第5話 「魔王様、立ち塞がれる」
前話のあらすじ:助けた少年の事情を聴きました。
「馬車へは絶対に近づけるな!」
「わかってる!」
「応とも!」
「リング! お前も自分の役目を果たせ! ラーミア様とご子息に傷ひとつつけさせるでないぞ!」
「はいはいっと」
御者の騎士が指示を飛ばし、応じた騎士たちとリングが行動しており。
その一方では、私たちも迅速に行動していた。
「数が多いな。ダミアン! 無理のない範囲で敵をかく乱してくれ!」
「わかりました!」
即座に答えたダミアンが、敵陣へと突っ込んでいく──
警戒しながら森道を進む私たちは、いま野良の魔獣と戦闘中だった。
いくら道が維持されているとはいえ、定期的な警邏隊が巡回しているわけでもないので、野良魔獣に襲われてしまっていたのである。
まあそもそもが、森には野良魔獣が多く生息しているので、仕方がないといえば仕方ないのだが。
だからこそ、迂闊に森に入っていたマーズが、その襲撃に合ってしまったというわけだ。
「……オーク種、か」
レッサー・オークを切り伏せた私は、かつてのオーク・ロードとの戦闘を思い出していた。
(あの時は、苦戦したもんだったがな)
しかしいまの私には、いくつもの魔道具があり、あの頃とは違うのである。
とはいうものの、この先の展開が読めないので、この戦闘においては全てを温存するつもりだった。
なので、獣王から貰った身体能力が向上する魔道具も、いまは温存である。
使用すると一時的に身体能力が向上するが、一度使用すると魔力が再チャージされるまでは使えないという仕様は他の魔道具と同様なので、使うタイミングは重要というわけだからだ。
常に恒久的に使えてくれれば楽なのだがと思うのは……まあ、我が儘だろう。
「……ふむ」
下級魔獣を迎撃しながら私は、戦況を把握するべく戦場を見回した。
ラーミアの警護役である騎士たちは、よく訓練されている安定した動きで連携し合い、ラーミアとゾーイが乗っている馬車を守りながら応戦しており。
リングはリングで、軽業師顔まけのアクロバティックな動きで立ち回り、身軽さでいえばダミアンよりも上かもしれず、普段軽薄ながらも、さすがはダミアンの先輩ということなのだろう。
しかしながら、ダミアンも負けてはいない。
群がってくる魔獣を持ち前の俊敏さで翻弄しており、隙あらば息の根を止めているので、いまのところ撃破数は、リングといい勝負だった。
アテナはというと、いつの間にか馬車の屋根に陣取っており、安全圏から全員のサポートをしていた。
言うまでもなく、弱体化している私とはいえ、下級種に後れを取るわけもなく。
これらを見る限り、数でこそ劣るがこちらの戦力は上であり、相手は統率もないただの野良魔獣ということから、この遭遇戦は、私たちが優勢のまま終わるだろうことが見て取れるのだが……
(問題は……やはりというか、マーズか)
妖精使いの少年も、一見すると奮闘は見せていた。
火の妖精が火球となって飛び回り、魔獣に体当たりを食らわせてはいるのだが、やはり威力が足りないのだろう。
軽い火傷と体勢を崩させるのみであり、攻撃力の観点から見ると、完全に力不足だった。
さらには、そういう状態にもかかわらず、無意識なのか彼は前線に出過ぎており、アテナや私のフォローがなければ、再び重傷を負っているだろう場面が多かったのだ。
(この戦い方は……危ういな)
種族の違い──と言うよりも、彼自身が”戦い方”というものをわかっていない動きであり。
はっきりと言ってしまえば、ただの素人、というわけだった。
それを補うために、妖精を使役しているのかもしれなかったが。
──やがて。
マーズが多少足を引っ張りながらも、危なげなく魔獣は殲滅される。
アテナと彼女に頼まれた騎士たちが魔獣の部位回収をする中、ダミアンとリングは周囲に魔獣の生き残りがいないか見回りをしていた。
このまま進んで、ドバンの勢力と挟み打ちになる事態を避けるためである。
だからこそ、先を急ぎたいところだったが、まずは後方の安全確保を優先させたというわけだ。
そんな一方では、馬車からはゾーイの鳴き声が聞こえてくるので、恐らくは戦闘音に驚いてしまったのだろう。
だから妹は馬車から出てくることはなく、息子をあやしている様子だった。
「マーズ」
一息吐く仮面の少年へと、私は声をかけた。
「あ、はい?」
「君は妖精使いなのだし、少しばかり前に出過ぎじゃないのか?」
「え……そうなんですか?」
「妖精使いというのは、後衛型だからな。それにその儀礼剣では、直接攻撃には使えないだろう?」
「はい、これはあくまでもレビーを召喚するためのですし」
「ならば、もう少し戦い方を考えた方がいい。君の戦い方は、危ういからな」
「…………」
「あ、いや、すまない。気を悪くしたなら謝る。つい口出しをしてしまう。私の悪い癖だな」
「クレア様は、若者をイジメる悪い癖がありますからね」
「そこは、指導といってくれ」
部位回収しながら揶揄してくるアテナにツッコミを入れていると、マーズが意を決したように私を見てくる。
「……クレアナードさん。僕に戦い方を教えてくれませんか? 僕はその、こうやって直接戦ったことがなくて、どうやったら効率的なのか、わからないんです。一応、戦闘訓練は受けてるんですけど、実戦経験はまったくなくって……」
「訓練と実戦は違うからな。というか、そんな状態なのに魔族国に来たのか?」
「……はい」
「なるほどな。それだけ、君にとって”彼女”は大事な存在なんだな」
「はい。アイリだけが……僕を”僕”として、見てくれてるんです」
意味深な発言。
事情があるのだろうから、あえて詳しくは聞かないが……
気にならないと言えば嘘になるだろう。
だがまあ、私は無神経ではないのである。
「とりあえず……いまの戦いで見て思ったことは、まず前に出過ぎないことを心がけるべきだな」
「はい」
「それと。妖精は精霊と同じく、物理的に死ぬことはない。だから最悪の場合は、妖精を盾にするという方法もある」
「盾に……でも、そんな酷いこと……」
「戦いでは、最後まで生き残った者が正義となるんだ。死んだら、それこそ意味がない」
「……わかりました。レビー……もしもの時は、いいかな?」
「あー……まあ。別にいいよぉ。痛いわけじゃないしぃ、死ぬわけじゃないしぃ」
「えっと……なんか、思ってたよりもあっさりした反応だね?」
「むしろマーズさまがぁ、妖精の使い方を知らなかったって感じかもぉ?」
「……そうなんだ。どうして僕に教えてくれなかったの?」
「聞かれなかったしぃ」
「えー……」
僕が悪かったの? と肩を落とすマーズ。
どこかで聞いた覚えのあるセリフに、私は思わず、まだ部位回収しているアテナへと目を向ける。
「アテナ。精霊とか妖精ってのは、こっちから聞かないと必要なことでも教えてくれない習性でもあるのか?」
「クレア様。ご自分の無知を他者のせいにするのは、如何なものでしょう?」
「……まあ、お前ならそういう反応をするよな」
「よくお分かりの様で」
「嫌という程な」
私が苦笑いを浮かべたところで、周囲の確認を終えたのだろう密偵ふたりが繁みから出てきた。
「クレアナード様、付近にはもう魔獣はいませんでした」
「これで後方は安全ッスよー」
「そうか。アテナ、部位回収はその辺で切り上げてくれ」
「まだ全部を回収しきれていませんが……もったいないですが、まあ仕方ないですね。騎士のみなさん、お手伝いありがとうございました。助かりました」
アテナがお辞儀をすると、騎士の面々は嫌な顔ひとつせず、むしろ晴れ晴れとした表情を見せてくる。
「いえいえ、これくらいのこと朝飯前ですぞ」
「これがひいては、クレアナード様の御為となるのでしたら、喜んで」
「そうですよ、こんくらいのことで気にしないで下さい」
それぞれがそれぞれの反応を示す騎士たちは、回収していた部位をアテナへと渡し、受け取ったアテナは道具袋へと入れていた。
※ ※ ※
野良魔獣を撃退後、私たちはそのまま森道を進んでいたが、未だに抜けられてはいなかった。
廃村は森を抜けた先にあるのだが、その森自体が広大だったためである。
とはいえ、ドバンの勢力が襲い掛かってくることもなく、あれ以降、野良魔獣とも遭遇することはなく、私とラーミアの馬車はひたすらに森道を進むのみ。
「──と言うことだ。だからこういう場合だと、いま言ったようなことも出来るわけだ。無駄がないだろ?」
ただ車内で待つのもあれなので、この時間を利用して、私はマーズに戦い方のノウハウを教えていた。
本当は実戦で教えるほうが手っ取り早いのだが、まあ現状では仕方ないだろう。
邪魔にならないように車内の端っこにて、ダミアンも私の講義に耳を傾けている様子だった。
「……なるほど。そういう方法もあるんですね。知りませんでした」
最初こそ戸惑いの様子で聞いていたマーズも、いまでは身を乗り出すような感じで貪欲に私の教えを吸収していたりする。
真面目な子が嫌いではない私としては、こういう態度を見せられると、声にも熱が入るというものだった。
「だが今のはあくまでも正規のやり方だ。戦闘とはまさに生き物だからな、常に変化するからこそ、柔軟な対応が勝敗に関わってくる。だから今から教えるやり方は、応用編ということになるぞ」
「はい、お願いします!」
理解力があり、そして物覚えもいいようで私が言ったことは一度で覚えるあたり、この少年は聡明なのだろう。
ますます彼の正体が気になってくるのだが……まあ、詮索しても仕方ないので諦めるが、だいたいの検討はついていた。
多くの使用人を抱え、きちんとした教育を受けている辺り、高い身分──恐らくは、どこぞの貴族当たりだろう、と。
(恵まれてるはずの貴族の子弟が、思い切ったことをするもんだ)
内心で私は舌を巻く。
恋は盲目……とはよく言ったものだった。
とはいえ、何度も言うが、無謀すぎる行動ではあるが。
私達と偶然会っていなければ、この少年はあの森で命を落としていたのだから。
しかし、と私は思ってしまう。
(自分の命を顧みない恋……か)
こんな少年すらもが命を懸けるほどの恋をしているというのに、私ときたら……
(……いや。私が悪いんじゃない。私の周りにロクな男がいないのが悪いんだ)
この身を委ねてもいい、と思える程に魅力的な男性は、残念なことに現れる気配などないのである。
まあ、なまじ最強だった頃の記憶があるだけに、私の中でのハードルも高くなっているのだろうが。
「…レアナ…ドさ…? クレアナードさんっ?」
「──んっ。あ……ああ。すまない」
思わず男性遍歴に記憶を馳せていた私は、マーズに名前を呼ばれたことで意識を目の前へと戻す。
「少し、考え事をしてしまった」
「考え事、ですか」
「あいつのことは言えないな、と思ってな」
かつて獣王に”女に縁のない人生”と言い放ったことがあったが、まさにブーメランとなって、私に返ってきたというわけだ。
私の場合は”女”ではなく”男”として。
「はあ……あいつ、ですか」
事情を知らないマーズがぽかんとするのも無理はないが、だからといって詳しい経緯を話すわけにもいかないので、私はお茶を濁すことにした。
なぜ話さないかというと、話が長くなるだろうし、逆にこんな話をされても、マーズが困ってしまうだろう。
ぶっちゃけた話……彼にとっては、どうでもいい話なのだから。
「まあ、私のことはともかくとして。マーズ、君は素直にすごいと思うぞ、私は」
「え……っ」
「自分の命を賭して行動するなど、そうそう出来るもんじゃないからな。しかもまだ若い君がだ」
「……えっと。僕には、それだけアイリが大事なヒトだから……」
「そうか。自分の命よりも大事なヒトがいるんだな。……羨ましいよ」
「クレアナードさん……?」
困惑を見せるマーズなれど、それは様子を見ていたダミアンも同様で、言葉こそ発しなかったが私を驚いたように見てくる。
(私にとっての自分よりも大事な存在は、言うまでもなくラーミアだが……)
とはいえ、その感情はマーズの”それ”とは違うだろう。
しかも、当時ならば私が命を懸けてでも守らねばならなかったが、いまの妹にはダンナがいるので、もう私が命を懸けてまで守らなくてもいいのである。
そうなると、命を懸けてまでの熱い想いというのは、もういまの私には……
(マーズ……君は本当に、眩しいな)
子供だからとかは関係のない、純粋な想いによる愚直さ。
いまの私にはないものであり。
今後も私が手に入れることは出来ないだろう想いであり。
それゆえに、つい肩入れしたくなってしまう。
種族とか関係なく、彼がここまで想いを寄せている人物を、救い出したくなってくるというものだった。
(無事でいてほしいものだが……)
半魔人の技術がどういったものなのかわからない現状では、五分五分としか言えないのがもどかしかった。
と、そんな時だった。
アテナが急ブレーキをしたのだろう。
その反動で車内が大きく揺れてしまい、私たちは転倒してしまう。
後方からは馬の嘶きが聞こえてくるあたり、私の馬車が急停止したものだから、後ろを走るラーミアの馬車も急いで停車したのだろう。
「っ……どうした、アテナ」
「これ以上進むと、馬車を破壊される恐れがありましたので」
「破壊、だと……?」
無表情のアテナの視線の先は、ようやく森を抜けたようで、開けた大地が広がっていた。
そして私は、視線を鋭くする。
アテナが言った言葉の意味を理解したからだ。
森道の出口を塞ぐように、軍服を着た二人の人物が立ち塞がっていたのである。
無精ひげが目立つ、くたびれた感満載の中年。
人間大の奇妙なキノコを肩に担ぐ、刃物のような暗い光宿る目の女。
「あいつらは……」
見覚えがあるふたりだった。
名前はすっかり忘れてしまったが、ブレアの配下にこのふたりがいたことは、覚えていたからだ。
だがこれで、私はようやく確信が持てた。
このふたりはブレア陣営で1、2を争う実力者たちなので、このような者たちがこの場にいるということは、保有する戦力を割いてでも、この先には絶対に死守しなければならないものがあるということだからだ。
「男性の方がランデさん。女性の方がザオームさん、ですね」
「ほう? よく覚えていたな」
「私は物覚えの悪いクレア様と違い、記憶力が良いですから」
「さらっとディスられたが……まあ、いまはそれどころじゃないか」
私たちは馬車を停めると、警戒しながら外へと。
「キシシ……わざわざぶっ殺されに来ましたね、元魔王様」
「おじさんとしては、来てほしくなかったなぁ」
女──ザオームが凶悪な笑みを見せ、中年──ランデがやる気なさそうに欠伸をひとつ。
そんなふたりと対峙するは、私とダミアン、その後ろにはアテナとマーズだ。
騎士たちはラーミアが乗る馬車の守りを固めており、リングもその馬車の屋根にて待機していた。
「元……魔王? どういうことですか……?」
「マーズ。こちらにも事情があるということだ。いまはその言葉で納得してくれ」
「……わかり、ました」
納得した言葉を紡ぐものの、いまいち納得できていない様子のマーズだったが、いまは追及している場合じゃないことは理解しているようで、そのまま押し黙る。
私は、ブレア配下のふたりに鋭い視線を向けた。
「私たちの前に立ちふさがるということは、この先に何があるのかを、知っていてのことなんだろうな?」
「気色悪い巨大な肉片がありますね」
「ちょいちょい、ザオーム君。なーにをあっさりバラしちゃってるわけよ?」
「キシシ。別にいいじゃないですか、ランデさん。ここでこいつらを始末すればいいだけなんですから」
「まあ、ねぇ。それがおじさんらの仕事なわけだけどさぁ」
「……お前たちは、この先で非人道的な実験が行われているのを知っていながらも、止めようとはしないのか」
「なぜ? 赤の他人がどうなろうが、知ったことじゃありませんよ」
「いやまあ、おじさんも生活がかかってるからねぇ。食ってく為にゃ、見て見ぬ振りも大事なんだってことで。おじさんも心苦しいのよ?」
ザオームとランデは、完全に他人事だった。
まあ、言っていることはわからなくもないが……
だからといって、彼らを容認できるはずもなかったが。
それに、私がさらっと述べた指摘を肯定していることから、この先で非人道的な実験が行われていることは、もはや疑いようもなくなったというわけだった。
躊躇う必要もない私は、抜剣して剣身に蒼雷を纏わせた。
「私たちの邪魔をするというのであれば、容赦はしない。お前たちだって、それくらいの覚悟はしているんだろう?」
「キシシ……覚悟なんて不要ですよ。勝つのは私なんですから」
「おじさん、覚悟なんてないなぁ。だからまあ、死にたくないから”あれ”を使っちゃおうか」
ランデが何事かを呟くと、開けた大地手前の森から、わらわらと出てくるものがあった。
鼻にツンとくるのは腐敗臭……
出てきたものは、数十体にも及ぶ腐乱死体だった。
「おじさんもねぇ、こんな”失敗作”を使いたくはないんだけどさ? 前魔王サマがあんまりにも怖い顔で睨んでくるから、ビビっちゃったおじさんは、つい使っちゃったよ」
私に責任転嫁してくる戯れ言は無視するとして。
私は、とある発言に着目していた。
「失敗作……だと」
失敗作と表現されるものは、現状ではひとつしかないだろう。
私と同じ考えに至ったようで、マーズがわなわなと震える。
「もしかしてアイリが……」
「落ち着け、マーズ。あの腐乱状態から推察するに、君の想い人の可能性はない。……たとえ、連れ去られてすぐ殺されたとしても、あそこまで腐乱するにはもっと時間が必要だ。だから……安心しろ」
「……はい」
とはいえ、こうなってくるともう無事かどうかもわからなくなってくるが。
だが、いまそれを指摘するのは酷というものだろう。
だから私は、いまはあえてそれ以上のことは言わない。
(安心……か)
祈らずにはいられなかったが……現状では、祈る前にやることが。
こうなった以上、戦闘は避けられないために、私は仲間たちに指示を出した。
「ダミアン、お前はあっちの男を頼む。私は女を狙う。アテナは馬車の屋根から皆の援護を。マーズ、君もアテナの隣から妖精で援護を頼む──と、そうだ、マーズ。その妖精を私の元に」
「え? レビーをですか?」
「なんですかぁ?」
私のもとにふよふよと飛んできた妖精に、蒼雷を纏わせる。
「ふあっ?! 蒼いバチバチ~っ」
「これで、攻撃力が上がったはずだ」
「おおぉ~っ。強くなっちゃったぁ~!」
「すいません、クレアナードさん。お手数を……」
「気にするな。戦力として頼りにしているぞ」
「はい!」
「はぁい!」
元気よく答えてくる少年と妖精に頷いてから、私はラーミアの馬車を警護する騎士とリングへと。
「攻撃は私たちが引き受ける。お前たちはラーミアとゾーイを守ってくれ」
こちらも異論はないようで、武器を取り出して馬車の守りを固める面々。
「クレア様」
「どうした? アテナ」
「あのキノコ、どうやら魔法生物の類のようです」
「魔法生物? どうしてそんなことがわかるんだ?」
「私は精霊なので、そういった類の魔力を関知できるからです」
「なるほどな」
「なので、奇抜な攻撃をしてくる可能性があります。お気を付けください」
「わかった。警告、助かる」
かつて城内で見かけた時はあんなキノコを持ち歩いていなかったので、単にその時は装備していなかっただけなのか、あるいは私が失脚した後手に入れたのか。
いずれにしても、”生きた武器”である以上、警戒したほうがいいだろう。
戦闘体勢をとる私たちを前に、ザオームとランデも動きを見せてきた。
「キシシ……このギーノ君の餌にしてあげましょう」
「んじゃま、魔獣使いのおじさんは高見の見物と行こうか」
ザオームが巨大なキノコを構え。
ランデは召喚した浮遊するクラゲに乗るや、高々と空へと浮揚。
それに伴い、腐乱死体共がのそのそと動いてくる。
(この腐乱死体共は、魔獣に分類されるのか)
などと思わず思ってしまう。
まあ、見た目はアンデッド種のゾンビに似ているのだから、同系統、ということかもしれない。
そう過程すると、ゾンビ特有の懸念材料が。
「噛まれたら感染するかもしれない。噛まれた者は、すぐにラーミアに解毒してもらってくれ!」
私の声が合図となり、戦闘が開始される──
※ ※ ※
※ ※ ※
「……マイアス」
「これは、ブレア陛下」
魔王城の廊下にて、ブレアとマイアスが視線を合わせていた。
互いの目的地は違うものの、偶然にもこの場で鉢合わせしてしまったのである。
互いが連れている近衛騎士が緊張した面持ちで身構える中。
「保有する武力は、俺の方が上だということを忘れるなよ」
「半魔人、ですか。確かに、あの兵隊は脅威ですね」
どこ吹く風のマイアスに、優位であるはずのブレアは歯ぎしりを隠せない。
「お前が何を企もうが、その全てを打ち砕いてくれよう」
「……肝に銘じておきましょう」
殺意すら滲ませるブレアは、しかしそれ以上のことはせず、さっさとマイアスの脇を通り抜けていく。
そのまま自室に戻ったブレアは、一瞬だけ両目を閉じた後、怒りに任せて壁に拳を叩きつけていた。
(まったくもって忌々しい……これもすべては、あの女が生きているからだ)
拳から血が流れ落ちるのも構わずに、そのままぎゅうっと拳を握りしめる。
(クレアナード……どれほどの犠牲を払おうが、今度こそお前を始末してくれる)
ブレアが秘めたる怒りを爆発させている一方では、城内にある自室に戻ったマイアスが思い詰めたような表情で、帯剣する魔剣を抜いて一振りしていた。
炎の軌跡が宙に刻まれ、それを見つめる彼の眼差しは、どこまでも遠かった。
(義姉さんが魔族国に戻った以上、僕も……覚悟を決めないと、か)
クレアナードによって、覚悟を決めさせられるふたりの男だった。
覚悟とは……




