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勇者を討伐した魔王様は魔力を封じられた為に解雇される。  作者: 吉樹
第7章 『ドワーフ国編②』
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第17話 「魔王様、目的地未定で出発する」

前話のあらすじ:地下迷宮を封印しました。

 地下迷宮攻略は、その全てが無事に終わった。

 魔獣の生産こそ止まることはないが、ダンジョンから出られなくなったという意味は大きいだろう。

 最後はやや不完全燃焼気味だったが、尊い犠牲の下、結果良ければ全てよし、ということである。


 老爺宅で一泊後、幾度かの戦闘を経て10階層まで戻ってドワーフ部隊と合流。

 そのまま何事もなく(何度か魔獣と遭遇戦はあったが)ダンジョンを出ると、出迎えてくれる人物たちがいた。

 ラオ国のグーボ王子は予想に反しなかったが……



「勇者レオ……! どうしてここに……っ」



 大剣を背負う精悍な獣人族の男を前に、私は驚きで目を見開いてしまう。

 レアンも同じ様子で、虚を突かれたように目を丸くしていた。狼族ご自慢の嗅覚も、鼻に意識を集中していないと、その能力も発揮しないらしい。

 アテナは相変わらずの無反応、ダミアンもそこまでの過剰な反応はなく、彼と初対面のプリメラ一行は小首を傾げるのみであり、レングルブも同じ感じだった。


 そんな私たちのそれぞれの反応に、獣人の勇者──レオは、小さく口の端に笑みを浮かべた。



「貴殿らの話を聞いた以上、せめて挨拶くらいするのが礼儀だと思ってな」



 相変わらず無骨でいて真面目なようである。

 しかしその瞳には戸惑いの色が僅かに宿っており、彼の心情を代弁するべく、彼の体からすうっと浮き上がってきた女精霊──ミゲルが、笑いを堪えるしぐさで私に指を指してきた。



「話には聞いてたけど……本当に幼女化してるし! ウケるんだけど!」

「ミゲル、笑い者にするものではない」

「いやいや無理だって笑っちゃうって! あの最強魔王が、こんなチンチクリンになってるんだよ? 笑うなって方が無理だから!」

「すまない、クレアナード殿。貴殿の現状は笑えるものではないのだろうが……」



 紳士に謝ってくるレオの姿は、どこまでも実直だった。

 変わらない彼の真っすぐな態度に、私は小さく微笑する。



「この現状を打開するべく、いまとある呪具を制作してもらっている。それが無事に完成すれば元に戻れるだろうから、そんなに気にしないでくれ」

「そうなのか。では俺も、その呪具とやらが完成するのを祈ることにしよう」

「え~~戻っちゃうの? 私としては、いまのチンチクリンが好きだけどなぁ」

「ミゲル」

「はいはいっと」



 嘆息交じりに名を呼ばれた彼女は、ひょいっと肩をすくめると彼の体の中へと消えていった。

 


「しかしレアン殿。まさか貴殿もが、クレアナード殿に同行しているとは思わなかったぞ」

「お、おう……」



 純粋に同胞として見てくるレオの他意のない視線に、レアンは複雑そうな表情。

 揺れる乙女心……なのか、彼女にしてはらしくない挙動不審だった。



「そ、そういうアンタもな。なんでドワーフ国にいるんだよ」

「それはだな──」



 レオとレアンが話をする一方では、プリメラ一行がドワーフ部隊に命じて、拠点の撤去を行っていた。

 早々に撤収して、統一王への戴冠式の準備に取り掛かりたいのだろう。


 忙しなく行き交うドワーフたちを横目に、プリメラ一行が私の元にやってきた。



「クレアさん、今回の件、本当にありがとうございました。助かりました」

「私は、ほとんど何もしてなかったけどな」

「ですね。クレア様は終始、お荷物でしたね」

「……否定はしないが、率先して主を貶めるのは止めないか?」

「正直に生きるというのが、私のモットーですので」

「たまには脱線してくれ」



 アテナに溜め息を吐く私を前に、プリメラが「クスっ」っと笑ってくる。



「なんだかんだでさ、やっぱりクレアさんが同行してくれたのは大きかったと思う。だから、本当に感謝してます」

「そうか。少しでも役に立てたのならば、私としても僥倖だ」



 居住まいを正してきたプリメラが、改めてその瞳に私を映し込んできた。

 ワガママし放題のあの頃とは、まるで別人だった。

 彼女もこれまでの経験から、成長を果たしたということなのだろう。



「さすがにもう邪魔は入らないと思うから、今度こそ戴冠式を行うつもり。地下迷宮封印と並行して準備を進めてたから、数日後には出来ると思うの。だからクレアさん、特等席を用意させてもらうからさ、ぜひとも貴女には参加してほしいかな」

「特別席って……私は、一介の冒険者だぞ」

「キシシ! ドワーフ統一王へと貸しを作った冒険者、ですけどねぇ」



 プリメラの横にいるザオームが、もはや見慣れてしまった不気味な笑みを。



「クレア氏。貴女がご自分のことをどう思っていようが、私たちが貴女に感謝していることに変わりありませんよ。今回の一件、貴女の介入がなければどう転んでいたかは、わかりませんからねぇ」

「……買いかぶりだ」



 評価は嬉しく思うが、いまの私は無力でしかないので、まさに身に余る高評価といえるだろう。



「というか。ザオーム、なんだかお前も、印象が変わったよな」

「キシシ……前にも言いませんでしたか? 郷に入らば郷に従え。私は出来る女ですからねぇ、状況に応じて、それに沿った行動をするだけなのですよ」

「そうか。お前が傍にいれば、プリメラ王女も心配はないな」

「キシシ! 調教──もとい、立派な王へと育ててみせますよ」



 ザオームの言葉に、プリメラは頬を薄っすらと赤らめる始末。

 この様子からは、すでに調教済みと思わなくもないのだが、ここで指摘するほど私は野暮ではない。


 そんな中、それぞれ(私たちやレアンたち)の会話に参加していないレングルブとダミアンは、手持無沙汰のように背景と化していた。



「くくく……背景ってのは、なんかせまっ苦しいねぇ。なあダミアン、背景の先輩として何か助言をくれないかい?」

「不本意な称号なんですけど。てか、俺の本業は密偵ですから、そもそもが背景になってこそなんですよ」

「くくく。ものは言いようってことかい」

「いや、そうじゃなくて……」



 などと、片隅でやり取りを交わしているのだった。




 ※ ※ ※




 その後、宣言通り、戴冠式は数日後に執り行わる運びとなり、森の魔女宅へと戻ると間に合わなくなってしまうので、ドワーフ国内で待機することに。

 今回の一件で消費した食料や生活道具、摩耗した武器等の整備など、休息も兼ねて、なかなか有効な数日を送ることが出来たりする。


 そんな中で、レオはすぐに旅立っていき、そんな彼の背を見送るレアンは、付いて行きたそうな、しかしミゲルとのラブラブを目の当たりにするのは嫌だったようで、そわそわと乙女チックに挙動不審だった。

 意外な可愛らしさを見せるレアンに、内心で微笑んでしまったのは内緒である。



 ──そして。

 今度こそ準備万端の下、国を挙げての統一王への戴冠式が盛大に執り行われた。



 檀上でプリメラが拙いながらもはっきりとした口調で演説を終えた後、レプリカであるが《神の槌》を掲げると、集まった大衆からは拍手喝采が沸き起こる。

 こうして彼女は、晴れて名実共にドワーフ国の盟主へと。

 分裂していたドワーフ国が、プリメラの名の下に今、ひとつに戻ったのである。

 まだ幼い彼女にとっては重すぎる重圧だろうが、彼女の傍にザオームがいる以上は、公私共に大丈夫だろう。


 今回の件でプリメラ──ドワーフ王へと貸しを作ることが出来たので、妹から受けている密命(笑)は果たせたと言っていいだろう。

 ここまで大きな流れになるとはさすがに思っていなかったが、結果良ければ全てよしということである。


 つつがなく戴冠式も終わり、忙しい中で時間を作ってくれたプリメラ一行に挨拶をした後(落ち着いた後は現魔王に挨拶に行くという約束を取り付け)、私たちは魔族国──森の魔女宅へと帰路をとる。



「……ふむ」



 馬車内で確認するは、プリメラからもらった指輪──魔道具。

 効果は、特定の攻撃魔法をチャージしておくことができるらしい。

 これにもランクがあり、低ければ大した魔法をチャージすることができないが、私が貰ったのは最高級なので、性能による限界値を気にする必要はなかった。


 なので私がチャージするのは、私の切り札である最上級魔法──火炎竜だ。


 これにより、今までなら1回の戦闘で1度しか撃てなかった切り札が、単純に2度撃てることになる。

 しかも直接装備していなくても任意のタイミングで発動できるようなので、戦況によっては大変重宝できるだろう(さすがに目の届く範囲内で、だが)。

 いまの弱体化している私にとっては、何よりの戦力アップである。



(プリメラも、いまの状態の私を気にしてくれていた、ということか)



 新たな戦力を手に入れた私は、ほくほく顔だった。



 ………


 ……


 …



「お帰り! お姉ちゃん!」

「おうよ! いい子にしてたか?」



 満面の笑顔で飛びついてくるウル()を抱き留めたレアンがその頭を乱暴に撫でてやると、ウルは嬉しそうに破顔。



「あたし、ずっと見張ってたから! あのおっさんも、アルペンには変なコトできてないよ!」



 どうやら、その話題となっている(おっさん)──魔獣使いのランデは不在らしく、代わりに、この家の主人であるヒト族の女性──森の魔女アルペンが説明してきた。



「なんか、偉い人からの手紙が届いた途端、眼の色を変えて飛び出していっちゃったんですよ。『手に職つけて必ず戻ってくる!』って言って」

「そうか。実はな、ドワーフ国に行く前に、あの男の事をラーミアに話したんだ」

「魔王陛下にランデさんのことを?」

「ああ。性格はあれだが、魔獣使いとしての腕は確かだからな。このままアテのない冒険者をするよりも、手に職を付けたほうが今後()()()便()()だろうからな」



 いまこの魔族国は、魔族に有利である魔獣使いを養成することに力を入れており、専用の育成機関もすでにいくつか設立しているのだ。

 しかしいかんせん、職員の人手不足が目立っており、そこで腕のいい魔獣使い(ランデ)をこのまま遊ばせておくのはもったいないと思い、魔王(最高権力者)である妹に指導教員としてねじ込むよう頼んだわけだ。



「クレア様。さすがに職権乱用ではありませんか?」

「そう言うな。あの男の腕は確かなんだし、問題はないだろう」

「しかし、よく引き受けましたね?」

「それはまあ、手に職をつけることの安定感があるからだろうな」

「安定感?」

「安定感があれば、意中の相手に告白も堂々と出来るだろうしな」

「……なるほど」



 私の言わんとしていることを理解したアテナは、ひとつ頷いた。



「ランデさんの気持ちを利用して国益を図る……さすがですね」

「その「さすが」という言葉に悪意を感じるが……結果的には、後押ししているともいえるだろう」

「物は言いようということですか」

「まあ、私としてはリスクのない賭けといったところだな。あいつが本気なら引き受けるだろうし、遊び半分だったなら面倒くさいと一蹴するだけだろう。前者であってくれて、ある意味良かったよ。あいつの職場での働きぶり次第では、それこそ私も応援しようじゃないか」



 ダミアンはランデの男心がわかるのか、神妙な顔つきで押し黙っており。

 レングルブは興味ないとばかりに、いそいそと森へ──自分(安寧)の巣に戻っていく。

 当のアルペンは、私とアテナの会話の意味を掴みかねているようで、小首を傾げているのだった。




 ※ ※ ※




 場面はアルペン宅へと変わり。

 外からは、ウルの悲鳴と物々しい戦闘音が聞こえてくる。

 これはレアンが「オレが居ねぇ間もサボらずに自主練してたか確かめてやる」と、ウルに強制的なイベントを発動させたためである。



「クレアナード様。これが完成した呪具です」



 緊張した面持ちのアルペンがテーブルの上に置いたのは、一本のフラスコ。

 その中には、全体的には紫色なのだがやや赤みがかっており、いかにも毒ですと主張しているような液体が。

 これを前に、私は顔が引きつるのがわかった。



「……液体、なのか。呪具というから、何か装備するものなのかと」

「体内に服用することにより、効果を発揮するタイプなんです。そもそもが、これの使用方法は相手に気付かれずに作用させるというのが最優先ですから、飲むという行為により一瞬で済むのが利点なんです」

「……なるほどな。確か、貴族社会とかで財産目当てに使われる、だったか」



 成長させるとはイコールで寿命を縮めるのだから、遺産目当ての婚姻等には、重宝されることだろう。



「本来は濃度の薄いものを定期的に飲ませるんですけど、クレアナード様の場合はそんな悠長なことも言ってられないと思うので、かなり濃度を高めています。なので、2~3日寝込めば効果を見込めると思います」

「2、3日もかかるのか?」

「肉体に直接影響を及ぼす類のものですからね。即効性を求めると、リスクが跳ね上がってしまいます。ですので、安全をとるならば数日間の時間が必要なんです。寝込んでいる間はクレアナード様の意識はないと思いますが、私が常に状態を確認して適切に処置するので、安心なさってください」

「君のことは信頼しているから心配はしていないが……確かあの時(ハダック戦)は、ほとんど一瞬だったんだが」

「相手がどうなっても構わないのであれば、一瞬でも可能ですよ」

「そ、そうなのか」

「精度が高い呪具だったようなので、一瞬でも肉体的には後遺症が残らなかったようですけど、もし精度の低いものだったなら、重度の後遺症を残していたと思います」

「運が良かった……というべきなのか?」



 複雑な想いに駆られてしまう。

 運が良ければ、そもそもがこんな事態にはなっていないわけだからだ。



「クレア様は悪運だけは強いお方ですからね」

「微妙に褒めてないな、その言い方は」

「心外ですね。私にとっては最大の賛辞ですよ」

「最大の賛辞がそれって……まあ、今更だから別にいいが」



 アテナのいつもの無表情からは、どこまでが本気で冗談なのかは、いまいちわからない。

 まあ今も言った通り今更なことなので、いちいち取り合わないが。



「で、アルペン。私は、これを普通に飲めばいいのか?」

「はい。あ、でも、服用なさるのでしたら、すぐに横になれる場所がいいかと。すぐに意識を失ってしまうと思うので」

「なるほど」

「すぐにお部屋の準備をしますね!」



 すぐに部屋は用意され、私はベッドに腰かけると、なんとも毒々しい液体のはいったフラスコを手に持った。



「……なんかこれ、飲むのに勇気がいるな」

「良薬口に苦しと言いますよ、クレア様」

「良薬というか、毒みたいなもんだけどな、これ」

「ごめんなさい、クレアナード様。見た目は弄られないんです。でもでも! 効能はばっちりですから、安心してひと息にグイっといってください!」

「ささ、クレア様。グイっと逝ってくださいね」

「……アテナ。お前の言い方は、微妙にニュアンスがおかしかったな?」

「気のせいでしょう」

「ったく……ふう。とはいえ、冗談抜きでかなり勇気がいるな」

 


 小さく息を吐いた私は、控えるダミアンに視線を向ける。



「ダミアン、私が意識のない間、頼むぞ」

「はい。この命を懸けても」

「命までは別にいいんだが……」

「クレア様、なぜダミアンさんだけなのですか? 私に「頼むぞ」の一言がないことに、悪意を感じるのですが?」

「気のせいだろう」



 意趣返しとばかりにニヤリと笑い、意を決した私は毒薬──成長促進在呪具を呑み込む。

 ──直後、激しく咽てせき込んでしまう。



「に、苦っ……」



 その言葉が最後となり、私の意識は一瞬でブラックアウトする──




 ※ ※ ※




「……世の中、なかなか思い通りにはいかないもんだな」



 走る馬車の中で、私は自分の拳を見つめながら握り締める。

 私の視界に映る両手は幼く小さい手ではなかったが、だからといって元の大人の両手ではなかった。



 いまの私の容姿は、幼女と大人の中間──10台後半といったところだった。



 成長促進呪具は、確かにその効力を発揮した。

 しかしながら、思いのほか退化の呪いの方が強かったらしく、思うような結果を出せなかったのだ。


 アルペン曰く「体の奥底にまで定着するまで、時間がかかるみたいです」と。


 成長促進呪具が定着するまでは不安定な状態が続くらしい。

 寝て起きたら幼女に戻っているか、あるいは大人に戻っているか。

 それでも翌日には、また状態が変わっているかもしれない、と。

 

 体にいつ定着するのかはそれこそ個人差があるようで、今日かもしれないし明日かもしれず、はたまた1年後か10年後か、ということらしい。

 まあ少なくとも、成長促進呪具が効果を発揮しているのは間違いないことなので、赤子に戻って全てリセットという危険はないということなので、後は経過観察しかない、とのことだった。



「それが現実というものですよ、クレア様」



 御車を務めるアテナが淡々と言ってくる。



「思い通りにいく現実など、面白みに欠けるのではありませんか?」

「それはそうかもしれないが……」

「お婆ちゃんになったらきちんと介護してあげますからね、クレアお婆ちゃん」

「まだなってないだろうが! というか、呪具同士の干渉し合いで、本来の私の歳は越さないはずだとアルペンも言っていただろうが」

「万が一ですよ、万が一」

「不吉な万が一は良してくれ。だいたい、この小娘の体にしろ、幼女の頃よりかは大分マシだが、それでも不備があるんだからな」



 幼女の時と違い、この少女の身だと剣も普通に持てるから戦闘面では活躍の場も出来るだろうが、だからといって本来の私の体が覚えている身のこなしや間合いについては、やはり難があるようで体がついてこず、うまく動けないことが多かったりするのだ。



「まったく。不便な体だよ」


「……俺としては手の届く範囲(年齢)になったんで嬉しいんですけど」



 私が嘆息を吐くとダミアンが何やらぼそりと呟いてくるのだが、アテナと話しをしていた私は聞き逃してしまう。



「ダミア──」



 私が彼に聞きなおそうとするよりも早く、ハッとした顔になったダミアンは話題を変えてきた。



「そ、そういえば! レングルブさんの件、残念でしたね」

「ん? ああ、そうだな」



 いま馬車内には、話題に上ったレングルブの姿はなかった。

 アルペン宅の森に張った巣に、居残ったからだ。



「そもそも、私たちに同行するのを強制していたわけじゃないしな。安住の地を見つけたのだったら、彼女の意思を尊重しようじゃないか」



 無責任に放り出すわけではなく、彼女(レングルブ)自身がそう望んでおり、尚且つその近くにはアルペンたちが常にいるのだから、心配をする必要はないということである。



「クレア様も、存外にそっけないのですね」

「私だって寂しいとは思うが……本人の意思を無視はできないだろうが」

「すごくあの場所を気に入ってましたしね」



 しみじみ呟くダミアンに、私は小さな息ひとつ。



「まあ、そもそも蜘蛛っていうのは、一か所に留まって生活するみたいだしな。アラクネ種になったとはいえ、レングルブも習性みたいなものからは逃れられないってことなんじゃないか」



 話しをまとめるように私が言うと、御者の手綱を握るアテナが問うてきた。



「それでクレア様。とりあえず走れとのことなので走らせていますが、今後はどこへ向かうおつもりですか?」

「そうだなぁ……まあ、適当だ」

「適当……ですか。困ったことを仰られますね」

「クレアナード様、本当に目的地がないんですか?」

「そもそもアテのない旅だしな、風来坊の冒険者らしいだろ?」



 たまには、アテもなく走るのもいいだろう。

 明確な目的地などないのだから。

 何にも縛られない冒険者の私は、いつでも好きな所へ行けるのだから──




冒険者は自由なのです。



※次話から第8章……予定でしたが。

 衝動的に書いた読み切り作品にあっさり抜かれてしまったので、続きを考えるか別の作品を考えるか、考え中……

悪役令嬢シリーズは、人気が高いですねw

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