4 いま必要なのは
一度基地に連れて行くことを考えたが、カナメは邪魔をしたくないと言って、エイジに隠れるように付いてきた。
一緒に行動すれば、危険はないだろう。
何かがあった時に守ってやろうという考えは、エイジにはもちろんなかったが。
「どこに向かっているんですか?」
カナメはエイジに問いかける。
「仲間を探している。はぐれてしまったんだ。合流できれば、安全なところまで戻る」
「分かっ……りました。ぼくにも遠くを見ることくらいはできます。なにか変なものを見つけたら言いますね」
カナメはそう言って後ろを振り向いた。
前はナナカが見ているから大丈夫だと判断したのだろう。
外の世界にはもう随分慣れているようだった。
ナナカと同じように、武器を持っていない――。
「カナメ、ひとついいか?」
「はい」
「お前、どこからきた?」
カナメは一度振り返ったが、エイジの顔を見た後すぐに目を逸らした。
なにか意味がありげな行動に、エイジは眉をひそめる。
「なにあれ?」
問い詰めようとしたところで、ナナカが声を上げた。
声につられて顔を向ける。
そして、エイジは空に浮かぶ妙なものを発見した。
「山?」
ナナカがそう言うのも、仕方のないことだろう。
山は飛ばない――そんなことはだれにだってわかる話である。
しかし、そのあまりにも大きななにかは、山と例えるほかない。
かすかにきこえる羽音は、いつもとは違って何重にも重なってきこえる。
あの山のようなものから聞こえると考えるべきだ。
「まさか、助手より先に本命か」
「エイジ、あれが何かわかるの?」
エイジには、それが何か予想できた。
「巣だ。あの中にマザーがいる――」
ナナカは息を飲み込んで、そして何かを言いたげにエイジの顔を見た。
彼女の言いたいことはひとつだろう。
それは、どうやっても解決できるはずのないことだ。
「俺たちには羽がない。飛べない」
もうこの時代に、空を飛び回れる乗り物は存在しない。
「そんなぁ……」
ナナカは肩を落とす。
カナメは二人の会話をじっと聞いているだけだった。
エイジは――
「……」
巣を睨みつけている。
空を飛ぶ乗り物はない。
空を飛ぶためには、羽が必要だ。
「……」
かつて鳥には、空を飛ぶ羽はなかっただろう。
「……」
鳥は進化を繰り返し、そして空を飛ぶ権利を得たのである。
進化を受け入れるか――進化を受け入れないか――。
エイジにある選択肢は二つだった。
「基地に戻るぞ。ナナカ」
どちらを選んだとしても、たどり着く場所は同じだろう。
「なにか策があるのね」
考える必要もない。
エイジに選ぶことができるのはひとつのみ。
「繋げるためだ」
だれに言うまでもなく。
彼は決意を声にした。