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Master Code  作者: 覇牙 暁
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第四十二話

第四十二話「特殊能力者」




 「―――こんな……、こんな非道が、許される物かッ!!」



 信じられないとでも言うように、その声は地獄の中で響いた。


 燃え盛る紅蓮の炎。

 焼け焦げた大気の臭い。


 散乱する血肉はどの一片を取っても人の形を成さず、在るのは無数の死、死、死。


 此処は、ロシアにある連合軍基地の一つ。


 陸・海・空合わせ、延べ4万人もの兵が詰めていた。


 しかし、今や無事に生き残っているのは、この壮年の男ただ一人。


 連合軍ロシア支部司令、エゴール・マクシミリアーノヴィチ・アラヴェルドフ准将だけだった。



 「何故、こんな事が出来る……? 貴様とて、元は同じ人間だろう!?」



 咆える。倫理観に、道徳観に。


 だが、彼の目の前にいる女は。



 「そうね。残念な事に、私も同じ人間。でも、だからじゃない?」



 谷那香澄。


 この凄惨な光景を作り出したのは、たった一人のアバターラ。


 4万の武装したプロの兵士達を鏖殺し、あらゆる兵器を焼き尽くし、鉄筋コンクリートと特殊合金で出来たこの基地を半壊にまで追い遣ったのは、彼女だった。



 「アンタらは、私の国の民を虐殺した。それも、私達と同じアバターラを使ってね。―――ねぇ、許して貰えるとでも思ったの? アンタ今、そう言ったんだけど」


 「ち、違う! それは私では―――っ」


 「―――そ、また責任逃れするのね。結果なんて変わらないのに」



 徐に肩程の高さまで右手を上げ、誘うように差し出したその動きに連動し、彼女の背から無数の黒蛇が飛び出し、鎌首を擡げる。



 「誰が首謀者か、なんてどうでもいいのよ。アンタはそれを黙認した。罪状はそれで充分」


 「よ、よせ……っ! やめ―――ッ」


 「―――死罪よ」



 怯えて逃げ出そうとする彼に、黒蛇が殺到し。


 声を上げる間も与えられず、その身体はグズグズになるまで食い荒らされた。


 僅か、1時間足らずの出来事だった。



 「―――コレで、理解して貰えた?」



 香澄はさも何事も無かったかのように、そう虚空に向かって告げる。


 ……否、そこには高性能カメラを搭載したドローンが浮遊していて。



 「面倒な駆け引きなんてものをする気はない。コレはただの見せしめよ。先刻告げた通り、抵抗する者に、私は一切の容赦をしない。テロリスト? そう罵倒したければすればいい。やられた事をやり返しただけの事。ただし、私は戦う意思のある人間だけを相手にしたけど、アンタ達は無辜の民を虐殺した。この意味が解るわよね? 報いは受けて当然よね?」



 壮絶な笑みを浮かべ、彼女は嬉々と語り。


 その手に黒炎を掲げて。



 「―――再度勧告する。全ての国家、軍事組織、宗教団体はその全ての武器と思想を捨て、我が精霊連合に下れ。異論は一切認めない。抵抗する者は容赦なく駆逐する。ただし、投降する者を私は決して無碍には扱わない。相応の生活環境を約束し、その命を外敵から保護すると約束しよう。全ての人間は、今すぐこの要求を聞き入れよ。さもなくば―――」



 そこで一拍。


 ドローンが撮影する高度を上げ、凄惨極まりないその基地の有様を全世界に向けて発信する。



 「―――こうなる。無駄な抵抗はしない事をお勧めする」



 最後にそう告げ、背を向けた彼女の姿を映し、動画は終わった。


 この映像は直ぐに各国のテレビ局、ラジオ局でも取り上げられ、ネット上でも瞬く間に拡散し。



 『これ、勝ち目ねぇだろ』


 『チートだ、あんなの』


 『連合軍って何やってたの?』


 『エルフ虐殺したとか、マジ?』


 『報復されて当然』



 続々とコメントは書き込まれ、連合軍は世論に追い込まれて行った。


 一方、この動画を配信した本人たちは……。



 「だぁー、疲れたぁーッ!」



 温泉旅館の畳の上で、大の字に身を投げ出していた。


 静岡県熱海市。


 シノのツテで用意したその宿で、香澄は見知らぬ男達に囲まれ、溜め息を吐かれている。



 「オ、オイお姫さん! せめてちゃんと座れって! 目のやり場に困るだろうがっ」


 「嘘つけー、内心フトモモ見れてホクホクしてるクセにー」


 「ち、ちげぇよっ! 見てねぇからっ!」



 大柄で左目に大きな刀傷のある白人の男性。しかし、その声や態度には何処か覚えがあり。



 「こりゃ〜ご利益あんでぇ……。ありがてぇ〜ありがてぇ〜」


 「カガラ殿は良く判っておられる。この美しいおみ足には、神が宿っていると言っても過言ではありませんッ」



 浴衣姿の香澄を合掌して拝むこれまた大柄な黒人男性と、リヴァルト。


 しかし、今リヴァルトは、その黒人男性を“カガラ”と呼んだ。


 それは、つまり。



 「とりあえず、男性の皆様には、その場で壁に向かって正座をして頂きましょうか」


 「英雄、色を……好む。でも、姫のは……駄目」



 そこには、イライザとシノの姿も在り。



 「なんでや! なんでイライザはんは浴衣やないんや!?」


 「需要があるからです。安売りするつもりはありません」


 「ちょっとイライザ、ソレじゃ私が露出を安売りしてるみたいに聞こえるじゃん」


 「姫様はもう少し慎みという物をお持ち下さいませ。此処には殿方も多いのですから……」


 「姫、足……閉じる」



 と、シノとイライザに諫められる。


 今更、言うまでもないが、この白人と黒人は、ロディアとカガラだ。


 あるマジックアイテムで姿を変えているのである。


 ちなみに、イライザとリヴァルトの二人にも変化はあり、その特有の長い耳が、人のそれと同じ形に変わっていた。



 「あれ……ってか、カズは?」


 「おう、今コッチの“酒”の買い出し頼んでんねん。そろそろ戻ってくる頃やと―――」


 『―――ただいまーでござるよー』


 「あ、帰ってきた」



 狭い部屋の襖を開け、ビニール袋を片手に戻ってきた和幸に、全員が注視した。



 「キタ! 酒来たぞ、ロディア!」


 「おう! 待ってたぜぇ、兄弟!」


 「して、カズユキ様、“たこ焼き”なる物は、どちらに……!」


 「早く! 自分にその“ぐらびあ雑誌”を!」


 「アンタら何頼んでんのよ……」



 このカオスっぷりである。



 「ま、待つでござるっ! 先ずは、カスミ殿にお茶を……!」


 「ポテチ……、貰う」


 「ああ! それはカスミ殿のー!」



 まるで、旅先でテンションが上がり捲った子供のように振る舞う彼等に、カスミは深い溜め息を吐いた。


 それから、やいのやいのと座卓を囲み。



 「―――美味! 美味でございます!」


 「あー、なんかそんなキャラどっかで見た覚えあるわー……」



 たこ焼きを頬張り、それはご満悦な様子で舌鼓を打つイライザ。


 まるで何処かのエレベーターガールのようだ。



 「アカン、この“ビール”とかいうの、有り得んやろ!」


 「オレぁ、コッチの“しょうちゅう”とかいうのが好みだな。独特の辛みがたまんねぇ」


 「お二人とも、それどころじゃありませんよ! コレをご覧ください! こんなにも沢山の女神様たちが惜し気もなく肌をっ!!」


 「リヴァルト……、鼻血、拭く」


 「シノ殿、ティッシュでござるよ」



 と、各々一頻り現史世界の文化を堪能し、小一時間が経過。―――やがて、一息ついた所で。



 「―――ほんで、動画の再生数、どうなったー?」


 「確認、する」



 卓上に置かれたノートパソコンを開き、キーボードを叩くシノ。


 映し出されたのは、動画投稿サイトのユーザー管理画面で。



 「はっや、もう100万超えてんじゃん」


 「かなり過激な内容でござったからなぁ……」



 先刻、生放送で配信した動画を適当に編集し、投稿した物だったのだが。


 僅か数時間の間に100万回以上の再生数を稼いでいた。


 その他にも。



 「先に上げた方の動画は、強制消去されたようでござるな。まぁ、直ぐに別の人間が次々と拡散してるようでござるが」


 「宣戦布告したヤツ?」


 「で、ござるよ」



 余りにも過激な内容に、一本目の動画は消去されていた。


 が、二本目の動画に関しては、どうやら運営側も対処に困っている様子で。



 「コッチは、消したくても消せないんでしょうね」


 「動画を消した所で意味が無いでござるしな。もうとっくに世界中の人達がこの事件の事を知ってる筈でござるよ」


 「けどこれ、動画タイトルもうちょっと何とかならないの?」



 香澄が指摘したタイトルというのは。



 「人間、虐殺してみた。……再生数、がっぽ、がっぽ」


 「いやまぁ、アンタがそれでイイならイイんだけどさ……」



 まるで、遊び半分。

 彼女らにとって、人間の虐殺という行為はその程度の物でしかなく。



 「ま、このくらい煽ってやった方が、連中もその気になってくれるか」



 というくらいの気持ちでやっていた事だった。


 彼等がアールヴヘイムから飛行揚陸艇“シュヴェルト・フリューゲル”を使って現史世界へやって来たのは、今朝方。


 それから直ぐにネット配信で現史世界の国々に宣戦布告を行い、ロシアへと一っ飛び。


 そこで連合軍のロシア支部に接触。

 降伏勧告を行い、返答に12時間の猶予を与え、その後1時間でロシア支部は壊滅。


 この最初の一件だけは、アバターラが持つ脅威性を世界中に知らしめるという目的があった。


 故に、今回戦いに参加したのは、香澄一人。


 4万もの武装兵士と戦車などの戦力を尽く灰燼に帰し、これをカズが撮影・編集。動画投稿サイトにアップしつつ、日本に戻って来た、というのが現状だった。



 「けどこれ、バレないもんなんでござるか?」


 「バレてると思うわよ?」


 「ぇえっ!?」



 和幸が懸念したのは、動画を配信した端末や環境の事だ。


 アドレスから居場所が割り出されるのではないか、とそういう話しだったのだが。


 香澄の見解では、既にバレているだろう、と。


 そして、その意見はシノも同様で。



 「海外サーバ、跨いで偽装しても、意味……ない」


 「あっちにゃ専門家が5万といるんだから、当然でしょ」


 「に、逃げなくていいんでござるかっ!?」


 「いいの。だって手出してこれないもん。ね?」



 返す香澄に、シノは頷いた。



 「それで直ぐ動けるような連中なら、私ももっと警戒してるっての」


 「お役所、仕事……。何処も、同じ」


 「な、なるほどでござるよ……」



 あっけらかんと言う二人に、和幸は肩を落とした。



 「しっかし何や、けったいな連中やのぅ」


 「ぁん? なにが」


 「いや、この“こめんと?”っちゅーヤツに書き込んでる連中よ。まるで他人事やないか」



 と、カガラは動画のコメント欄を指差し、首を捻る。


 そこには。



 『さっさと投降しちまえばいいんじゃね?』


 『でも、メンツって物があるでしょ』


 『通常兵器で勝てるの? 核使えば?』


 『アニヲタ乙』



 コッチはコッチで、まるで危機感や緊張感を感じない。


 カガラは、それを指摘していたのだが。



 「実際、他人事なのよ、コイツらの感覚だとね」


 「はぁ? 下手すりゃ自分ら皆殺しにされるかもしれんっちゅーんに」


 「コッチの連中は、それこそ何処もかしこも平和ボケしちゃっててね、それこそ中東の紛争地域でも行かない限り、身近に迫ってる脅威ってもんが直ぐに理解出来ないのよ」


 「はぁ〜ん、そういうモンかいな……」



 カガラは呆れたように吐き捨てる。


 実際、彼等人間側にとってみれば、次に何処の国が襲われるのかも判らないという危機的状況に置かれているというのに、この有様なのだ。


 自分達が殺されるかも知れない、とは露程にも感じて居ないのである。



 「ま、二〜三ヵ所叩き潰してやれば、少しずつ変わってくるわよ。それまでは、こんなのほっといてイイわ」



 が、今一番の問題は、此処から先にある。


 香澄はこの件を徹底しなければならず、仲間達の反応が気に掛かっていたのだが。


 ―――そろそろ、話しておかなければならない。


 次に、何が起こるのかを。



 「で、みんなに話しがあるんだけど―――」



 と、それを言葉にし掛けた時。


 シノの目が“ソレ”を見付けだしてしまった。



 「―――コレ……、宗教家、声明文?」



 シノがマウスをクリックし、表示したのは、先の香澄によるアールヴヘイム及びスヴァルトアールヴヘイム精霊連合の声明に対する対抗声明文がビッシリと書き込まれたまとめサイトだった。



 「有名処、詰め合わせ」



 各国の宗教団体から出された声明文が纏められているサイトらしく、そこには“十字聖典教”や“デネフ教”の名も見受けられた。



 「やっぱり、出て来たか……」



 香澄が懸念していたのは、まさにコレに関する事だった。



 「解ってた、って顔やな」


 「まぁ、ね。今から話そうと思ってたトコよ」



 全員が香澄に意識を向ける中、それは語られた。



 「今からする話しは、正直気分の良い話しじゃない。だから、従いたくない人は、無理に従わなくてもいい」



 そう告げて、彼女が言葉にしたのは、注意喚起。


 特に、宗教団体を相手にする場合の、絶対的な心構えだった。



 「こっちの世界の宗教団体ってのは、向こうの信仰とは違ってかなり見境がないわ。その結果として、奴らは平然と“少年兵”や“自爆攻撃”を行ってくる」


 「な―――っ」



 これに驚いたのは、当然精霊連合組の面々だった。


 対して、元人間の二人は。



 「やはり、その話しでござったか……」


 「注意を、怠ると……脅威。気を、抜かない。推奨する」



 察していた様子で、リヴァルトやイライザ、ロディアやカガラに心配そうな顔を向けていた。



 「オマエさんら二人が察してるいう事は、こっちやと常識の範疇っちゅう事かいな……」


 「そんな行為が、公然と罷り通るなどと……」


 「恐ろしい話しです。ですが、何故そこまで……?」



 問うイライザに香澄は渋面を浮かべる。



 「簡単に言うとね、コッチの人間って精神的に惰弱なのよ。だから、神様なんて曖昧な物に、平然と傾倒し切れちゃう」


 「神が……曖昧、ですか?」



 と、聞き返され、香澄はハッとした。


 そもそも、その時点から彼等は人間とは別種の意識を持っている事に気付かされたのだ。


 盲点だった、と言わざるを得ない。



 「そっか……。向こうでは、“神様”は実在するんだものね……」


 「はい……? えぇ、そうですが……」



 考えてみれば、イライザやリヴァルトが香澄自身を崇拝するのも、コレが大きな要因の一つだった。


 アバターラ。神の化身。

 エインヘリャル。主神オーディンの神兵。


 実際に、彼等の世界には神が存在しているのだ。

 よって、神が曖昧な物で、盲目的に信じるだけのコチラ側の宗教活動家達とは根本的に考え方が違うのである。



 「イライザ、それにリヴァルトも。ちゃんと聞いてね」


 「―――はい」



 二人は真剣な表情を浮かべる香澄の言葉に意識を向けた。



 「この世界には、元々神様なんて物、存在しなかったの」


 「え、それは……どういう?」


 「神が……存在、しない?」



 顔を見合わせるイライザとリヴァルト。その後ろでは、カガラとロディアまでもが首を傾げていた。


 これは、根深い問題だ、と香澄は確信する。

 その上で、徹底的に認識を改めて貰う必要性を感じた。



 「そう、この世界に“神”はいない。だから、人間達は身勝手な妄想や欲求を“神様”って物に押し付けて、都合の言い様に解釈する事で、救いの無い未来に希望を持とうとした。結果、そこに精神的な惰弱性が生まれたの」


 「待って下さい……! では、この世界の人々は……」


 「居もしない偶像に、信仰を捧げている、と……?」


 「そういう事。でも、考えてみて? 居ない者だからこそ、救いになる事だってある。それを盲目的に信じる事で、死すら恐れなくなれる。これは、強味でもあるのよ」


 「「…………」」



 四人は唖然としていた。


 致し方ない事だと思う。

 彼等には、歴然とした神というモノが“此処にも”ハッキリと存在しているのだから。



 「おぞましい、と言って良いのでしょうか……」


 「そう、ですね……。余りにも信じ難い愚考だ……。神を自ら妄想するなどと……」


 「せやけど、神様のおらん世界っちゅうんは、そういうモンなんやろなぁ」


 「救いの無い世界で、救いを求めた結果、か。……笑えねぇ」



 皆が一様に難しい顔を浮かべ、各々が納得する為の理由を探している。


 そしてそれは、何れ対峙しなければならない問題であるという事を理解しているからこその反応だった。



 「―――よかった……」



 香澄は、安堵していた。


 彼等がどう受け取るにせよ、それを悩んでくれるという事が嬉しかったのだ。


 盲目的な狂信とは違う。

 彼等は自分で考え、確かめようとしてくれているのだと解ったからだ。



 「みんな、各々考えはあると思う。けど、これだけは覚えておいて」



 そうして、一拍。

 皆の意識が向けられた事を確認し、香澄は最も大切な事を告げた。



 「少年兵や自爆攻撃なんて物は、大人達の身勝手でやらせている事よ。知識を求める事さえ許されていない子供たちに罪は無いし、彼等には救いの手が必要なのかも知れない。けれど、戦場では絶対に同情するような事はしないで」


 「まさか、“殺せ”と……仰いますか!?」


 「ええ、そうよ。―――貴女たち自身を、生かす為に」


 「―――っ」



 イライザは、そしてリヴァルトも、言葉を失う。



 「洗脳教育って言ってね、少年兵や自爆をするような連中は、それを正しい行いだと信じて疑う事が出来ないの。だから、簡単に救おうだとか、死なせたくないとか、そういう風に考えるのは止めておきなさい」


 「し、しかし……」


 「これは、貴方達皆の命を守る為に言ってるのよ。そして、それはアールヴヘイムやスヴァルトアールヴヘイムの未来の為でもある」



 生かして帰せば、それが新たな火種を生む。

 再教育などと悠長な事をしている時間は勿論無く。


 彼等の脳裏に過ったのは、“世界崩壊までの猶予”。



 「出来なければ……全てが滅ぶ。そうなってからじゃ、何もかもが手遅れになるのよ……」



 それに、と付け加え、香澄は。



 「貴方達を、私は失いたくない」



 だから、賛同出来ないのであれば、戦場には出て欲しくない。


 香澄は、言外にそう告げていた。―――やがて。



 「―――従います」


 「イライザ……」


 「わたくしは、わたくしの意思で、責任を以って、その状況が訪れた時、彼等を殺しましょう。それは、姫様の為でも、世界の為でもなく、私自身の為に」


 「そう、ですね。自分を過大評価するつもりは有りませんが、今の自分には、相応の責任と背負うべき物がある。それは、人間の子供達の命よりも、尚尊い物だ」


 「リヴァルト……」


 「選択の余地はない言うこっちゃな。それやったら、ワシはワシらの未来の為に、“殺す”と誓う」


 「難しい話しは良く判んねぇけどよ、オレぁ聖人君子様じゃねぇから命が平等だなんて思っちゃいねぇ。手前ェの命が大事で、仲間の命はもっと大事だ。だから、それ以下を切り捨てなきゃならねぇってんなら、オレはそいつらの命を切り捨てるぜ」


 「カガラ、それにロディーも……」



 皆、一様に納得の行く答えを見付けだしてくれたようで。


 香澄は、彼等に頭を下げた。



 「―――生きる事を選んでくれて、ありがとう……」



 そこには、責任と罪がある。

 それを背負う覚悟のある者だけが、その答えに辿り着ける。


 彼等が他人の命よりも自分の命を優先してくれた事が、香澄にとっては大きな収穫だった。



 「話しは、纏まったようでござるな。それでも、整理には時間がかかると思うでござるが……」


 「大丈夫。当面、そういう連中は、出て来ない。今は―――」



 シノがパソコンを操作し、画面に映し出して見せた物は。



 「北海道、札幌駐屯地……。此処に、例の子が?」


 「そう、今もこの街が、マトモに機能、してるのは……この人の、お陰」



 香澄達が現史世界に来た二つの理由。


 その一つが、ノーマルの武力制圧であり、もう一つが、“彼女”だった。



 「―――コッペリア」



 彼女を見付けだし、真偽を確かめなければならない。


 今後、現史世界での活動を有利に運ぶ、その為に……。

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