2
旅に出るとは言ったものの、行く当てはもちろんない。
観光地なんてものはないのだし、ごそごそと親の部屋を漁りなにかないものかと探ってみる。
いくつもでてくる地図は、旅をすることが好きだった親父のものだ。
そういえば、と親父の言っていたことを思い出す。
『妙な扉を見つけたことがあったんだが、そうだなあ。またいつか行ってみたいものだ。知り合いの軍のやつに伝えたらそれが大発見に繋がったんだと。不思議なこともあるもんだなあ』
あれはただの冗談話のように思っていたが――地図の中にバツ印の描かれたものを見つける。
まるで宝の地図のようだが。
「扉あったトコって、そんなメモがあるかよ」
よほど嬉しかったのだろうか、ぐるぐると何重に丸がしてある。
そこまで強調しなくても目に止まるというのに。
「ここに行くか。地図だと山の中みたいだけど」
旅っていうものは、なにも観光することに限ったものじゃないだろう。
この時代じゃ、観光はやはり不可能なのだから。
可能な旅行というものは一択か。
支度を適当に済ませ、外出用のスーツに身を包む。
これを着ていれば、例の人間のようなものや蜂みたいなものから襲われることがない。
「僕の親父はもしかして天才だったんじゃないか?」
このスーツを考えて作ったのは親父だった。
スーツといっても、上下の防寒着をつなぎ合わせて、周りをガラスに似せたプラスチックで覆っただけのもの。
遠目に見れば、あのうろつく人のようなものに見えなくもない。
近づけば丸わかりであるが、いまのところ襲われたこともないし、うまくいっているのだろう。
扉といえばどこかに繋がっていると決まっている。
山の中に隠れるようにしてあったとなれば、その先にはなにがあったのだろうか。
宝探しと考えると、この旅もなかなか悪くないものじゃないかと思えてくる。
家をでて、一人で外を歩く。
何かをを思い出したように振り返った。
思い返せば一人で家を出るのは初めてだった。
急に寂しさのようなものが湧き出てくる。
「母さんを殺したのは僕じゃないか。一人になったのは僕自身のせいじゃないか」
不可抗力だったことだ。
殺されると思ったら、その瞬間には母を殺していた。
後悔はしていない。
母の自業自得のようなものだ。
もう二度とその場所には帰ってこないだろう。
倒れたままの母は、いつか腐り消えていく。
そうすればあの家には誰もいない。
自分の中にある母は消えてくれないだろう。
思い出は簡単に消えたりするものではないのだから。




