸は言うまでもなく、その鋭い牙もまた立派な武器であり、後は8本脚による俊敏な機動性、そして跳躍である。
吐き出されてくる糸を躱しつつ、私とザオームは上級蜘蛛と対決。
一方では、単身でダミアンがロードと攻防を繰り広げており。
状況に応じて、的確にアテナが影術でフォロー。
雑魚とは違い、上級種ということもあってか簡単に倒させてはくれず、私とザオームは早期決着を図れない。
ダミアンにしても、さすがにロード種が相手では分が悪いようで、攻めあぐねている様子である。
「このっ! ──ちいっ」
繰り出した蒼雷刃は機敏な動きで躱されてしまい、反撃で吐き出されてきた糸に対しては、蒼雷を纏わせた左手で振り払う。
ただ手で振り払っただけでは糸が絡みつくだけだろうが、蒼雷の効果により、糸は焼き払われることに。
「キシシ!」
飛び掛かってきた蜘蛛の牙をキノコで受け止めたザオームは、そのまま押し切って弾き飛ばすと、キノコから伸ばした触手の群れで蜘蛛を拘束しようと試みる。
しかし伊達に上級種ではないのか、蜘蛛は素早い動きでもって回避されていた。
『ギギィィイイイイイイィイイ!』
「く……っ」
ロードの強烈な体当たりを辛うじて躱したダミアンなれど、間断なく繰り出された野太い脚の一本が炸裂しており、直撃こそ避けるものの弾き飛ばされてしまう。
追撃とばかりに糸が吐き出されてくるも、そこは身軽な密偵。
片手で床を叩いた反動を利用して、軽やかに回避していた。
「ふむ……予想以上に素早過ぎて、狙いが定まりませんね」
上級蜘蛛の拘束を試みるアテナだったが、なかなか拘束には至らない。
影の手が伸びる寸前にはすでに別の場所に飛び退いているので、どうしても不発に終わってしまうのだ。
「予想外に厄介だな……っ」
蜘蛛の牙と蒼刃をぶつけた私は、舌打ちをする。
ダミアンがロードを惹き付けている間に上級種を始末する手はずが、予想以上に手こずってしまっているからだ。
兎にも角にも、すばしっこいのだ。
伊達に8本脚ではないようで、機動力がこちらの予想以上なのである。
一瞬でも姿を見失ったが最後、脅威の跳躍力でもって肉迫した蜘蛛の牙により、かみ砕かれてしまうことだろう。
「キシシ……! 糸が本当に邪魔臭いですねぇ。ひとつでも身体に付いてしまえば、たちまち動きを制限されてしまいますよ」
忌々し気に吐き捨てるザオームは糸に捕まらないように警戒しており、反撃で狙いを絞ったキノコ爆弾を浴びせるものの、有効打を得られない様子。
(動きを制限……そうか!)
”ある事”を閃いた私へと糸が吐き出されてくるも、あえて回避はしないで、纏う蒼雷を解除した左手で受け止める。
そのことで当然ながら、私の左手は糸に巻き付かれてしまうが……
「捕まえたぞ!」
左手に蒼雷を付与。
蒼雷が糸を伝播していき、口を開いて糸を吐き出している蜘蛛は、成す術もなく直撃していた。
いくら俊敏性に優れているとはいえ、糸を吐き出した状態では、動くに動けなかったというわけだ。
「ギイィイイイ…………っ」
痛覚があるのか知らないが、口内を焼かれた衝撃で動きが鈍った隙を狙い、私は一息に距離を踏破。
肉迫と同時に煌めくは、蒼雷の軌跡。
回避が遅れた上級蜘蛛の頭部が、真っ二つに切り裂かれていた。
絶命した蜘蛛をしり目に、私は即座に次の行動に移る。
ザオームと交戦している、もう一匹の上級蜘蛛だ。
一進一退の攻防が展開されていたが、私が合流したことで2対1となったことにより、ほどなくしてその上級蜘蛛も床に崩れ落ちる結果に。
「キシシ……その蒼雷、便利ですねぇ」
「私の唯一の”財産”と言えるかもな」
「おやおや。クレア様の唯一の”財産”は、私ではないのですか?」
「……まあ、そういう捉え方もあるかもしれんな」
「素直にお認めになられないとは。照れ屋さんですね」
「…………」
「キシシ。いいコンビですねぇ」
私たちがそんなやり取りをしている間も、ダミアンはロードと熾烈な攻防戦を。
ロードも傷を負ってはいたがダミアンも同様であり、しかも体格差からその比率を比べると、やはりダミアンが圧倒的に不利と言えるだろう。
しかし不利ながらも彼は、ちゃんと自分の役割を果たしてくれたのである。
「ダミアン! こっちは片付いた! いま加勢するぞ!」
こうして戦局は、ロード1体に対し、私たち全員という流れとなる。
さすがにロード種というだけあり、その戦闘力は極めて高かった。
しかし上級種とは違い、その動きは鈍く、機敏性に欠いてはいた。
これは単純に、体格による差だろう。
確かに体格が大きい方が攻撃力は高いだろうが、それに比例して機動性が低下してしまう、ということなのである。
まあそれでも、一撃一撃の威力はシャレにならないので、一発でも直撃してまえば、その時点で即アウトとなってしまうだろうが。
『ギギィィイイイイイイィイイ!!!!!』
絶叫を迸らせるクモ・ロード。
飛び散るは、赤黒い体液。
もちろん、ロードのものである。
ダミアンがひとつの目を切り裂き、私が一本の脚を切断、ザオームが横っ腹に強烈な殴打を叩き込んでいた。
思いのほかダメージが大きかったのか、ロードがよろよろと後退していく。
その隙を逃すほど、私たちは馬鹿じゃない。
アテナが影術でもってロードの脚すべてを拘束。
糸を吐き出そうとする直前に、その口内へと私が火炎球を叩き込んでおり。
ザオームのキノコ爆弾がロードの全身で爆裂を巻き起こし。
脚を踏み台に跳躍していたダミアンが、頭頂へとトドメの一撃を。
断末魔を轟かせたロードが、ついにその場に崩れ落ちるのだった。
※ ※ ※
「まさか……撒き餌だったとはな」
繭を切り裂いて中身を確認した私は、顔をしかめた。
中身の人間はすでに事切れているにも関わらず、呻き声を発していたのである。
発声器官に何か細工をしているようで、開かれた口からは糸が零れていた。
天井からぶら下がっている繭については、完全スルー。
なぜならば、この饐えた匂いの発生源だったからである。
つまりは、すでに腐敗しきっているということだ。
「クレアナード様」
床にあるすべての繭を開放させて後、ダミアンが沈痛な顔で首を振ってきた。
「残念ですけど、ちゃんとした生存者はひとりもいませんでした」
「……そうか」
「キシシ……まさか、罠を張っているとは思いませんでしたねぇ」
「くたびれ儲けの骨折り損でしたね」
ザオームとアテナは、やれやれとばかりに肩をすくめる。
そしてアテナが、天井からぶら下がる繭に目を向けた。
「干物でも作っているのでしょうかね?」
「……悪趣味すぎるな」
「キシシ。向こうにしては、ただの食材感覚なのでしょうねぇ」
「でもクレアナード様。罠を使って来たってことは、このダンジョンの蜘蛛は知能が高いってことなんですかね?」
「深く考えるとキリがないが……単純に、種としての本能なんじゃないか?」
植物の中にすら、撒き餌を利用して虫を捕獲するのもいるくらいなのだから、人間のように知能を元にした罠、というわけではないのかもしれない。
冒険者の良心を利用したやり方は卑劣極まりなかったが、これもまた食物連鎖の一環なのだろう。
冒険者にとって魔獣は金づるであり。
魔獣にとって冒険者は餌ということである。
「……とはいえ。この場所は”不快”だな」
何発か火炎球を放ち、炎に包まれた部屋を後にする。
その後。
しばらく通路を進んだところで、私たちはとある一団と遭遇することに。
見覚えのある顔が居たことに、ようやく目的のひとつを果たせたらしかった。
ダイ国の王子一行である。
「おお!? そちらにおわすは、クレアナード殿ではないか!」
「クレアナード殿も、このダンジョンに来ていたんだな」
双子のドワーフが声を上げてきた。
「あ、ああ。久しぶりだな、ふたりとも……」
顔は覚えていたが名前を思い出せない私は、曖昧にそう答える。
そんな私の心情を察してくれたアテナが、双子の名前を耳打ちしてくれた。
言われて私は、ようやく思い出す。
「ハルゼス王子、ハダック王子。壮健そうで何より……とは、言い難い状況みたいだな」
双子王子のみならず、追随するドワーフ戦士たちもが、ボロボロの状態だった。
満身創痍、と表現してもいいだろう。
私の指摘を受けたハルゼスが、苦虫を噛み潰したような顔に。
「予想外の怪物がおりましてな……」
「怪物?」
「アンデットなのだが、とんでもない戦闘力を持っていた」
「俺や兄者ですら、歯が立たなかった」
「そうなのか……」
双子の王子も、かなりの実力者である。
そのふたりをもってしても敵わないということは、それだけ危険な敵ということなのだろう。
「クレアナード殿。攻略を進めるのならば、努々気を付けてくだされ」
「あんたが弱体化している噂は聞いてる。弱くなった今のあんたじゃ──」
「ハダック! よけいなことは言わんでいい!」
「っ……すまぬ、兄者」
「謝る相手が違うだろうが。クレアナード殿、愚弟が無礼を。申し訳ない」
「いや、気にしないでくれ。事実だからな」
弱体化した上に失脚している私に対して、狡猾そうな瞳を隠そうともしないハルゼスが下手に出てくるのは、私の妹が新魔王として就任しているからだろう。
「クレアナード殿。我等は一度引き返し、体勢を整える所存。もしアンデットと遭遇することがあれば、即座に撤退することをお勧めする」
「忠告、感謝する」
「では、我等はこれにて。いずれ機会がありましたら、会食などの場を設けたいものですな」
そんな言葉を最後に、ダイ国王子一行は、足早にその場を後にしていった。
彼らの姿が見えなくなってから、アテナが口を開く。
「アンデット……ですか。蜘蛛の巣の以上、出現する魔獣は蜘蛛型だけと思っていたのですが」
「んー……アンデットが出るとか、ネミル殿は一言も言っていなかったがなぁ」
「もしかして、言い忘れていただけ、とかじゃ……」
「……あ~……確かに。ネミル殿ならば在り得ない話じゃないな」
ダミアンが指摘した可能性に私が同意を示すと、ザオームが低く笑ってきた。
「キシシ……それでクレア氏。これからどうします? これ以上進むと”厄介な敵”と遭遇する確率が高くなるみたいですけどねぇ」
「んー……」
確かに、リスクはあるかもしれなかった。
とはいえ、他国の王族と接触する機会を得るという目的もある以上は、最低でも共通部分である地下10階層には到達しておきたい、という思いもあったりする。
「あの、クレアナード様」
「ん? なんだダミアン」
「そのアンデットは強敵なのかもしれないですけど、こう言うのもあれですけど、それはドワーフ族だったからじゃないんですかね?」
「……なるほど。そういう見解もあるか」
ドワーフ族は、種族的特性とでもいうべきか、魔法とは非常に相性が悪い。
そして基本的にアンデット種などは、物理耐性は高いが魔法耐性はそれほど高くない、というのが常識である。
このことから、魔法や特殊攻撃を扱える私たちにとっては、言うほど脅威じゃないのかもしれない、ということをダミアンは言いたいのだろう。
「ではクレア様。当初の目的通り、地下10階層を目指すのですね?」
「そうだな。まあ、油断というわけじゃないが、他の王族とも接触できるかもしれないしな。このまま10階層を目指そう」
決して、楽観視はしていないつもりである。
なにせ、ダンジョンでは何が起きるかわからないのだから。
※ ※ ※
※ ※ ※
「追ってきては……いない、か」
安全確認をしたことで、満身創痍のラオ国王子グーボは安堵の息を吐く。
しかしすぐに、皮肉気に顔をしかめた。
「なんと情けない……このオレ様が”安堵”したなど。ラオ国最強の戦士が聞いて呆れるわ……」
王子一行の面々は広間のあちこちで疲れ果てたように崩れ落ちており、皆がひどく疲弊困憊状態だった。
「やむを得ないかと」
気遣いを見せてきたのは、同じくボロボロ状態の近衛隊長。
「あのような存在がいるなど、まったく情報になかったのですから」
「そもそも、なんなのだあのアンデットは? ロード種以上の強さだったぞ」
「物理攻撃に強いのがアンデットの特性なので、我等ドワーフでは相性が悪かったというのもあるのでしょうが……」
「そんなものは、些事に過ぎん。このオレ様には”これ”があるのだからな」
グーボが見せつけるように掲げるは、得物である大斧。
その切っ先から薄っすらと冷気が漏れていることから、氷系の魔法が付与されている武器らしかった。
「この魔斧があれば、種族特性の優劣など関係ないだろうが」
「それはまあ、そのはずなのですが……」
つまりは、物理だけではなく魔法にも高耐性がある、ということであり。
通常のアンデット種ではない、ということになってくる……
グーボは掲げていた大斧を下ろすと、小さく吐息を零した。
「……それはそうと。ダイ国の王子一行は、無事に逃げおおせただろうか」
「彼らが心配なのですか?」
「当たり前だろう。あの状況だ、オレ様たちは、あのバケモノをダイ国の連中に擦り付けたようなものだからな」
「御自覚はあったのですね」
近衛隊長にそう言われるものの、グーボは軽く鼻を鳴らす。
「勘違いはするな? オレ様は連中に確かに『逃げろ』と伝えた。その言葉を受けて連中がどう行動しようが、オレ様の知ったことじゃあないからな」
「いずれにしても、あのアンデットを排除しないことには、最下層には到達できませぬな」
「ああ。だから一度地上に戻り、体勢を整える。対アンデット装備で固めて後、再攻略だ」
「恐らくダイ国王子一行も生き延びられれば、同じ事を考えているはずです」
「だろうな。そうなると、時間が勝負となってくる。一刻も早く、地上に戻るぞ」
ダイ国王子一行がまともに攻略する気がない事を知る由もないグーボは、愚直なまでに正攻法で攻略するべく、帰路をとるのだった。
強行軍でした。




