開かれた龍辞苑
『
空間の穴から取り出した赤い本を開いて読み始めた女性の様子を観察した感じだと私が思ったような呪いの本という感じではない?
開いたら呪詛のように殺すだの死ねだの物騒な文字が浮かび上がってきたあれとは別物?
でもどう見ても湖に投げ捨ててしまった龍辞苑と同じものに見えるんですけど?
あ、本から目線を外して周りを確認し始めた?
もしかして私が沈めた龍辞苑を探してる?
もしそうなら投げ捨てたのこちら側だから湖の中央からこっちにやって来るかもしれない?
まだ混乱しててどう対応すればいいかも思いついていないんですけど?
どう見ても強そうな槍で武装している人が近づいてくるとして私はどうすればいい?
とりあえず敵対はしないほうが良さそうですよね?
襲いかかってくるような異形の存在とは違ってコミュニケーションが取れるかも?
本を読んでるように見えるということは筆談でいける?
龍辞苑に浮かび上がったの日本語だったし、日本語が通じる可能性がありそう……?
でも羊がいきなり筆談持ちかけてくるとは思わないよね?
というか筆談しようと思うと本体の方を動かさないとだから突然動く植物の異形だよ……。
問答無用で動いた瞬間に攻撃される可能性も無くはない……?
動く植物なんて人面樹くらいしか遭遇してないけど普通に害獣?いや有害植物だったよ。この世界での動く植物の認識があれ基準だと危険な植物として討伐対象認定されるかもしれないわけで迂闊に動けないんじゃないかなこれは?
じっと動かないにしても、本体の大きな木は明らかに目立っているし、根本には制作したものとかも転がっているしスルーされるはずはないわけで……。
いや転がってる日記読んでもらえれば危ない存在でないとわかってもらえるかも?
いや、まだ日本語が通じるとわかったわけでないんですよね……。
転移?してきたっぽい理由は私が龍辞苑を開いたから?
本を開いたことで場所がわかったとか?
でも場所がわかったからと本を回収しに来るのに槍を持って武装してくるなんてことあるの?
槍を持つ姿は神々しい女神な見た目ですよ?
あれか?私が湖に槍を落としてたからあなたが落としたのはこの金の槍ですか?それともこちらの銀の槍ですか?みたいに聞いてきてくれるの?
私が落としたのは鉄の槍です。どちらも私の槍ではありません。
うん、とっても混乱して自分でもなにを考えてるのかわからなくなってきたな……?
え、なんか本を見ながら笑ってるみたいなんですけど!?
普通に怖いんですが?私の中ではまだ呪いの本の可能性がある本を見ながら笑みを浮かべる槍で武装した女性とか普通に怖いんですけど!?
って、こっち見た?望遠鏡で覗いてるの気づかれた?
なんか更に笑みが深くなったように見えるのは気のせいですか?
その笑みはどんな意味の笑みなの?
獲物を見つけた笑みとかじゃないといいのですが……。
普通に湖の上を歩いて近づいて来た!
なに?本を開いてこちらに向けながら近づいてくる?
開かれた本のページに浮かび上がってる日本語……ってあれ?
これ全部私の……!
』
「いろいろと聞きたいことがあるのだけど大丈夫?」
優しげな笑みを浮かべ近づく女性は流暢な日本語でそう聞いてきた。
開かれた龍辞苑のページに浮かんだ文字は紬が考えていた思考でした。
ついに第一異世界人と遭遇した紬の明日はどっちだ?




